<駐在員コラム>【タイ】日本人が知らないGrabによる流通革命の今
- 公開日:2019/12/02
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2. 改めて、今。Grabとは何なのか
Grabとはヒト・モノ・カネ・情報の効率的移動を実現する“魔法の生活インフラ”である、とあえて言わせて欲しい。当初、ライドシェアとしての機能から始まったGrab。Uberのようなタクシーアプリという言い方の方が分かりやすい向きもあるかもしれない。Grabはクルマを所定の場所に呼び、アプリ上で予め自分が指定した場所までの移動を、従来のメータータクシーでは必ずしも充分ではなかった明朗会計と共に実現した。日本人向けの旅行ブログ等で紹介されているのはほぼこの機能だけだが、これはGrabの重要な機能ではあるものの、氷山の一角にしか過ぎない。現在Grabで予約出来るヒトの移動手段としては、普通のTaxiは当然として、一般人の運転する自家用車、バイクを始め、BMWのような高級車、SUVはおろか、シートがそのまま車椅子として利用できるような福祉車両まである。そして、ついに運転手をオンデマンドで呼ぶことも出来るようになった。 Grabはこちらから出向かなくても、向こうからモノが届けられる仕組みをも提供している。Grabのサービス名としてはGrab Food、Grab Grocery、Grab Deliveryと呼ばれ、とりわけ忙しく働き時間効率を重視する人々の多い都心部において、もはや必要不可欠と言っても良い程身近なものとして多く利用されている。
実際、Tops等のようなスーパーマーケットはGrab Groceryに“出店”している。Grabを使えば、実店舗に行かなくてもTopsで売っている商品は生鮮食品を中心に買うことが出来る。しかも配達時間帯まで指定が可能だ。居住地付近の実店舗を指定して、その店にGrab経由で注文をすれば、Grabの配達員が品物を届けてくれるという仕組みとなっている。しかし、この場合は店舗数の多寡が利用者の利便性を大きく左右してしまう。店舗数が少なくても消費者にとっては魅力的な品揃えの店であれば、あるいは、店舗は持たないが魅力的な商品を製造しているメーカーであれば、Grab Foodのように“ゴーストショップ”、つまりGrab Foodで言うところのキッチンに相当する倉庫機能を持つことによって、Grabを通じてより多くの消費者とのタッチポイントを得ることが可能になるだろう。 私はこれを確かめたくて自主調査を行った。弊社の調査結果によれば、Grab Groceryの利用率はまだ10%ほど。(図表1)
図表2
また、ハイネケンはGrabと提携してビールの宅配サービスを9月に発表している。メーカー直販モデルはGrabで現実のものとなっているのだ。 カシコン銀行の口座を保有していればGrabのキャッシュレスサービスGrab Pay Walletを利用することが出来る。今後Grab Pay Walletが使える店舗やサイトが増えるに従い、Grab FoodやGrab Taxi等以外のデータも解析対象となり、より消費者の利便性が増す可能性が高まることが期待できるであろう。
7. 最後に
このように、Grabによって人々の生活スタイルは大きな変化を遂げている。これまでは主にヒトの移動手段に過ぎないと思われていたのかも知れない。が、とりわけモノと情報のモビリティという観点で、今後Grabが果たす役割は大きいと考える。無店舗であってもGrabを通じて商品を消費者に届けられる可能性については、大いに検討の余地があると思うが、その前提として店舗自体の知名度は重要となる。所謂ショーケースとしての旗艦店はどうしても必要であろう。また、それとは別にGrab Taxiや Grab Carの車内におけるサンプリングという手法の可能性は、とりわけ新商品については今後Grabのサービスとして登場してもおかしくない。Grab Regiは個人的にとても期待が高い。これはこれで流通革命とはまた別次元のデータ革命の可能性を帯びており、Grab Pay Walletと併せて今後注目をしていきたいと思う(まだ空想レベルだが)。-
執筆者プロフィール
青葉 大助(あおば だいすけ)
タイ在住40代男性リサーチャー。過去に訪問した調査実施国数は30か国以上。当該国の消費者にとってのベストを求め、常に彼らの気持ちに寄り添うことを信条としている。 1日約1000回閲覧される自身の世界グルメ投稿もタイを中心に意欲的に継続している。
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