<駐在員コラム>【インド:地球の暮らし方】インドのキッチン事情
インテージでは各国のくらしの様子をコラムでお伝えしているが、今回はインドのキッチン事情について、写真を交えながら紹介していきたいと思う。
インド風水に則ったレイアウト
風水と聞くと中華圏の文化と考える方も多いと思うが、インドでもVastu shastra (ヴァーストゥ・シャーストラ)とよばれる建物や部屋の方角、家具の置き方などに関する考え方・風習が存在する。例えば、神棚などは北東、家長などの主寝室は南西がいいとされる。この考え方によると、キッチンは火をつかさどる位置とされる南東か、その対面の北西に配置するのがいいとされている。細かいルールに差異はあるが、方角から運気を高めるという考えがインドにもあるという点は興味深く感じる。
インドのキッチンの様子
さて、ここからはインドのキッチンに一般的におかれているものを見ていきたいと思う。インド料理と言えば、スパイス。どの家庭も数十種類のスパイスを棚・冷蔵庫などに収納している。よく使うスパイスに関しては、マサラケースに保管し、調理時に出し入れの手間を省くと言って工夫をしている。スパイスミックスも販売されているが、母の味・家庭の味を好む人が多いため、一般的には料理に合わせてスパイスを調合している。
野菜の保管方法については、かなり個人差・地域差があるように感じる。デリーのように冬場に気温が下がるエリアでは、夏の暑さをしのぐために、床材として石が使われているため、冬場は外気温と比べて室内温度は低くなる。そのため、冬場は野菜を常温で保管する家庭がみられる。その一方で、ムンバイのように年間を通じて温暖な地域では、葉物野菜などを冷蔵庫に保管する家庭が多い。ムンバイ地域の富裕層の中でも、特に意識が高い生活者は、野菜の鮮度を保つために野菜バックに入れるなど工夫を凝らしている。
冷蔵庫・冷凍庫に保管されたスパイス(左)・野菜室でネットや袋に含まれた野菜(右)
※写真出典:筆者撮影
また、調理器具でいうとインド(特に北部)の主食であるチャパティを作るための用品(平たいフライパン・麺棒(ベルナ)・大理石の打ち台・保温ケース)は各家庭に置かれている。日本人がおにぎりを握るのと同じような感覚だろうか、主婦など家庭で料理を担当する人は、朝から家族の朝食・ランチのために何枚ものチャパティを焼くのだが、その手つきは非常になれたものである。
キッチングッズの数々
※写真出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
インテージインドのスタッフがチャパティを作る様子
インドの水道事情
インド旅行をしておなかを壊したという話をよく耳にするからか、インドでは水道水を飲んでいるのか、といった質問を受けることがある。ある程度の生活水準になると、答えはNoである。政府は水道水の浄化技術が進んでいるので、衛生的には口にして問題ないとアナウンスしているものの、インドの水は超硬水のため軟水化しないと飲用・料理用に適さない。そのため、多くの家庭ではROユニットと言われる浄水器を設置し、飲用水・料理などはこの水を用いている。
また、水回りでいうと、昨年からのコロナの影響で富裕層を中心に食洗器の販売が好調というニュースをよく目にした。ただ、洗剤だけで洗うと食器に白残りしてしまうため、食洗器用の食塩を洗剤に追加して洗う必要がある。生活者の“もう一手間“を簡便にするような商品を開発できたら、洗剤メーカー・家電メーカーにとって大きなビジネスチャンスになるのではと感じている。
キッチンに置かれたRO浄水器
※写真出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
食器洗い機用の塩(写真出典:筆者撮影)
キッチン設備
インドの家庭ではキッチンの換気扇・チムニーなどは設計段階から設置が検討されているケースは少なく、集合住宅では一般的には引き渡し後などに住人が後付けをするケースが多い。そのため、キッチンの窓の一部をはめ殺しにして、換気扇やチムニーをつけているご家庭をよく目にする。我々日本人の感覚からすると、はじめから換気扇用の穴を用意しておけばいいのにと思ってしまうが、換気扇をつけるかどうかも買い手次第、買い手が必要だったら工事をすればいい、というのがインドらしい思考回路だと感じる。
窓に設置された換気扇
※写真出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
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執筆者プロフィール
中村 亮介(なかむらりょうすけ)
インド駐在歴3年の間、ムンバイ、デリー、バンガロールにそれぞれ1年ずつ滞在。プロジェクトを通してインド全土の習慣、文化に触れてきたインドのエキスパート。ロックダウン中もインドに残り、現地の生の情報を顧客に届けている。
- 2021/08/19
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