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【タイ】タイの健康トレンド2024（前編）

はじめに

7000万人近い人口を抱えるタイは、東南アジア最大の国のひとつである。東南アジアのハブ国のひとつであるタイは、ブランドにとって絶好の進出先機会だろう。しかし、現地の慣習、消費者の理解、そしてバンコクと地方部で消費者に大きな違いがあること等、マーケティング担当者にとって難しい要素があるのもまた事実である。
2019年におけるタイの健康＆ウェルネス市場の規模は1.5兆タイバーツに達する（ウェルネス・ツーリズム、ヘルスF＆B、ビューティー市場の規模が含まれる）(*1)。この市場は、タイの消費者行動を形成している以下の4つのメガトレンドを要因として、将来の大きな成長が見込まれている。

以下の4つのメガトレンドが、タイの消費者の全体的な行動を形成していると考察できる。

1. 高齢化社会：
シルバー世代の健康・ウェルネスに対するニーズは大きく、また彼らの購買力も大きい。

２．COVID-19以降、消費者が健康の重要性をより認識するようになったこと：
COVID-19以降、消費者はより健康を重視するようになり、またそれが購買時の判断基準になっていることから、メーカーの商品開発でも重視されている。

３．非感染性疾患（NCDs※）の罹患率の上昇：
NCDsの増加に伴い、保険から消費財まであらゆるカテゴリーで健康・ウェルネス関連の商品・サービスが増加している。
※NCDs：世界保健機関（WHO）が定義する慢性疾患の総称。不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、大気汚染などにより引き起こされる、がん、循環器疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、メンタルヘルスなどが含まれる。

４．政府の補助金：
タイ政府は、タイをウェルネスと医療サービスのハブにすることを目標としている。
このことは、医療・ウェルネス産業に大きな影響を与えており、今後も彼らのビジネスを支援するいくつかの法律が制定される予定となっている。

本稿では、タイの健康＆ウェルネス業界の市場動向、ビジネスチャンス、消費者の嗜好、健康への関心について紹介する。

タイの伝統的な健康法

現代社会についてお話する前に、タイの伝統的な健康法についての予備知識をご紹介しよう。伝統的なタイ医学は、タイ人が実践する今日の健康法の一部にも溶け込んでおり、それは4つの側面に分かれているが、そのうち現代社会で高い効果を発揮すると認識されているのは、タイハーブとタイマッサージの2つである。

タイマッサージは、タイを訪れる観光客にとって欠かせないアクティビティのひとつだ。多くのマッサージ店はCOVID-19の間に閉鎖されたが、それが治まるにつれて、人々はこれらのサービスを再び利用するようになっている。平均して、タイ人は月に1-2回マッサージに行く。この傾向は、Y世代（※）の消費者の間でより顕著である(*1)。
※Y世代：概ね1980年代から1990年代に生まれた世代を指す

タイのハーブは、病気を治し健康を増進するために西洋医学と併用されることが多い。タイの大手ローカルブランドは、より現代的な外観にするためにリブランディングしている。例えば、1947年創業の老舗ハーブブランドであるOuyontosodは、ブランド名を変更し、カプセルボトルや小袋の形態の商品を発売し、現代的な薬局やコンビニでも販売できるような戦略をとっている。

ユニリーバのような大手多国籍ブランドでさえ、タイの伝統的なハーブを商品に取り入れ、新たな提案を模索している。タイを代表するヘアケア・ブランドであるSunsilkは、タイのハーブを主要成分の一つとして使用したハーブ商品シリーズを発売した。ベストセラーのひとつは、ジンジャーとヤナン葉のコンビネーションで、フケやかゆみを改善すると謳っている。

健康に対する消費者意識を形成する要因

１．危険な甘み

タイ人の大半は甘いものが大好きで、それは幼い頃から始まっている。統計によると、タイの子供たちの3分の1が日常的に甘い牛乳を飲んだりスナック菓子を食べたりしており、5分の1が日常的に甘い飲み物や炭酸飲料（CSDs）を飲食している(*3)。長い目で見れば、このようなペースで摂取している子供たちには、非感染性疾患（NCDs）の発生が早まることが懸念される。

タイのような夏の国では、喉の渇きを癒すための甘い飲み物のニーズが非常に高い。炭酸飲料（CSDs）は発泡性と糖分が多く含まれていることから身体に悪いものとして認識されているため、マーケティング担当者はこれをチャンスと捉え、RTD（Ready to Drink）紅茶カテゴリーが注目されている。RTD紅茶は、炭酸飲料のベターな代替品として位置づけられ更に紅茶そのものの効能を備えている。しかし、非常に高い糖分を誇るものもある（例えば、あるはちみつレモン味の紅茶は糖分を22gも含む）。SNS上のコンテンツクリエイターは、これらの飲料にどれだけの砂糖が使用されているかを示す以下図のようなコンテンツで、消費者の認識を促そうとしている。こうしたプロモーションにより、都市部での認知は高まってきているが、地方への情報発信にはまだ課題がある。

消費者の糖分に対する意識が高まるにつれ、各ブランドは「糖分0％」の商品を発売し、代わりに甘味料を使って甘味を提供しようとしている。

２．PM 2.5とその長期的影響

「You are what you breathe 」という言葉が、現在タイで起きている状況を最もよく表しているのではないだろうか。

保健省の2018年から2021年の統計によると、大気汚染に起因する重篤な疾病に罹患する人の数が増加している。それは心臓病、脳卒中、肺疾患、肺がんと多岐にわたり、増加傾向にある。

現在のところ、消費者はPM2.5が多い時間帯にサージカルマスクを着用することでしか予防措置を講じることができない。残念ながら、これらの粒子を直接除去し、長期的な影響に対して身体を強化することができる他の解決策は今のところない状況である。

３．スピードを求めて

新たなトレンドが次々出てくるいま、消費者の要求も速くなっている。最近の消費者は、できるだけ早く最終的な効果が出ることを期待しているので、商品・ブランドはそのような訴求ができる処方を見つけ、テストを実施することに挑戦している。

例えば、スキンケア市場でよく見かけるのは、一定期間内に肌を明るくすると謳った商品だ。

特にエナジー系商品においては、勉強のため、または日中を通して、瞬時に目を覚ますことができる商品のニーズが高い。 これらの商品は、特に試験期間中の学生の間で急速に人気を集めている。

健康に関する３つのトレンド

COVID-19以降、消費者の関心は健康とウェルネスにシフトしている。特に、食品・飲料トレンド、エクササイズ・トレンド、ビューティ・トレンドの3つに関心が移っている。

　出典：(*1)

１．タイの健康的な食生活と食品・飲料のトレンド

　出典：(*1)

食べ物に関して言えば、タイ人の大半は特定の種類の料理を避け、健康に良い食材を中心に、かなり厳選している。この傾向は、団塊の世代や体型維持をしている人ほど顕著である。食品に関しては、消費者は自分で調理するか（64％）、作り立てをレストランで食べる（59％）がほとんどで、コンビニエンスストアや屋台が日常生活に浸透しているのは30％程度である（※1）。

消費者が食生活をより選り好みするようになり、メーカー各社はこうしたトレンドを取り込もうと、代替の健康食品を提供している。牛乳業界を例にとると、近年、多くのブランドが代替ミルクを発売してしのぎを削っている。長年市場に参入しているメーカーが発売するものもあれば、ポートフォリオを拡張するために発売するものもある。

タイグリコはスナック菓子の延長として“Almond Koka”を発売し、健康飲料市場に強力な足跡を残した。

タイの大手飲料メーカーである明治は、フィットネス愛好家をターゲットに高タンパクタイプを発売した。ニーズに応えるため、プロテインとその他の栄養素を追加している。

タイの大手フルーツジュースメーカーであるDoikhamは、消費者のトレンドの変化に対応して、有名なトマトジュースの減塩バージョンを発売した。

タイ人の大半は、通常の食品や飲料から栄養を摂取する以外に、サプリメントを日常的に摂取している。Kantar World Panel (*2)によると、この市場の市場価値の大半はGreater Bangkok（33％）で、主な購入者層は35歳以上である。また、50歳以上の成長率も高い。

所得別でみると、すべての所得層でニーズが顕著である。そのため、メーカーによっては1回分の小袋を作り、コンビニエンスストアで安い価格（20バーツ（約100円））で販売することで、利便性を求める人々や支出を抑えたい人々を取り込もうとしている。

　出典 Kantar World Panel 「Health is Wealth　2023年タイ　サプリメント市場レポート」

ニーズとしては、一般的な健康と免疫力がタイの消費者にとって最大の優先事項のひとつであることがわかる。COVID-19が落ち着き、人々は再び出かけるようになり、仕事をし、運動をし、日常が戻ってきたことで、プロテインやボディケアのニーズが高まっている。一方、肌や美容に対するニーズは低下しているが、依然としてトップカテゴリーのひとつである。

２．フィットネス・運動に関するトレンド

フィットネス業界に目を向けると、タイ人のほぼ半数が月に4回以下しか運動していないという。1回の運動時間は30分から1時間程度が多い。運動中に行うアクティビティを見てみると、運動をする人の大多数（61％）はウォーキングを挙げるが、約5分の1の消費者はランニングを選ぶ（*1）。

運動の頻度によって、実施される活動のタイプも異なる。調査によると、頻繁に運動する人は、ヨガ・ピラティスやジム通いなど、継続的なエクササイズに重点を置いている。また、大半（94％）の消費者はフィットネストレーナーを雇っていない。トレーナーを雇う人は、体重管理をしている人がほとんどである。エクササイズを補助するウェアラブル・テクノロジーも、タイの消費者によく浸透しており（38％）、主にスマートウォッチやヘッドホンを購入している（*1）。

この記事の前編はここまで。後編では、タイのスキンケアとビューティ・トレンドについてお伝えする予定なので、どうぞお楽しみに。

　参考
*1) SCBエコノミックインテリジェンスセンター 「タイの健康とウェルネスのトレンドを徹底調査...注目のビジネスチャンス 」
https://www.scbeic.com/th/detail/product/health-wellness-261223
*2) Kantar World Panel「Health is Wealth　2023年タイ　サプリメント市場レポート」
https://www.global-market-surfer.com/report/detail/226
*3) タイヘルスウォッチ2024 - 「次世代の生活」
https://resourcecenter-uat.thaihealth.or.th/article/%E2%80%98thaihealth-watch-2024-next-gen-living-%E0%B8%84%E0%B8%B8%E0%B8%93%E0%B8%A0%E0%B8%B2%E0%B8%9E%E0%B8%8A%E0%B8%B5%E0%B8%A7%E0%B8%B4%E0%B8%95%E0%B9%83%E0%B8%99%E0%B8%AD%E0%B8%99%E0%B8%B2%E0%B8%84%E0%B8%95%E2%80%99-%E0%B8%95%E0%B8%B2%E0%B8%A1%E0%B8%95%E0%B8%B4%E0%B8%94-7-%E0%B9%80%E0%B8%97%E0%B8%A3%E0%B8%99%E0%B8%94%E0%B9%8C%E0%B8%AA%E0%B8%B8%E0%B8%82%E0%B8%A0%E0%B8%B2%E0%B8%A7%E0%B8%B0%E0%B9%81%E0%B8%AB%E0%B9%88%E0%B8%87%E0%B8%9B%E0%B8%B5-%E0%B9%83%E0%B8%AB%E0%B9%89%E0%B8%9E%E0%B8%A3%E0%B9%89%E0%B8%AD%E0%B8%A1%E0%B8%A3%E0%B8%B1%E0%B8%9A%E0%B8%A1%E0%B8%B7%E0%B8%AD%E0%B9%84%E0%B8%94%E0%B9%89%E0%B8%94%E0%B8%B5%E0%B8%81%E0%B8%B1%E0%B8%9A%E0%B8%97%E0%B8%B8%E0%B8%81%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A3%E0%B9%80%E0%B8%9B%E0%B8%A5%E0%B8%B5%E0%B9%88%E0%B8%A2%E0%B8%99%E0%B9%81%E0%B8%9B%E0%B8%A5%E0%B8%87

関連記事：
【タイ】タイの健康トレンド2024（後編）
https://www.global-market-surfer.com/pickup/detail/492/

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  執筆者プロフィール

  Chaiyoot Chulphongsathorn（Top）

  インテージタイのリサーチャー。調査会社側とクライアント側の両方で経験を積み、その知識を活かしてインサイトをビジネス・アクションにつなげるサポートをしている。主にFMCGや小売業のクライアントを担当し、タイ国内のみならず、東南アジア地域でのプロジェクトでも活躍している。

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  編集者プロフィール

  インテージ

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• 2024/05/30
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