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<駐在員コラム>【中国】中国スマホ事情 APPに取って代わるかも!?Wechat上で動く『ミニプログラム』

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Wechat(中国名:微信ウェイシン)というAPPをご存知だろうか?
ご存知の方も多いだろうが、念の為説明しておくと、2020年現在、中国で最も利用されているコミュニケーションAPPであり、2019年のMonthly Active User(MAU)は11.5億人というまさに怪物的なAPPである。
日本でLINEがコミュニケーションツールの代表格になっているように、中国では、Wechatがコミュニケーションツールの代表格であり、スマホ利用者のほとんどがWechatをいれているといっていい。

インテージが行った調査でも、上海・北京のスマホ所有者の約9割が使用しており、他のアプリと比べてその使用率が高いことがわかる。

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インテージ自主企画調査
ベース:上海・北京のスマホ保有者
サンプルサイズ:20代(n=457), 30代 (n=461), 40代 (n=460)

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参考までに数値を上げると、ミニプログラム全体のMAUは20年6月で8.29億人、100万以上のMonthly Active User(MAU)を持つアプリだけでなんと1,068以上だ。(どちらも出典:Quest Mobile)

※アプリの上で動くプログラム、という意味では、
 Alipayなど他の大型プラットフォーム上にも同様の形式は存在するが、
 本稿では、おもにWechatのミニプログラムのケースを取り上げる。

ミニプログラムっていったい何?

ミニプログラムとは上述の通り、Wechat上で動くAPPの総称である。
※日本でいうところの、LINEミニアプリと同様である。
つまり、ミニプログラム自体はプラットフォーム、もしくはAPPの動作形態を示すものであり、それ自体が特徴的な機能を持つわけではない。
では、ミニプログラムの何が優れているのか?
特筆すべき点は、シームレスである、という点だ。

たとえば、ECアプリをダウンロードして、買い物するまでの導線を考えてみよう。
通常のAPPの場合、
 ①ストアにアクセスしてAPPを探す
 ②DL・インストールをする
 ③APPにユーザー登録する
 ④支払い方法を登録する
 ⑤利用する
というステップを経る必要がある。

これがWechatミニプログラムの場合、
 ①Wechatミニプログラム上でAPPを検索して開く
 ②利用する
のステップだけで完了する。

各種認証自体はWechatで済ませているので省略できるし、Wechatがすでに決済機能(WechatPay)をもっているため、決済手段の登録さえも省略できる。
この仕組みは、APPの提供元・ユーザー双方に利点がある。

提供元の観点から見ると、どんなに優れたサービスであっても、ユーザー登録や決済手段登録の段階で消費者の脱落は避け得ない。ミニプログラムでは、構造的にその部分をスルーできる。
ユーザーサイドから見た場合、手間の少ない形で登録できる分、利用が楽である。また、APP自体のダウンロードをしなくてすむために、無秩序にホーム画面にアプリが氾濫するのを防止できる。

ミニプログラムのある生活

では、具体的にはどんなサービスが提供されているのだろうか?
たとえば、「付近のミニプログラム」で検索すると、下記のような形で近くの店がピックアップされ、このままアプリ上で出前の注文ができる。

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(左側:筆者のWechat画面より抜粋/右側:マクドナルドのミニプログラム)

上記は例としてファーストフードを挙げているが、それだけでなく、いわゆる「公的」なサービスもミニプログラム上で動いている。主要なサービスをあげると、
 ・国務院ユーザー端末(コロナウィルス関係の情報発信やPCR検査の記録などを提供)
 ・通行カード(基地局情報から2週間以内の居場所を特定、感染への安全性を示すもの)
 ・健康バーコード(海外や国内感染エリアへの渡航状況から感染危険性をしめすもの)
などなど。こういったサービスもWechatミニプログラム上で動くのである。

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(左から、国務院・通信行程卡(交通カード)・随申办(健康バーコード)のミニプログラムより抜粋)

ミニプログラムが生み出す世界とは?

では、ミニプログラムは今後の消費生活にどのような影響を与えるのだろうか?
先に述べた通り、ミニプログラムそのものはプラットフォームにすぎず、それ自体がなにかを行うわけではない。しかし、むしろプラットフォームであるがゆえに、その影響は多岐にわたるともいえる。この点については、さまざまな見方ができるが、ここでは、小売り系の販売ルートに与える影響にフォーカスしてみたい。

Wechatミニプログラムの特徴の一つとして、「開発コストが安く、開店までのハードルが低い」いう点があげられる。
シンプルなECや出前サービスであれば、サードパーティが提供しているプラットフォームサービスを利用してもいいし、プログラムの雛形を提供している会社からプログラムを購入してもよい。費用は形態にもよるが、Wechat側との契約金が年間300元(約4500円)、サードパーティのプラットフォーム利用料が年間5,000元(約75,000円)程度である。この程度であれば、IT知識の薄い小規模商店でも比較的容易に店が開設できる。
※余談だが、弊社では、中国市場でのテストマーケティングアプリ『新探』をリリースしているが、これもミニプログラムで展開している。プログラムのQRコードはこちら(WechatのDLが先に必要な点は注意)

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コロナウィルス期間中の隔離政策の影響もあって中国のEC化は加速しているが、ECを活用するのは何も大手のプラットフォームに限られない。小規模店舗も生き残りをかけて続々とEC化を進めているのである。ミニプログラムは、コスト面で彼らと相性が良い。

となると消費生活はどう変わるか?
使える店やサービスが増えるとなれば、ユーザーの利便性も向上する。また、店のAPPをいちいち入れるのは心理的抵抗が高くても、それがミニプログラムであれば、APPをダウンロードすることなく、ユーザーとしても気軽に試すことができる…という形で、サイクルが回り始めるのである。

もちろん、ミニプログラムは万能の「魔法のツール」ではない。
トライアルが容易であることは、初回のユーザーをゲットするという点では大いにプラスだが、顧客をキープするという点ではマイナスに働く。
ミニプログラムという形式が果たしてくれるのは、「面倒くさい」のハードルを下げることであり、それはとりもなおさず、APPやサービスがユーザーの生活を豊かにしているか?という本質がより問われるようになるということである。

「APP経由で事前にコーヒーを注文、出勤途中にシームレスに受け取ってオフィスにでる」
これは、中国コーヒーチェーン大手のラッキンコーヒーが構築した世界観である。
20年に粉飾決済でナスダックの上場廃止通告を受けたとはいえ、17年に創業したラッキンコーヒーがスターバックスを数年で猛追するコアとなった部分だ。しかし、いまやミニプログラムを使えば個人経営のコーヒーショップも個店レベルでは同じことができてしまう。

ビジネスモデルで顧客を囲い込み、ユーザーを一度囲い込んだらそれで安泰…という時代はますます遠ざかっている。トライアンドエラーが重要なのはいつの時代でも変わらないが、そのサイクルはますます短くなりつつある。変わりゆく市場で、ユーザーにとっての価値とはなにか?それに応えられるサービスにとってはチャンスであり、応えられないサービスにとってはピンチとなる、ある意味で平等な市場環境で、次に出てくるサービスはなにか?引き続き中国市場から目が離せない。


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    執筆者プロフィール
    柏井 太郎(かしい たろう)

    中国・上海在住のリサーチャー。2017年6月から上海駐在。主に消費財分野で業務を担当中。日々中国語の調査票・報告書とにらめっこしている。

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    インテージ

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