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【中国】上海女性の“リラックス”に関するインサイトに迫る

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日本では、以前の「モノ」消費から、思い出や体験、学びなどの「コト」「トキ」消費への移行が注目されています。この傾向は海外でも同様に見られており、インテージが実施したアメリカ、中国、タイ、ベトナムの4か国を対象に行った自主調査の結果ではいずれの国でも商品やサービスの感情的な価値を重視する「コト」消費や、誰かと過ごす時間や特別な瞬間を大切にする「トキ」消費のニーズが高まっていることが明らかになりました。

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出典:インテージ自主企画調査「お金の使い方に関する4か国調査」(2024年3月実施)
「Q2.あなたの普段の考えに近いものについてお伺いします。
当てはまるものをすべてお答えください。(MA) 」の回答を項目ごとに合算

この記事では、2024年12月17日に実施したセミナーの内容を再構成してお届けします。「上海女性のリラックス」を例に、海外生活者の「コト」や「トキ」消費に対する潜在的なニーズ(インサイト)を理解するためにビジュアルデータを効果的に活用する新たなリサーチ手法をご紹介します。
海外市場向けの商品アイデア・コンセプト開発のヒントとなりましたら幸いです。

テーマは「上海×リラックス」

そこで今回は、今後「家ナカでのリラックス」が広範な商材のマーケティングにおける重要なキーワードになるという仮説のもと、自主企画プロジェクトを実施しました。
プロジェクトでは、従来のインタビュー調査に加え、住環境の360度ビジュアルデータ(Consumer Life Panorama)を用いて生活者のリアルなライフスタイルを観察するアプローチをとりました。対象者が話すコトバの周辺・背景情報まで把握し仮説を立てながらインタビューを行うことで、これまでのリサーチ手法では掘り下げきれなかった生活者の潜在的なニーズ、つまり「インサイト」に迫っています。

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(上図)今回用いた手法。一般的な手法であるオンラインインタビューに加え、
Consumer Life Panoramaを用いて対象者の実際の生活環境をオンライン上で観察した。

従来のリサーチ手法の課題と今回のアプローチ法

リサーチによって生活者インサイトを導き出す際、通常はターゲットとなる生活者へのインタビューを行い、求めているものや考えていることを言葉の情報から分析する方法がよくとられます。しかし、この方法には以下の課題があります。


①生活者自身が意識していることや言語化できることしか引き出せず、無意識の領域にある不満や欲求、背景にある深層のニーズにはアクセスできない
②海外の生活者へのインタビューでは、肌感覚の違いから開発者側で解像度が上がりにくく生活者理解が深まらない

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(上図)今回は一般的なアプローチ(Askingを通じ引き出す)に加え、
「ビジュアルを観察する」というアプローチで事実を確認し、問い・仮説を立てた

そこで本プロジェクトでは、まず対象者の非言語情報、具体的には住環境やリラックスアイテムのビジュアルデータを観察して事実に関する気付きから仮説を立てます。その後、対象者にインタビューを行って検証するというアプローチを採用しました。この2つのステップにより、前述の課題の解決を目指しました。

リラックス上手な上海女性3名のインサイト

今回は上海に住む3名の女性を対象として調査を行いました。
それぞれのプロフィールは以下で、3名とも中間層の世帯月収が約14,000元の上海においては高所得層にあたります。

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(上図)今回の調査対象者のプロフィール。
DINKS、Young Family(未就学児がいる世帯)、Middle Family(小学生の子どもがいる世帯)という
3つのライフステージの女性を対象とした。

3名はいずれも有職であり、仕事・家事・育児といった日常的なストレスに対して意識的に対処している、いわば「リラックス上級者」です。彼女たちはそれぞれ自身が心地よく感じるリラックス方法を自宅で実践しており、例えば高級スピーカーで音楽を聴く、簡易バスタブを購入し湯船につかって疲れを癒す(上海ではシャワーのみで入浴を済ませるのが一般的)、自分で豆を挽いてコーヒーを味わう、アロマを焚く、中国茶を淹れるなどの方法をとっていました。

自分の心の健康を保つための「コト」であるリラックス方法は三者三様ですが、それらを実践する自宅の様子を観察することで、「上海の働く女性にとってのリラックス」というテーマに関するインサイトを導き出すことができました。次項からは、今回のプロジェクトでビジュアルデータの観察とインタビューによって導き出した3つのインサイトを解説します。

インサイト①「自分だけのテリトリー」を確保し、Me-Timeを持つ

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(上図)Consumer Life Panoramaで観察した実際の対象者の家の様子。
ベッド脇はスキンケアやお香のアイテム、観葉植物など
彼女自身の好きなものが並べられたエリアだ。

上海では大多数の人が集合住宅に住んでおり、世帯ごとの居住空間はあまり広くありません。その中で自分だけの空間や時間を確保したいというニーズは高く、特に子育て中は子どもに配慮したインテリア配置になりやすいことから、自分のテリトリーを持ちたい願望は強いようです。日中は家族とリビングで過ごし、就寝前にはお気に入りのもので満たされた自室で過ごすといったように時間・空間を切り分け、パーソナライズされたテリトリーで“Me-Time”(自分だけの時間)を持つことで、日常から少し離れて心を落ち着けたいと考えています。

インサイト②お気に入りアイテムをディスプレイし、丁寧なプロセスを演出

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(上図)Consumer Life Panoramaで観察した実際の対象者の家の様子。
リビングのテレビ台の横に置かれたコーヒーメーカーと器具。一見唐突に見えるが、
ここに置いてあることで淹れるプロセスを楽しむことができる。

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(上図)Consumer Life Panoramaで観察した実際の対象者の家の様子。
ダイニングテーブルの上に置かれた中国茶の茶器。あえて片づけずに置いてある。

全自動と比較してひと手間かかる半自動のコーヒーマシンをあえて使ってコーヒーができあがる工程を眺めたり、手順の多い中国茶を淹れるプロセスを楽しんだりするなど、手間をかけることも大切なリラックス要素のようです。こだわりのアイテムをまるで神殿のようにディスプレイし、心を落ち着ける儀式として「ひと手間」のプロセスを加えることで、気持ちを切り替える時間としています。

インサイト③間食はエネルギーチャージと精神のWellnessを優先

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(上図)Consumer Life Panoramaで観察した実際の対象者の家の様子。
ダイニングテーブル横に置かれた間食は、甘いものよりも、インスタント麺、果物等が並ぶ。

リビングやダイニングには、手軽に間食が取れるようにインスタント麺や果物などを常備しています。日本ではおやつというと甘いものを連想しますが、今回の対象者から読み取れた間食の位置づけは、小腹を満たすことや次の活動へのエネルギーをチャージすることにありました。健康には気を使っているものの、時には最近人気の塩辛いインスタント麺を選ぶなど、刺激的なものを選ぶこともあるようです。身体の健康にはあまりよくないかもしれませんが、心のWell-beingを保つためには非日常的な刺激のある間食も必要だと感じているようです。

ビジュアルデータ観察は生活者インサイト導出に有効

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(上図)本プログラムのステップ。
ビジュアルデータの観察をしたうえで仮説を立ててインタビューを行うことで、
アスキングだけでは気づけないインサイトに辿り着く。

今回は、対象者へのインタビューのみを行うのではなく、まず生活環境を観察し、観察から得た事実に対して仮説を立てた上でインタビューを行うというアプローチを実践しました。具体的には、下記のように観察を経て生まれた客観的な問いや気付きから仮説を立てて検証に移っています。

・部屋での過ごし方:自分のための部屋や空間があるのか?ない場合の工夫はどのようなものがあるのか?
・リラックスアイテムの置き場所:コーヒーメーカーや茶道具が不便な場所に置いてあるのはなぜか?
・間食の位置づけ:日本の「3時のおやつ」は一息を入れるためのものだが、そもそも間食の概念が異なるのではないか?

その結果、これまでに紹介したようなファインディング・インサイトが得られました。

生活者自身も気付いていない背景・状態・環境の観察から仮説を事前に立て、それをインタビューで検証することは、より深いインサイトを得ることにつながります。今回のプロジェクトでは、ビジュアルデータや観察を掛け合わせながら活用することで、言語化されにくい生活者インサイトを導き出す新しいアプローチが可能であることがわかりました。

Consumer Life Panoramaとは 

世界18か国1000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者理解に役立つ。
詳細はこちら

本記事で紹介したように、
・海外のターゲット生活者のインサイトを、ビジュアルデータの観察から導き出す
・カテゴリーに留まらず、幅広く生活環境・価値観を理解する
等、「現地に行かずに」「時間の制限なく」観察できるホームビジット調査として活用が可能。

また、ビジュアルデータ観察から気づき、インサイト仮説を構築し、商品コンセプト開発につなげるためのセッションプログラムとしても提供中。セッションでは、インテージの日本人リサーチャーに加え、現地リサーチャーも加わることで、現地視点を交えた仮説構築を支援している。


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    高浜 理沙

    日系のFMCGメーカー(化粧品、ベビー用品、食品・飲料等)のアジア・欧米でのマーケティング・リサーチ支援に従事したのち、2019年より現職にて、日系企業の海外マーケティング・リサーチのためのソリューション開発や、セミナー等の対外発信を行う。
    子どもが生まれてからは、家族と自身の心身の健康をいかに保つかが最大の関心事で、様々なグッズ・サービスを試している。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    Global Market Surferのサイト作りを担当。

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    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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