imagesColumn

【中国:地球の暮らし方】競争社会における早期教育の需要

中国は競争社会とよく言われている。特に育児世帯の「80後」「90後」の親たちは、ちょうど第三次ベビーブームの世代なので、より激しい競争を経験した。そのため、中国では子供に対する早期教育が今まで以上に重視されている。今回は、Consumer Life Panoramaに登録されている中国の生活者をご紹介しながら、この現象についてご紹介したい。

関連記事一覧

第1回:【中国:地球の暮らし方】中国人はおしゃべり好きなのに、独立型キッチンを好むのはなぜ?
第2回:【中国:地球の暮らし方】風呂場とトイレが意外と広くない中国家庭
第3回:【中国:地球の暮らし方】中国家庭のリビング使用実態は玄関と冷蔵庫からわかる!
第4回:【中国:地球の暮らし方】空間最大限利用のためのバルコニー活用術とは?
第5回:【中国:地球の暮らし方】配線の自由度が高い中国住宅
第6回:【中国:地球の暮らし方】自宅に置かれている小物から見る中国人のライフスタイル
第7回:【中国:地球の暮らし方】中国住宅の住環境と掃除事情
第8回:【中国:地球の暮らし方】空間と地域で違うエアコン選択
第9回:【中国:地球の暮らし方】プライバシーと収納の考え方
第10回:【中国:地球の暮らし方】洗濯機を浴室やランドリーエリアに設置する理由は?
第11回:【中国:地球の暮らし方】古くから伝わる暑さ対策の知恵
第12回:【中国:地球の暮らし方】年収が同じでも、エリアの差が激しい生活環境
第13回:【中国:地球の暮らし方】部屋から分かる高所得層の家電ブランドを探る
第14回:【中国:地球の暮らし方】「国潮」に影響された化粧品ブランドの選好
第15回:【中国:地球の暮らし方】ミレニアル世代の子育て事情
第16回:【中国:地球の暮らし方】中国人の衛生意識
第17回:【中国:地球の暮らし方】「顔値経済」に影響される男性の化粧品使用
第18回:【中国:地球の暮らし方】パンデミックによる伝統医療への再認識をチャンスに
第19回:【中国:地球の暮らし方】じめじめした日に悩みを抱える中国南部の住宅
第20回:【中国・ベトナム:地球の暮らし方】おいしい酸味の秘訣とは
第21回:【中国:地球の暮らし方】子供の成長を考慮した部屋作り
第22回:【中国:地球の暮らし方】 競争社会における早期教育の需要
第23回:【中国:地球の暮らし方】地域とキッチン
第24回:【中国:地球の暮らし方】中国消費者のデンタルケア事情
第25回:【中国:地球の暮らし方】急速に発展するEV市場
第26回:【中国:地球の暮らし方】室内空気質へのこだわり
第27回:【中国:地球の暮らし方】中国人は水よりお湯を好む理由
第28回:【中国:地球の暮らし方】給湯器の普及と使用実態
第29回:【中国:地球の暮らし方】 寝室から見るライフスタイルの変化

早期教育とは

早期教育とは、狭義的には0-3歳、広義的には6歳までの子供の教育のことを指す。特に、0-3歳の間は、人の習慣形成、思考方法形成や知能の発達の重要な時期であり、将来の成長のための土台を作る時期でもあるという説がある。この時期に、子供に、いい生活習慣を身につけることや、将来の知識の勉強のための思考方法を訓練すること、知的好奇心や美的感覚を育成することなど、子供の知力と潜在能力を早い段階で開発し、子供の総合的な発展を促進するための教育のことを指して早期教育といわれている。

日本ではあまりなじみのない早期教育という言葉ではあるが、中国では特に最近の親たちの間でその重要性が認識されてきている。日本では子供が小さいころ、何か習い事をすることに競争社会を勝ち抜くためといった思いニュアンスは少ないが、中国では子供の教育の重要な一環として捉えられている。

早期教育が重視される背景

そもそも、なぜ早期教育が中国でそこまで重視されているのか。筆者の推察では、主に2つの理由が考えられる。

第一に、人口構造からまず説明したい。中国では今まで3つのベビーブームがあり、今の教育の中心である25歳から35歳の人たちはちょうど第三次ベビーブームで生まれた人たち。同じ世代の人口が多いことは、何をしても競争が前の世代より激しいこと。また、下図10歳以下の人口割合を見ても、中国は約12%で日本よりその割合が多い。幼い頃から激しい競争を経験した親たちは、自分の子供を人に負けないように、前の世代より早期教育を重視しているのではないだろうか。

images

中国と日本の人口構造
出典:Global market surfer(「性年代別人口・人口構成比(10歳刻み)_中国(2020年推定値)」)

第二に、中国が競争社会となったのは、人口構造の問題もある一方で、高等教育の課題もある。まずは高校進学試験の時の「5:5分流制度」だ。これは中国で長い間実施されて2022年に廃止したばかりの制度である。中学校卒業したあと、高校進学の時に、統一試験では上位50%の人が普通高校に行く資格があり、下位50%の人は職業高校しか行けないと、学生が「分流」される。さらに、高校進学の難関を乗り越えた後、大学進学が待っているので、気を抜くことはできない。世界的に比較しても、中国の大学進学率が38%ぐらいで決して高くない。ましてや名門校や重点大学の倍率もさらに高いのだ。

images

中国の大学進学率
出典:Global market surfer(「四年制大学(レベル)進学率 _7カ国(2017)」)

中国では受験戦争ともいわれている進学の競争が激しい現状の中、「子供にスタートラインで負けさせない」という意識は親ならみんな持っている。問題はスタートラインをどこに設定するのかということだ。結局のところ、学校教育が始まる前から、将来の受験戦争で勝つために、親がいろいろと準備初めた結果、早期教育はますます重要視されるようになってきた。

Consumer Life Panoramaから見る早期教育の現状

中国では共働きとはいえ、忙しい日常の中でも育児を夫婦二人でやる世帯が存在している。特に早期教育は親たち自らやることが多い。早期教育は家でやる部分もあれば、外部機構を利用する部分もある。意識の高い家庭では、何かの明確な目的をもって計画的にやっている。

例えば、家では、下図左のような小さなテーブルを置いてある家庭がConsumer Life Panoramaでは複数ある。そのうえでブロックで遊んだりすることができる。付属のブロックを使って組み立てて遊ぶので、子供の創造力を育む。また、ふたをつければ、お絵かきすることもできるのでまさに一石二鳥。また、真ん中の写真は絵本の本棚。子供の絵本は物語だけではなく、世界を認識するための基礎知識も含まれている。右の写真は乗り物のパズル。これは子供の集中力を鍛えるためのものだ。

images

家庭での早期教育の一例
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
(Consumer Life Panoramaの概要はこちら

また、子供は活動的なので、家にいてずっと静かに習い事をすることができない。そこで、下図のように家庭内では体を動かす場ももちろん設置されている。

images

家庭で子供が体を動かす場所
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
(Consumer Life Panoramaの概要はこちら

家だけではなく、外部機構の利用も近年増えてきている。ここでは意識が高い上海の世帯を事例に、Consumer Life Panoramaにある「May Day」というその世帯の一日の動きをまとめた情報(下図)を使って説明したい。

この世帯は共働きなので、平日は忙しい。休日になると、基本毎週子供を連れて早期教育のために外出する。

朝はパパが車で子供を連れてバスケットボールの授業に行く。パパ自身はバスケットボールが好きで、子供の集中力と語学力を鍛えるという目的もあって、外国人がコーチを担当するバスケットボールの練習を毎週やっている。

午後は、子供の知育のためにLegoの授業も毎週やる。それが終わったら、公園に行って子供に体を動かした後帰宅する。この世帯はこのように仕事以外、基本子供を中心に生活しているのだ。

images

上海家庭の休日の一日
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
(Consumer Life Panoramaの概要はこちら

中国では、特に近年早期教育業界が急成長している。今の子育て世帯が早期教育に目を付けるのは、競争意識以外に、前の世代より質の高い教育を受けているので科学的に子供をよりよく育てることに抵抗感がないことも一因であろう。そのため、質の高い教育のコンテンツも求めていると考えられる。一部の収入の高い世帯は、中国国内のコンテンツだけで満足せず、海外の質の高いコンテンツを買い求めるという需要も存在している。筆者の友達の中には、日本の絵本を買って子供に読ませるといったことをしている家庭も存在している。

【Consumer Life Panoramaとは】

Consumer Life Panoramaは、日本や海外の消費者のリアルな生活実態をご覧いただけるインテージのWEBデータベースです。各国生活者の住環境を360度画像で閲覧したり、一日の生活の流れや動線、デジタルライフをご覧頂くことができます。
本記事の写真の一部も、このデータベースに登録されている生活者の写真を引用しています。カスタマイズした調査によらず、手元で海外生活者の住環境を観察したいという場合においてご活用いただけるサービスです。
Consumer Life Panoramaデモサイトはこちら
Consumer Life Panoramaの概要はこちら


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    ヤン イェン

    日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。日本にいる中国人の友達の中でも子供への教育熱心の人が多い気がする。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)

    Global Market Surferのサイトづくりを担当。自分の子供には体を動かすことを楽しんで欲しいと思い、体操教室に通わせている。

転載・引用について
  • 本レポート・コラムの著作権は、株式会社インテージ または執筆者が所属する企業が保有します。下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。

    「出典: インテージ 調査レポート「(レポートタイトル)」(●年●月●日発行)」
    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
  • 禁止事項:
    • 内容の一部または全部の改変
    • 内容の一部または全部の販売・出版
    • 公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
    • 企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的とした転載・引用
  • その他注意点:
    • 本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
    • この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
  • 転載・引用についてのお問い合わせはこちら