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【中国:地球の暮らし方】風呂場とトイレが意外と広くない中国家庭

前回(【中国】中国人はおしゃべり好きなのに、独立型キッチンを好むのはなぜ?)は、生活習慣の差異による日本と中国におけるキッチンのレイアウトと使い方の違いについて紹介した。このような違いはキッチンだけではなく、風呂場とトイレの違いもまた大きい。今回は日本と中国のこの2箇所における違いとその背景について紹介する。

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第1回:【中国】中国人はおしゃべり好きなのに、独立型キッチンを好むのはなぜ?
第2回:【中国】風呂場とトイレが意外と広くない中国家庭
第3回:【中国】中国家庭のリビング使用実態は玄関と冷蔵庫からわかる!
第4回:【中国】空間最大限利用のためのバルコニー活用術とは?
第5回:【中国】配線の自由度が高い中国住宅
第6回:【中国】自宅に置かれている小物から見る中国人のライフスタイル
第7回:【中国】中国住宅の住環境と掃除事情
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入浴に対する考え方が大きく異なる日本と中国

まず、風呂場における日本と中国の違いを一言で端的に言うと、浴槽の有無だろう。日本では、伝統的に入浴の習慣が強い。そのため、どんなに狭いスペースでも浴槽はついている。たとえユニットバスでも、浴槽は約半分ぐらいのスペースを占めるのが一般的。一方、中国ではたいていの家庭にはシャワーだけ設置されていて、浴槽はよほどスペースがある別荘やホテルなど以外にはめったに見かけない。

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中国のシャワーだけの風呂場(左)、日本の浴槽付き風呂場(右)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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日本でも、中国でも入浴の目的は体を清潔に保つこと。入浴の流れに関して、日本家庭ではまずシャワーを浴びてからお風呂に入るのが一般的である。ところが、中国人からすると、何で毎日お風呂に入る必要があるのかという疑問を抱えるかもしれない。そこには、入浴に対する日本と中国の間の大きな違いがあるのだ。中国人にとって、入浴の目的はただ単純に体を清潔に保つことだが、日本人にとってはお風呂に入ることは体を清潔に保つだけでなく、リラックスという目的も含まれているからだろう。

実は、入浴の習慣に関して、中国の中でも南と北において、大きな違いがある。中国の南部では、蒸し暑く湿気が多いので、よく汗をかく。そのため、シャワーは体をきれいにするのに一番効率的な手段として受け入れられている。

一方で、中国の北部では空気が乾燥して、寒い時期が長い。汗をかくのも南部ほど頻繁ではないので、毎日シャワーをすると逆に体を冷やしてしまう。そのため、週に一回ぐらいに身体を洗うことが一般的である。また、一週間たまった身体の垢をよく落とすため、北のほうでは「垢すり」(中国語では「搓澡」)の習慣がある。これはかなりの力作業なので、自宅のシャワー室でやる人もいるが、多くの人は銭湯に行って専門の店員さんにやってもらう。そうすると、浴槽は頻繁に使わない割に大きなスペースを占める余分なものとして考えられ普及していないのかもしれない。

また、シャワー室や洗面台の近くでは、よく重なって置かれているゆおけを見かける。毎日シャワーを浴びていない家庭では、普段このようなゆおけを2つぐらいは少なくとも用意している。ひとつは洗面用で、もうひとつは足を洗うためなのだ。

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中国のシャワー室によく見かけるゆおけ
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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まだまだ広いとは言えない中国家庭の居住面積

もちろん、風呂場とトイレに関する日本と中国の差異は、浴槽の有無だけではない。全体的なレイアウト図を俯瞰してみると、もう一つの違いが見つかるはず。それは、風呂場、洗面台とトイレ、このいわゆる3か所の空間的配置なのだ。中国家庭では、洗面台、トイレ、シャワー室は同じ空間であることが多いのに対し、日本家庭では、それぞれの空間が独立していることが多い。

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一般的な日本家庭の風呂場、洗面台、トイレの配置(赤枠)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
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実は、このような空間の利用の違いが生じる背後には居住面積がある。よく日本の住宅はウサギ小屋と言われるが、実際の統計データを見てみると、驚くことに、日本と比べてでも、中国家庭の居住面積が狭いことがわかるだろう。

下図は中国の都市部の1人当たり住宅建築面積の推移図。ここでいう建築面積は専有部の床面積に、「公攤面積」というマンションの共用部の総面積を戸数で分担した面積を加えたものなので、実際の専有部面積はもっと狭くなる。それでも、中国都市部は2019年になって初めて、日本の2013年水準に達したということから、中国都市部の家庭の居住面積は決して広いとは言えないことが読み取れる。

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中国都市部1人あたり住宅建築面積推移
出典:中国:中国国家統計局
日本:総務省「平成25年住宅・土地統計調査」(データは2013年)

中国では、昔建てられたマンションのリビングや寝室を少しでも広くしようとするため、よく風呂場とトイレの空間を犠牲にしている。ところが、近年、経済成長に伴い、1人当たりの住宅面積も増えている。このような背景で、住居環境に対するこだわりが高くなってくる今、少なくとも洗面台とトイレはシャワー室と何かで区切ることで「乾湿分離」を実現するという内装への需要が増えてきている。とはいえ、日本のように全ての部屋を独立な空間にするのはまだ先のことだろう。

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  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    ヤン イェン

    日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。日本に来て5年経ってもまだお風呂に入ることが習慣になっていないシャワー派。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)

    Global Market Surferのサイトづくりを担当。家にいても、出張に出ても浴槽に浸かってのリラックス を楽しむ生粋のお風呂派。

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