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東南アジアECで勝つために  ─ 今、必要なのは“届け方”の再設計

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東南アジア(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)は、GDP成長とデジタル浸透を背景に「次のEC成長市場」として語られ続けています。
しかし現地では既に中国企業が深く入り込み、スピーディな運用モデルとローカル適応で優位性を築いています。
“成長市場だから出せば売れる”という段階は、もう過ぎつつあるのかもしれません。
この記事では、東南アジアECの市場構造を整理したうえで、日本企業が取るべき戦い方、そして“価値の届け方”の再設計について考察します。


1.“次の市場”と言われる東南アジア

東南アジアは、近年最も勢いのある消費市場の一つです。東南アジアの中でも特にインドネシア・ベトナム・フィリピンを中心に、GDPの成長は2030年まで継続する見込みとなっています。

ASEAN各国のGDP推移(2025年から2030年は推計値)

図1:ASEAN各国のGDP推移(2025年から2030年は推計値)
出典:Gross domestic product(GDP) of the ASEAN countries from 2020 to 2030(Statistaより引用)

また、人口ピラミッドを見てみると、各国とも若年層が厚く、これから消費の中心になる世代が既に市場のボリュームを支えていることが分かります。例えばインドネシアの人口ピラミッドは20歳未満の層が非常に厚く、今後の市場の更なる成長が期待できます。

インドネシアの人口ピラミッド(2025年)

図2:インドネシアの人口ピラミッド(2025年)
出典:World Population Prospects(世界推計人口)を基に作成

さらに、東南アジアではスマートフォン普及率が年々上がっており、2025年には約70%となる見込みです。

東南アジアのスマートフォン普及率推移(2025年から2029年は推計値)

図3:東南アジアのスマートフォン普及率推移(2025年から2029年は推計値)
出典:Penetration rate of smartphones in Southeast Asia from 2014 to 2029(Statistaより引用)

通信コストの低さも追い風となり、SNSや動画を通じた情報収集が一般化しています。2024年にはEC利用者の割合は、タイが69.2%、ベトナム60.6%、インドネシアで58.0%と半数を超えており、生活者にとってECが、一つの購入ルートとして浸透してきていることが分かります。

東南アジア各国のEC利用率(2024年)

図4:東南アジア各国のEC利用率(2024年)
出典:E-commerce penetration rate in Southeast Asia in 2024(Statistaより引用)

各国のECの市場規模も年々拡大しており、2024年時点では、インドネシアが約650億USドル(約10兆円)で東南アジア最大の市場となっており、タイ260億USドル(約4兆円)、ベトナム220億USドル(約3兆4,000億円)と続きます。2030年には、インドネシアは1500億USドル(約23兆円)まで拡大、ベトナムが630億US(約9兆8,000億円)ドルなど、さらに拡大する見込みです。

東南アジアのEC市場規模推移(2030年は推計値)

図5:東南アジアのEC市場規模推移(2030年は推計値)
出典:E-commerce market volume in Southeast Asia from 2022 to 2024, with a forecast for 2030,
by country(Statistaより引用)

このように、経済×人口×デジタル環境の掛け合わせにより、東南アジアは世界から「次の成長市場」と呼ばれるだけの厚みを備えつつある状況となっています。

2.日本企業にとって参入しやすい越境EC

これまで見てきたように、東南アジアの市場としてのポテンシャルが高まる中で、近年拡大しているのが、国境を越えてEC取引を行う「越境EC」です。東南アジアでも既に広がってきており、2025年のインドネシアの越境EC比率は約25%でした(出典:Domestic and cross-border e-commerce revenue share 2025, by country(Statistaより引用))。

越境ECの拡大は日本企業にとって追い風と言えるでしょう。越境型であれば大きな在庫を抱える必要がなく、小規模で商品需要をテストできるため、参入リスクを抑えやすいからです。加えて、日本ブランドは品質面での信頼が高く、東南アジアの消費者にとって「選びやすい」存在でもあります。
さらに、2024年には東南アジアからの訪日外客数は400万人超と、過去最高となりました(https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/a2f26a7c2b5ef818.html)。
これを言い換えると、訪日中に“日本製品を実際に使った経験”が過去一東南アジアに持ち帰られた、と言えます。ブランド理解がゼロからのスタートではないという点は、参入検討企業にとって大きな強みと言えるでしょう。

3. “挑戦者”の日本企業 ― 整いつつある土俵で、どう価値を示すか

一方で、楽観視はできません。というのも、東南アジアの主要ECプラットフォームは既に中国資本が主導しています。Shopee(元中国資本系SEA)、Lazada(アリババ)、TikTok Shop(ByteDance)といった主要プラットフォームはいずれも中国企業による支配力が強く、流通総額(GMV)の大半を占めています。

東南アジアにおけるプラットフォーム別流通取引総額(GMV)推移

図6:東南アジアにおけるプラットフォーム別流通取引総額(GMV)推移
出典:Gross merchandise value (GMV) of leading e-commerce platforms in Southeast Asia
from 2020 to 2024(Statistaより引用)

カテゴリ別に見ても、美容・文具・アウトドアなど、多くの領域で中国ブランドがTOP20にランクインしています(参考:https://ecnomikata.com/column/46974/)。
彼らは現地採用メンバーを厚く配置し、SNS施策やライブコマース、広告最適化などを高速で回すことに非常に長けています。
日本企業が参入を検討する頃には、既に彼らが各プラットフォーム内での“最適な戦い方”を確立しているのが現実です。
日本企業は“挑戦者”として、この土俵に挑まねばならないのです。
では、その中でどう価値を届けていくべきか。― 次に必要なのは、“どこに・何を・なぜ届けるか”という設計の見直しです。

4.日本企業に求められる「届け方」以前の設計 ― “誰に・何を・なぜ”の再定義

まず、“同じルールで戦う”という発想から脱却する必要があります。
中国ブランドのように、広告を大量投下し、短期間で売上を積み上げるモデルを模倣することは、限られたリソースで動く日本企業にとって、現実的ではありません。

だからこそ鍵になるのは、「誰に・何を・なぜ届けるのか」という、“設計”そのものの再定義です。
今や競争は、単に商品の優劣ではなく、「どの価値を、どの文脈で、どのターゲットに届けるか」という“意味づけ”の勝負に移っています。

弊社が提携する海外パネルデータの「海外消費者購買データ」では、東南アジアの生活者が
・どのカテゴリの商品を
・どのチャネルから
・いくらで購入しているのか
といった購買行動のトレンドを把握することが可能です。

さらに、Nint東南アジアECデータを活用すれば、
・どの国・どのプラットフォーム上で
・どのブランドが
・どの価格帯・SKU(※)で実際に動いているのか
といった“販売の現場”をデータで捉えることができます。
※サイズ、パッケージ、色違いなどを区別した、在庫管理における最小の管理単位。

つまり、“売れる理由”を探す前に、「何が、どこで、どう売れているか」という市場構造を、生活者と販売の両面から理解し、その上で自社の強みをどう活かし、どこで勝負すべきかを“設計”することが鍵となります。

インテージでは、データと現地理解を掛け合わせ、EC戦略の基盤となる「市場構造の可視化」をご支援しています。これは戦略設計の出発点であり、日本企業がこの市場で勝ち筋を築くための基盤土台になります。
東南アジアECで成果を上げるために、まずは戦略策定のための基盤土台づくりから始めてみませんか?



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    執筆者プロフィール
    小山 麻由美

    2012年から11年間、日系および外資系FMCGメーカーの日本国内マーケティング活動を支援。2023年より現職にて、海外パネルデータ、特に中国・東南アジアECパネルデータの調達・展開を担い、主に海外EC領域のデータ活用を支援している。
    多言語学習や文化観察を日々の習慣とし、言葉から世界を読み解くことがライフワーク。

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    編集者プロフィール
    高浜 理沙

    日系のFMCGメーカー(化粧品、ベビー用品、食品・飲料等)のアジア・欧米でのマーケティング・リサーチ支援に従事したのち、2019年より現職にて、日系企業の海外マーケティング・リサーチのためのソリューション開発や、セミナー等の対外発信を行う。
    子どもが生まれてからは、家族と自身の心身の健康をいかに保つかが最大の関心事で、様々なグッズ・サービスを試している。

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    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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