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【各国料理と家事事情】サウジアラビア編:料理をするときの行動

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第八回:【各国料理と家事事情】サウジアラビア編:料理をするときの行動

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サウジアラビアの家庭料理は、伝統的に大皿料理が多い。大皿の料理を取り分けずに、家族でそのまま手やスプーンで取って食べることで、コミュニケーションを図り交流を楽しんでいる。また、この方法では家族それぞれの食べる量を把握しやすい面もある。特に両親が子どもに「もっと食べなさい」とすすめることは、家族の愛情表現として、サウジアラビアに限らずアラブ世界全体の特徴である。

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  (上図)炊き込みご飯「カプサ」 (北部の都市部の家庭)
  家庭によって使用する野菜やスパイスに違いがある。
  (家庭によって野菜の切り方が違い、この日は大家族のお嬢さんが主に担当しておしゃれな盛り付けになっている)

メインの買い物は月に数回まとめ買いで

サウジアラビアでは、一般的に家族の構成人数が多い。どの州でも家族や祖父母世代の親族と同居するか、四親等以上の男性には自らの顔や髪などを見せない伝統のため、2世帯3世帯以上の住宅として自宅を改築するか、同じアパートに住む場合が多い。都市部では地方出身者や同居を好まない者、物理的な広さの問題から核家族化が進んでいる。そのため、大量購入大量消費が一般的で、スーパーでまとめ買いをするスタイルが主流である。月の食費は都市部の家庭でおよそ1000~1500リヤル(日本円で約4万~6万円)。子どもの人数が6人以上の家庭よりも、外食が多い家庭のほうが食費が高い傾向がある。サウジアラビアでは、スーパーマーケットや大型スーパーマーケットが調理材料や食事の流通を独占している。これらの店舗は家庭用品全般を幅広く取り揃え、予算を重視する家庭にアピールしている。

多くの家庭では、月に2~4回程度、車を使って大型スーパーマーケットでまとめ買いをする。保存の効くものや冷凍食品、まとめて買うと割引があるものなどを、夫か妻(車を持っている人)が購入する。また、大型スーパーで買い忘れたものや新鮮さが求められる野菜などは、地域のバッカーラ(小さな小売店)や八百屋などの近所で調達する。最近では、買い物や出来合いの食べ物の注文にアプリを使ったデリバリーサービスを利用する人が増えており、特に忙しい家庭ではオンライン注文が主流となっている。インタビューした家庭の中には、1か月間一度も自炊しないという家庭もあった。

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  (上図)メッカのご家庭の1回あたりの買い物カゴ。
   パスタの麺、卵、デーツなど保存が効くものを中心に、月に2回スーパーでまとめ買いをしている。1回あたりの金額はおよそ500リヤル(約2万円)。

毎日1度以上料理をする

家族のうち女性全員が役割分担をして協力して作ることが一般的である。また、仕事量が多いためお手伝いさんに料理の一部や全部を分担させている家庭も多い。
サウジアラビアの家庭では、専業主婦が多いため、毎日料理をするのが一般的である。家庭料理は日常的な習慣であり、特に夕食は家族が集まる重要な食事であるため、手作りすることが一般的である。Euromonitor Internationalの2020年のレポート(※1)によると、サウジアラビアの家庭では平均して週に6回以上の自宅での調理が行われている。ただし、都市部のビジネスウーマンの中には料理をまったくしない人もいる。

朝食:

朝食は簡単な食事が多く、調理時間は短いことが一般的である。家族の中で食べない人もいて、多くの家庭では近所の店から購入する。マアスーブ(パンと蜂蜜やバナナなどが入った甘めのボウル)や、かまどで焼きたてのピタパンやタミーズというパンに豆のペーストや羊のモツの炒め物、卵とトマトの炒め物、きゅうり、トマト、チーズなどを皿に盛り、それぞれが好きなものを挟んで食べる。また、サンドイッチやムタッバク(チヂミのような料理)を食べる家庭もある。他のアラブ諸国と同様に、豆のコロッケであるターミーヤやファラーフェルも一般的な朝食である。こうした大衆的な朝ごはんは、多くの店で売っており非常に手ごろな値段だ。
小学生の子どもがいる家は6時台に朝食をとり、学校に持参するお弁当を用意する。

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  (上図)一般的な朝ごはん。奥はレバント地方を意味する「シャーミー」と呼ばれるパン。
  左はさまざまな野菜の入った炒め物。右はモロヘイヤスープ。
  手前は「フール」と呼ばれる、空豆と玉ねぎやニンニクを一緒にトマトで煮たパンにつけて食べるおかず。

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  (上図)朝食に食べられることも多い「ムタッバク」。
お店や家庭によって中身は違うが、左はほうれん草、右は卵とひき肉など。

昼食:

家族全員が揃うことが少なく、個別に簡単な料理をすることが多い。家で仕事をする人や家庭によってはメインの食事となる。昼食は13時以降が多く、子どもが大きい場合は15時や16時になることもある。

夕食:

家庭料理の中心であり、家族が集まるため豊富な料理が用意される。しかし、昼をメインにしている家庭では軽食を購入することが多い。

金曜日:

イスラームの習慣として家族や親戚が集まることが多い。ホストになった家は大量に料理を作って楽しむことが一般的であり、ゲストが手料理を持ち寄ることも多い。別荘や貸し別荘、砂漠のテントで週末を過ごす場合、男女が別々に料理をすることが多いが、男性が両部門分の料理を一気に作って振る舞う場面もある。自分たちで作るだけではなく、カプサのような大皿料理を注文することもよくある。

こういった場面で大皿料理を囲む場合には、数皿の大皿が用意され、大人数で地べたに座り、スフラと呼ばれるプラスティックのシートの上に皿を置いて食べる。手やスプーンを使って自分の近くの皿から取って食べるスタイルである。例えば、子どもの多い席の近くでは食の進み具合が違う場合があるため、肉が余りそうな場合には食欲旺盛な席に肉が運ばれてくることもある。

サウジアラビアではおもてなしを大切にしており、太っ腹であることが美徳とされる。そのため、必要な量より多く料理を作るが、料理を捨てることは宗教的に良くないとされている。余った料理はお手伝いさんの分を取り分け、それでも残った場合には野良猫などの動物に分け与えることが多い。

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  (上図)大皿に盛りつけられた料理。
  ラマダン明けの招待料理なので特別豪勢である。

ダイナミックな料理のカプサ

サウジアラビアは国土が広い(日本の約6倍)ため、地域によって名物料理に特色があるが、最も有名な料理はカプサである。カプサはサウジアラビアの伝統的な一皿料理で、特別な日や家族の集まりでよく作られる。スパイスの風味が豊かであり、多くの家庭で愛されている。料理を楽しむと同時に、家族が膝を突き合わせて交流や親睦を深めることも目的の一つである。

カプサの作り方は、鶏肉またはラム肉をメインに米を圧力鍋で炊き上げる。肉と野菜にスパイスを加えて煮込むが、野菜はトマト、じゃがいも、にんじん、タマネギ、にんにく、ドライレモン、獅子唐などが一般的である。使用するスパイスはクミン、コリアンダー、カルダモン、クローブ、シナモンなどで、家庭によって多少異なる。チキンを使用する場合、最後にガスオーブンで表面がカリカリになるように焼くことが多い。

カプサには多くの付け合わせがあり、パンや、ピーマンとトマト、シシトウをミキサーにかけてレモン汁を混ぜたソース、タヒーナ(胡麻ペーストを薄めてニンニクと混ぜたもの)、トマトときゅうりのサラダ(レモン汁や塩を少量かけたもの)、生たまねぎ、レモン、各種タバスコ、モロヘイヤスープや野菜の煮物などがある。これらの付け合わせで、米の味を変えながら楽しむことができる。

都市部ではスプーンで食べる人も増えているが、手で食べる家庭がまだ多い。

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  (上図)ゲストが多い時の盛り付け例(南部地方都市部)
  (ゲストをお迎えする時は女性たちの準備に時間がかかる。写真は女性のみの分だが、男性のゲストルームの分も別途用意したり、おしゃれをしたりの身支度など。)

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  (上図)都市にお住まいの南部のナジュラーンという地方の部族のご家族の食卓。
郷土料理(ラクシュ)と注文で届いたバーベキュー料理(カプサ以外の大皿料理例)。

(都市部には多くの地方出身者が住んでいる。サウジアラビア人は自分の出自をとても大切にしている。)

調理後は「シャッタ」と呼ばれるタバスコをかけることが多い。辛いものが好きかどうかは人によるが、日本人の感覚に近いようだ。辛いものを好きな人でも、ピリ辛程度にとどまる。インドやインドネシアの人たちのように極端に辛いものを好むわけではないようだ。

広いサウジのキッチン

サウジアラビアのキッチンは、広々とした作りになっていることが多い。特に大家族が多いため、複数の料理を同時に作れるように調理スペースが広く設計されている。また、換気扇は強力で、大量のスパイスや油を使用する料理でも快適に調理できるようになっている。都市部ではアパートに住む人も多いが、その場合でもキッチンは別の部屋になっていることが多く、大抵はオーブンが備え付けられている。多くの家庭では「アンブーバ」と呼ばれるガスボンベから直接キッチンのコンロとガスオーブンにガスが供給されており、IHを使用している家庭もある。

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  (上図)キッチン例、平均的な広さのキッチン。賃貸だと小さめの場合もある。
  出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama

料理でよく使われる調理器具・調理家電

料理でよく使われる調理器具・調理家電には、大型の圧力鍋、大型の鍋、フライパン、ガスオーブン、ターワと呼ばれる浅いパンを温めるための浅いフライパンなどがある。包丁もあるが、ナイフでまな板を使わずに野菜を切る人も多い。フードプロセッサーもよく使われ、毎食ごとにトマトやピーマン、少量のシシトウを混ぜたソースを料理にかける。野菜カッターもサラダを作るためによく使用されている。

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  (上図)大きな圧力鍋を使用しカプサをつくる(写真は南部地方都市のご家庭にて)

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  (上図)ターワというパンやムタッバクを焼く道具

料理の食べ方盛り付け方・どのように食べるか

サウジアラビアでは家族全員が揃って食事をすることが多く、料理は大皿に盛り付けられ、みんなでシェアしながら食べる。なべから大きな銀色の丸いお盆に大雑把に盛り付けられる。一汁三菜のような形式はなく、メインディッシュを中心に副菜が添えられる形が一般的である。ゲストには手で肉を取り分けるなど、遠慮して食べなくならないようにするおもてなしのマナーがある。食事は大きなリビングルームやゲストルームで取ることが多い。

片付け・洗い物

片付けや洗い物は、女性家族全員で協力して行うことが多いが、家政婦がいる家では彼女たちが担当することが一般的である。食洗機を使用する家庭も増えてきている。

まとめ

サウジアラビアは家族間、親戚間、部族間、友人間など他者とのコミュニケーションを重視している。料理や食事のスタイルを通じて他者を大切にし、関係を深める。また、どの世代の親戚ともコミュニケーションを取り、もてなしや他人に振る舞うことを美徳とする文化がある。食前や食後にはサウジコーヒー(サウジ流のアラビックコーヒー)や紅茶を頂きながら歓談する。

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  (上図)食前や食後に飲むサウジコーヒー

※1 Euromonitor International. (2020). Home Cooking Trends in the Middle East and Africa. 
https://www.euromonitor.com/cooking-ingredients-and-meals-in-middle-east-and-africa/report


  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    サウジアラビア在住5年目で、大学院で学生をしています。町歩きと陸路での旅行が好きで、バスでサウジアラビアを一周しました。サウジアラビアは日本とかけ離れているものも少しありますが、似ている価値観も多くてとても住みやすいです。それぞれの地方で名産品がちがうので旅行先では地産のものを味わっています。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    高浜 理沙

    Global Market Surferのサイト作りを担当。FMCGカテゴリーを中心に海外生活者に関する情報を発信しています。サウジアラビアのご家庭への家庭訪問調査では、毎回ほぼ必ずアラビックコーヒーとデーツとお香でおもてなしをしてくださったのが印象的でした。

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    「出典: インテージ 調査レポート「(レポートタイトル)」(●年●月●日発行)」
    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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