【アジア各国のZ世代】「いい香り」を大切にするフィリピンZ世代
フィリピン人は自分たちのことを「綺麗好きな国民」と言うことが多い。実際に暮らしてみても、清潔さを重視している様子がうかがえる。今回は、フィリピンのZ世代にフォーカスし、清潔に対する意識を、調査結果とともに紹介する。
フィリピンの家庭における清潔意識
一般的な家庭の掃除方法としては、まず布で棚のほこりを拭き取り、その後タイル張りの床を箒で掃き、最後にモップで水拭きする。基本的に毎日掃除をする家庭が多いため、清潔さを大切にしているといえる。ただし、モップ自体が十分に洗浄されていない場合もあり、実際にどの程度衛生的なのかは気になるところだ。しかし、そうした細かい点はあまり気にしない様子がある。
インテージが保有する生活者データベースGlobal Viewerによると、フィリピンのZ世代(女性)は「清潔になったと実感する要素」として、「いい香りがする」という項目の回答率が特に高い。リビングルーム、洗面所、トイレ、キッチンなど、多くの場所で「いい香り」が清掃の指標となっている点からも、フィリピンZ世代の香りに対するこだわりがうかがえる。洗剤の香りが部屋やトイレ、洗面所に漂うことで、視覚的な綺麗さだけでなく、嗅覚的にも「清潔になった」と感じるのかもしれない。
フィリピンの住宅事情と掃除のスタイル
フィリピンの一般的な一軒家の間取りは、一階にリビング、キッチン、バス・トイレ(基本的にバスタブはなくシャワーのみ)、そして二階に家族の寝室が2〜3部屋あるのが一般的だ。一軒家には車用のガレージがついていることが多く、その分掃除の範囲も広くなるため、大家族は一軒家に住む傾向があり、核家族は「コンドミニアム」と呼ばれるマンションに住むことが多い。
フィリピンの住宅は、日本のマンションよりもずっと広いため、掃除はかなりの重労働となる。特に一軒家では2人ほどのメイドが住み込みで働いているケースも多く、1人は料理担当、もう1人は掃除・洗濯担当と役割が分かれている。大きな家や小さな子どもがいる家庭では、さらにメイドの人数が増えることもある。メイド部屋は、ガレージの横や洗濯場の近くに設けられるのが一般的で、家を建てる際にほぼ設計に含まれている。
フィリピンでは女性の社会進出が当たり前のため、家事や育児をメイドに任せる生活スタイルが確立されている。そのため、掃除はメイドの仕事となり、家族が掃除をする機会は少ない。
メイドの掃除スタイルと香りの重要性
家の掃除を全てメイドに任せるため、地方から出てきた使用人には掃除のやり方を一から教える必要があることも多い。特に、地方の貧しい家庭で育った人の中には、土の床の家で育ち、掃除用洗剤を使ったことがない人もいる。そのため、都会に来て初めて洗剤を手にするメイドが、使い方が分からず必要以上に大量に使ってしまうことも珍しくない。
さらに、洗剤や石鹸の香りは都会の香りと感じられているのかもしれない。また、掃除をきちんとやったことを示すために、実際に隅々まできれいにするよりも、表面的に掃除をして洗剤の香りを残すことで「掃除をしました」というアピールをすることもあるようだ。四角い部屋を丸く掃除し、香りを残すことで仕事を終えたとする習慣があるのも、フィリピンの掃除文化の一端といえるだろう。
部屋用のスプレーも香りの種類が多い
フィリピンの洗濯文化と「いい香り」へのこだわり
フィリピンでは、洗濯においても「いい香り」が重要視されている。洗剤にはもともと強い香りがついているものが好まれ、さらに香りの強い柔軟剤を併用するのが一般的だ。柔軟剤の使用量も多く、洗濯物にしっかりと香りを残すことが重要視されている。
特に人気のあるブランドはダウニー(Downy)で、フィリピンでは「洗濯の香り=ダウニー」と言われるほど圧倒的な存在感を誇る。洗剤売り場にはダウニー製品が多く並び、消費者の支持の高さがうかがえる。なかでも人気の香りはSunrise Freshで、1480ml入りが343ペソ(約800円)ほどで販売されている。
また、洗剤そのものにダウニーが混合されている製品も販売されており、こうした商品も高い人気を集めている。フィリピンでは「いい香り=清潔」の意識が強く、洗濯物に香りをしっかり残すことが清潔感の証として捉えられているのかもしれない。
柔軟剤は香りの種類が豊富
フィリピンの国民性がよく表れている調査結果として「最も清潔に保つべき場所」としてキッチンが挙げられた点がある。
フィリピンは気候が暖かいため、虫が発生しやすい。特にアリやイモリはどこにでもおり、世界中の人が嫌う「例の虫」も多い。建築の甘さからか、どこかに小さな穴が空いていることが多く、そこから様々な虫が侵入してくる。キッチンに食べ物を置いておくと、あっという間にアリがたかることがある。
中流層以上の家庭では冷蔵庫を使用し、食べ残しや調理中の食材はラップをかけて冷蔵庫にしまうが、フィリピンは買い置き文化が根付いているため、キッチンを清潔に保たないと、食べ物の匂いに引き寄せられた虫がすぐに集まる。
キッチンは家の中でも人が集まる場所であり、フィリピン人にとって食事はとても大切な時間だ。そんな場所が食べこぼしだらけで虫がいたら、不快に感じるのは当然だろう。そのため、キッチンは常に清潔に保つことが必須となる。
また、フィリピンで販売されている食器洗剤は、日本のものに比べて香りが強い。その理由の一つとして、「虫が石鹸の香りを嫌うため、強い香りを残すようにしている」という説もある。実際、洗い流しても香りがしっかり残るものが多く、「清潔なお皿=石鹸の香りがするもの」という認識が広まっているようだ。
食器用洗剤売り場
二つのキッチンを使い分けるフィリピンのキッチン文化
フィリピンのキッチン事情で特徴的なのが、「ダーティーキッチン」と呼ばれるスペースの存在だ。
メイド用の部屋には、メイドが生活するためのベッドやシャワールームがあり、そこにダーティーキッチンが備えられている。これは、買ってきた食材の下処理を行うためのキッチンで、野菜を洗ったり、骨つきの鶏肉をさばいたり、魚のウロコを取ったりする場所だ。「ダーティー(汚い)」という名前がついているが、実際に汚れているわけではなく、食材の下ごしらえをする場所という意味で使われている。
このダーティーキッチンとは別に、家の主人が使用するメインキッチンがある。こちらでは、お湯を沸かしたり、下ごしらえが終わった食材を調理したりするために使われている。
調理後の掃除はメイドが行うが、ダーティーキッチンは食材の処理を行うため油汚れや生臭い匂いが発生しやすいのに対し、メインキッチンはいつも清潔に保たれている。メイドは自分たちの食事をダーティーキッチンで作るため、主人のメインキッチンは使用しない。
この習慣は、コンドミニアムのような集合住宅でも見られる。メイド用の小さなキッチンが別に設けられ、主人とメイドがそれぞれのキッチンで食事を作る。
「最も清潔に保つべきだと思う場所」がキッチンという結果は、こうした二つのキッチンを使い分ける生活スタイルが関係しているのかもしれない。
ダーティーキッチンの写真
香りへのこだわりと海外製品へのステイタス
フィリピンZ世代は「いい香り」に対するこだわりが強い。洗剤や柔軟剤だけでなく、スーパーでは芳香剤やボディスプレーなどの香り付き生活用品が豊富に並ぶ。ショッピングモールに行くと、香水売り場が目立ち、多くの人が香水を愛用している。
興味深いのは、「強い香りで汗の匂いを消しているわけではない」という点だ。フィリピンでは気温が高く、汗をかきやすい環境にあるにもかかわらず、貧困層の人でも汗臭さを感じることが少ない。これは、彼らが日常的に清潔を保つ意識が高いためだと考えられる。
また、洗濯もこまめに行い、洗濯機がない家庭でも手洗いでしっかりと洗うため、衣類に匂いが残ることはほとんどない。
さらに、フィリピンでは「海外製品の香り=ステイタス」という価値観がある。例えば、先述のダウニー(Downy)柔軟剤の人気は、「海外ブランドの香りを身にまとうことが自分のステイタスになる」という意識があるようだ。海外製品を使うことが、単なる機能性の問題ではなく、「自分の生活レベルを示すもの」として捉えられている。
このように、フィリピン人の香りに対するこだわりは、清潔感だけでなく、自己表現やステイタスの象徴としての意味合いも強いといえる。
シャワー時に使用する、バス&ボディアイテム
ローカルの香水は手頃な値段で1個350ペソ(800円)
高級デパートの香水売り場
フィリピン人の入浴習慣
フィリピンでは、お風呂に入る習慣がない。一般家庭のバスルームにはシャワーはあるものの、バスタブが設置されていないのが一般的だ。そのため、日本のように湯船に浸かる文化はなく、「お風呂に入る」という概念自体が存在しない。
特に興味深いのは、東南アジアではよくある朝シャワー文化が根付いている点だ。
日本では夜にお風呂に入るのが一般的だが、フィリピンでは朝にシャワーを浴びてから通学や出勤するのが日常的な習慣となっている。旅行者が驚くのは、長い髪のまま濡れた状態で公共交通機関に乗るフィリピン人女性の姿。これはフィリピンではごく一般的な朝の光景だ。
この朝シャワー文化の背景には、気候やライフスタイルが影響していると考えられる。フィリピンは一年を通して暑く、湿度も高いため、朝シャワーを浴びることですっきりと目覚め、爽やかな気分で一日をスタートさせるという考え方が定着しているのだろう。
欧米ブランドの人気
フィリピン人は香りに敏感な国民性を持っているため、体臭対策にも非常に気を使っている。そのため、デオドラント商品の利用が一般的で、スーパーやドラッグストアには多くの種類のデオドラントが並んでいる。学生の場合、学校の自分用ロッカーに常備しているのが普通で、日常的に使用する習慣が定着している。
こうしたデオドラント製品の中でも特に人気があるのは海外、特に欧米ブランドの商品だ。ローカルの商品も存在するが、伝統的な方法として「タワス(Tawas)」と呼ばれるミョウバンの粉を使って汗の匂いを消すのが一般的だった。しかし、タワスは袋入りの粉状で使いにくいことから、より利便性の高いスプレーやロールオンタイプの海外製品が人気を集めている。
デオドラント商品も豊富
この海外ブランド志向は、化粧品やヘアケア製品にも当てはまる。フィリピン国内でもシャンプーやコンディショナー、化粧品の製造は行われているが、それらはフィリピン特有の植物を原料にした自然派系の製品が多い。しかし、消費者の多くは欧米ブランドを好んで使用している。その理由として、欧米ブランドはテレビやインターネット広告で頻繁に宣伝されていること、そしてフィリピンが英語圏であり、アメリカ文化の影響を強く受けていることが挙げられる。
調査結果からも、フィリピン人はアメリカなど海外のブランドを好む傾向が強いことが明らかになっている。これは、単なるブランド志向ではなく、「欧米ブランドの方が品質が良い」という認識や、ステータスシンボルとしての側面もあると考えられる。
フィリピン人の香りに対する感覚
フィリピンでは、日本人にとっては香りが強すぎると感じる商品も多い。しかし、フィリピンZ世代にとってはそれが普通であり、むしろ心地よい香りとして受け入れられている。これは、国民全体が香りを重視する文化を持っていることの表れでもある。
フィリピン市場向けの商品は、現地の嗜好に合わせて特に香りを強くしたものが販売される傾向がある。例えば、洗剤、柔軟剤、ボディソープ、シャンプー、香水などの日用品は、欧米ブランドのものでもフィリピン仕様として香りを強めたバージョンが流通していることがある。
Global Viewerとは
インテージがストックする11ヵ国(アジア・US)の生活者の様々な実態・意識に関するアンケートデータを用いて、ご課題に応じたレポートをご提供するサービス。
カバーしている項目は、各種商品・サービスカテゴリー(※)に関する行動実態・意識、価値観・情報接触など400項目に及ぶ。
※カテゴリー例:
食品・飲料、パーソナルケア・化粧品、ハウスホールドケア、育児・介護、モビリティ、家電、スマートホーム、住宅、エンタメコンテンツ(ゲーム・音楽等)、金融、保険、旅行(訪日)、オンラインサービス 等
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執筆者プロフィール
TNCライフスタイル・リサーチャー
フィリピン人の夫とマニラ首都圏で生活。朝、黒髪をなびかせながらジープニーに乗るフィリピン女性が、フィリピンの風物詩だと思っている。
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編集者プロフィール
チュウ フォンタット
日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。Global Market Surferのサイト作りを担当。
- 2025/04/03
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