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【各国料理と家事事情】フィリピン編:料理をするときの行動

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第一回:【各国料理と家事事情】カンボジア編:料理をするときの行動
第二回:【各国料理と家事事情】ベトナム編:料理をするときの行動
第三回:【各国料理と家事事情】タイ編:料理をするときの行動

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アジアで最も長く他国の支配下にあったフィリピンは、伝統的な料理だけでなく欧米やヨーロッパの料理も気軽に受け入れて楽しんでいる。中流家庭でも海外で働く家族が当たり前のようにいるため、多くの女性が社会で活躍できる理由が食文化から見えてくる。

フィリピン人の台所事情

フィリピンでは一般的に給料日が月に2回ある。貯金の概念がないのか、給料が安いのか、あるいは南国特有の「なんとかなるさ」的な意識からか、給料をもらうとすぐに使い切ってしまう傾向がある。1か月に1回の給料体系だと1週間後には家に食べるものがなくなることがあるため、毎月15日と月末が給料日になっていることが多い。給料日には家族で外出して食事やショッピングを楽しむため、道路は渋滞してどこのショッピングモールも混雑する。スーパーマーケットも給料日には買い物かごに大量の米や新鮮な肉、買い置きの缶詰や麺類など食材を買いに来る人が多く、レジが非常に混雑する。貧困層は自宅に冷蔵庫を持っていないことが多いため、このような大量の買い物をするのは中間層の特徴。

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 ショッピングモール内のスーパーマーケット

ショッピングモールには必ずスーパーがあり、給料日にはモールで外食を楽しみ、スーパーで食材をたっぷり買う。生鮮食品だけでなく、常温保存の缶詰も家庭に必ず買い置きしている。お弁当に白飯と缶詰を持ってくることもある。

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 生鮮市場

スーパーマーケットより値段は若干安め。値段より新鮮さ、食材種類の多さを求めて買いに行く。共働きが多いので毎食分の食材を市場で買うことはない。

共働き家庭での料理事情

フィリピン人の中間層は共働きが多く、そのためメイドを雇っている場合が多い。メイドというと富裕層のイメージがあるが中間層でも一家に一人か二人、家事や子守をする住み込みの使用人がいる。共働きの場合、メイドが食事を作ることが多い。料理ができないメイドに自分たちの家庭の味を教えることもあるし、小さい時から実家にいるメイドが嫁ぎ先に一緒に来ることもある。女性の進出が目覚ましいフィリピンでは、こうした家事をやってくれるメイド文化がある背景がある。男性も料理ができる人が多く、料理は母親が作るものという観念はあまりない。夕方5時や6時までオフィスで働きひどい渋滞の中を帰宅するため、帰りにスーパーで食材を購入し帰宅後に夕飯の準備をするのは大変。帰ってきたら夕飯ができていて洗い物をしてくれるメイドの存在があるからこそ、女性管理職の割合がとても多い国になっている。

マニラ首都圏は渋滞がひどいため、公共交通機関を使う人は通勤が大変。6時前など朝早くに家を出て会社に早く着くようにして、会社内の給湯室で持参したお弁当を食べてから8時からデスクに向かう人が多い。家を出るのが早くお弁当を作る時間もないため、前日に多めに作った夕飯の残りや缶詰などを持参している。給湯室には企業の福利厚生としてトースターや電子レンジ、お湯や水、インスタントコーヒーなどが置かれていることが多い。昼ごはんは持参したものの残りを食べたり、近くのレストランに行ったり、近所のお惣菜屋で買ったものを給湯室で食べることもある。

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 職場のパントリー(給湯室)

典型的なフィリピン料理

典型的なフィリピン料理は、豚肉や鶏肉を醤油とサトウキビから作るお酢で煮込んだアドボ。

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これは各家庭でそれぞれのレシピがあるため、人の家で自宅と違うアドボを食べるのはとても楽しい。また豚肉や肉、魚と野菜と煮込んだタマリンドの実を使った酸っぱいスープ、シニガンもよく食べられている。

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フィリピン料理を食べるときはスプーンを右手、フォークを左手に持って、ぱらつく白米をスプーンに入れて食べる。ナイフを使わないのは、もともと手で食事をしていたフィリピンにスペインが自分たちの使っていたカトラリを持ち込んだときに刃物をフィリピン人に持たせないようにスプーンを使わせたと言われている。スプーンの横で肉も野菜も切って混ぜて食べる一石二鳥のスプーンの使い方がフィリピンの食事スタイル。

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 街中にあるお米屋さん

価格は1キロ50ペソぐらいから。現大統領が選挙公約に1キロ20ペソにする政策を掲げて当選したほどお米はフィリピン人のエネルギー源。

一般的なキッチンとダーティーキッチン

フィリピンの家には台所が2か所あることもある。1つは一般的なキッチンにある台所で、もう1つは建物の外やメイド部屋にある「ダーティーキッチン」と呼ばれるもの。一般的なキッチンは家族が料理するために使用されるが、ダーティーキッチンは買ってきた食材を洗ったり魚の鱗を取ったり、下ごしらえをするためのキッチン。メイドもこのキッチンで自分の食事を作る。ダーティーキッチンという名前が悪いが、日本のスーパーで売られているように処理された食材ではなく、肉の骨を取ったり海老の殻を剥いたりする必要があるので、下ごしらえ用のキッチンが必要になる。油を使って揚げ物をしたり、煙が出る炭火焼きができるようになっていることもある。
調理器具でどの家庭にも必ずあるのが、米文化を支える炊飯器。そのほかフライパンやスープ鍋、トースターなど。食事を温めるために鍋を使うことがあるので電子レンジはあまり重要視しされていない。フィリピン人は揚げ物が好きなため、健康志向で収入の多い中間層ではエアフライヤーを所有している人も多い。

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 室内キッチン写真

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 一軒家にあるメイド部屋につながる下処理をするダーティーキッチン写真

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 左:一回でご飯とおかずが一緒にできる調理器具とマルチクッカー/右:調理器具売り場に並ぶ最近人気のエアフライヤー

食事はみんなとワイワイ楽しく食べる

食事は基本的にみんなで集まって食べる。自宅でも家族と一緒に、会社でもパントリーやレストランで同僚と食べる。白いご飯におかず一品、または箸休め的なものとスープが付くのが一般的。ショッピングモールには必ずフードコートがあり、安く150ペソ(約320円)程度でご飯に2種類または3種類のおかずが選べるバリワグと呼ばれるタイプの店がある。おかずを選んで注文するとシニガンスープの具が入っていないスープをつけてくれる。ご飯がパサつくのでこのスープを使ってしっとりさせて食べるのがフィリピンの食べ方。フィリピンでは肉や魚を食べ、野菜はあまり重要視されていない。野菜は貧乏な人の食べ物という考え方があるため、白いご飯と肉、魚が一般的。オフィスに持ってくるお弁当も、彩や見た目については考えず茶色いおかずとご飯だけ。最近は野菜の大切さを教えるようになってきたが、フィリピンでは野菜を美味しく育てる意識がないため野菜自体があまり美味しくないため、ソースで柔らかく煮込んだりドレッシングをたっぷりかけたりすることが多く、栄養の面では健康的な食べ方とは言えない。

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 お惣菜屋:揚げ物と汁物が多い。手前右がシャケを使ったシニガンスープ。

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 バリワグでオーダーしたフィリピン定食

フィリピン人は食べる事が大好き。彼らは、朝昼晩と「ミリエンダ」と呼ばれる午前と午後のおやつタイムを楽しみにしており、常に何かしら食べている。フィリピンには貧富の差があり毎日満足に食べることができない人もいる一方で、満足に食べられること自体がステータスにもなっている。残ったものを冷凍保存することはあまりせず、多めに作って近所の貧しい人に分け与えることがあるなど温かい心を持っている。このようなお互いを助け合う文化が根付いているため、フィリピンではどんなに貧しい人でも餓死することがない国といわれている。「クマインカナ(ご飯食べた?)」が挨拶がわりになっているフィリピンが、今後先進国のように発展したとしてもこのような思いやりの気持ちが大切にされ続けてほしい。


  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    フィリピンに気がつくと30年以上。近所の建物のガードマンにマダム(奥様)と呼ばれるはずが女性らしくない服装でいるとサー(旦那さん)と呼ばれてたこたが最近一番のショックな出来事です。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    マレーシア人リサーチャーです。15年前から来日し、今も東京を拠点とし、東南アジアをはじめ海外のインサイトについて発信しています。

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    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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