インドにおける家族のカタチ 拡大家族 vs 核家族
2023年の推計(国連経済社会局)で、世界最大の人口大国となったインド。また、国際通貨基金(IMF)の推計では、2025年には名目GDPが日本を抜き、世界4位に浮上する見込みだ。成長段階にあることもさることながら、インド政府が掲げている「メーク・イン・インディア」(製造業振興政策)の後押しもあり、日系企業も同国に対して熱視線を注いでいる。
そんなインドは、世界各国と比較すると家族人数が多い傾向にあったが(参照 )、近年、都市部を中心に核家族が増加傾向にあり、伝統的な拡大家族からの変容が生じ始めている。世帯構成の変動により購入決定者が変化したり、世帯人数が少なくなることで購入されるものの変動が想定できる。そこで本コラムでは、インドの「拡大家族」と「核家族」 を、インテージの海外生活者ビジュアルデータベース「Consumer Life Panorama(通称:CLP)」の実際の現地生活者の写真を使いながら比較・考察する。
本コラムでは、世帯人数が6人以上を「拡大家族」、世帯人口が3~4人を「核家族」として、Consumer Life Panorama(以下、CLP)に登録されている拡大家族14世帯、核家族57世帯の家の中の持ち物や、家の造りなどを比較していく。なお、全体としての傾向を見るため、収入やSEC (Social Economic Classification、社会経済クラス)、居住地域については不問としている。
拡大家族と核家族の食生活はどう違う?
まず初めに調味料や冷蔵庫の中身、電子レンジなど、キッチンまわりの様子を観察していく。1世帯の人数の差、つまり胃袋の数によって、食事まわりに差異が生じることは容易に想像できる。
調味料、食用油
拡大家族では、調味料は大きめな容器に移して保管されており、食用油については一斗缶に入ったものを使っている家庭が見られた。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
容器に移された調味料・スパイス(左)と一斗缶に入った食用油(右)
一方、核家族の世帯では、拡大家族と比較すると調味料の保管容器がやや小ぶりで、既製品の調味料の容器をそのまま使用している家庭も見られた。食用油は、大小さまざまなサイズの容器が見られ、材質はボトルや金属製の入れ物、袋とさまざまな包装形態が見られた。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
既製品の調味料入れ(上段左)金属製の食用油入れ(上段中央)さまざまなサイズの容器(上段右)
食用油入れ/プラスチック製(下段左)・金属製(下段中央)袋タイプ(下段右)
冷蔵庫・冷凍庫の中身
次に冷蔵庫・冷凍庫の中身を見ていく。
拡大家族の冷蔵庫・冷凍庫は、家庭内で使用しているであろう食器に入った食品が多く、ドアポケットに既製品の食材が収納しているように感じる。また、世帯間で差異はあるものの、全体的に冷凍庫はあまり活用されていないのではと思うほど中身が入っていない様子がうかがえる。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
拡大家族の冷蔵庫(左2枚)と冷凍庫(右2枚)
核家族でも拡大家族と同様に食器で食品を保存しているが、核家族の方がより既製品を冷蔵庫に入れていると感じる。特に核家族特有と見られるのは、既製品の清涼飲料水・ジュース類で、容器に入った水も核家族の方が多いことが見てとれる。冷凍庫は、一部の拡大家族同様に活用していない世帯も見られるものの、使用している世帯は入っているものが多く、核家族では日々の食生活に冷凍保存もうまく活用している様子が見られる。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
核家族の冷蔵庫(左2枚)と冷凍庫(右2枚)
なお、電子レンジの普及率に関して、CLPに登録されている各世帯に紐づいた電子レンジの画像枚数で比較すると、拡大家族より核家族の方が電子レンジの普及率が高い。世帯構成人数が少ないことから家事の負担を減らすために、より簡便な方法(冷凍や電子レンジでの加熱)を取っているのではと考えられる。
キッチン
調理や食事に関わる内容として、最後にキッチンの違いについて触れる。
両家族共に対面式キッチンが多く、コンロ、作業台、水回り・シンクという構成がI字、L字、コの字のいずれかに配置されている。また、コンロはホースが見えるためガスコンロが主流と見ている。また、一部の家庭ではキッチン内に洗濯機が置いてあり、ランドリールーム・物干しスペースが隣接している。全体の傾向としても、ドアが付いたクローズキッチンが多く、また比較的玄関から遠い位置に配置されていることから、各家庭の「プライベート空間としての部屋」という側面があることが推測される。
キッチンの様子を見ると、キッチン戸棚の扉やシーリングファンの有無で家庭間の違いを見ることができる。これらを備え付けたキッチンは核家族の方が多いように見うけられる。核家族がこれらの機能を求める背景として、どのような価値観の変化があったのかは考えるに値するのではと感じる。
また、キッチン戸棚の扉があったとしても、香辛料やスパイスは扉の無いラックに置かれていることから、収納を始めとしたキッチンの構造や使用頻度・量などから展開するサイズを検討する必要があるようにも考えられる。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
拡大家族_扉無し(左)、核家族_扉有り(右)
洗濯関係
次に、世帯の構成人数が変われば、毎日の洗濯物の量にも変動があることが予想できる。洗濯事情を見ていこう。
洗濯用洗剤
まず初めに洗濯用洗剤は、一部固形石鹸を使用している家庭もあるが、大別すると「粉」と「液体」に分かれる。ちなみに、粉・液体洗剤と一緒に固形石鹼が映っているため、併用して使用していると考える。サリーを始めとする装飾の多い衣服は固形石鹸で手洗いしているようだ。傾向として、拡大家族は「粉」を、核家族は「液体」を好んでいるように感じる。また、粉の場合は容器に移し替えている家庭が多く、液体洗剤の容器よりも大きい傾向がある。なお、柔軟剤は両家族共に液体の物が好まれている。
CLPの写真から、販促パッケージの物が多くみられ、またストックされている分量についても日本人の感覚からすると多く感じる。もしかすると、プロモーション・セールの時に買いだめをしているのではと考えられる。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
拡大家族の洗剤(左)、核家族の洗剤(中央・右)
洗濯機
両家族の所有洗濯機を見るに、縦型洗濯機と二層式洗濯機が割合として多そうではあるものの、核家族においてはドラム式洗濯機が複数の家庭で見られた。
市場においてはどうか、という点でインドのAmazonにおけるプロモーションページを見たところ、一部に二層式はあるものの、主に販促対象になっているのが縦型・ドラム式である。また、価格帯の傾向としてドラム式が最も高価で、次いで縦型、二層式の順に安価になっていく。Semi-Autoの二層式に対して、縦型・ドラム式はAutomaticと対比されており、洗濯以外の付帯機能として縦型はより強力な洗浄効果、ドラム式はヒーター内臓による乾燥機能やAIアシストなどが特徴として紹介されており、ドラム式の方がより先進的であるという見せ方をしている印象を受ける。
これらのことから、インドの洗濯機市場においてはAutomaticへの端境期であり、特に核家族世帯では洗濯機購入時に、二層式よりも手間がかからない縦型・ドラム式洗濯機を選んでいるのではと捉えている。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
拡大家族の二層式洗濯機(左)、核家族の縦型洗濯機(中央)、核家族のドラム式洗濯機(右)
物干しスペース
濡れた洗濯物を乾かす場所としては、両家族共にベランダやバルコニー、屋上が中心である。干し方は、張った紐や窓・開口部の面格子に直接洗濯物をかけるのが一般的で、ハンガーを使用している家庭はかなり少数派に見える。一部の室内干しの核家族家庭もいるものの、両家族共に屋外干しが大多数である。
出典:インテージ Consumer Life Panorama
拡大家族の干し方(左)、核家族の干し方(中央・右)
最後に
衣食を中心としたインドにおける拡大家族と核家族の違いについて触れたが、いかがだっただろうか。私個人としては、伝統的な拡大家族から現在増加中の核家族と並行して、慣れ親しんだものと新しいものが比較され、市場が動いている様子が垣間見えたと感じている。
今回、このコラムで引用したConsumer Life Panorama(CLP)では、各国生活者のビジュアルデータを豊富にストックしている。これらのデータを用いて、カテゴリーの使用実態をリアルに把握したり、ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解したりと、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能だ。現地での調査の前に一度覗いてみることで、より明確に生活者の輪郭を掴むことができるツールとなっている。
ターゲット生活者のことが想像しづらい海外市場だからこそ、ビジュアルデータ等を用いながら、より鮮明な海外生活者の理解・海外マーケティングプランニングを行うことが重要ではないだろうか。
Consumer Life Panoramaとは
世界18カ国1,000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者理解に役立つ。
詳細はこちら。
本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。
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執筆者プロフィール
植田 匠
国内外問わず、耐久財メーカー様を中心としたマーケティング・リサーチに携わる。海外渡航時にはスーパーに赴き、そのエリア在住者を観察したり、陳列されている商品のパッケージデザインから嗜好性を紐解くことに面白みを感じる。
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編集者プロフィール
高浜 理沙
日系のFMCGメーカー(化粧品、ベビー用品、食品・飲料等)のアジア・欧米でのマーケティング・リサーチ支援に従事したのち、2019年より現職にて、日系企業の海外マーケティング・リサーチのためのソリューション開発や、セミナー等の対外発信を行う。
子どもが生まれてからは、家族と自身の心身の健康をいかに保つかが最大の関心事で、様々なグッズ・サービスを試している。
- 2025/05/12
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