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<駐在員コラム>【インド】モーターショーAuto expo 2023視察レポート

◆ EV+α

 今回のAuto Expoにおいて、主要メーカーはEVの現行車・コンセプト車を多く展示していた。それに加えて、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、水素エンジン、燃料電池車、エタノール・フレックス燃料など、多様な次世代のパワーユニットの展示がみられた点に、本Expoの特徴があったと思う。
 例えば、トヨタはInnova HycrossやHyryder、Camryなどハイブリッドモデルの展示に加えて、xEVコーナーを大々的に設けいた。そこでは、水素エンジンのカローラクロス、燃料電池のMirai、プラグインハイブリッドのプリウス、エタノール・フレックス燃料車のカローラ、バッテリーEVのRZ4Xを展示し、多様な電動車のラインナップとその技術力をアピール。また、既にEVモデルのZS EVを投入しているMGモーターも、プラグインハイブリッドのeMG6・eRX5、燃料電池車のEUNIQ7などEV以外の選択肢を提案していた。このMGのパビリオンは、全体的に草木の装飾を多く配し、グリーン・エナジーをより訴えている様に見えた。代替エネルギーの展示は乗用車だけにとどまらず、商用車セグメントでも見られ、Tataは水素エンジンのバス、Eicherは燃料電池やLNGハイブリッドの大型トラックをEVに加えて展示し、排ガス削減に向けた活動を訴求していた。

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 写真:トヨタの展示車両(筆者撮影)

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 写真:MGの展示車両(筆者撮影)

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 写真:Tata・Eicherの展示車両(筆者撮影)

 特に、エタノール燃料に関しては、環境保全・エネルギーの自給・農民の所得増加の観点から、政権が注力している領域となっている。そのため、Ethanol Pavilionが用意され、インド地場・日系メーカーなどが協賛企業としてモデルを展示していた。

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 写真:Ethanol Pavilionの様子(筆者撮影)

 アフターコロナで経済活動が回復してきているインドでは、デリーを中心とした北部で深刻な冬場の大気汚染が戻ってきてしまった。著者もコロナ前にデリーに住んでいた時期があるが、その時に感じたのと同じような、空気のにおい、息苦しさを久しぶりに体感した。インドでは経済成長を持続することだけでなく、環境汚染対策、特に大気汚染対策は喫緊の課題であり、EVは対策の1つとして期待されている。しかし、充電設備などのインフラ面が十分に整っていないなどの課題から、特にEV4輪の普及が進んでいない。そのような状況下で、EV以外の選択肢を提示して消費者を教育していくことの重要性をメーカー各社意識しての展示だったのではないか。EV一辺倒という印象の2020年と比べて、大きく変化したと感じたポイントであった。

◆ サステイナビリティの訴求

 代替燃料車の選択肢を多く提示することだけでなく、サステイナビリティに関わる自社の取り組みを紹介している展示も多くみられた。例えば、Hyundaiでは、車内の内装にペットボトルを再利用したファブリックやサトウキビのような植物を原料とするカーペット使用しているなどIONIQ5の生産工程における取り組みを紹介していた。また、Toyotaは自社工場におけるソーラー電源や水資源の利活用・植樹によるカーボンオフセットに関するジオラマを展示し、MGはEVバッテリーのリサイクルのエコシステムを、商用車大手のEicherは自社工場におけるエネルギー・水・廃棄物処理の取り組みを紹介していた。「Sustainable」を訴求した展示は前回の2020年にはほとんど見られなかったもので、今回のAuto Expoの特徴と言えるのではないか。

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 写真:各社のサステイナビリティに関する展示(筆者撮影)

◆大手メーカーの出展数減少

 今回出店していたメーカーの中で大きなパビリオンを構えていたのは、日系のMarti Suzuki、Toyota、Lexusの3ブランド、地場Tata、韓国のHyndai、Kia、中国系のMG、BYDであった。前回に引き続いて展示を見送ったHonda(2輪・4輪)、Yamaha、Mahindra &Mahindra、TVS、Bajajといったインド市場で大きな存在感を持つメーカーだけでなく、前回2020年には展示をしていたSuzuki(2輪)、Mercedes Benz、Audiも出店を見送っている。(*Honda/ Suzuki/ Yamahaは共同出店のエタノール・パビリオン1台ずつフレックス燃料車を展示)。 特に、高級車のセグメントで展示していたのはLexusとなり、少し寂しい印象を受けた。
 全体的に大手が出展を見送っている現状をみると、インドにおいてもモーターショーの有効性・投資対効果を見直す時期に差し掛かっているのかもしれない。また、ポストコロナということもあるとは思うが、こういった参加メーカーの少なさが影響してか、個人的な印象としては来場者の数が前回よりも少ないように感じた。

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 写真:Auto Expo ウェブサイトより、大手メーカーの出展状況

 以上が、本Expoを視察しての所感である。前回20年に参加した時は、EV、特にEV2輪がここまで普及するとは思ってもみなかった。次回のAuto Expoが開かれる2年後には、インド市場がどう変化しているのだろうか。日本からはなかなか見えてこないインド市場の変化を、折を見てお届けしたいと思う。
 最後に余談ではあるが、参加者のほとんどはマスクをしておらず、マスクをしているのは日本人・韓国人くらいであった。本展示会には日本から多くの出張者が来印したようだったが、(良し悪しはさておき)屋外でもほぼ全員がマスクをする日本との差に違和感を感じるとともに、ポストコロナへ動いているインドの消費者マインドを体感したのではないだろうか。

(参考リンク)
インドのモーターショー 主要メーカーのパビリオン展示の特徴は? ~Auto Expo 2020 視察レビュー(前編)
インドのモーターショー 先進技術の展示の特徴は? ~Auto Expo 2020 視察レビュー(後編)
インドEV市場調査報告書(2022年4月)


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    中村 亮介(なかむらりょうすけ)

    2018年よりインドへ異動し、ムンバイ・デリー・バンガロールで駐在を経験。インド消費者の意識を理解することで、進出時の市場機会の探索、参入後の商品開発、プロモーション施策検討・効果測定など、様々なマーケティング課題をサポート。自動車・二輪・電機・食品・日用品など消費材メーカーが主要顧客。

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