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<駐在員コラム>【インド】インドのペット事情

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2023年3月にインテージは、インドを含む計4か国で犬・猫オーナーを対象とした実態・意識調査を実施した*。同コラムではその結果を参考にしつつ、現在インドで犬を飼っている筆者が実体験を交えながら、インドのペット事情やトレンドをより掘り下げて紹介する。

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1.数字で見るインドのペット事情 ~実態・意識調査の結果から~

インドの回答者の約7割が何かしらのペットを飼育、メジャーなペットは犬と猫

インテージの調査では、インドの全回答者(n=625)の約7割が何かしらのペットを飼っていると回答した。ペット別では犬(44.8%)が最も多く、次いで猫(33.9%)であった。

飼育経験、犬・猫オーナーの約6割が初めてと回答

飼育経験では、犬オーナー(n=233)の59.2%、猫オーナー(n=186)の62.4%が「初めて」と回答した。

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年長のペットの年齢、大半が3歳以下と回答

年長のペットの年齢としては、犬オーナーでは2歳(27.9%)、猫オーナーでは1歳(24.2%)という回答が多かった。また3歳以下のペットを飼っている人の割合は、犬オーナーで75.6%、猫オーナーで74.2%であった。インドのペットオーナーがペットを飼う前に期待していたことの上位に、「笑顔になれる(43.4%)」、「寂しさを紛らわしてくれる(40.4%)」、「癒しを与えてくれる(39.8%)」、「元気を与えてくれる(38.0%)」、「遊び相手になってくれる(36.1%)」が挙がっていることから、コロナ禍に癒しを求めて飼い始めた人も多いと推測できる。

各種サービスの利用状況

いずれのペット関連サービスも「利用あり」と回答した犬・猫オーナーが過半数以上いた。またインドの犬・猫オーナーの動物病院・クリニックの利用率は90%近くであり、ペットの健康に関する関心が高いと言える。

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ペットへの1か月の支出額(平均)

猫オーナーは、犬オーナーよりも、毎月の支出額が高い傾向がある。また犬オーナー、猫オーナーともにペットフードへの支出が最も多く、次いでペットグッズへの支出が多かった。
キャットフードには魚が使われていることが多く、インドで一般的に広く消費されている鶏肉を主に使用しているドッグフードよりも、値段が高い傾向がある。また犬用のおやつはインド産のものがたくさんあるが、猫用のおやつは主に輸入されているため、猫オーナーのペットフードに対する支出が犬オーナーに比べて高い傾向にあると推測される。

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犬・猫オーナーの世帯月収

世帯月収では、10万ルピー(約17万円)以上と回答した犬・猫オーナーが34%で最も多かった。このことから、比較的金銭的に余裕のあるペットオーナーが多いと推測される。

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2.トピック別にディープダイブ

インドのペットケア市場は2022年に、4億9,000万ドル*(日本円換算で約700億円)に到達したと推定されており、内訳はペットフードが3億1,000万ドル、ペット医薬品が9,000万ドル、ペットアクセサリーが6,500万ドル、残りがその他のペットケア用品である。

2022年にペット関連総市場が1兆7,500万円*を超え、ペットケア市場だけでも9,000億円を超えたと推定される日本と比べると、インドの市場規模はまだまだ小さいが、年々増加する中所得者層や強い経済成長を鑑みると、ポテンシャルは高いと言える。実際、インドのペットケア市場は近年2桁成長を記録しており、2025年までに8億ドルに到達すると予想されている。

本セクションでは、トピック別にインドのペット周りの事情について掘り下げたい。

 (出典1:https://petkeen.com/pet-industry-statistics-india/
 (出典2:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3053 )

(1)インドの動物病院・クリニック

インドの動物病院・クリニックは、大きく3つのカテゴリー(1.個人クリニック、2.中型病院、3.大型病院)に分けることができる。
<個人クリニック>
獣医が個人で経営している小規模のクリニック。診療・手術スペースは基本的に1頭分しかない。また診療時間は午前中(10:00~14:00)と夕方以降(17:00~20:00)の2部制であることが多く、昼間と深夜は診療を行わない。町医者のような位置づけ。診察料は300~500ルピー(約510~850円)。
<中型病院>
診察室と手術室が別に設けられている。診察室では1度に複数頭の動物に対応可能。常駐している獣医(基本的に1~2名)と複数の動物看護士で構成される。朝から夜(9時)まで開いている。緊急時は深夜も診療を行う。診察料は700ルピー(約1,190円)前後。
<大型病院>
診察室と手術室のほか、フィジオセラピー用の施設やICUなどもある。複数の獣医(3人以上)が常駐し、動物看護士の数も多い。またペットホテルやスパ、ペット用品ストアを併設している。24時間診療で救急車も所有している。診察料は1000ルピー(約1,700円)前後。深夜の場合は、深夜料金が発生する。

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<日系の動物病院>
日系の動物病院もインドに進出している。DCC Animal Hospital(https://dccpets.in/)は、シンガポールに本拠を置く日系企業A’alda Pte. Ltdの印完全子会社が運営する動物病院。デリーに2店舗、グルガオンに1店舗展開している。グルガオンの店舗には、ペットホテルも併設されている。独自の携帯アプリを持ち、遠隔診療などのサービスも提供している。従来の動物病院とは一線を画す動物病院であり、「プレミアム」という位置づけである。インスタグラムなどのSNSを使ったマーケティングも盛んに行っている。

(2)急増するペットショップ

近年インドではペットショップの数が急増している。デリー在住の筆者の徒歩圏内(500m以内)にもペットショップが8店舗ある。以前までは右の写真のような、ローカルな雰囲気のペットショップが一般的であったが、近年はHeads up for tailsのような、オシャレな雰囲気のペットショップも増えている。これらのペットショップは、トリミングスペースを併設していることも多く、ペットと一緒に来店することができる。

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ペットショップ「Heads up for tails」は、自社ブランド製品を含めたペット関連商品を広く取り扱っており、インドの代表的なペット関連スタートアップでもある。2008年創業の同社は、2021年8月にシリーズAラウンドで3,700万ドルの調達に成功。現在インド全土で82店舗を展開している。

インドのペットショップと日本のペットショップの大きな違いは、店頭で生体(犬・猫)が売られていない点である。基本的に犬や猫はブリーダーから直接購入するか、動物愛護団体や人から譲り受けるのがインドでは一般的である。

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(3)インドで人気の犬種・猫種

(4)インドでメジャーなペットフードブランド

インドでは米国のマース社の各種ドックフードブランド、PedigreeやChappi、Royal Caninのほか、インド発のドックフードブランドDrools(https://drools.com/)がメジャーである。Droolsは有名ボリウッドスターを広告やパッケージに起用し、SNSを中心としたマーケティングを行っている。キャットフードでは国際的なブランドであるWhiskasやShebaのほか、インドのPurepet(Droolsと同じグループ傘下)がメジャーである。

Drools : https://drools.com/

(5)ペットにもナチュラル志向

インドには「ケミカル・添加物」を嫌い、「ナチュラル・無添加」なものを好む人が多いが、これはペットオーナーにも共通している。

<無添加おやつ>
2018年創業のCanine cravingsは、ペット用の無添加おやつ(動物ベース)を製造・販売しているバンガロールのスタートアップ。品揃えが豊富で、多くのペットオーナーに愛されている。筆者も愛用しており、バッファローボーンは我が愛犬のお気に入りである。

Canine cravings : https://caninecraving.com/

<ベジタリアンの無添加おやつ>
ベジタリアンのペットオーナーは、自身のペットにも植物または乳製品ベースの無添加おやつを与えたいと考える人も多い。そういったペットオーナーの要望に応えているのが2015年創業のスタートアップDogsee chew。同社は乳製品や植物ベースの無添加おやつを製造・販売しており、骨の代用品である噛むチーズは同社の代表的な商品だ。同社は2021年にプレシリーズAラウンドで700万ドルを調達した。

Dogsee chew:https://www.dogseechew.com/

<ペット専用の栄養コンサルタント>
ドックフードではなく、ペットに手作りごはんをあげている人も多く、オンラインではペット専門の栄養コンサルタントが、献立表の作成やビデオ相談などのサービスを提供している。これらのページは、インスタグラムを主に発信の場としており、ペットオーナーに広く利用されている。

GEORGINA'S KITCHEN:https://georginaskitchen.com/
Balanced Nutrition for Dogs:https://eternalcaninenutrition.com/

<ペット用のナチュラル志向のヘアケア・バス用品>
ペット用のヘアケア・バス用品もナチュラルなものを好んで使用するペットオーナーも多くいる。バンガロールに拠点を置くBack in the dayというブランドは、アユールヴェーダに基づいた完全ナチュラルな製品を提供している。同ブランドの「Scooby dub dub」というパウダーは、5つのハーブを配合したノミ・ダニ対策用のパウダーであり、ココナッツオイルと混ぜて使用する。このパウダーは、ペットオーナーや動物愛護団体の間で口コミで広がっている。筆者も同製品の愛用者である。

Back in the day:https://backintheday.in/ 

(6)ペットオーナーの情報交換の場所:インスタグラム、アプリなど

インドのペットオーナーの情報交換の場所としては、インスタグラムが主流である。ペットのインスタグラムアカウントを運営しているペットオーナーも多い。
また犬オーナー用の情報共有アプリ「Sploot」は、3万人以上のアクティブユーザーがおり、犬に関する悩みを他の犬オーナー仲間に気軽に相談できる。また同アプリは犬に関する様々な情報を提供しているほか、ドックウォーカーの派遣や、専門家によるオンラインクラス、フレッシュドッグフードの提供、合同ウォークの実施などのサービスを提供している。Splootは2022年に、シードラウンドで50万ドルを調達した。

(7)インドで良く利用されているサービス(ドッグウォーカー)

日本では見かけることが少ないドッグウォーカーであるが、インドでは極めて一般的である。雇用形態は、会社を通じて派遣されるドッグウォーカーと、個人契約のドッグウォーカーの2種類で、後者がより一般的である。また自宅で雇っているスタッフ(メイドやドライバー)に、犬の散歩を任せる家も多い。またインドは野良犬が多く、アグレッシブな野良犬のいるエリアでは、犬の散歩が困難であることが多々ある。こういった背景から、特別に訓練されたドックウォーカーへの需要も伸びている。

(8)インドで良く利用されているサービス(ペット預かり所、ペットホテル)

インドではペット預かりサービスも一般的である。預かってくれるペットの種類としては、犬、猫、うさぎなど。筆者がよく利用している個人経営のペット預かり所は、アパートの一室にあり基本的に室内に放し飼いである。料金は食事付きで1泊1000ルピー(約1,700円)ほど。3回の散歩付きで、ビデオアップデートが1日に数回送られてくる。

また筆者が利用する個人経営のペット預かり所のほか、AC完備の個室を備えているリゾートタイプのペットホテルもある。料金は1泊2,000ルピー(約3,400円)から。ただこのようなペットホテルは郊外にあることが多く、利便性の悪さが難点である。

(9)インドで良く利用されているサービス(犬のしつけに関するオンラインクラス)

初心者が中心のインドのペットオーナーの間では、犬のしつけに悩む人も多い。そんな人々の間で利用が広まっているのが、専門のドッグトレーナーによるオンラインクラス(個人またはグループ)だ。筆者も愛犬を飼い始めた際、1対1のオンラインクラス(1回1時間)を受講した。料金は全6回で6000ルピー(約10,200円)ほど。トレーナーは、悩みに沿ってアジェンダをカスタマイズしてくれた。
また、最終手段として、全寮制の犬の学校もある。料金は8週間で95,000ルピー(約161,500円)ほど。犬のしつけに時間の取れない飼い主や、犬のしつけが上手くいかずに悩んでいる飼い主に利用されている。デリーにあるk9 schoolは、インドにおける犬のトレーニングの先駆者であり警察犬の訓練なども担当している有名なトレーナーが率いている。

k9 school:https://www.k9school.in/

(10)ペットテック系のスタートアップ

日本と比べてそう数は多くないが、インドにもペットテック系のスタートアップが存在する。インドではオンライン診療は極めて一般的である。

(11)野良犬と動物愛護

インドに訪問したことのある人であればご存じであると思うが、インドの路上には野良犬がたくさんいる。Stray Animal Foundation of Indiaによると、インドには6,200万頭の野良犬と910万頭の野良猫がいると推定されている。基本的にこれらの野良犬や野良猫は、人々と共存しており、家の残飯などで食い繋いできた。しかし近年、この様相が変わりつつある。
筆者の住むデリーでは、複数の動物愛護団体が、その活動エリアに住む野良犬に組織的に食事を提供している。朝や夕方になると、食事を野良犬に提供しているスタッフに遭遇することも多々ある。これらの動物愛護団体は、インスタグラムなどのSNSを通じて、1口500ルピー(約850円)で野良犬1頭の1か月の食事をスポンサーできるミールスポンサーの形や、任意の金額の形で募金を募っている。
これらの動物愛護団体は、食事の提供のほか、野良犬の健康状態を日々チェックし、必要な場合にはメディカルケアを提供している。また去勢手術やワクチン接種などにも取り組んでいる。

3.リアルな体験を共有

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ここからは筆者のリアルな体験を共有したい。私の愛犬は、野良犬の母親を持つ雑種犬であり、動物愛護団体から2021年に譲り受けた。譲り受けるまでの過程は、インスタグラムで里親募集の犬を検索し、動物愛護団体にコンタクト。書類審査や遠隔でのハウスチェックなどのプロセスを経て、申し込みから約2か月後に我が家に迎え入れた。

<情報源>
基本的にインスタグラムを利用。複数の動物愛護団体や有名なドッグスタグラマーをフォローしている。それらのアカウントがタグ付けしたブランドやオススメする製品を利用することが多い。


<食費>
我が家では、肉をベースとした手作りごはんをあげている。またバッファローの骨や無添加おやつ、ビスケットなどもあげている。このため毎月10,000ルピー(約17,000円)ほどを食費に費やしている。


<医療費>
我が愛犬(中型犬:体重30kg)のかかりつけの病院は、前出の病院の区分でいうと、中型病院である。実際にかかった費用を下記に示したい。


①去勢手術: 合計7,500ルピー(約12,750円)
インドでも、将来の病気を防ぐ観点から、去勢手術が推奨されている。犬の引き取り条件にも去勢手術が含まれており、我が愛犬も去勢手術を受けた。その際の費用は、手術前の血液検査に1,500ルピー(約2,550円)、去勢手術に6,000ルピー(約10,200円)であった。ちなみに溶ける糸のタイプであり、抜糸は必要なかった。


②ワクチン接種:3,000ルピー(約5,100円)
日本の犬と同様、年に1回、狂犬病とDHPPi(5種)ワクチンを接種している。費用は3,000ルピーほど。


③内部寄生虫駆除のための内服薬の投与:500ルピー(約850円)
内部寄生虫駆除のための内服薬を2~3か月に1回、定期的に投与している。というのもインドには野良犬が多いため、散歩中の感染リスクが高いためだ。内服薬の価格は1錠500ルピーほど。


④一般診察: 700ルピー(約1,190円)
基本的に診察のみの場合は一律700ルピー(約1,190円)を払っている。また小さな懸念や心配事は、WhatsAppを使いドクターに直接相談(無料)することもある。


<ペット用品>
ペット用品は主に、Heads up for tailsやAmazonなどで買うことが多い。お気に入りのブランドのひとつが、ペット用アクセサリーを広く扱う「Forfurs」。2018年創業で、カンプールに拠点を置く同社は、小規模ロット生産ながらも着実に売り上げをあげている。同社のフラグシップ製品であるマーチンゲールカラーは、我が愛犬も愛用中だ。


<困難なこと>
日本とは異なり野良犬がたくさんいるため、散歩が大変困難である。これまでに2-3回、愛犬が野良犬に噛まれる事案が発生し、そのたびに通院する羽目になった。またインドには「犬=危険」と考える人が少なくないため、愛犬と公園で散歩していた際に、理不尽なことを言われたことが何度もある。そのため居住するエリアの選定は犬を中心に慎重に行っている。


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    白鳥 有美

    インドの首都ニューデリー在住の日本人リサーチャー。インド人メンバーとともに日々市場調査業務に邁進中。

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    「出典: インテージ 調査レポート「(レポートタイトル)」(●年●月●日発行)」
    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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