【アジア各国のZ世代】タイ編:Z世代が求める働き方 若い女性による起業に注目
タイにも、日本のような「就職したい会社ランキング」がある。求人マッチングサービス会社 Work Venture社 によるランキング *1は 10年ほど前から続いており、Googleやタイの大企業SCG、PTTといった会社が上位を占める。この結果から、タイのZ世代も 安定志向 だなと感じてしまう。
そんな中で、2025年1月に 人材管理コンサルティング会社QGEN が発表した 「就職したい会社トップ55社」(20〜40歳の5,424人を対象に行ったオンライン調査)*2では、タイの化粧品ブランドSRICHAND*3 が 1位となった。人気の高いIT企業やタイ財閥企業を抑え1位に躍進したこの化粧品ブランドは一体どんな会社なのか。
SRICHANDは、Srichand United Dispensary Co., Ltd. が展開する化粧品ブランド。1948年に ファミリービジネスの小さな漢方薬局 からスタートし、かつて フェイスパウダー「Srichand Scented Powder」 が流行。しかし、時代の変化とともにブランドは徐々に衰退していった。2006年、Srichandの3代目 である ラウィット氏が後継者として登場し、大胆なリブランディングを実施。2014年に 「Srichand Translucent Powder」 を発売した。このフェイスパウダーは 汗や皮脂を抑える機能性 に加え、タイ・モダンなデザインが画期的なパッケージ、そして 使い心地の良さ で注目を集め、ブランド復活のきっかけとなった。その結果、2006年に 1,000万バーツ台 だった売上は、2014年には 3億バーツ まで増加。その後も二桁台の成長を続け、2023年の収益は10億バーツに達した。*4
出典:Gotomanger (2025/1/3)
SRICHAND は、多様な生き方をサポートする 充実した福利厚生 でも知られており、Z世代に人気の就職先になった理由と考えられる。フレックスタイム制や「Work from Anywhere」(どこからでも仕事が可能) が適用されており、年次有給休暇は20日間。さらに、誕生月には特別休暇を取得 できる。また、2022年6月のプライド月間 には、法定基準を上回る新たな休暇制度を導入。
・ 有給の産休を180日間(タイの法律では98日間)に延長
・ 産後の妻をケアするための夫の休暇30日間を新設
・ 性転換手術のための休暇30日間を導入
このほか、毎月1冊の書籍購入代補助 や 自社製品の無料配布(月1回) など、社員の成長や生活の質を高める制度も充実している。*5
3代目後継者の手腕による安定的な会社運営と、 自由でゆとりのある職場環境 が、若い世代からの支持を集める大きな要因になっているのだろう。
若者の安全志向は自分の国の今後の経済状況をどうみるかにも関係があると言われている。経済状況がよくなると思われると、チャレンジするZ世代も増えるという理屈になる。
Intageが保有する生活者データベースGlobal Viewerによると韓国、香港、シンガポールといった先進国では1年後の経済状況が変わらないと思うZ世代が多い(約40-50%)。一方、インドネシア、ベトナムといった発展途上国では経済がよくなると思うZ世代が多い(2か国とも77%)。タイのZ世代は(66%)どちらというと、発展途上国寄りと見られる。
(出典:インテージGlobal Viewer(2024年))
就職したい企業ランキングだけを見ると、タイでは安定した就職先を希望するZ世代が多くみられるが、起業を夢見て奮闘する若者も少なくないと推測される。
筆者自身も、Z世代の女性で大学受験を遅らせて自分のコスメブランドを立ち上げた、アサイーのスイーツショップを展開し、バンコクに複数の支店を持っているという話を、最近身近で耳にするようになった。
タイ人の10代女子に大人気のコスメブランドLOVE POTIONは、Z世代の女性の起業によるブランドだ。
https://www.instagram.com/p/DC84oJWTx7p/?hl=en&img_index=5
LOVE POTIONは、TikTokアカウント(フォロワー数330万人 https://www.tiktok.com/@lovepotion_officialth?lang=en) を活用し、ライブ配信で商品を販売 することで急成長を遂げたブランド。ライブ配信中に購入すると割引価格で買える仕組みになっており、多くの若い女性たちがリアルタイムで参加している。
ブランドオーナーは20代の女性、カード氏。彼女は2014年、17歳のときに「手頃な価格で品質のよい商品を作りたい」 という思いからLOVE POTIONを立ち上げた。現在、カード氏の個人TikTokアカウント(フォロワー数1,100万人超 https://www.tiktok.com/@cardncyn?lang=en)も10代・20代の女子たちに圧倒的な人気を誇る。
彼女の投稿は、LOVE POTIONの商品紹介のほか、ファッションやユーモアあふれる内容が特徴 で、時には大胆な行動で話題を集める。たとえば、占い師に「ラッキーカラーは緑」と言われたことをきっかけに、車、衣類、商品パッケージをすべて緑色に変えた こともある。TikTokを通じて商品が爆発的に売れる現象も 起きており、ライブ販売では、数千個の商品が販売開始から1分もかからずに売り切れることもある。2023年の収益は前年比177%増の1.5億バーツ に達し、その後も勢いは衰えていない。
バンコクの学生街、バンタットトーン通りにあるタイティーショップ Everyday Thai Tea。店名のタイ語「ฉันจะกินชาเย็นทุกวัน」は、直訳すると「私はタイティーを毎日飲む」という意味だ。
ショップの店内は明るいオレンジ色で統一され、太いアウトラインの可愛いイラストが印象的。オーナーのビュウ氏は、大学卒業後に起業を志し、2023年に同店をオープン。バンタットトーン通りを訪れるZ世代に支持され、「Signature Cha Yan」(アイスタイティー 70バーツ)などの人気メニューがある。
驚くべきは、オープンからわずか1年でバンコク市内に16店舗を展開し、2024年の収益は1億バーツに達するとみられている。*7
タイでは経済成長により、給料の安定した大企業や、福利厚生が充実した自由な会社が増加。若者に人気の就職先となる傾向がある。その一方で、タイには昔から、束縛を嫌う自由人が多く、自分のビジネスに挑戦したいと考える人が多い。Z世代にも起業を好む傾向が見られる。上記に挙げた、20代女性の行動力とSNSを駆使したブランディング力による成功事例には目を見張るものがある。今後も、これらの成功事例に触発され起業に挑戦する若者が出てくるのではないだろうか。
*1 https://www.workventure.com/top50-companies-2024
*2 https://www.facebook.com/qgenconsultant/posts/pfbid02mru7ERmffS1W1nJh5FyZXmySjDgewN9D3wjr3QVrSeXF1iZ8fBsRqBjz2AQHhew2l
*3 https://srichand.com/
*4 https://gotomanager.com/content/136493/#:~:text=%E0%B8%97%E0%B8%B1%E0%B9%89%E0%B8%87%E0%B8%99%E0%B8%B5%E0%B9%89%20%E0%B8%A8%E0%B8%A3%E0%B8%B5%E0%B8%88%E0%B8%B1%E0%B8%99%E0%B8%97%E0%B8%A3%E0%B9%8C%E0%B8%84%E0%B8%B2%E0%B8%94%E0%B8%A7%E0%B9%88%E0%B8%B2%E0%B9%83%E0%B8%99,%E0%B8%9A%E0%B8%B2%E0%B8%97%20%E0%B8%81%E0%B8%B3%E0%B9%84%E0%B8%A3%2080%20%E0%B8%A5%E0%B9%89%E0%B8%B2%E0%B8%99%E0%B8%9A%E0%B8%B2%E0%B8%97
*5 https://srichand.co.th/en/our-benefits
*6 https://www.amarintv.com/spotlight/business-marketing/71150
*7 https://www.bangkokbiznews.com/business/business/1147398
Global Viewerとは
インテージがストックする11ヵ国(アジア・US)の生活者の様々な実態・意識に関するアンケートデータを用いて、ご課題に応じたレポートをご提供するサービス。
カバーしている項目は、各種商品・サービスカテゴリー(※)に関する行動実態・意識、価値観・情報接触など400項目に及ぶ。
※カテゴリー例:
食品・飲料、パーソナルケア・化粧品、ハウスホールドケア、育児・介護、モビリティ、家電、スマートホーム、住宅、エンタメコンテンツ(ゲーム・音楽等)、金融、保険、旅行(訪日)、オンラインサービス 等
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執筆者プロフィール
TNCライフスタイル・リサーチャー
タイ人の夫と3人の子どもとバンコクに住んで18年。小学6年の次女は、TikTokで見る食べ物やグッズ、メイクアイテムに夢中で、将来の夢は友達とカフェをやることだそうです!
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編集者プロフィール
チュウ フォンタット
日本在住14年目マレーシア人。Global Market Surferのサイト作りを担当。
- 2025/03/07
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