<駐在員コラム>【シンガポール】進むアウトソース化 シンガポールの家事事情
子育て・料理・片付け・掃除… “ワンオペ”という言葉も定着しましたが、日本での家事・育児の負荷って社会問題になるほど重いですよね。シンガポールに来て感じるのは、家事・育児へのもっとリラックスした態度です。色々理由はあると思うのですが、日本と比べて大きな違いを感じたところをお伝えしたいと思います。
食事の外部化
日本では、食事は「家で手作りしたものを食べるのが望ましい」という観念がまだまだ強いと思います。(現実本当にそうしているかとか、どの程度を“手作り”と感じるかはどんどん緩くなっていますが・・・)
シンガポールでは、そういう雰囲気は日本ほど感じません。Grab、FoodPanda、Deliverlooといった、日本で言うところのUberEats的なフードデリバリーサービスが競い合っています。また、フードコートのような気軽で手軽な価格でテイクアウトできる場所がいたる所にあります。お店の顔ぶれも多彩で、お腹いっぱいになる量があり、野菜も摂れます。子供連れでフードコートにきてご飯を食べている風景もよくみかけます。
(脱線しますが、シンガポールでセブンイレブンのチルド弁当棚コーナーが日本と比べてイマイチ魅力的でないのは、フードコートの存在が大きいと勝手に推測しています)
フードコート(ホーカー)の風景
(性別でステレオタイプ化してしまいますが)女性の食事の外部化への罪悪感と男性の家に帰ったら手作り料理があるといいな・・・という希望、みたいなのが日本ほど強くないように感じます。
ハウスキーパーの存在感
この存在は大きいと思います。図表1はアジア各国のハウスキーパーを雇っている割合を比較したデータです。シンガポールは、14.8%の世帯がハウスキーパー(メイドさん)を雇っており、各国と比べてもその割合は高くなっています。
ハウスキーパー(メイド)を利用している世帯率_4カ国
*1: 内閣府「家事労働者の雇用について」 Retrieved April 3, 2020, https://bit.ly/3ccIkM6)[https://bit.ly/3ccIkM6] *2: Singapore Department of Statistics (DOS)Resident Households by Household Characteristics and Deciles, 2000 - 2019 Retrieved April 3, 2020, (https://bit.ly/3dph3W6)[https://bit.ly/3dph3W6] *3: 労働政策研究・研修機構「マレーシアの労働政策」 Retrieved April 3, 2020, (https://bit.ly/3fNBXj3
日本では富裕層の贅沢というイメージですが、シンガポールではミドルクラスでも普通に雇っています。
我が家の場合は夫と自分の2人のうえ、若干ミニマリスト気取りなので掃除も楽でまったく必要性を感じていませんが、小さな子供が2人いる共働きの同僚は「ハウスキーパーさんがいなかったらほんと辛い」と言っています。
背景には、シンガポール政府がシンガポール女性の就労を促進する施策の一環として、Foreign Domestic Servant Schemeなるものを1978年に導入したことがあります。世界で初めてハウスキーパーという仕事に対して特別ビザを発行することを許可した法律で、フィリピンやミャンマー等のアジア周辺国から女性が家事労働者として働くようになりました。(就労してほしいんだけど後は各社適当によろしく!ではなくそれを推進するための施策を導入するのがシンガポール政府の一貫しているところだと思います)。
以下は各国の女性の年代別の就労率です。政府の取り組みの結果、各国と比べてシンガポールの女性の就労率が高いことがわかります。
ハウスキーパーの相場は80,000円/月。3食+住居提供とはいえ、日本の感覚からすると破格のお値段です。 ハウスキーパーを雇うのは、子供や老人がいる世帯が中心です。仕事は多岐にわたり、料理、掃除、子供の世話。当社が入居するビルの2Fに託児所があるのですが、朝出社するとき、中華系シンガポール人の子供をフィリピン人のヘルパーさんが連れてきているのを目にします。
日本で住み込みのお手伝いさんを雇うとなると18,000円/日が相場という記事もあり、とてもじゃないですが中流家庭が支払える額ではないです。ですので家族でどうにかするしかないのですが、これについても「“ちゃんと”やらなければいけない」という思いがあって、だけど実際はなかなかやりきれないことへの罪悪感が心の中に降り積もってるのではないかな、と思います。
家事をアウトソースすると起きること
インテージは日本国内でJANコードのついたパッケージ商品を対象にした消費者購買ログデータ(SCI)を収集しています。これをシンガポールで行おうとすると、乗り越えなければいけない壁がいくつかあります。
まず、中食・外食が多いということは、スーパーでのパッケージ食品・飲料の購入シェアが少ないということです。 日本ではSCIを分析すれば、現在どんな食・飲料の流行があり、今後なにか流行りそうかの兆しがみえてきたりするのですが、シンガポールでは中食・外食の動向を理解しない限り、それをつかむのは難しそうです。
また、ハウスキーパーがいるということは、どの商品を買うか決定する人と、実際に店頭に行く人は異なるときがあるということになります。つまり、商品は店舗訪問前にすでに決定されている割合が日本よりも高い、ということになります。 となると、たとえば、比較的ブランドスイッチが起こりにくい、「パケ買い」のような直感的な購買を誘導するのは難しい、等が考えられます。
また、購買決定者が自ら料理や掃除をしないなら、「かがんでこすらなくても簡単に使えます」みたいな手間をセールスポイントにした商品は刺さりにくく(自分でかがむわけではないので)、「より汚れが落ちる」とか「より美味しく仕上がる」とかの基本のファンクションを推していくほうが刺さるのかな、とか想像されます。ただ、シンガポールは他国製品のままで輸入し、裏に原材料シールを貼る程度、といった売り方がほとんどです。スーパーは裏に貼る商品説明シールや店頭POPにひと工夫する必要があります。
もちろんハウスキーパーがいてもやっぱり週1回の大きな買い物は自分で、とか、買い物は自分でする、というのも聞くので上記のことは一概には当てはまりませんが、日本のショッパーとは違う要素として影響しているのではないかと思います。
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執筆者プロフィール
栖原 野枝(すはら のえ)
シンガポールには異動してだいたい半年。
日本で食品・飲料を長く担当していたのと食べるのが好きなので、そのあたりのトレンドに関心が高い。
好きな食べ物はカリカリ細身タイプのフライドポテトとカフェラテ。
シンガポールに来てよく摂取するようになったのはジャックフルーツと日本酒。 -
編集者プロフィール
高浜 理沙(たかはま りさ)
アジアを中心に、消費財メーカー様の海外マーケティングリサーチに携わり、現在は海外生活者のインサイトを導くためのリサーチソリューション開発などを行う。海外旅行に行って必ず行うのは、ドラッグストアでその国ならではの化粧品を買い込むこと。
- 2020/04/03
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