【中国】成長著しい中国自動車ブランドの他国での受容性
世界全体の自動車販売のうち3分の1を1ヶ国で占める中国、少し前までは日米独などの(中国にとっての)外資ブランド自動車が売れ筋でしたが、近年は民族系メーカーと呼ばれる中国ローカルブランドの比率が急激に高まるとともにその民族系メーカーの海外進出も加速してきています。日本においても昨年のJAPAN MOBILITY SHOWに中国ブランドのBYDが出展して大きなニュースになりましたし、新興国では複数の中国ブランドが進出している国も珍しくありません。
このように世界的にも中国ブランドの存在感が高まっていている一方で、歴史の浅い中国ブランドに対してネガティブな印象も付きまとっており、中国ブランドにとって過渡期といえる時期に差し掛かっていると考えられます。この中国ブランドへの意識や今後の発展性を探るため、インテージでは主要6ヶ国(日本、米国、ドイツ、タイ、インドネシア、中国)の自動車免許保有者 を対象に中国自動車ブランドに対するアンケート調査を実施しました。
本記事では、その結果から見えてきた各国の中国ブランドの受容可能性について考察します。
中国ブランドの自動車は買いたい?
中国ブランドを買いたいと考えている人はどの程度いるのでしょうか。次に自動車を買うときにどの国のブランドが検討対象となるかを複数回答形式で聴取した結果が下記の表です。「中国ブランド」を検討対象にすると答えた人は、先進国である日本と米国、ドイツでは1割未満、新興国であるタイとインドネシアでは2割強となっており、BYDやWulingなどの中国ブランドが攻勢をかけている東南アジアで検討度が高くなっていることが見てとれます。検討者が2割と聞くと低めに思えますが、一定シェアがあるアメリカブランドやドイツブランドの3割に近いスコアが出いることを考えると、日本ブランドの独壇場と言われていた東南アジアでの中国ブランドの存在感がかなり増してきていると考えられます。
また中国においては、自国である「中国ブランド」意向者が約7割となっており、日本やドイツ、米国の人たちが自国ブランドを検討するスコアと同レベルまであがってきていることも驚きです。以前の中国の調査では、「中国ブランドは信用できないから買いたくない」というセリフをよく聞いたのですが、中国国内での意識も変わってきているようです。
少し話は変わりますが、中国の自動車販売における電気自動車(以下EV)比率は高く、Teslaを擁する米国よりもはるかに高い数値となっています。中国車といえばEVというイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。日本でも名前を知られ始めたBYDをはじめ、NioやXpengといった新興EVブランドはその高機能性やサービス品質の高さにより中国国内での評価が高く、他国の自動車業界関係者からも注目を集めています。
今回の調査では、EVの現在保有率と次期意向率(どちらも単一回答)を聴取しており、その差を見ることにより今後のEVがどれほど伸びていきそうかを確認しました。意向率と保有率の差である「今はEVでないけれど次はEVにしたい人」がタイとインドネシアでは他国よりも多く、中国ブランドの検討度の高さと相まって中国ブランドが急進する兆しが見て取れます。
中国ブランドはどんなイメージ?
次に中国ブランドについてのポジティブなイメージを聴取した国別上位5項目の結果をご覧ください。中国を除いた5ヶ国のほとんどで共通して上位5項目にランクインしているのは、「革新的な」「独自性がある」「技術力の高い」「先進的な」の4項目となっており、新興ブランドとして特徴的なイメージが挙がっています。一方で、「あてはまるものはない」が日本で8割、米国とドイツで4割程度となり、前述の新興ブランドとしての特徴も比較的低めのスコアになっています。地元中国では他国と同じ「革新的な」イメージが高いほかは、「親しみやすい」「信頼できる」イメージも高めに出ています。
まだ賛否のありそうな中国ブランドについて、ネガティブなイメージについても聴取しました。その結果、中国以外の5ヶ国全てで「品質の低い」と「信頼できない」の2項目が上位に入っており、地元中国でも「品質の低い」イメージがランクインしています。またドイツ、タイ、インドネシアの3ヶ国では「ユーザーの評判が悪い」も上位にあがっています。
中国ブランドがどうなったら買ってもいい?
まとめ
中国自動車ブランドのイメージは「技術力が高く先進的ではあるものの品質面や信頼性での不安がある」というポジティブさとネガティブさを兼ね備えたものであり、そのネガティブ面をいかに払拭できるかが課題となっています。新興国のタイとインドネシアではEV意向率の高さとともに中国ブランドの検討度も高く伸びが期待できる一方で、先進国の米国とドイツでは価格や品質、信頼性の課題感が強く、法制や政治面も関係することから先が見えにくい状況と言えます。最近はEVの勢いが落ちてきたという話も聞きますが、伸び幅が下がってはいるもののマーケット拡大は続いているので、そこに強みを見出す中国自動車メーカーの動向は今後も注視していきたいと思います。
Appendix
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執筆者プロフィール
鈴木 史晴
インテージのグローバルリサーチャー。ニュージーランドでのワーキングホリデーやベネズエラでの青年海外協力隊を経てインテージに入社したのち、15年以上にわたり様々な手法でのグローバル調査を手掛けている。これまでに調査を行った国は30ヶ国以上に上り、自動車、食品、電機、日用雑貨など幅広い業界で豊富な経験を積んできた。現在は育児のため時短勤務中で、海外出張に行けないことが唯一の悩み。
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編集者プロフィール
インテージ
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- 2024/06/25
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