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【アジア各国の国民性】オーストラリア編:マイトシップに根ざした国民性と共存型ライフスタイル

オーストラリアの国民性を語るときに欠かせないキーワードのひとつが「Mateship(マイトシップ)」である。英語で仲間を意味する「メイト(mate)」だが、オーストラリアでは「マイト」と発音されることが多い。この言葉には、単なる友情よりも深く、人や自然との共存を前提とした社会の「暗黙の了解」のような精神が込められている。

もともとマイトシップとは、19世紀の植民地時代、厳しい自然環境や戦場で互いに支え合った経験から生まれた言葉で、困ったときは力を貸し合い、自然や社会の中でお互いを思いやる精神を指す。直訳すると「仲間意識」だが、単なる友情というよりも、より深く、おおらかなニュアンスで捉えられている。

このマイトシップは、人と人との関係にとどまらず、「人と自然」との関係にも深く根を下ろしている。とりわけ「海との共存」は、オーストラリアの暮らしの根幹にある。サーフィンやダイビングを楽しみながら、美しい海を守ることにも積極的に関わろうとする姿勢は、まさにマイトシップの延長と言えるだろう。

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画像出典:Pixabay


1.G’day Mateの挨拶で感じる、人と自然を思いやる仲間意識

シドニーで暮らしていると、「マイトシップ」という言葉が決して抽象的な理想ではなく、日常に浸透していることを実感する。そんな日常を象徴するのが、「G’day, Mate(グッダイ・マイト)」という挨拶。

G’day は「Good day」(こんにちは)の省略形、Mate はオーストラリア英語で「友達」「仲間」を意味する。親しい人にも、初対面の人にも気軽に使えるカジュアルな挨拶で、「私はあなたの仲間だよ」という、オーストラリアらしいフレンドリーな空気感が漂う。

オーストラリアでは、見知らぬ人にも笑顔で「G’day Mate」と声をかける。その挨拶がきっかけで、カフェや公園で思わぬ立ち話に発展することも少なくない。そこには、上下関係やバックグラウンドの違いを超えたフラットな関係性と、「同じコミュニティの一員」という意識が込められている。こうした「仲間意識に支えられた関係性」は日常のさまざまな場面で見られ、ビーチでもその姿勢は変わらない。

週末のビーチでは、海辺にいる人たちが自然に声をかけ合い、日焼け止めを貸したり、サーフボードや水着を褒め合ったりする光景がよく見られる。そこにあるのは、「同じ海を共有する仲間」としてのコミュニケーションだ。また、誰もが当たり前のように自分のゴミを持ち帰り、子どもたちが遊びの延長でビーチクリーン(海辺の清掃)に参加している。こうした行動の一つひとつが、仲間や自然への敬意を物語っている。

さらに、スーパーマーケットやドラッグストアを訪れると、海への優しさや仲間意識といった価値観が日常の買い物にも反映されていることが分かる。

商品ラベルに記された「Reef-friendly(リーフフレンドリー)」や「Ocean safe(オーシャンセーフ)」といった海を守る言葉は、差別化のためのキャッチコピーではなく、環境に配慮した商品づくりにおける当然の配慮として受け止められている。人も自然も、自分たちのコミュニティの一員として尊重する――そんなマイトシップの価値観が、この国の文化やビジネスの根底に溶け込んでいる。

2.肌を守るだけでなく海も守る「リーフフレンドリー」の日焼け止めクリーム

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画像:筆者の知人撮影

強烈な紫外線にさらされるオーストラリアでは、日焼け止めは一年を通じて欠かせない生活必需品となっている。オーストラリアの消費者は「肌を守る」だけでは満足せず、環境やコミュニティへの影響までを考慮し、「海にも優しい」選択をするという意識が広く浸透している。

スーパーマーケットやドラッグストアには、「Reef-friendly(リーフフレンドリー)」を掲げた日焼け止めクリームが数多く並び、環境配慮型の商品を気軽に購入することができる。「Reef-friendly」とは、サンゴ礁に有害とされるオキシベンゾンやオクチノキサートなどの成分を含まない処方を意味し、現在では日焼け止めのスタンダードとして定着している。

世界最大級のサンゴ礁、グレートバリアリーフを抱えるオーストラリアでは、海の豊かさが生活や観光、経済と密接に結びついている。そのため、「海を守ることは、自分たちの暮らしを守ること」という共通認識が国民の間に根付いており、こうした意識が購買行動の基盤にもなっている。サーファーやダイバーといったアクティブ層に限らず、一般市民の間でも環境に配慮した商品を選ぶ意識は高い。
現地で人気の日焼け止めメーカー「Bondi Sands」や「SunButter」は、環境への配慮や使いやすさといった特徴が評価され、幅広い層の消費者に支持されている。

Bondi Sandsは、シドニーの有名ビーチ「ボンダイビーチ」の名を冠し、「砂・海・太陽(Sand, Sea, Sun)」と共存するライフスタイルを届けることを理念とするスキンケアメーカーだ。

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画像:筆者撮影

サステナブル素材を使ったパッケージの開発やリサイクル可能なボトルの導入を進めるほか、廃棄物削減や再利用を意識した製造プロセスにも力を入れている。また、肌質や用途に応じて選べる幅広いラインナップを展開しており、日常使いからアウトドア向けまで、目的に応じて最適な製品を選べる点も大きな魅力となっている。

SunButterは、オーストラリアのサーファーたちが、海や自然への愛情をもとに立ち上げた日焼け止め専門ブランド。製品には自然由来の成分を使用しており、肌へのやさしさと環境への配慮を両立している。

また、廃棄物削減や再利用を促す目的で、プラスチックではなく耐久性の高い金属製ケースを採用している点も、他社との差別化につながっている。さらに、売上の一部は海洋保護プロジェクトや環境保護団体に寄付される仕組みとなっており、製品を手に取ること自体が「海との共存」を意識した行動へとつながっている。

3.オーストラリアで広がる環境配慮型ランドリー習慣

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画像:筆者撮影

家庭で使う洗濯用洗剤にも、海洋環境への配慮意識が表れている。スーパーマーケットの洗剤売り場では、「biodegradable(生分解性)」「grey water safe(再利用水でも安全)」といった表示が並び、マイクロプラスチックやリン酸塩を含まない処方が一般化している。

人気メーカーの「ecostore」や「Earth Choice」はその代表格で、いずれも「海洋生物に害を与えない」「水に戻っても安心」というメッセージを掲げている。

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画像:筆者撮影

ニュージーランド発の「ecostore」は、掃除用品やスキンケア、オーラルケアなど幅広い製品を展開している。洗濯用洗剤では、植物由来や鉱物由来の成分を使用し、環境への負荷をできるだけ抑える処方が特徴だ。

また、ボトルにはサトウキビ由来のプラスチックや再生プラスチックを採用し、濃縮タイプの導入により、水やプラスチックの使用量も削減している。こうした取り組みは、消費者が環境に配慮した選択を日常生活に取り入れるきっかけとなっている。

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画像:筆者撮影

「Earth Choice」は1981年から「環境への負荷を抑えつつ、性能も妥協しない」製品づくりを続けてきた。

ボトルには100%リサイクル素材を使用し、植物由来の洗浄成分を採用。製造工程でも再生可能エネルギーを取り入れるなど、持続可能性の追求が徹底されている。
さらに、カーボンオフセットを行う非営利団体「Carbon Positive Australia」とパートナーシップを結び、オーストラリア国内での在来樹木(ネイティブツリー)の植林プロジェクトを支援。CO₂の削減や生物多様性の保護にも貢献している。

ポップなパッケージデザインと、洗いあがりのナチュラルな香りも魅力で、筆者の家庭でもセール時にまとめ買いする定番ブランドの一つとなっている。

シートタイプの洗濯用洗剤(ランドリーシート)も急速に普及している。軽量かつ省スペースで非常に便利なことから、「エコ」な選択肢であるだけでなく、日々の生活における合理的な選択肢としても定着しつつある。

1回分がシート1枚で完結するため計量の手間がなく、収納や持ち運びも簡単で、旅行先や出張先で使用するという声も聞かれる。

また、液体洗剤のようなプラスチックボトルを必要としないため、廃棄プラスチックの削減につながり、海洋環境や資源保護の観点からも大きなメリットがある。軽量であることから輸送時のCO₂排出量も抑えられるため、環境配慮と利便性の両立が図れる製品として高く評価されている。

4.消費者の共感を生む「誰かのため・何かのため」の視点

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出典:PhotoAC

オーストラリアの国民性には、「仲間を思いやるように自然を大切にする」というマイトシップの価値観が広く浸透している。現地の消費者にとって、海の環境に配慮した商品を選ぶことは、意識的な「エコ行動」というよりも、仲間や自然、次世代の暮らしを守る日常のマナーに近い感覚だ。

オーストラリア市場で消費者の共感を得るには、環境や社会への配慮を「日常生活や購入体験の中で具体的に感じられる形」で示すことが重要である。広告や商品開発においても、この視点を反映させることで、消費者の行動や選択により大きな影響を与えることができる。

「エコ」や「サステナブル」といった言葉だけでは響きにくい一方で、「誰かのため・何かのため」という温かい視点が、オーストラリアの人々の心に届きやすい。マイトシップの精神に根ざした思いやりを意識したマーケティング活動は、オーストラリア市場において、新たな広がりを生み出す可能性を秘めている。



  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    2001年よりオーストラリア・シドニー在住。幼児教育業界を経て、オーストラリアのトレンドやライフスタイルに関する取材・執筆・市場リサーチを行っています。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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