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Last updatedcalendar_month2026/05/18エアフライヤーが示す「国ごとに異なる購買動機」 ―グローバル市場で求められる価値設計とは

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1.はじめに

近年、世界的に急成長している調理家電の一つがエアフライヤー(ノンフライヤー)です。高温の熱風を循環させることで、油をほとんど使わずに揚げ物のような調理ができる点が評価され、欧米や中国を中心に急速に普及しています。
一方、日本市場ではその存在は認知されつつあるものの、「欲しい家電」ではなく「気になる家電」にとどまっているのが実情ではないでしょうか。なぜ、同じ製品でありながら国によってここまで受容度に差が生まれるのでしょうか。
市場データをみると、エアフライヤー市場は世界的に拡大しており、2026年には約21億米ドル(約3,330億円)、2030年には約43億米ドル(約6,820億円)に達すると予測されています。年平均成長率は17%を超えており、新興家電カテゴリーとしては非常に高い成長性を示しています1。しかし、この成長は均一ではなく、国ごとに大きな偏りが見られます。

インテージが保有する海外生活者データ「Global Viewer(2025年実施)」によると、エアフライヤーを世帯で保有している人の割合は、中国、韓国、シンガポール、マレーシア、アメリカで5割近くに上ります。一方、日本ではその割合が4.2%で極めて低く、今後の購入意向も他国に比べて低調です。

1 Air Fryers - Japan | Statista Market Forecast

世帯保有/今後1年購入検討 家電カテゴリー(MA)(ベース:各国18~64歳男女)

図1:世帯保有/今後1年購入検討 家電カテゴリー(MA)(ベース:各国18~64歳男女)
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)

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普及のカギとなっているのは何でしょうか。本記事では、エアフライヤーの普及率が高い中国・アメリカと日本を比較することで、その理由を探ってみたいと思います。

2.健康意識の違い:低脂質は本当に刺さる価値か

エアフライヤーの代表的な訴求点は「油を使わず、脂質を抑えられる」という健康価値です。しかし、この価値がどの程度重視されているかは国によって大きく異なります。
同データを見ると、「食生活で気を付けること」として「脂質の摂取を減らす」と回答した割合は、日本が中国やアメリカよりも明確に低い結果となっています。

食生活で気を付けていること(MA)(ベース:各国18~64歳男女)

図2:食生活で気を付けていること(MA)(ベース:各国18~64歳男女)
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)

脂質を気にしている人におけるエアフライヤー保有率を見ても、日本での割合は中国とアメリカに比べて低く、「油を落とす」という機能的なUSP(商品が持つ独自の強み)は、日本人にはさほど刺さっていないとうかがえます。このような健康意識は普及率につながっているかもしれません。

エアフライヤー保有率(ベース:各国18~64歳男女のうち「脂質の摂取を減らす」ことを気にしている人)

図3:エアフライヤー保有率
(ベース:各国18~64歳男女のうち「脂質の摂取を減らす」ことを気にしている人)
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)

ここから読み取れるのは、日本人の健康意識が低いということではありません。日本では「適量」「バランス」「胃に負担をかけない」といった包括的な健康観が重視されやすく、特定の栄養素を削減すること自体が強い購買動機になりにくい傾向があるかと思います。そのため、「油を落とす」という単一機能の強調は、日本の消費者価値観とは必ずしも合致していない可能性があります。

3.家庭料理メニューの違い:既存の食習慣に必要とされる家電か

家電の普及は、生活者が日常的に作る料理と密接に関係しています。日本の家庭料理は煮物・焼き魚・炒め物など比較的、油使用量の少ないメニューが中心です。そのため、「揚げ物をいかにヘルシーに調理するか」という課題自体が、日常生活においてそれほど大きな比重を占めていません。
一方で、アメリカはフライドポテト・フライドチキン・ハンバーガーといった高脂質メニューが日常的に消費されています。好きな食べ物を我慢せずに食べ続けるための手段として、エアフライヤーが機能しており、極めて実用的な家電になっているのではないでしょうか。
つまりエアフライヤーは、新しい食文化を創出する家電というよりも、既存の食習慣を前向きに肯定する家電として受け入れられていると考えられます。日本ではその前提となる食習慣自体が存在しないため、必然性が生まれにくいのです。

アメリカで最も人気のあるアメリカ料理(2024年)

図4:アメリカにおける人気のアメリカ料理(2024年)
出典:Statista   Most popular American food dishes US Q4 2024| Statista  

4.スペースの問題:簡単に置くことができるか

インテージが保有する海外生活者ビジュアルデータベース「Consumer Life Panorama(通称:CLP)」 から各国のキッチンの画像を見ると、中国やアメリカのキッチンは日本に比べて広く、調理家電を複数常設できる余裕があります。一方で、日本のキッチンはスペースに限りがあり、置かれる家電は使用頻度の高いものに厳選されています。
エアフライヤーは炊飯器に近いサイズ感であるため、毎日使わなければ優先的に置かれにくい家電です。これは単なる住宅事情ではなく、使用頻度とコストパフォーマンスを冷静に評価する日本の消費者心理を反映しているともいえます。

(1)日本
日本のキッチン一例です。カウンターのスペースは広くなく、調理家電を置ける場所は限られています。電子レンジや炊飯器など使用頻度の高い家電が優先されるため、追加の調理家電を常設する余白が生まれにくい点が特徴です。

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出典:インテージConsumer Life Panorama

Consumer Life Panoramaとは

世界18カ国1,000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者の理解に役立つ。

本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。

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(2)中国
中国のキッチン一例です。横に長いカウンタースペースが確保されており、複数の調理家電を並べて設置できる余裕があります。日常的に複数の家電を併用する前提の空間設計となっており、新たな家電も受け入れやすい環境です。

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出典:インテージConsumer Life Panorama

(3)アメリカ
アメリカのキッチン一例です。カウンター、収納、ダイニングが一体化した広い空間設計で、複数の大型家電が設置・保管されています。使用頻度に応じて「置く・しまう」を柔軟に切り替えられるため、新しい家電を導入する心理的・物理的ハードルが低い点が特徴です。

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出典:インテージConsumer Life Panorama

(4)エアフライヤー:参考画像
以下の写真は、中国(右)とアメリカ(左)の家庭で使用されているエアフライヤーの一例です。いずれもキッチンカウンター上に常設されており、日常的に使用される家電であることがうかがえます。炊飯器に近いサイズ感を持つため、設置には一定のスペースが必要であり、キッチン環境によって導入可否が左右されます。

 

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出典:インテージConsumer Life Panorama

5.結論:訴求価値をローカライズすることの重要性   

以上から、グローバル市場での成長を目指すうえで重要なのは、製品そのものだけではなく「購入理由」や「訴求価値」を国ごとに最適化することであるといえます。
エアフライヤーは同一の製品でありながら、海外では「油を抑えて揚げ物を楽しめる」という健康・嗜好両立の価値として受け入れられています。一方で日本では、そうした価値は必ずしも強い購買動機にはなっていません。
むしろ日本においては、「日常料理の時短」「調理の失敗を減らせる」といった実用的なベネフィットとして再解釈することで、生活者にとっての意味づけが強まる可能性があります。

今回見てきたエアフライヤーの例のように、食習慣・住環境・健康観といった生活文脈に応じて訴求価値をローカライズした形で、各国の生活者に響く価値を設計することが重要であるといえます。



  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    イリイナ アレクサンドラ

    ロシア出身。学生時代に東洋学を専攻し、日本文化に魅了され来日。2024年よりインテージにてFMCG領域のグローバルリサーチを担当。日本の魅力を世界に発信することをライフワークとしている。

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    編集者プロフィール
    高浜 理沙

    日系のFMCGメーカー(化粧品、ベビー用品、食品・飲料等)のアジア・欧米でのマーケティング・リサーチ支援に従事したのち、2019年より現職にて、日系企業の海外マーケティング・リサーチのためのソリューション開発や、セミナー等の対外発信を行う。
    子どもが生まれてからは、家族と自身の心身の健康をいかに保つかが最大の関心事で、様々なグッズ・サービスを試している。