<駐在員コラム>【タイ:地球の暮らし方】タイ(バンコク)の洗濯事情
2018年1月にバンコクに赴任をして最初に住むことにしたアパートでの出来事である。洗濯機は小さなバルコニーに設置されていた古いトップローディング式(縦型洗濯機)。週末にまとめて洗濯をするのだが、脱水し終わった洗濯物には、海苔のような謎の物体が付着していることに気がつく。最初は洗濯槽の汚れがたまたま付着しているだけかと思っていたものの、海苔のような物体は寧ろ増え続け、洗濯後にその汚れを取り除く作業に時間を割くようになってきた。しかも、洗濯モノが微妙に臭い。調べると、どうやら洗濯槽に金属石けんが大量に発生しているらしいことが分かってきた。タイの水質は硬水で、石鹸成分が泡立ちにくく、硬水とあいまって金属石けんが生成されることにより、洗剤の洗浄機能が低下するだけでなく、衣類、特に白いものは、洗えば洗うほど灰色のような色相に変化していくということを知ったのである。日本と異なり洗濯槽洗剤が手軽に手に入れにくいため、専門業者を呼んで洗濯槽を洗浄してもらうほど、やや大掛かりな対策を打たないとならないのだが、硬水と洗剤の化学反応がある以上、海苔問題は永遠に続くのか、と途方に暮れたのだった。当時通っていたタイ語会話教室の先生に私の海苔問題に関する格闘の話をするといつも笑われていたのだが、果たしてこれは私だけの問題なのかは疑問であった。因みに、現在住んでいるアパートの洗濯機はフロントローディング(ドラム式)のためなのか、アパートの水質の違いなのか、海苔問題は解消されているが、トップローディングを使っていた時のトラウマにより、洗剤を多めに入れて洗濯槽を洗おうとしたところ、大量の泡が溢れ出て洗濯機のセンサーまで到達し機能不全に。トップローディングとフロントローディング兼用の洗濯洗剤は絶対に使わないように、とのキツイ指導を洗濯機メーカーのサービスマンから受けることになった。フロントローディング用の洗剤は泡立ちが抑えられているが、他のタイプのものを使用すると泡が立ちすぎてトラブルになるようある。
タイの洗濯機は屋外設置が基本
日本の場合は、戸建てやマンションであれば室内、アパートや一部の戸建てであれば室外に洗濯機の設置場所があるのが一般的かと思われる。タイの場合は、屋外設置が普通というべきかと思う。理由としては、洗濯後の干しやすさ、つまり導線の点で屋外設置が好まれているようである。また、室内に洗濯機専用の設置場所(洗濯機パン)のようなものはないのが普通なので、排水処理の点からも室内設置には不便が多いだろう。
【バンコク 世帯月収35,000THBの中所得者層の戸建て。軒先に洗濯機が2台設置されている。】
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama TH_32
【バンコク 世帯月収47,000THBの中所得者層の戸建て。家の裏庭に屋根を増設して洗濯スペースとして使用しているのもよく見られる改築のパターン】
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama TH_41
洗濯機はトップローディング式の洗濯機が一般的と言える。これは、Consumer Life Panoramaでも確認ができるが、洗濯洗剤売り場を見れば一目瞭然で、トップローディング用の洗濯洗剤が肌感では95%を占めているように思う。フロントローディング専用の洗濯洗剤は限りなく少なく、商品選択の幅はほとんどない。トップとフロントの兼用洗剤が多少は見られる程度だが、それも豊富とは言えない。
なお、フロントローディングの洗濯機の設置場所は室内のキッチンの場合が多いだろう。排水と電源の関係で決まってくるのではないかと想像する。また、高所得者層の住宅が中心と言える。後付けするのが多少難しいと思われ、住宅の新規購入またはリノベーションのタイミングで購入設置されるのが通常と考えられるが、バルコニーに設置するケースもConsumer Life Panoramaでは確認ができるので、一概にキッチンに設置するだけでもなさそうである。
【バンコク 世帯月収150,000THBの高所得者層の戸建て。キッチン横に据え付けられたフロントローディングの洗濯機。しかし、洗剤はトップローディング用の液体洗剤を使用していることから、過剰な泡立ちを抑えるため1回あたりの洗剤使用量は少ない可能性がある】
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
洗濯物と干し方
突然の雨に見舞われることもしばしばあるものの、基本的には晴天が多いタイにおいては屋外干しが主流である。天日で乾かすことで、雑菌の繁殖を抑えるなどの衛生面への配慮からそうした習慣となっている。フロントローディングであれば乾燥機能があるが、トップローディングにはその機能が無いため、勢い、天日干しは必要であるし、室内干しでは洗濯物を十分に乾燥させるには時間がかかりすぎる上、室内の場所も取られてしまう。
【バンコク。世帯月収47,000THBの中所得者層の戸建て。庭先似て洗濯物を天日干ししている。マスクは室内干しのようだ】
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama TH_41
柔軟剤は芳香剤
タイ語で柔軟剤(ナムヤープラップパーヌム)は文字通り布を柔らかく調整する液体という意味ではあるが、実際に売られている商品の推しはどちらかと言えば香りが中心となっている。花の香りが多く見られるが、より香ることを訴求しているためか、香水を想起させるようなパッケージまである。実際に使用してみても、ほのかに香るというよりは、ガツンと香る。また、鼻が慣れてくるせいか、柔軟剤をある程度使用しないと満足しないようになってきて、バンコクに駐在してから感じるのは、恐らく日本ではこんなに柔軟剤を使って洗濯していなかっただろうということ。これは、冒頭に述べた海苔問題とも関わるのかもしれないのだが、柔軟剤の香りによって不快臭を上書きする必要性があるからか。洗濯石鹸の香りだけだと、どこか物足りないと感じてしまうのだ。
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
洗濯の大前提となる水道の水質は洗濯機や洗濯洗剤、および柔軟剤に大きな影響を与えているが、これを根本的に解決するような商品やサービスはまだタイには普及していない。硬水を軟水化するような洗濯機や洗剤があれば、金属石けん、つまり海苔問題は解決されるであろう。ただ、軟水化設備はメンテナンスが面倒であり、場所も取るためあまり現実的ではないかもしれない。一方、洗濯の後処理に目を向けるとフロントローディングで30分程乾燥させ生乾きの状態で洗濯物を干すとフワフワに仕上げることができる。トップローディングの洗濯機で洗った洗濯物を天日で干すと布繊維が硬直化し柔軟剤を使用してもゴワゴワになってしまうので、脱水後の1ステップでフワフワな洗濯物に仕上げられる付加価値を持ったトップローディング洗濯機は、海苔問題はさておき魅力となるのでは無いか。
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執筆者プロフィール
青葉 大助(あおば だいすけ)
タイ在住40代男性リサーチャー。過去に訪問した調査実施国数は30か国以上。当該国の消費者にとってのベストを求め、常に彼らの気持ちと自分を重ねることを旨としている。 1日約1000回閲覧される自身の世界グルメ投稿もタイを中心に意欲的に継続している。
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編集者プロフィール
高浜 理沙(たかはま りさ)
- 2024/03/18
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