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【各国料理と家事事情】中国・上海編:料理をするときの行動

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第一回:【各国料理と家事事情】カンボジア編:料理をするときの行動
第二回:【各国料理と家事事情】ベトナム編:料理をするときの行動
第三回:【各国料理と家事事情】タイ編:料理をするときの行動
第四回:【各国料理と家事事情】フィリピン編:料理をするときの行動
第五回:【各国料理と家事事情】インド編:料理をするときの行動
第六回:【各国料理と家事事情】インドネシア編:料理をするときの行動

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上海の家庭料理事情は中国のなかでもかなり特殊だと言える。現地の知人宅に呼ばれると、出迎えてくれるのは奥さんやお母さん。「さあ座って」と言われておしゃべりを始めたあたりで、キッチンからエプロン姿の旦那さんやお父さんが手を拭きながら出てくる。上海の家庭料理は、多くの上海人にとっておふくろではなく「親父の味」なのだ。

EC、市場、スーパーを併用

上海では2018年頃から食材のデリバリーが定着しており、代表的なものは『盒馬生鮮』と『叮咚买菜』である。どちらも最短30分で食材を配達してくれる。アプリを上手に使いこなす中高年層も多いため、ほぼ全世代に利用されている。また、生活圏内には生鮮市場や個人の八百屋、スーパーなどがあり、これらを半々ずつ利用している人が多いようだ。
李さん(43歳・男性)は会社員で、妻と中学生の娘と一緒に暮らしている。共働きだが、自身の方が時間に余裕があるため料理などの家事を担当している。妻は料理が苦手という理由もある。外食も多いため料理は週に2〜3回程度。食材はECか近所のスーパーで購入し、生鮮食品は調理当日に購入するようにしている。その理由は「新鮮さ」にこだわるからだという。

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 (写真1:盒馬生鮮の画面)魚介類は生きたまま配達してくれる。

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 (写真2:食材市場)野菜、魚介、肉、卵、乾物などすべて量り売りで購入できる。

ライフスタイルによって人それぞれ

上海人が料理をする頻度に関するデータは見つからなかった。李さん曰く、「料理をする頻度は人それぞれなのではないか。仕事スタイルにもよるし、調べようがないでしょう」とのこと。
会社員の陳さん(41歳・女性)は上海人だが、地方出身の夫の両親と暮らしているため料理はお姑さんが毎日作ってくれるという。しかし思春期の娘が姑のつくった料理を食べないこともあり、洋食系のデリバリーを頼むこともあるらしい。
張さん(男性・28歳)は、幼稚園生の息子を預けがてら実家に立ち寄り、妻とともに父親が作った料理を食べることが多いそうだ。そのほかは夫婦で外食することがほとんどだという。「最近は小さい子ども歓迎のレストランが多いから、気兼ねなく子どもを連れて行けるので」と話す。
こんな感じで、身近な数人に食事の事情を聞いてみても見事にバラバラであるが、料理をする際はあまりつくり置きはせず、その日に買った野菜や魚を調理するのが鉄則のようである。

淮揚料理がルーツの庶民的なメニュー

最近は中国各地の調理法を取り入れたりパスタやステーキなどの洋食を作る人も増えているが、基本的には家庭では上海料理が食べられている。上海料理とは中国4大料理の一つ・淮揚料理に影響を受けて発展したもの。上海は都市としての歴史が浅いため、広東料理や四川料理のような歴史はなく、庶民目線でアレンジしてきたことが窺われる料理たちだ。

典型的なメニューは紅焼肉(豚バラ肉の煮込み)、糖酢排骨(豚スペアリブの甘酢炒め)、油燜茄子(ナスの甘辛炒め)、炒時蔬(季節野菜の炒め物)、白灼蝦(エビのボイル)、清蒸鲈魚(淡水スズキの醤油蒸し)などである。
これに冬瓜咸肉湯(冬瓜と塩漬け豚のスープ)、番茄蛋湯(トマトと卵のスープ)などのスープが添えられる。秋から冬には上海蟹が食卓を飾り、冬は家族で火鍋を楽しむこともある。

上海は海に面しているが、江蘇省など内陸の食文化の影響を受けているため、豚肉、鶏肉、淡水の魚介、野菜類がよく使われる。主食は米だが、上海の家庭ではなるべくおかずでお腹を満たし、足りなければご飯を食べるというスタイルである。家庭でも食堂でも白ご飯は言わないと出てこないことが多い。また朝や昼など簡単に済ませたいときは、水餃子やワンタン、麺が主食になる。

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 (写真3、4:上海人の知人宅でのメニュー/同じ家庭の別日の写真です)

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 (写真5:上海蟹)一般的に上海人は、上海蟹を家で食べる(レストランでは接待以外ではあまり食べない)。上海では中間層でもよく食べる。

基本は甘辛。調味料はシンプル

上海料理は基本的に甘辛い味付けが特徴的。よく使用される調味料は、生抽(醤油)、老抽(たまり醤油)、黄酒(老酒をベースにした料理酒)、鶏精(鶏ガラスープの素)、黒酢、そして砂糖が欠かせない。これらの6つの調味料と、ニンニク、ショウガ、青ネギさえあれば、ほとんどの家庭料理を調理することができる。以前友人宅で李さんが料理をしてくれた際は、「とりあえず酢と黄酒は買っていく。後は何とかなるから」と言って、あり合わせのシンプルな調味料で手際よく料理をつくってくれたことがあった。ありあわせのシンプルな調味料で深い味わいの料理が作られるのも、上海料理の特徴の一つと言える。一般的に中華料理で使われそうなスパイス類(八角、唐辛子など)は、上海の家庭料理ではあまり使用されない。また健康意識の高まりとともに、砂糖を控えて調理する家庭も増えているようだ。

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 (写真6:上海料理の代表格・紅焼肉。こってり甘口)

一般家庭の台所

上海の中間層の多くはマンションやアパートに住んでいる。日本との違いは、入り口に近いところにキッチンがあること。カウンターキッチンがほとんどだが、一般的に購入者が間取りや内装を決めるため同じマンションでもキッチンの形状はバラバラである。加熱はガス(ボンベ式ではない)で、日本よりも火力が強い。
調理器具は中華鍋がメイン。炒め物、揚げ物、煮込み、麺を茹でるなど、さまざまな用途で用いられている。土鍋(煮込み、スープなど)、蒸し器(饅頭類、上海蟹などを蒸す)や、火鍋用の鍋とコンロと鍋も欠かせない。包丁は四角い中華包丁がよく使われている。洋食をつくる家庭では、フライパンや片手鍋なども使用する。電子レンジの利用頻度も多く(買ってきた惣菜やあまった料理を温めて食べる)、DIYとして料理を楽しんでいる人はオーブン、ホームベーカリーなどを所有している。

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 写真7:郊外に住む知人の家。やや広いマンションのキッチン。カウンターキッチンの真ん中に、食卓にもなる作業台がある。

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 写真8 火鍋専用のコンロと鍋は一家に一台はある。

夕食はそれぞれが楽しむ場

上海人の家庭を訪れると、食事の場は団欒の場であるがそれぞれが自分勝手に食べている印象がある。子どもはお腹いっぱいになるとどこかへ行ってしまい、大人たちはそれを注意しない。おじいちゃんは部屋で何か用事を終わらせてから合流して食べ始めたりする(みんなが席に着くのを待たずに食べ始める)。お父さんはまだキッチンで何かを作っており、日本人の感覚で待っていると「なんでまだ食べ始めないの? 冷めるでしょ」と怒られることがある。料理は基本的に大皿で出され各自お椀にとって食べる。ビールなどのお酒とともに食べることもあり、終盤には白ごはんが出される。片付けはお父さんの役目で、日本人の感覚で「せめて流しに運ぶだけでも」と手伝おうとすると「座ってて!」と強くたしなめられることがある。お母さんやおばあちゃんはそのままテーブルに座っておしゃべりしたり、テレビを見たりしているのが一般的だ。

最初に書いたように、上海人家庭の食事の場は日本人にとってはかなり特殊だ。だが仕事仲間や友人宅での食事は、毎回心底リラックスできる。気をつかう必要がある点がまったくないからかもしれない。
でも料理を担当するお父さんたちは、子どもたちが好きなメニューや食材を熟知している。子どもたちはお母さんよりもお父さんになついていることがある。私がお邪魔すると、「今年初の上海蟹、買っておいたよ」といった言葉で迎えてくれる。すべてがバラバラであるが、上海人にとって家庭料理とは食べる人の気持ちを最優先することなのかもしれない。


  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    中国・上海在住約20年。移り変わる上海の生活者トレンドを長年ウォッチしています。
    上海には、気軽に家でのご飯に呼んでくれる人がたくさんいます。
    最近の定番の手土産は冷えた日本酒かナチュラルワイン。飲まない人には、皮を剥かなくていいフルーツ(いちご、ぶどうなど)が喜ばれます。

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    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    マレーシア人リサーチャーです。15年前から来日し、今も東京を拠点とし、東南アジアをはじめ海外のインサイトについて発信しています。

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