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【中国:地球の暮らし方】地域とキッチン

中国は国土が広い故に、各地域では飲食習慣もかなり違い、それぞれの特徴を持つ地方料理がある。今回は、Consumer Life Panoramaに登録されている上海、ハルビンと成都の生活者のキッチンにある調味料についてご紹介しながら、中国料理の地域的特徴についてご紹介したい。

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上海

上海は江蘇省と浙江省の間にあり、この2省から移住する人が多いため、飲食習慣はこの2省の影響を受けている。上海の料理はよく「濃油赤醤」(油としょうゆをたくさん使って味付けする)という言葉で表現されている。ここで「赤醤」というのは上海料理の中でも特徴的な色が濃い目のしょうゆ煮込み料理のことを指している。有名なのは、上海風豚の角煮、葱風味骨なし排骨(パイコー)などで、どれも濃厚しょうゆで味付け、色付けすることが特徴だ。

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典型的な上海風醬油煮込み料理
出典:下厨房

こういった醬油をたっぷり使った料理が多いので、各家庭のキッチンにはしょうゆの種類もかなり豊富にある。下図は上海の家庭のキッチンにあるしょうゆの一例。日本のしょうゆと似たような味付け用の「生抽」以外に、キャラメルなどを入れてしょうゆの色を濃くしたとろみのある「老抽」「紅焼醤油」といった色付け用しょうゆを持っている。キノコエキスなど入れたものは風味も異なり、特定の料理に使われる。

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上海家庭にあるしょうゆ(左:CN_52, 右:CN_107
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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また、上海は中国の中でも最も早く開港された都市の一つのため、中国の伝統料理以外に、海外からの影響を強く受けていることがもうひとつの特徴だ。カレーがその一例だ。1908年、上海の新聞紙で初めてカレーの広告が出されてから今になっては、カレーを作った料理が日常の家庭料理として定着されている。有名な料理としてカレーチキンがあって、鶏肉とジャガイモにカレー粉やカレーソースを入れて出来上がった料理だ。


ケチャップもそうだ。上海では「羅宋湯」(中国版のボルシチ)もよく飲まれている。中国語では「羅宋」とはロシアンの発音に近いため、このスープがロシア伝来との意味を表している。とはいえ、野菜をたっぷり入れて、ケチャップで味付けするこのスープはもう上海人にとって今になっては地元料理の一つとされているのだ。また、中国の中でもウスターソースが日常に使われているのが、主に上海だ。最初は洋食レストランに使われているものだが、名前を「辣醤油」と訳されていて徐々に一般市民の間で定着している。上海でもとんかつをよく食べていて、その時にかけるソースとして「辣醤油」を使う。

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上海家庭にあるカレーソース(CN_107)とケチャップ(CN_30
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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上海料理のカレーチキン(左)、羅宋湯(中)、とんかつ(右)
出典:下厨房

ハルビンと四川

ハルビンは上海から約2000キロ以上離れた東北地方の中でも最北端の黒竜江省の省都。東北地方と言ったら、肥沃な土壌であるチェルノーゼムが有名であり、中国北部唯一大型の稲作地域がそこにある。東北地方で栽培されたお米は中国で一番おいしいお米とされている。いつも主食の違いに関して、南部はお米で北部は麺類というふうに言われているが、東北地方は北部でも有数のお米を主食にする地域だ。


お米以外に、東北は大豆の産地でもある。そのため、食用油について、大豆油が一番多く使われている地域でもある。実は、油も南北に違いがあり、北のほうは大豆の産地が多いため、大豆油をよく使うが、南では菜の花の産地のため、菜種油をよく使う。

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ハルビン家庭にある大豆油(左:CN_90)と四川家庭にある菜種油(右:CN_80
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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ハルビンは緯度的に日本の北海道と同じぐらい。それに、シベリア気団の影響をいち早く受けているため、冬はかなり寒い。そのため、料理はとにかく肉や野菜を入れて長時間で煮込む「燉菜」 (煮込み料理)が有名。こうしてコトコト煮込んでしょうゆを入れて味付けしたうえで、温かいうちに家族で食べることで極寒の冬に体を温めるのだ。

その時に、うま味を引き出すために、いつも使われている調味料がある。それが地の利を利用して大豆で作った「東北大醤」(東北風みそ)。野菜を浸けて食べるもよし、煮込み料理に入れるもよし。いわゆる万能調味料だ。有名な料理として「排骨燉豆角」(スペアリブとインゲン豆の醬油煮込み)や「東北醬大骨」(豚背ガラ肉の醤油煮込み)などがあげられる。

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ハルビン家庭にある煮込み用の香辛料(左:CN_88)と万能調味料の「東北大醤」(右:CN_88
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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東北料理の排骨燉豆角(左)、東北醬大骨(右)
出典:下厨房

また、ハルビンはロシアに近いので、飲食文化はロシアの影響も多少受けている。その一例として、中国人料理人がロシア人の味覚に合わせて甘酸っぱく作った鍋包肉(グオバオロー)(豚ひれ肉の甘酢炒め)がいまやハルビンの名物となっている。それ以外に、ロシアの黒パンに似たようなダーリエバ、ロシア風ソーセージが由来するホンチャンなどもある。


最後は四川だ。四川と言ったら、日本人になじみのある麻婆豆腐の発祥の地だ。四川の味覚に欠かせないものは辛味だ。そのベースとなる調味料が、四川のどの家庭にもある豆板醬。料理に辛味やコクを与えてくれる決め手だ。本場の麻婆豆腐も、回鍋肉も、必ず豆板醬で味付けする。また辛味と同等に欠かせないのが、ピリピリとしびれを与えるための花椒だ。辣子鶏(ラーズージー)がまさに揚げた鶏肉をたっぷりの唐辛子と花椒に入れて軽く炒めて仕上げた代表的な料理だ。

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成都家庭にある豆板醬(左:CN_84)と花椒(右:CN_80
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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四川料理の麻婆豆腐(左)、回鍋肉(中)、辣子鶏(右)
出典:下厨房

食に関する近年のトレンド

ご存知の通り、中国料理は炒め物や揚げ物が多い。その結果、中国の食用油の平均摂取量ははるかに国が決めた推薦量を超えている問題がある。特に南部では健康リスク成分が入っている菜種油を使う習慣があるので、大量に食用油を摂取することは結局健康問題にもつながる。近年、健康意識が高まる中で、より健康な食生活をするように心がけている世帯も増えてきている。例えば、食用油は米油やオリーブオイルにする家庭も見られる。

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中国家庭にある米油(左:CN_78)とオリーブオイル(右:CN_82
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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健康な食生活をする意識は食用油以外にも見られる。家庭によっては塩分を減らす減塩のしょうゆを使ったり、添加物をゼロにする調味料を使ったりする家庭も存在している。

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減塩しょうゆ(左:CN_54)と添加物ゼロのしょうゆ(右:CN_32
生活者データベースConsumer Life Panorama
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【Consumer Life Panoramaとは】

Consumer Life Panoramaは、日本や海外の消費者のリアルな生活実態をご覧いただけるインテージのWEBデータベースです。各国生活者の住環境を360度画像で閲覧したり、一日の生活の流れや動線、生活行動動画をご覧頂くことができます。
本記事の写真の一部も、このデータベースに登録されている生活者の写真を引用しています。海外生活者の理解を深めるのにご活用いただけるサービスです。
Consumer Life Panoramaデモサイト:http://consumer-life-panorama.com/demo/
Consumer Life Panoramaの概要はこちら:https://www.global-market-surfer.com/solution/


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    ヤンイェン

    日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。近年日本でも中国各地方の本格中華の店が増えてきているので、いろんな地方の本場の味が楽しめる。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)

    Global Market Surferのサイトづくりを担当。「ガチ中華」が日本でも美味しい中華料理が食べられるようになって嬉しい。

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