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<駐在員コラム>【中国】中国で好調な有料会員制スーパー「サムズ・クラブ」とは

中国は現在、不動産不況などによる経済減速の影響で所得の増加が鈍り、消費の勢いが以前に比べ低下しているという記事を目にすることが多くなった。しかしその一方で、小売業では有料会員制スーパーが伸びているという話も聞く。中でも「サムズ・クラブ(以下サムズ)」の躍進が顕著であり、実際に私の周りの中国人ユーザーの評判も良い。そこで今回、私もサムズに入会して、実際に店舗を訪れてみた。

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 (左)サムズクラブ上海外高橋店(執筆者撮影)/(右)店内の様子(公式サイトより)

■サムズ・クラブと中国

有料会員制スーパーというと日本ではコストコが有名だが、サムズはウォルマート傘下の会員制スーパーで、現在中国に46店舗、上海に5店舗が営業している。中国への進出は1996年だが、2019年当時のネットニュース記事を見る限り「サムズの中国の業績はまだ成長が見られない」とあり、この頃はまだ中国で目立った躍進はしていない様子だった。しかしその後は確実に成長し、2020年には40店舗に到達している。2019年はコストコが中国に進出した年でもあり、恐らくこの頃から、中国でも有料会員制スーパーの人気が出始めたのではないだろうか。

【中国のサムズクラブ店舗数(2023年12月現在)】

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 参照:2021年中国店舗消費新トレンド洞察報告書(2023年の数字は公式サイトで確認)

■サムズ・クラブに行ってみた

上海の有料会員制スーパーの多くは比較的郊外にあり、サムズの場合も来店客の大半は自家用車で行く。今回私がサムズを訪れたのは2023年の11月下旬だが、建物内のショッピングゾーンに足を踏み入れると、まず、クリスマスグッズやキャンプ用品の展示が目を惹いた。倉庫型の店内には家電、衣類、日用雑貨など多種多様な商品が並んでいるが、メインは食品。特に肉と魚介類のコーナーに人が集中している。サムズは高品質の米国産牛肉やシーフードが手頃な価格で大量に購入できることが魅力の1つらしく、確かに店内の牛肉コーナーを見ると米国産牛肉の陳列が多く、大勢が手を伸ばしていた。

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 サムズの利用客のカート。牛肉、パン、ジュース、玉子、総菜などを買う人が目立った。(公式Wechatより)

■試食が大人気

食品エリアは試食コーナーが多くある。親子連れの客は遠慮なく一人で何個も試食皿を取るが、どの試食も整然と行列が出来ており秩序は保たれている。多くの親子連れは子供をカートに入れて移動するので、カートの中で子供が色々な試食品を食べながら店内を見て回る客の姿が多く見られた。今回は上海市内のサムズを3店舗見て回ったが、どの店舗も活気があり非常に賑わっていた。活気のあるスーパーというのは、見て歩くだけで気持ちが高揚する。なおサムズの建物の1階には、サムズの運営するカフェが併設されている(店舗によって場所は異なる)。軽食コーナーはコストコやフーマーXの店舗内にもあるが、サムズのカフェの場合、店内に提供するメニューにさえ最高品質の素材を使っていることを謳う看板が掲げられていたのが印象的だった。

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 試食コーナー。特に牛ステーキの試食は長蛇の列。カートに子供を乗せる客が多い。みな子供を土足のまま乗せるのがちょっと気になった。

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 サムズカフェ。テーブルやイスは敢えて置いていない。

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 牛肉巻に輸入された最高品質の牛肉とチーズと新鮮な野菜を使っていること説明する看板。(執筆者撮影)

■コストコの場合

今回はサムズの他にコストコとフーマーXも訪れた。コストコも店内に活気があったが、照明の違いなのか、サムズよりやや薄暗く、倉庫感が増す印象を受けた(余談だが、上海市内のコストコ2店舗はどちらも店内が全く同じ構造だった)。そしてサムズとの大きな違いは、ネットスーパーによる配送サービスが無い点だ。ECが根付いている中国では、ネット購入できないのは、やはり不便さを感じるように思う。

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 コストコ上海浦東店(執筆者撮影)

■フーマーXの場合

そしてもう1つの競合・フーマーXは、サムズやコストコとは雰囲気が全く違う。まず、店内の天井が低い(普通のスーパーと同じ高さ)。そして売られている商品も、普通のスーパーが大容量の品物を売っているだけという印象が強い。魚介類が水槽で生きたまま売られているなど、フーマーが得意とする部分では存在感があったが、品物の多くは国内プライベートブランドが多く、牛肉も国産しか置いていないなど、「他では買えない高品質な物が何でも揃う」という体験は、サムズやコストコと比べると少ない。なお、フーマーは2023年9月に新しいコンセプトの「フーマープレミア」1号店を都心の中山公園にオープンさせた。こちらは有料会員制ではなく、高級路線の店舗だ。11月に実際に訪れてみたが、非常に活気に溢れている。輸入製品を豊富に取り揃えており、日本の商品も多い。高級路線ではあるが、店内には、賞味期限が近くなった商品を扱うディスカウントコーナーや、買った総菜を食べるイートインコーナーなどもあり、気軽に入れる店づくりを感じた。

【主な有料会員制スーパーの比較】

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■サムズ人気の理由

中国のデータ研究機関「DT研究院」が23年9月に実施した調査によると、各スーパーの有料会員に「会員カードを更新したか?(または更新予定があるか)」と聞いたところ、「更新率」が最も高いのがサムズだった。また、この会員カードの更新意向者にその理由を聞くと「品質が良く、商品の共有元が保証されていること」がトップだったのだ。サムズの場合、親会社ウォルマートの力で高品質な商品を大量に製造・販売し、手ごろな価格で消費者に提供できることも、大きな強みの一つだというコメント記事も見られた。

【会員カードを更新した、または更新予定のスーパー(各スーパーの有料会員に聴取)】

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【会員カードを更新したい理由(各スーパーの会員更新者に聴取)】

 データ:DT研究院の発表した調査結果(調査時期:23年9月)
 https://weibo.com/ttarticle/x/m/show#/id=2309404950254926561353&_wb_client_=1

■節約はするが、高品質な物を求めている

同僚(インテージチャイナのメンバー)の話では、昨今の不況に伴い、消費者の節約志向が強まった結果、食事も以前より外食を控える人が増えたという。外食の代わりに、品質の良い食材を購入して自宅で調理すれば、良いものが安く食べられるということで、そうしたニーズを満たしてくれることも、サムズ人気の要因の1つのようだ。確かに他のサムズユーザーの同僚も、高級ステーキ店で食べに行かなくても、サムズの牛肉を家で料理すれば同じクオリティが得られることを理由に「生活のクオリティが上がった」と話していた。

品質の高さやコスパの良さも確かに魅力だが、今回サムズ、コストコ、フーマーXの店舗を見て回り(その後、メトロとカルフールも見た)、「この店なら私の生活全体を豊かにしてくれそう」と最も感じたのがサムズだった。うまく言えないが、私の生活のクオリティを上げてくれるような体験が、沢山得られそうな予感とでもいうか。
財布のヒモを固くしながらも品質の高い物を調べ、買い求めていく姿勢は、食料に限らず、今後もしばらく続いていくように感じる。有料会員制スーパーが今後中国でどうなっていくのか、引き続き動向に注目していきたい。

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 (左)上海でよく見かけるサムズの配達員。(執筆者撮影)
 (右)私がネット注文したサムズの商品。注文から1時間以内に届けられた。牛ステーキ肉は800gで約3000円。柔らかくておいしい。(執筆者撮影)

後記

上海に限ってみると、今回訪れたスーパーの中ではメトロやカルフールのさびれっぷりが印象的。
特にカルフールは陳列する商品も殆どなく、無くなるのは時間の問題のように思った。
中国は変化スピードが速い国なので、今後もウォッチしていきたい。


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    執筆者プロフィール
    本木 崇秀(もとき たかひで)

    2006年インテージ入社。長くメディア・広告領域を中心に国内リサーチに携わり、2023年から上海に赴任。
    上海のスーパーをぶらぶら見に行くのが好き。

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