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【中国】中国消費者における、「国産」へのイメージ変化考察

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日本人に「国産」というワードを聞くと、「安心安全」「高品質」「合理的」といったポジティブなイメージが連想されるだろう。同じく「国産」を中国人に聞くと、「品質が悪い」「不安」「ダサい」といったネガティブなイメージが多いのではないか(特に30代以上の方)。だが、ここ十数年、中国メーカーが品質向上を図り、ライブコマースを活用した商品・マーケティング戦略によって着実に力を付けてきている。特に若年層においては、国産/輸入/合弁のブランド境界線が曖昧となり、価値さえを感じていれば購買行動に繋がる。本稿では、中国消費者にとっての「国産」イメージの変化を考察する。

輸入=高品質の時代

筆者が子供時代を過ごした90年代の上海は、改革開放政策の脚光を浴び、中国随一の経済中心として成長した。元々移民都市でもあり、「海納百川」(多種多様な文化を受けれて、共存共栄を実現するという意味の4字熟語)をスローガンに、海外ブランドの招聘に積極的に乗り出した。その中、高度経済成長期を遂げて間もない日本メーカーも地の利を生かし、多くの日本ブランドが上海を筆頭に中国に進出してきた。パナソニック/ソニー/トヨタ/ホンダ/日産/オリンパス等、錚々たる日本製造業巨人たちの名は、中国の一般家庭にも認知され、ソニーのカラーテレビを1台持っていれば、同級生たちに羨まれる時代であった。当時は、製造業において中国と諸外国の間であまりにも差が大きく、外国産(もしくは日本産)といえば、高品質の代名詞であり、富裕層の象徴であった。
30代以上の中国人にとっては、その記憶があまりにも定着しているため、以前ほどではないとはいえ、輸入=高品質のイメージはまだ頭の隅に残っており、完全に払拭されていないであろう。

中国メーカーの崛起

が、時代は変わりつつある、特に中国においては。「日進月歩」というワードはまさにそれを指している。90年代に入ってから、安定して10%前後のGDP成長率を維持し、ついに2010年に、日本が42年も座っていた2位の座を奪った。そして国家戦略として打ち出された《中国製造2025》では、製造大国だけではなく、製造強国の仲間入りするという明確な目標を掲げた。「Made in China」は安かろう悪かろうのイメージを払拭すべく、海外からデザイナーを受け入れて商品の中身だけではなく、外見ともに一新している。中国では「国貨潮」というトレンドがあり、特に化粧品などの一般消費財ではブームになっている。「愛国」という政治要素は否めないが、スペックが同等レベルの前提で、「中国風なデザイン」が好まれるという解釈もある。漢字や龍、鳳凰、鯉、牡丹、チャイナドレス、扇子、ランタンといった伝統的な中華要素を盛り込んだデザインが若者を中心に人気を博している。

例①:花西子(コスメ)

最近、注目の中国コスメ「花西子(フローラシス)」。中国コスメと聞くと、成分や中身の安全性が気になるが、花西子は自然由来の成分にこだわったコスメが多く、肌負担が少なく安心して使用できるのが売り。
それに加え、中国古典要素をふんだんに取り入れて芸術品のような美しいビジュアルが人気の鍵となる。

中国メディアの報道(※1)によると、同ブランドの売上高は、19年の約20億元(約400億円)から20年の約30億元(約600億円)へと成長し、21年には54億元(約1080億円)を突破した。

今年3月、海外進出の第一歩として日本向けにオンライン販売を開始した。消費者の口コミ(※2)を見ると、「美しすぎる」「上品な艶感」等のワードが挙がり、狙い通りのイメージが伝わっていると感じる。

 (※1)出典:36Kr Japan 『人気の中国コスメ「花西子」が日本展開を強化、東京「@cosme STORE」に近く出店へ』 (2023/2/24)

  (※2)消費者口コミ出典:https://www.cosme.net/brand/brand_id/123653/reviews

   (上)中国古代神話の四大霊獣「青龍」「朱雀」「白虎」「玄武」をモチーフにしたデザイン

   (上) Chinaの英語の意味(磁器)をかけて、白磁の美しさを強調したデザイン

例②:BYD(自動車)

中国名は比亜迪。電池技術者出身の社長が一代で築いた総合自動車メーカー。1995年創業以来、電池メーカー→商用車EV→乗用車EV(EV以外も製造する)の軌跡を歩み、僅か30年弱で、テスラを抜いてEV生産台数世界一へ(2022年)。
その急成長の一因はやはり同社の技術力にあると考えられるだろう。企業理念を「技術為王、創新為本(日本語訳:技術とイノベーションは王道であり、根幹である)」と掲げる同社は、電池技術力を始めとする優れた技術力を背景に、「垂直統合」の経営方式を展開し、低コストを武器に世界に勝負をかけた。2023年1月に、中国自動車メーカーとして史上初の日本進出を果たし、現在3モデル発売中(シール、ドルフィン、Atto3)。
同社は「海洋」「王朝」の2大シリーズを展開しているが、「王朝」シリーズは高級路線。(【参考】BYDの王朝シリーズHP:https://www.bydauto.com.cn/pc)筆者は小さい時から書道をやっていたが、「汉・唐・秦・宋・元」の書体は「隷書体」という、始皇帝時代から存在する中華文明に連想される書体。かつこの5つの時代はいずれも中国歴史上繁盛を極めた時代。古き良き時代にブランドイメージを重ねたいとの意図が見える。

試乗者に聞いてみた

筆者の友人(在日中国人)が実際にBYDに試乗した感想として、インターフェイスといった車のソフト面において日本車と比べて先進的に感じ、「ガラケーとスマホ」のような感覚でしたというコメント、印象的だった。

ライブコマース(TikTok等)の活用

中国ブランドはTikTok等のアプリを活用したライブコマースの活用がうまい。ライブコマース起点での拡散、話題作りが海外ブランドにはなかなか付いていけない。対して、日系ブランドは宣伝が少ないという印象が多くのカテゴリーでよく発言される状況であり、中国人にとって「良く宣伝されている」=「企業のスター商品」=「保証された品質」などの連想を生みやすい為、日本ブランドの存在感が弱まっている印象。

ブランド名の変遷

外国ブランドのローカライゼーションの成功に伴い、ブランドの国籍の境界線がはっきりしなくなっている。例えば、ダイキン→大金(エアコン)、ベニシア→启辰(日産の現地ブランド)、ニッポンペイント→立邦漆(建材)、オプレ→欧珀莱(資生堂の現地ブランド)等。一方、国産ブランドの海外進出や洋風ネーミングよるブランド国籍のボーダーレス化も起きている。例えば、欧诗漫(OSM)、珀莱雅(PROYA)など、主に化粧品業界ではブランドの国籍がかなり難しいものが多くある。
つまり、外国ブランドが一生懸命中国消費者になじむように中国らしく展開してきているのに対し、中国ブランドは海外進出のためおよび(昔からの)舶来品びいきの中国消費者に受け入れてもらおうと欧風化するという動きが有った。

最後に

時代の流れで、 ”外国ブランド迷信、国産ブランド不信”という背景を知っている消費者は30代以上であり、主力消費者である彼らの子供世代は逆に上記の市場形成の動きについては、詳しくないはず。そのため、若い世代は親世代と違い、ボーダーレス化している中でブランド名に強いこだわりを持たず、「価値を感じれば、いい」というのが彼らの消費観である。そのような次世代の消費者価値観に繋げるべく、中国ブランドは今まで見てきたように、1)製品の品質向上、2)中国固有の要素とグローバル&先進性を融合させたデザイン、3)ライブコマースの活用といった要素を武器に、「Made in China」のイメージを従来の「決められた設計で大量生産する世界工場」から「デザインから創造する」に変えようとしている。つまり端的に言えば、「物作り(ただ作る)」⇒「物創り(創造する)」に再定義されようとしている時代のターニングポイントに、我々は直面している。そのような再定義を経て、ブランドのボーダレス化がますます進んでいくのか、今後の中国ブランドや消費者の消費観の変化は注目していくべきだろう。


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    執筆者プロフィール
    李 昂(リ コウ)

    人生の1/3を日本で過ごした中国・上海出身リサーチャー。日本人奥さんと1才・5才児の4人暮らし、読書好き。

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    編集者プロフィール
    高橋 謙一郎

    Global Market Surfer運営担当10年以上モビリティ業界のリサーチ、ブランディングに従事。
    休日は少年サッカーのコーチとして、地域の子供たちと汗を流している。

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