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【SEC(社会経済クラス)別で見るタイ・バンコク】住宅編

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はじめに

住宅は、どの国においても人生の中で最も高い買い物の一つだ。また、住居・住環境を見ることで、人の生活水準や個人の価値観、はたまたその国の文化が見えてくることも多い。
そこでこのコラムにおいては、タイ・バンコク近郊の住宅をSEC(Social Economic Classification・社会経済クラス)ごとに比較して、SECごとにみられる特徴の一部について紹介する。

タイの住宅事情

タイは年間を通して高温多湿の熱帯モンスーン気候に属し、年間平均気温は約29℃と蒸し暑い環境である。また、宗教人口構成比より仏教徒(94.6%・2015年)が多くを占めている。
そんなタイにおいては賃貸よりも住宅を保有している人の割合が高く、社会人になったタイミングや結婚したときが購入検討時期として多く挙がっている(インテージ自主企画調査(2020年)より)。購入時はローンを組む場合が多く、購入する意識としては「家賃を払うのはもったいない」「ローンを払う=自分の資産になる」が挙がっている。住宅の購入重視点としては、「ベッドルーム」や「外観」を重視する傾向にあり、特にSECが高いとその割合が高くなるようである。また、「日当たり(自然光が入ること)」や「風通しのよさ」が重視されることが多いことから、窓の機能面が重要そうであることが推察される。

本稿においてSECを世帯月収で以下のように定義し、インテージが提供する海外生活者ビジュアルデータベース「Consumer Life Panorama(通称:CLP)」のデータを用いて、SEC別の違いを考察する。
・SEC A:THB 80,000以上
・SEC B:THB 50,000 - 79,999
・SEC C:THB 25,000 - 49,999
・SEC D:THB 15,000 - 24,999

海外(特にアジアなど新興国)においては、SECによる生活水準の差が先進国と比べてはるかに大きいため、マーケティングにおけるターゲット設定の重要な基準の一つとなる。ターゲットとするクラスの生活者が、実際にどのような住環境で暮らしているのかイメージするのに、本稿が参考になれば幸いだ。

SEC間での家のタイプの話

このコラムにおいては住居を以下の4つに分類する。
1.Detached house(一軒家)
2.Townhouse/Townhome(長屋)
3.Condominium(コンドミニアム)
4.Apartment/Flat/Mansion(アパート)。
(その他としてShop lots/Commercial building(店舗・商業建築物)等もある。)

SEC Aは、Detached houseやCondominium、Townhouseに居住していることが多い。他のSECと比較した特徴として、Detached houseの場合は住居面積が広い点(CLP登録世帯の平均は183.8㎡)、Condominiumの場合、高層マンションが多い点が挙がる。

              <Detached house 写真 (TH_57) >           <Condominium 写真 (TH_142)>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

          <SEC B Townhouse写真(TH_115)>                     <SEC B Condominium写真(TH_136)>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

SEC Dでは木造・トタンづくりのDetached houseやApartmentが目立ち、Detached houseの平均居住面積(CLP登録世帯中)も108.4㎡とSEC B/Cと比較して一回りサイズが小さくなる。

<木造・トタンづくりDetached house写真(TH_73)>     <Apartment写真(TH_111)>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

SEC間の違いをより詳細を見ていくと、SECAとSEC B/C、SEC Dを比較すると部屋の大きさの差と関係して、部屋の数に差が生じSECAでは見られた物置部屋・ユーティリティルームや祭壇室などがSEC B/Cにおいてはその出現割合が減り、SEC Dにおいてはほとんど見られなかった。
 一方、各SECで共通しており、日本との差があると思われるのが玄関とリビングの位置である。バンコク近郊の住居において、玄関ドアを開けるとそのままリビングに繋がる作りが多く、日本で見られるような土間や上がり框はほとんど見られない。またDetached houseにおいては玄関の開口面積が日本と比較して広いように感じる。加えて、全体的に窓の大きさが大きく、1か所における枚数についても多いことから、日本と比較して暑い気候故に、大きく窓を開いて換気できることが求められていると推測できる。

リビング・ソファの話

前項で触れたように、玄関ドアを開け、まず目に入るのがリビングであるのがバンコク近郊においては一般的なため、本項においてはSECごとのリビングの違いについて触れる。まずはリビングに鎮座しがちな家具、ソファを中心に見ていく。
SEC A/Bのリビングでは、ほとんどの住居でソファが設置されている。SEC Aにおいては革のソファが人気で、住居面積が広いことが影響してか、他のSECではあまり見られないL字型のソファも多くみられる。SEC Bにおいては、SEC Aと比較して素材においては布、形としてはI字型が多くなる。

<SEC A 革のL字型ソファ写真(TH_19)>       <SEC B 布のI字型ソファ写真>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

SEC Cにおいては、置かれているソファの傾向はSEC Bと類似するものの、その設置されている割合が減り、SEC Dになると住居面積が狭いからかソファの設置割合が他のSECに比べてかなり減り、代わりに木製の長椅子が置かれている場合も見られた。

<SEC D ソファのないリビング写真(TH_73)>      <SEC D 木製の長いす写真>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

リビングの大きさについては、恐らく相関関係にある平均住居面積から「SEC A > SEC B/C > SEC D」であると想像でき、L字型のソファ及びソファの設置について、ある程度の広さを有しているリビングでのみ選択肢に挙がることが推測できる。

リビング床材の話

SEC間での違いを探すために、再びリビングを見渡してみるとどの家にも共通して存在する床や壁に目が行く。壁(壁紙やクロス)についても家全体の雰囲気作りに大きく寄与する要素ではあるものの、各SECを通して白や淡い青を中心としており、SEC間の違いが見えづらかったため、本稿では床材を中心に本項では触れる。
 SEC Aにおいては、Detached houseやTown houseでは大理石や大理石を模したシンプルなタイルの住居が多く、Condominiumにおいてはフローリングが中心である。どちらの床材にておいても、光や景色の反射から艶感があるのが伺える。SEC Bは、SEC Aの住環境による床材の傾向と大きく変わらないものの、一見してタイルだと分かるものが多くなる。

<SEC A タイル(TH_57)>                                                <SEC A フローリング(TH_142)>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

SEC Cにおいてはフローリング材・木材を使用したDetached houseやTown houseがいくつか見受けられる。また、住居で使用しているタイルについても色や柄が入ったものがSEC A/Bに比べて多く、また、使用感のあるものが増える印象を受ける。

<SEC C タイル(TH_106)>                                               <SEC C フローリング(TH_37)>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

SEC Dにおいては、木材を使用したDetached houseが複数あり、Apartmentについてはタイルが多く、他のSECの傾向とは異なる。材質の違いなのか、経年劣化かは写真では判断できないが、両材質ともに艶感があまりなく、使用感がある。

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出典:インテージConsumer Life Panorama

各SEC共通する部分として、2階があるDetached houseを中心として1階はタイル、2階はフローリングであることが多く、1階も2階もタイルである世帯はほとんど見られなかった。 また、階段の踏板についても木材であることが多いようだ。

バスルーム・トイレの話

最後に、機能性が異なる床材が使用されるバスルーム、トイレを見てみる。なお、床材としての主流はタイルで、色味や施工方法が居室とは異なる点においては各SEC間で共通している。

過去のコラム(https://www.global-market-surfer.com/pickup/detail/230/)にあるように、タイにおいてはシャワー、トイレ、洗面台が一つの部屋に収まっているのが普通で、浴室やトイレのことをホンナームと呼ぶ。また、トイレのタイプはいわゆる和式タイプと洋式タイプの2パターンに分かれ、近年では洋式が増えているとのことである。今回分析対象とした住居においてもSEC Cにおいて和式タイプが見られたが、概ね洋式タイプであった。
トイレについてはそれほど違いが見られなかったが、シャワールームとトイレを分けるカーテンや床段差、ガラス・アクリルの仕切りや扉がある世帯と、全く仕切りがない世帯の割合においてSEC間の違いがみられ、SECが低い層ほど仕切りの無い世帯が多くみられる。
また、お尻や足などを洗うための大きなポリバケツと手桶は、SEC A/Bではほとんど見られず、SEC C/Dにて設置が確認できた。

<仕切り有バスルーム写真(TH_14)>                                  <仕切り無バスルーム写真(TH_111)>

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出典:インテージConsumer Life Panorama

全SECに共通する点として、物を収納する能力がバスルーム内ではあまり見られない。シャワーの近くに棚があればそこにボディソープやシャンプーらしきものが置かれているが、多くの住居でトイレのタンクや後付けの棚、洗面台の横や床に物が置いてあるのが観察できる。また、置かれているものも衛生用品やオーラルケア用品から掃除道具や洗剤まで幅が広そうである。品目の多さについては個人差がありつつも、限られたスペースに並べてあるためか、全体的に雑多な印象を受ける。

まとめ

バンコク近郊におけるSEC間での住居の違いは垣間見えただろうか。一口にバンコク近郊、と言ってもSECごとにその生活様式や価値観、趣味嗜好は様々で、消費者の困りごとも異なることが推測できる。

調査手法の一つにホームビジット・家庭訪問観察調査という手法がある。対象者宅に実際にお邪魔し、普段の生活や対象となる商品について観察・インタビューをする定性調査の手法だ。会場に対象者を集めて実施する調査とは異なり、ターゲット生活者の情報をリアルにかつ、豊富に得られる。調査対象としているカテゴリーの使い方・使用環境などの実態を細かく観察できるというメリットに加え、そのモノ・サービス周辺の情報(ターゲット生活者のライフスタイル、価値観、趣味嗜好など)も得ることで、深い生活者理解を得られるのが特徴だ。

今回、このコラムで引用したConsumer Life Panorama(CLP)では、各国生活者のビジュアルデータを豊富にストックしている。これらのデータを用いて、カテゴリーの使用実態をリアルに把握したり、ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解したりと、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能だ。

ターゲット生活者のことが想像しづらい海外市場だからこそ、ビジュアルデータ等を用いながら、より鮮明な海外生活者理解・海外マーケティングプランニングを行うことが重要ではないだろうか。

Consumer Life Panoramaとは

世界18か国1000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。
住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者理解に役立つ。
詳細はこちら

本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。

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▲収入別に家の外観・リビング・バスルームを比較した例。

CLPでは、搭載されているビジュアルデータを人の属性別に整理して、カテゴリー・アイテムごとに分類する「Group View」機能を搭載。
規則性のない画像蓄積のままでは扱いにくいビジュアルデータを、分析しやすい形でご提供します。


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    植田匠

    国内外問わず、耐久財メーカー様を中心としたマーケティングリサーチに携わる。海外渡航時にはスーパーに赴き、そのエリア在住者を観察したり、陳列されている商品のパッケージデザインから嗜好性を紐解くことに面白みを感じる。

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    編集者プロフィール
    高浜 理沙

    Global Market Surferのサイト作りを担当。

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