<駐在員コラム>【インド:地球の暮らし方】インドのバスルーム事情
今回はインドの入浴習慣・バスルーム事情について、高級コンドミニアムからスラムまでご紹介したいと思う。入浴習慣・バスルームの構造ともに日本とは異なる特徴を持っており、日本人視点では「?」と思うこともあるのだが、そこにはインドでの生活にあった合理性が存在するように感じる。
インドの生活者は1日に1回、沐浴の習慣からか、朝にシャワー浴びるケース多い。他のアジアの多くの国と同様に、バスタブにつかる習慣はない。そのため、基本的にはシャワー、もしくは、バケツに水をためて頭からかぶるスタイルである。その際、毎回頭をシャンプーするわけではなく、夏場でなければ数日に一回という人も多いようだ。ただ、コロナ禍によって、外出した後は、気候に関係なくシャワーを浴びる人が増えている。実際、2020年のロックダウン期間中にインテージ・インディアで実施した調査では、約3割の生活者がロックダウン以前と比べて入浴の頻度が増えたと回答してる。
お湯を使うにはギザと言われる電気湯沸かし器が必要になるのだが、インドの家庭で使われるサイズは30L程度のものが多い。シャワーで1分あたり5L程度使うと考えると、30Lのギザだと5~6分しか持たず、温かいシャワーをゆっくり浴びること自体が容易ではない。もっとも、ヒマラヤ山脈に近い北部を除けば比較的温暖な気候のため、真冬以外はお湯を使わなくとも大きな問題ではないという背景もあるようだ。一部の高級物件ではバスタブが付いているお宅もあるのだが、100Lを超す容量のギザはめったになく、バスタブにお湯を張ることができないケースが多いと聞く。
なお、インドではシャワージェルよりも固形石鹸が広く使用されており、小売店では複数個入ったお得パックをよく見かける。
コンドミニアムのバスルーム。上部に見えるタンクがギザ(電気湯沸し器)
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
バスルームの特徴
インドではシャワーブースとトイレが接しており、間に仕切りがない家庭が多く、シャワーを浴びるとバスルーム全体がびしょ濡れになってしまう。ただ、バスルームの床は石材でできており段差がないため、濡れたとしても乾きやすいし、掃除の際には、洗面スペース・トイレ・シャワーを一気に掃除できるメリットはある。私も自宅でバスルームの掃除をする際に、トイレについているハンドシャワーを活用して、床掃除をした後の洗剤などを一気に流している。シャワー時の水撥ねや床に水を流して掃除することを前提としているためか、バスルームには収納棚がないお宅が多いように感じる。収納棚がない場合は、高級なコンドミニアムであっても、洗面台や窓のサッシ、トイレ裏のちょっとしたスペースなどを石鹸・シャンプー・洗剤などの置き場として活用している。ボトルなどをそのまま置いている家庭が多いため、日本の100均などで売られているような収納小物が低価格で提供できたら、受容性があるのではないか。
また、インドの高層マンションでは、バスルームの外にベンティレーション・シャフトと言われる建物を上下に通貫するスペースがあり、高層階では換気扇の能力を低下させる風の侵入を防ぐとともに、外部から換気扇が見えないようにデザイン性を保つ役割を担っている。また、そこのスペースには上下水やガスなどの配管も通されいるケースもある。水回りの配管を最短距離で施工でき、かつ、故障時にはそのスペースで修理がしやすいといったメリットがあるからだそうだ。
ムンバイのコンドミニアム。赤枠部分がシャフトと言われるスぺース(出典:筆者撮影)
スラムのバスルーム
ここまでは富裕層のお宅のバスルームを見てきたが、スラムの様子も紹介したいと思う。ムンバイのスラムを20件程訪問したことがあるが、多くのお宅ではバスルームがなく、共用トイレを使っていた。管理組合が機能しているスラムだと、共有トイレの入り口で使用料を数ルピーの使用料を集めてきれいにメンテナンスをしていた。余談だが、スラムと言っても生活水準はピンからキリまである。特に中心部の家賃が非常に高いムンバイでは、通勤の便を考えてあえてスラムに家を借りる若手のサラリーマンがいたり、大手企業に勤めながら親とスラムに住む家族がいたりする。そういったお宅では、ちゃんとバスルームが自宅にあり、家電も大型冷蔵庫やフロントドアの洗濯機を持つなど、「スラム」という言葉からは想像できないような家電を持つ家庭もある。コロナ禍ではスラムへ足を踏み入れる機会がないが、状況が落ち着いたら「今の暮らしぶり」を理解するために再訪したいと常々思っている。
(左)スラムの共同トイレ
(中)独立したバスルームがある比較的裕福なスラムのお宅。水道も備え付けられている
(右)水回り(食器洗い・手洗い・水浴び)全て兼用のスラムのお宅。共有水道からバケツで水を運んで使用する
(出典:筆者撮影)
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執筆者プロフィール
中村 亮介(なかむらりょうすけ)
インド駐在歴3年の間、ムンバイ、デリー、バンガロールにそれぞれ1年ずつ滞在。プロジェクトを通してインド全土の習慣、文化に触れてきたインドのエキスパート。ロックダウン中もインドに残り、現地の生の情報を顧客に届けている。
- 2021/12/16
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