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【各国料理と家事事情】インド編:料理をするときの行動

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インドは広大で、様々な宗教が存在し、多種多彩な民族が住んでいる国である。それぞれの宗教や地域では豊かな文化や伝統が多く残っており、家庭によって様々な食文化を持つほどである。宗教の関係でベジタリアンが多いのもインドの特徴であるが、世界的に有名な「バターチキン」や「タンドリーチキン」などの豊富な肉料理があるのもインドの特徴である。
今回はデリーに住むミドルからミドルアッパー層のヒンドゥー教徒を中心にして、地域や宗教の違いで変わる「インドの食文化」について案内していく。

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 オールドデリーのチャンドニー・チョーック

奥から、世界遺産「レッドフォード」、ジャイナ教寺院、ヒンドゥー寺院。その後、スィク教寺院、モスクが列で並び、向かいには教会もある。

信仰と鮮度重視の食生活

インド人は新鮮な食材を好むため、必要な食材をその日に購入する場合がほとんどである。各地域で曜日毎のナイトバザールが行われており、地元の主婦やメイド連れの年配者、仕事帰りの男性で賑わっている。ナイトバザールでは採れたての新鮮な青果が購入できる。その他、毎朝晩に住宅街でリヤカーでも販売しているため、急な青果の買い物も便利である。

肉類は付近のマーケットにある肉屋で購入する。ベジタリアンが多いインドでは、肉と共にその他の食品を販売する店舗はモダンスーパー以外は全く見かけない。モダンスーパーでもガラスで区切って販売しているほどだ。肉類と一緒に置かれた食品は「汚れてしまった」という認識がある。

近年では、肉は食べないが卵は食べる「エッグタリアン」(卵と卵が含まれる食品は食べる)が多くなったため卵は肉屋で一緒に売られている店舗が多い。

インド人は宗教的な問題で、牛肉と豚肉は食べず、山羊肉と鶏肉、魚、卵を食べている。鶏は生きているものをその場で選び、処理をしてもらう人が多い。仕事帰りの男性が購入しており女性客は少ない。

主婦のスニタさん(42歳・女性)は、近所で毎週月曜日に行われるナイトバザールで1週間分の買い物をする。ジャガイモや玉ねぎ、トマトなどの日持ちがする野菜とよく利用する野菜の他、季節の新鮮な野菜や果物を購入している。夫が帰宅したら一緒に買い物に行っている。その他足りない食材は、住宅の近くでリヤカーで販売している野菜売りから購入している。肉類は、月・火・木曜日はヒンドゥー教の神様に因んで食べないという。

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 ナイトバザールの様子:地面やリアカーに青果を並べて販売

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 モダンスーパー:ガラスで区切られた肉売り場セクション

メイドのサポートがインド主婦を支える

作り置きの料理を嫌うため毎回調理する家庭が多い。特に主食の、北インドのパンである「チャパティ」は毎回その場で調理して焼き立てを食べる。近年では共稼ぎの夫婦も増えているため、週末にグレイビー(カレーのソース部分)の素になるマサラ(スパイスと玉ねぎ、トマトを炒めたペースト)を作っておいて冷凍しておく場合もある。

その他インドではメイド(使用人)を雇う家庭も多く、料理専用のメイドが作る場合も多い。各家庭の理由によって、朝に1回や全食を作ってもらう共稼ぎの夫婦もいれば、その都度に作ってもらう住み込みメイドもいる。

スニタさんは3食調理しているが朝はチャイと軽い朝食である。インドの学校は7時半から始まり2時頃終わる。そのため子どもの朝食用の弁当を作っており、夫婦はそれらを朝食としている。夫のためにチャパティとドライ野菜カレーの弁当を作り自分と子どもの昼食にする。メイドは皿洗いと掃除で雇っており、料理は自分でしている。

気候と風土に合わせた食文化

北インドの家庭料理といえば、まず「ダール」である。豆をターメリックと塩で煮て、香りを出すためにギー(インドのバター)やマスタードオイルにクミンシードを入れ、テンパリング(熱した油にスパイスを入れて香りを立たせる調理法)したカレー汁。
「ブジヤ」は、ジャガイモなどの野菜をクミンやコリアンダー、ターメリック、レッドチリパウダーと共に炒めたドライカレー。他にはサラダや「アチャール(漬物)」などが添えられ、主食は「チャパティ(全粒粉のパン)」と米である。また「サブジ」と呼ばれるグレイビーの野菜カレーとチャパティの場合もある。サブジは玉ねぎとトマトを基本のスパイスと共にしっかり炒めてペーストにしたものに、好みの野菜と水を入れて煮たものである。

米を食べる家庭もあるが、北インドでは米は「体を冷やす」「太る」「消化に悪い」などと信じられているため夜は食べない家庭が多い。また調理方法は日本のように煮汁を吸わせるタイプではなく、多めのお湯で湯がいて水を捨てる。まるで麺を茹でているかのようである。

スニタさんの家庭ではチャパティと共に米も食べている。先ずはチャパティとブジヤを食べてから、ダールやサブジのような汁気のあるカレーと共に米を食べる。ちなみにインド人はチャパティと米を同時に食べることはない。以前、理由を聞いたことがあるが「そういうものだから」「消化のためだろう」と言っており、特に理由はわからないようである。自家製のアチャールや夏場はラエタ(ヨーグルトサラダ)も欠かさない。

季節の温度差が激しいため冬は体を温める食材やスパイスを利用し、逆に夏は熱を取り、消化を助ける食材やスパイスを自然に取り入れながら調理している。

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 豊富な豆類とアチャール

伝統の区切られた台所が今でも主流

北インドではチャパティを作るためにガスコンロが必須である。チャパティは最後に直火で炙って膨らませるためである。ガスが高額であるためIHコンロもよく見かけるが、簡単な調理やチャイ作り、牛乳を温める程度にしか利用されていない。主な料理にはガスコンロを利用している。また油料理が多いため、キッチンには大きな換気扇が欠かせない。キッチンの素材にはセラミック石やタイルを利用しており、スパイスの飛び散り掃除も楽である。水道からの水が飲めないため浄水器が備えられている。基本的に台所は区切られており、家庭によっては扉を付けて隠す人もいる。昔の考えでは人の目に触れると腐りやすくなるという言い伝えがあったり、生理中の女性は台所に入ることを許されなかったという伝統から来ているのかもしれない。近年ではオープンキッチンになったモダンなデザインも普及し始めたが、まだまだ富裕層などの一部でしかない。

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 ガスコンロと換気扇

インドの文化にぴったり、丈夫で清潔なステンレス製

北インドの家庭では、豆や米を煮るために圧力鍋(クッカー)、ドライカレーをカリカリに炒めるために鉄鍋(カライ)、牛乳を加熱するために深鍋(パティラ)、チャパティを作るために麺棒(ベラン)と伸ばし台(チャクラ)とトング(チムター)と平べったいフライパン(ターワー)のセット、チャイを作るためにソースパンが必要とされる。また、お玉(カルチュール)も、日本のお玉の役割に加え、テンパリングにも利用するため必須である。食器に関しては、ガラスや陶器、プラスチックも使われているが、ステンレス製が最も多い。

ヒンドゥー教では、年に数回の祭りがあり、その際の供物を作るためには特別な調理器具や食器が用意される。これは、普段使っているスパイスや食材、肉類が「汚れたもの」とされているため、それらを利用した調理器具や食器は使うことができないためである。また、肉を作ると台所や家全体が汚れてしまうという考えから、自宅では肉類を作らない家庭が多く、特に年配者の家庭では徹底している。歳を取ると、神の元に行く日が近いということで、肉類を控える人もいる。

スニタさんの家庭はベジタリアンではないが、肉類は作らない。食べる際には外食か宅配を利用しており、スニタさん自身が信心深いため、月曜日、火曜日、木曜日は肉類を食べず、祭日の間も同様に食べない。基本的に肉を食べなくても大丈夫とのことである。

チャパティに込められた母の愛

基本的に、北インドでは豆カレーや野菜カレーのような汁カレー、野菜のドライカレー、サラダやラエタ、アチャールなどと共にチャパティや米を食べるため一汁三菜とも言える。右手だけで上手に食べ、スプーンの役割となる。よく「左手は不浄で使えない」と言われるが、チャパティをちぎったり左手を添えたりしながら肉を食べる人もいる。最近ではスプーンとフォークを使う人が増えている。「汚らしい」「マナー違反」と感じる人やスパイスで爪の色が染まることを嫌う女性も多いため、スプーンとフォークを使う人が増えたと言われている。

食事は基本的に家族一緒に食べるが、チャパティは1枚1枚出来立てを食べるため母は最後となってしまう。ノンベジタリアンの中には肉料理を毎日食べる場合もあるが、とても少なく曜日や祭日によって食べない人も多い。

都市部では多くの家庭が核家族なのでダイニングテーブルで一緒に食べることが多いが、大家族では厳しい規律がある家庭もある。男性と女性は別々、年配者や男性と息子から食べ始め女性は最後に食べるなど、家庭によってルールがある。

スニタさん宅ではダイニングテーブルを利用しており、夜には米を食べるため豆カレーかグレビーの野菜カレーは欠かせない。チャパティも1枚1枚作ってから熱々をサーブしている。スニタさんと夫は手で食べる方が「食べた感」があるため手で食べているが、娘と息子はスプーンを使っている。爪が汚れたり上手に食べられないという理由だそうだ。

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 ダール、オクラのブジヤとジャガイモのアチャール和え、ヨーグルトとチャパティ:チャパティを食べ終わったら米も食べる。

インド人の日常は宗教と共に

インドの食文化は「宗教」と感じられる。ヒンドゥー教徒以外でも同じようにいえる。イスラム教徒は肉が食生活のメインであってもハラールでなければ食べないし、ジャイナ教徒の場合は肉はもちろんのことニンニクやジャガイモなどの土の下の野菜も食べない人がいる。虫を殺す恐れがあるためだ。

また地域によっても食文化は異なる。海沿いの地域では魚はベジと呼ばれ、祭壇にお供えすることもある。日本人が知っているナンは外食でしか食べないし、南インドではナンやチャパティはなく主食が米のみの地域もある。
インドよりも東南アジアや中国の食文化の影響を受けた地域も多く、彼らは豚肉を好む。そういった様々な宗教や民族が1つの国に住むため「インド料理」を一つにまとめるのは非常に難しい。

宗教的な規則が多いインド人の食生活は、信心深い人ほど保守的に感じられる。多くのインド人は家庭での料理を安心して食べており「何が入っているかわからない」「どんな調理法で作っているかわからない」といった外食は好まれていないようである。一方で、デリーの若者や富裕層は多国籍料理に興味を持ち、様々な外食文化が取り入れられ始めた。今では生魚や牛肉(水牛)を食べる人も増えている。家庭内でも宗教を重視しない家族や核家族、若い共稼ぎの夫婦では、ややこしい規則にとらわれない人も増えている。加工食品や食事の宅配サービスも取り入れ自由な食生活が始まりつつある。
今後はますますグローバル化が進むと予想されるため、インド人の食に対する思想も変わってくることだろう。


  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    インドのニューデリーで、インド人夫と娘2人とともに在住20年目となる。食や宗教、歴史などの文化や伝統に興味があり、それらの魅力を日本人に伝えている。豊かな文化を持つデリーに魅了され、現在でも発見と驚きの日々を過ごす。

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    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    マレーシア人リサーチャーです。15年前から来日し、今も東京を拠点とし、東南アジアをはじめ海外のインサイトについて発信しています。

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    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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