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<駐在員コラム>【タイ:地球の暮らし方】バンコクの浴室(バスルーム)事情

1. はじめに:タイにおけるトイレ昔話

時を遡ること25年ほど前。バックパッカーとして独りタイを旅したときのことである。1週間ほどバンコクでホームステイをした際のトイレは今も鮮明に記憶に残っている。丁度用を済ませたところで私はトイレの出口戦略が完全に丸腰であったことに気が付かされた。100リットルはゆうにありそうな大きいポリバケツになみなみと水が注がれている。そこに手桶がそっと浮かんでいるのを私は便器にしゃがみつつ眺め、左手にお尻で水を待ち構えさせるのか、それとも左手で水をすくってからお尻に向かわせるべきなのか、最適手順を何度も頭でシミュレーションをするが拉致があかない。あと必要なのは気持ちと勢いだ。そろそろ足のしびれも限界にきている。息を止め、エイや!とばかりに初めての“お手洗い”を体験したのであった。その家はシャワーがトイレと同じ部屋にあったので、“お手洗い”に慣れるまでは、トイレ後にその流れでシャワーを浴びてしまうことにした。その家にはトイレットペーパーがなかったせいもあり、シャワーも済ませてしまった方が体の水気を拭き取るのにも便利だったからだ。

2. タイの浴室はユニットバス式

昔も今も、タイの浴室はトイレとシャワールームが一つの部屋に収まっているのが普通である。いわばユニットバス式だ。浴室やトイレのことをタイ語ではホンナームと呼ぶ、ホンは部屋、ナームは水のことである。水の部屋なので、トイレもシャワーも同じくくりとなる。洗面台も含めてこれらは浴室に設えてある。

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バンコク。世帯月収75,000THB以上の高所得者層の戸建て。シャワーとトイレと洗面台が1部屋に収まっている。
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama

3. タイのトイレ

ここでは、まずトイレから見てみよう。トイレは日本の和式のようにしゃがんで用を済ませるタイプと、便座に座るタイプの2パターンに分けられる。バンコクの中でもローカル系レストランなどに行くと、未だにしゃがむタイプの便器がみられることもあるが、その数は減ってきていて、所得階層がミドルクラス以上の世帯においては便座タイプが主流になってきていると言って良いだろう。ただ、地方部に行くとまだしゃがむタイプを見かけることも少なくない。

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さて、座って用を済ませた後、タンクの上部天板についているボタンを押して水を流す。ボタンが1つのこともあれば、ボタンが2つに分割されていて、大小で流水量を変えられるものもある。
水を流した後は、便器そばの水管から伸びたノズル付きホースでお尻を洗うことができる。昔は桶だったものが、現在ではホースにとって変わっている。しかも手元のノズルのレバーを握れば水が出てくるので、とても便利であるが、どの程度勢いよく水が出てくるのか、出てこないのかは、初めて使う場合には未知なので、慎重にレバーを握る必要がある。筆者は、ある時はあまりにも水の勢いが良すぎて、背中側の便座の隙間から噴水させてしまったこともある。

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バンコク。世帯月収50,000~75,000THBの中高所得者層のコンドミニアム。便器左手にあるノズル付きホースでお尻を洗う
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama

ホース式以外ではTOKYO SUKKIRIなどのような名称の商品もある。便座に固定されたシャワーノズルを便座右手側の水量調整ノブで開くと、便座後部下のシャワーノズルでお尻を洗うことができる。場合によっては、シャワー便座とノズル付きホースが併設されていることもある。電気は一切使わないのがポイントである。というのも、冒頭申し上げたように、浴室は水の部屋であって、床面が濡れていることが普通で、シャワーの水が便器周辺に飛び散ってくることも十分にあるし、用を済ませた後の便器周辺も濡れている。そのため、便器後部下の壁にコンセントを配置するのは危険であるし、水圧だけで作動するシャワー便座が設置も楽で合理的と言えるだろう。また、タイは温水でお尻を洗いたくなるような寒さとも無縁であるので、水道水をそのままの温度で使用しても支障はない。
なお、一般にタイの水圧は低く、流水量が十分ではなく、お尻を洗った後にその水滴を拭いたトイレットペーパーは便器に流すのではなく、トイレ横のゴミ箱に捨てることがエチケットとされている。

4. タイのシャワー

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バンコク。世帯月収75,000THB以上の高所得者層の戸建て。シャワー室がガラスで仕切られている。給湯器も設置されている
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama

次に、シャワーについて見てみよう。個人差はあると思われるが、常夏のタイでは1日に最低でも2回はシャワーをして汗を流したり、暑さ対策として水浴びをしたりするだろう。水道水を冷たいと感じることはあまりなく、どちらかといえばぬるいので、そのまま水浴びをしたとしても多少はヒヤッとするかもしれないが、冷たすぎて浴びられないということはないし、寧ろ気持ちが良い。
お湯を使ってシャワーをする場合は、シャワーノズルの斜め上に設置されている電気式給湯器のスイッチを入れるとお湯になるというのが一般的である。お湯の温度は給湯器側のダイヤルで調整する。お湯の温度を最も高く設定したとしても、体感的には40℃あるかないかという印象だ。使用しない時は電源を切る。タイの電気代は他の物価と比較して割高であるので、節電するのは当たり前となっている。ユニットバス式であることから、シャワーをする際の水が部屋の床を濡らすため、カーテンで仕切ったり、リノベーションをしてガラス扉をつけたりすることもあるが、トイレとシャワーがそれぞれ独立した状態となっているのは、高級コンドミニアムなどごく一部に限られる。
床はタイル貼りとなっていて、気温が高いこともあり比較的乾くのが早いものの、シャワーのせいで床が濡れて滑りやすくなり、特に高齢者のいる家庭においてはトイレに行く際に転倒によるケガの心配も少なくないようだ。

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バンコク。世帯月収100,000THBの高所得者層の戸建て。まさにホンナーム(水の部屋)の典型的なバスルーム
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama

25年以上前から遡って見ても、日常生活に必要なシャワー、トイレ、洗面台の家の中における間取りに大きな変化は感じられないが、しゃがむ便器から座る便器へ、あるいは手桶からノズル付きホースへのシフトは確実に見て取れる。一方で、浴室の構造上床が濡れやすいということはあまり変化がない。今後ASEANの中で少子高齢化社会が最も早く進むタイにおいては、浴室内での高齢者の安全面に配慮した商品提案、例えば素早く乾いて滑りにくい床材が短工期で設置できるといったサービスは、浴室の床面積が比較的大きく、スノコ等では代替が難しいことを想定すると受容性があるのではないだろうか。

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    執筆者プロフィール
    青葉 大助(あおば だいすけ)

    タイ在住40代男性リサーチャー。過去に訪問した調査実施国数は30か国以上。当該国の消費者にとってのベストを求め、常に彼らの気持ちと自分を重ねることを旨としている。 1日約1000回閲覧される自身の世界グルメ投稿もタイを中心に意欲的に継続している。

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    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

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