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<駐在員コラム>タイ人の訪日インバウンド ― 地方への旅行とSNS

2025年2月にタイ・バンコクでJapan Expo 2025が開催され、最近の日本に対する現地での熱量、注目トピックなどを見るために見学に訪れました。Japan Expoはバンコク最大の中心街であるサイアムのCentral Worldというタイ有数のショッピングモールで開催される、アジア最大級の日本に特化したExpoで、日本からは亀梨和也さんなど、日本・タイのポップミュージシャンが多数出演するステージを中心に毎年大きな賑わいを見せています。
タイで常に人気のあるサブカルチャーや日本食への注目に加え、今回特に目を引いたのは日本旅行に関するブースや、そのブースに集まる人の多さです。

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最近は円安も追い風となり、タイ人の日本旅行は2024年に約115万人と増加傾向で、2026年にかけて過去最高となることが期待されています。 これからのインバウンド・マーケティングにおいて、親日度が高く、東南アジアの中で経済力も高いタイは目が離せない存在です。

近年のタイ人の訪日旅行の特徴として、東京、京都、大阪といった主要都市だけではなく、地方の観光地にも足を運ぶ傾向が見られます。今回のJapan Expoでも、日本の地方自治体 が積極的に出展し、日本旅行時の旅行先に選んでもらえるようなアピールをしていました。
(いろいろとブースを工夫してアピールされていましたが、一緒に行ったタイ人スタッフの感想としては、普段聞き慣れない地方観光地の情報はなかなか印象に残りづらいようで、実際に足を運んでもらうためには、かなり強いインパクトを残す必要がありそうです。)

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実はインテージ・タイにおいても、最近日本旅行をしている人が多く見られるのですが、行き先を聞いていると、地方都市や、少し意外な旅行先に行っている傾向があります。インテージ・タイ社員へのミニ・インタビューを行ったので、いくつか実際の例をご紹介します。

■Sirinateさん

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FMCG領域:日本語対応チームのディレクター

・訪れた地方旅行先:小樽(北海道)
・旅行時期:2025年春
・旅行先を決めたきっかけ:
 夫がタイのYouTubeで小樽の「青塚食堂(食堂/民宿)」というところが紹介されているのを見て、行きたいと言った。
・日本で買ったもの:
 三井アウトレットでのショッピング(ナイキ/アディダスの靴、スポーツウェア、バス・スキン&ボディ用品)、ガチャポン・おもちゃ(子供のため)など。
・日本旅行で好きなところ:
 安全性。人々が親切。円安の影響で、欧米に比べると旅行費が格段に安い。
・日本旅行で好きではないところ:
 旅行客が多い。朝食の終わる時間が早い。運転しやすいが、高速道路料金が高い。

■Topさん    

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FMCG領域:英語対応チームのディレクター

・訪れた地方旅行先:小原(愛知県)
・旅行時期:2024年秋
・旅行先を決めたきっかけ:
 紅葉で有名な場所を自分で(Web)調べた。あまり他のタイ人旅行客が多いところに行きたくなかった。  京都から東京への移動の途中で立ち寄った。
・日本で買ったもの:
 東南アジアの他の国では手に入りにくいブランド品(The Row, Guerlainなど)にかなりお金を使った。秋葉原で、ディズニーのコレクターグッズを買った。抹茶パウダーのサプリ。
・日本旅行で好きなところ:
 安全性。食事や買い物を楽しめる。
・日本旅行で好きではないところ:
 英語がもっと通じれば便利。

■Naoさん

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FMCG領域:日本語対応チームのアシスタント・マネージャー

・訪れた地方旅行先:九州(熊本県、宮崎県など)
・旅行時期:2024年冬
・旅行先を決めたきっかけ:
 高千穂をSNS(YouTube、Facebookなど)で見て、きれいだと思い、九州も行ったことがないので九州を旅行してみたいと思った。
・日本で買ったもの:
 日本コスメ(KATE、KISS ME、Cezanne、Canmake、Curel、Koséなど)
・日本旅行で好きなところ:
 美味しい食べ物と、きれいな景色。
・日本旅行で好きではないところ:
 人気の飲食店では、たいてい長い行列に並ばなくてはならない。

「買ったもの」については、日本において意外と欧米ブランドを購入していることも印象的です。Topさんによると、タイでは最新トレンドの欧米ブランドはタイよりも先に日本に入ってくることが多く、日本の方が品揃えが良いため、特にトレンドの先端を行くタイの消費者は日本でそういった消費行動をするそうです。

もう 一点の注目ポイントは、みんなYouTubeなどSNSで旅行の情報を熱心に調べていることだと思います。
実際の具体的なチャンネルも教えてもらいましたが、タイでは日本よりもはるかに、登録者の多い旅行系のYouTubeチャンネル・コンテンツが充実していることに驚きました。特に「日本旅行」だけに特化したコンテンツで多くの登録者数を獲得しているチャンネルがいくつかあることもすごいです(下にいくつかご紹介します)。
日本では海外旅行の特定エリアに限定したYouTubeチャネルで大きくなっているものは現状見当たりませんので、これは大きな違いです。(タイではなぜ日本に比べ旅行系のYouTubeコンテンツが多く、かつ人気かというのは非常に興味深いですが、その理由については本題から逸れますので今回は割愛します。)

■Krobkrueng Japan(日本のすべて):チャンネル登録者数37万人/日本旅行コンテンツのみに特化
人気の動画:どらえもん・のび太の家を探す

■KINYUUD:チャンネル登録者数20万人/日本旅行コンテンツのみに特化
人気の動画:日本最大の蚤の市

■Pigkaploy:チャンネル登録者数176万人/海外旅行全般に関するコンテンツ
人気の動画:北海道で長ネギ収穫体験

人気の動画を見ると、かなりマニアックな内容が多いです。こういったことからも、タイ人の主な興味が浅草、金閣寺、清水寺などの超有名な観光スポットは通りすぎていることが窺い知れます。

タイ人はSNSに影響を受けやすく、また日本人と違って流行を真似することを恥ずかしがらず、自分も同じことをしてSNSに載せ、さらに流行が拡大する、といったことが起きやすい傾向があります(最近はタイ人の間で、ハローキティの着物を着てSNSにアップするのが話題になっています)。
それと相反するようではあるのですが、同時に他の人が行かない特別なところに行きたい(知りたい)、特別なことをしたい、特別なものを買いたいという気持ちもあるので、今後も日本旅行における新しい意外な流行が次々と生まれて(そして消えて)いくでしょう。

今回は、タイ人の訪日インバウンドに関するトピックを紹介させていただきました。 タイ人のインバウンドでの消費行動を考える上での、ご参考になれば幸いです。


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    牧野 知広

    インテージタイ駐在員。インテージ日本で様々な領域・手法の海外調査に従事し、その後2023年にタイに赴任。特に海外オンライン調査の経験が豊富で、得意にしている。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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