【タイ】タイの健康トレンド2024(後編)
本稿では、タイの健康&ウェルネス業界の市場動向、ビジネスチャンス、消費者の嗜好、健康への関心について紹介する。
前編に続いて、後編では、タイの消費者が健康とウェルネスに関して関心を持っているトピックの1つ、「スキンケアと美容」に焦点を当てる。
前編はこちら:
https://www.global-market-surfer.com/pickup/detail/486/
3. スキンケアと美容に関するトレンド
パンデミックの間、スキンケア・ビューティカテゴリーは減速したものの、その後回復し、ブランドに新たなチャンスをもたらした。しかし、消費者はより個性的になり、カスタマイズされた商品を求める一方で、よりホリスティック(バランスが取れた)なものを求めるようになってきている。今日における「美容」は、外見だけでなく、内面も大切であると認識されるようになり、消費者は、肌の内側から強く健康になるようなものを求めている。また、商品の効果に対する期待値も高まっている。また、複数の効果を持つ商品は、より人気が高まっている。ビューティカテゴリーの商品に関しては、主に4つのトレンドがある。
① 適正価格
インフレと価格の上昇に伴い、消費者は手ごろな価格のマス・ブランドから、効果の高いプレミアム・ブランドまで、さまざまな製品を組み合わせて使用するようになった。
モイスチャライザーのような基礎化粧品とみなされる製品では、消費者は安くてシンプルなものを探し、一方、美容液にはお金をかけるなどの傾向がみられる。メーカー側も、消費者が手頃な価格で購入できるように、サシェット(小袋)パッケージを豊富に取りそろえるなど工夫をしている。
② 簡単なアクセスと専門家
ブランドは、オンラインとオフラインの両方の「体験」をバランスよく提供する必要がある。オンラインは、約27%の市場シェアを占め、美容カテゴリーにおいてナンバーワンの購入チャネルとなっている(※1)。しかし、オンラインは非常に細分化されている。Facebook、Lazada、Shopeeといった伝統的なプラットフォームもあるが、TikTokやe-retailersといった新しいプレーヤーも急速に成長している。ブランドは、異なる購買層を取り込むために各プラットフォームを適切にポジショニングする必要がある。
一方、オンラインがメジャーになってきているとはいえ、美容業界では、商品を見たり、アドバイスを求めたりするニーズが依然として高い。オフライン店舗に対する需要は、オンライン店舗に対する需要に比べ、依然としてはるかに大きい。WatsonsやEVEANDBOYのように多数のブランドを扱う店舗の大半は、様々な商品へのアクセスを容易にし、店頭で専門ビューティーアドバイザーが買い物客をサポートするため、非常に重要な存在であり続けている。
③ Less is more
メイクのトレンドそのものが変わりつつあり、消費者はナチュラルでフレッシュな、素肌感 を求めるようになっている。5~10年前なら、消費者は「白くてキメの整った肌」がよいと即答したものだが、いまや消費者の多くは「強く健康的な肌」を求めている。そのため、メイクもビビッドな色ではなく、ヌードやソフトなトーンのナチュラルで素肌感のある色を目指すようになった。また、カバー力のあるベースメイクや、BB/CCクリームとして使用し、若干の色補正をすることも求められている。消費者はまた、スキンケア効果もあるメイクアップ製品を求めており、それゆえクッションファンデーションなどのトレンドが台頭している。また、メイクが長持ちすること(一日中輝きを保つものや、色落ちしない口紅)も重要視されている。
④ 基本に忠実
最近のトレンドは、消費者が基本に忠実であることだ。様々なブランドが、消費者に日常生活をシンプルにするようメッセージを叫んでいる。肌について「汚れを落とす」、「栄養を与え育てる」「保護する」は、多くのブランドが消費者に伝えている主要な考え方である。そのため、ブランドは一つの製品で複数の効果を謳っている。以前は、「ニキビを防ぐ」としか訴求していなかった商品も、現在では、「肌を強くし、ニキビができにくい肌へ」と訴求を変えている。
タイにおける健康・ウェルネスカテゴリーの課題と機会
これらのことから、タイは非常に競争の激しいユニークな市場であることがわかる。市場そのものは、ローカルブランドとグローバルブランドでますます競争が激化している。ブランドは他ブランドと差別化するために、大きなイノベーションとマーケティングを必要とする。特定の成分に関する誤解が市場成長の妨げとなる可能性もあるため、消費者の教育と意識向上も重要な課題のひとつである。消費者のカテゴリーに関するリテラシーはまちまちであるため、これも新しい商品を導入し効果を得るのに影響を与える可能性がある。また、経済格差が激しく、都市部と農村部では健康・ウェルネス製品へアクセスできる幅に大きな差があるため、ブランドはターゲットを慎重に選ばなければならない。
しかし、可処分所得が増えつつある中間層の間で、健康的な製品に対する需要が高まっていることは確かで、タイ人は予防的な健康対策に重点を置くようになっており、これがサプリメント、フィットネス製品、健康食品の需要を後押ししている。また、サステナブルで環境にやさしい製品への需要も高まっており、調達、生産、パッケージングにおいて環境の持続可能性を優先できるブランドは競争力を得ることができるだろう。
全体として、タイは健康・ウェルネスカテゴリーにとってダイナミックな環境であり、成長とイノベーションの大きなチャンスに恵まれている。しかし、ブランドが成功するためには、課題、市場競争、消費者のさまざまな意識レベルを乗り越えなければならない。持続可能性に焦点を当て、テクノロジーを活用し、効果的な消費者教育とマーケティング戦略に取り組むことで、企業はタイで急成長する健康・ウェルネス市場での機会を最大化することができるだろう。
参考
*1) 2023 Thailand Beauty Trends, Intage & Kantar World Panel
https://www.global-market-surfer.com/report/detail/218
関連記事:
【タイ】タイの健康トレンド2024(前編)
https://www.global-market-surfer.com/pickup/detail/486/
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執筆者プロフィール
Chaiyoot Chulphongsathorn(Top)
インテージタイのリサーチャー。調査会社側とクライアント側の両方で経験を積み、その知識を活かしてインサイトをビジネス・アクションにつなげるサポートをしている。主にFMCGや小売業のクライアントを担当し、タイ国内のみならず、東南アジア地域でのプロジェクトでも活躍している。
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編集者プロフィール
高浜理沙
Global Market Surferのサイト作りを担当。FMCGカテゴリーを中心に海外生活者に関する情報を発信しています。
- 2024/06/28
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