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【各国料理と家事事情】カンボジア編:料理をするときの行動

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「ニャム バイ ハウイ?」
これはカンボジアでHelloのような挨拶によく使われる言葉である。日本語にすると「ご飯食べた?」にあたる。挨拶にもなるくらいカンボジア人は食事というものに重きを置いている。一般的なカンボジア人が家庭で料理をして食べているクメール料理と、それに関わる家事についての事情をみていく。

プノンペンの台所を支える市場

カンボジアでは冷蔵庫がなくても暮らせると言われるくらい、人々の生活圏には新鮮な野菜、肉や魚などが買える市場がある。特に首都プノンペンには大小の市場が市内中に点在している。クメール正月などの大きな休暇以外は毎日オープンしているので、買いだめする必要がなく毎日市場に行く主婦も多い。市場が井戸端会議の場所になっていたりもする。
小さな不動産会社を経営しているマリーさん(39歳・女性)は、公務員の夫と小学校5年生の息子、母親、妹、姉夫婦とその子どもと一緒に母親の家で暮らしている。夫婦共働きのため、大家族が集まって食べる夕食は、彼女の母親が作っている。マリーさんの家庭の場合は、母親が毎日徒歩5分ほどのところにある市場に行って肉や野菜といった新鮮な食材を調達している。

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 市場の様子

共働き夫婦を支える母親

内戦終了後のカンボジアで、平和になってから産まれた20代や30代のプノンペン在住の子育て世代は、無理をしてでも子どもを私立の学校に通わせるために学費を惜しまない傾向にある。そのため共働きで稼いでいる家庭が多い。家族の炊事を支えているのが、同居している母親の存在である。母親が料理を作るのは1日2回。プノンペンの街の路地には複数の屋台が営業をしているが、いちばん賑わいを見せているのが朝。客層は主にビジネスパーソンで、7時前に家を出て通勤途中に屋台で朝食を済ませ8時頃職場に着く。昼休みが長いカンボジア(公務員は2時間)では、昼に一旦帰宅して食事をとる人が多い。ただ最近では、食堂がひしめき合っているプノンペン中心部では外食する人たちの姿も多くなっている。マリーさんの母親は外食傾向にある朝食は放っておいて、昼食を正午に夕食を午後7時に用意している。

典型的なクメール料理

カンボジア人が家庭で食べているのは、クメール料理と呼ばれるカンボジアの地元料理。クメール料理の食べ方に決まりがあるわけではないが、日本の一汁三菜によく似た典型的なメニューがある。まず主食の白米。米大国であるカンボジアでは、「食事=米」という考えがある。パスタやパンも食されるが、カンボジア人からすると「それはスナックであり、ご飯ではない」のである。白米の他に野菜や肉の炒め物とスープ合わせ、三品を用意すれば立派な食卓の完成。味付けは東北地方の日本人でも驚くくらい塩辛い。少しのおかずで白米を大量に食すのがクメール料理だ。ちなみにタイ料理のような唐辛子系の辛い料理は少ない。スープの中でも特に有名なのが、「ソムロームチュークルン」。マリーさんの家でも定番の牛肉や川魚と空芯菜を使った酸味のあるスープで、クルンと呼ばれる調味料が味の決め手。クルンは、レモングラス、コブミカンの葉、ウコン、ガランガル等々のハーブをすり鉢で叩いてペースト状にしたもの。夕方になるとあちこちの家からトントンというクルンを作る音が聞こえてくる。

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一般家庭の台所

カンボジアの家は高床式で軒下に台所があるというのが田舎のスタンダードだが、プノンペンのような都市部は異なる。ヴィラと呼ばれる豪邸は別として、中間層の多くはショップハウスと呼ばれる長屋に暮らしている。

幅はないが奥行きと高さがある。ドアを開けるとリビング兼ダイニング、家の一番奥がキッチンという造りがほとんどだ。カウンターキッチンやアイランドキッチンではなく、家族に背中を向けて調理をする形式。加熱はガスを使い、大きなガスボンベはキッチンの中にあるのが当たり前。ガスボンベとの共存にはいまだに馴染めないでいる。調理道具は鍋やフライパンなど日本と特に違いはないが、クルンを作る時にも使うすり鉢はカンボジアの家庭には欠かせない。ニンニクや各種ハーブなどを叩いて調理することが多いクメール料理が各種あるからだ。すり鉢には木製のものと石製のものがある。

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 キッチンとすり鉢

夕食は家族団欒の場

クメール料理は大皿料理が基本。テーブルの中心におかず2、3品を並べ、各自白米を盛りつけた皿におかずを乗せて食べる。スープはスープ椀にとって食べる家庭もあれば、白米にそのままかけて食べる家庭もある。食堂でも同様の食べ方をする。みんなでおかずを囲むので、夕食は家族全員が揃って食べるのがカンボジアでは一般的である。基本的に残業がない社会文化なので午後7時には家族が揃っていることが多い。食べ終わった食器は手の空いている人が台所に戻し水と洗剤で手洗いをする。カンボジアの一般的な家庭には給湯器がなく、お湯で食器を洗うという習慣はない(シャワーも基本的には水)。大皿料理の利点には洗う皿の数がそれほど多くはないということもある。大家族で暮らしているプノンペンの一般家庭では、家族で仕事を分け合うことが多い。母親だけが家事をするのではなく、父親やもちろん子どもたちも家事の手伝いをするのは当たり前といった認識で育っていくお国柄のようだ。

カンボジアで夕食は家族団欒の場ではあるのだが、他人が加わることを大歓迎する傾向にある。自身もこれまで幾度もマリーさん宅にお邪魔して家族と食卓を囲んだ。

そのときには片付けまで手伝って帰るように心がけている。それが、食事を共にしたらもう家族と語る「ニャムバイハウイ?」の文化に溶け込むことだと思っているからだ。


  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    カンボジア・プノンペン在住6年。40歳を過ぎてから現地の大学院に潜り込み教育事情について調査。ミイラ取りがミイラになり、現在は教育支援のプロジェクトコーディネーターとして常夏の国を満喫しています。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本を拠点に東南アジアの情報を発信するマレーシア人リサーチャー。マレーシアも「ごはんは食べた?」が挨拶になっているので、親近感が湧きます。

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