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【中国】歴史からひも解く、茶飲料市場の新たな成長

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1.はじめに

お茶は中国文化を象徴する存在の一つであり、数千年の発展を経て、伝統的な茶葉の消費から、より多様化した現代的な茶飲料市場へと拡大してきました。近年、中国の茶飲料市場は急速に変化しており、「伝統茶葉」「即飲茶(RTD: Ready-to-Drink)」に、近年急成長を遂げている「作り立てのお茶」が加わり、この3大分野が共存する新たな市場構造が形成されつつあります。これにより、中国の茶飲料市場は新たな成長機会を迎えています。

伝統茶葉

即飲茶(RTD: Ready-to-Drink)

作り立てのお茶

Statista(2025年)のデータによると、中国の茶飲料市場規模は7,556億元(約17兆円)に達しており、今後も高い成長率が続くと予測されます。

中国における茶市場規模の推移(2020~2024年)および2029年までの予測(製品タイプ別)

図1:中国における茶市場規模の推移(2020~2024年)および2029年までの予測(製品タイプ別)
引用:HKExnews, & Bama Tea. (August 28, 2025). Market size of tea in China from 2020 to 2024, with estimates until 2029, by type of products (in billion yuan) [Graph]. In Statista. Retrieved November 04, 2025 (Statistaより引用)

そこで、この記事ではインテージの海外生活者データ「Global Viewer」*で保有するお茶に関するデータを分析し、中国における緑茶と紅茶の浸透状況、飲用目的、購入時の重視点を整理することで、それぞれの特徴を明らかにしていきます。

2.中国における緑茶と紅茶の「飲用状況」

「過去1か月の購入飲料カテゴリー」に関するデータを確認したところ、緑茶は全世代にわたって紅茶よりも広く浸透していることが分かりました。一方で、紅茶は高齢層では浸透度が低いものの、20〜40代では一定の購入がみられます。

過去1か月購入飲料カテゴリー【ベース:中国18歳~64歳男女】(MA)

図2:過去1か月購入飲料カテゴリー【ベース:中国18歳~64歳男女】(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)

*Global Viewerとは

インテージがストックする11カ国(アジア・US)の生活者の様々な実態・意識に関するアンケートデータを用いて、ご課題に応じたレポートをご提供するサービス。
カバーしている項目は、各種商品・サービスカテゴリーに関する行動実態・意識、価値観・情報接触など400項目に及ぶ。

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3.中国における緑茶と紅茶の「飲用目的」

緑茶と紅茶の飲用目的については、「喉が渇いた時」「リラックスしたい時」「リフレッシュしたい時」「暑さを和らげたい時」の順で高い傾向がみられました。なかでも、「喉が渇いた時」「リフレッシュしたい時」「暑さを和らげたい時」においては、緑茶の方が紅茶よりも目的意識が高く、緑茶がより日常的な飲用シーンに適した飲料として位置づけられていることがうかがえます。

飲用目的【ベース:中国18~64歳各カテゴリー過去1か月飲用者】   (MA)

図3:飲用目的【ベース:中国18~64歳各カテゴリー過去1か月飲用者】(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)
※Totalの上位7項目(降順)を抜粋して掲載

続いて、20代と50代の男女に絞って、飲用目的を年代別に確認してみます。

●緑茶の飲用目的(年代別)
緑茶を飲む目的としては、「喉が渇いた時」や「リラックス・リフレッシュしたい時」が主な理由となっています。
特に50代では、これらの目的が20代よりも強く表れていることが確認できました。一方、20代では「集中したい時」に緑茶を飲む割合が比較的高い点が特徴的です。
これらの結果から、緑茶は「喉の渇きを癒す」といった日常的・機能的な目的での飲用が中心であり、特に中高年層では「リラックス」や「リフレッシュ」といった情緒的な側面が若年層よりさらに重視されていると考えられます。

緑茶飲用目的【ベース:緑茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)

図4:緑茶飲用目的【ベース:緑茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)
※Totalの上位7項目(降順)を抜粋して掲載

●紅茶の飲用目的(年代別)
紅茶も全体的には緑茶と同様な傾向を示していますが、50代では「リラックス・リフレッシュしたい時」の目的は20代とほぼ同じレベルとなっており、その代わりに、「暑さを和らげたい時」に飲用する傾向が20代より強くみられました。
これらの結果から、紅茶は年代を問わず一定の機能的価値が重視されているものの、年代別により、重視している機能的価値は多様化していることがうかがえます。
  

紅茶飲用目的【ベース:紅茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)

図5:紅茶飲用目的【ベース:紅茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)
※Totalの上位7項目(降順)を抜粋して掲載

4.中国における緑茶と紅茶の購入重視点

購入時に重視されるポイントは、「味・風味が良い」「価格」「天然素材」「国の安全認証」の順に高い傾向がみられました。なかでも緑茶の購入時には、「価格」「天然素材」「製造地」がより重視されており、消費者が緑茶を「身近で健康的な飲料」として認識していることがうかがえます。
一方、紅茶の購入時には「味・風味が良い」が特に重視される傾向が強く、紅茶は「味覚的満足度」や「嗜好性」がより重視される飲料であると考えられます。

購入時重視点【ベース:中国18~64歳各カテゴリー過去1か月飲用者  】 (MA)

図6:購入時重視点【ベース:中国18~64歳各カテゴリー過去1か月飲用者  】 (MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)
※Totalの上位10項目(降順)を抜粋して掲載

続いて、20代と50代の男女に絞って、購入重視点を年代別に確認してみます。
緑茶と紅茶の購入時の重視点には、共通して年代層によって明確な違いがみられました。
20代の若い層では、「味・風味が良い」「低カロリー」「パッケージデザイン」など、風味や機能、デザイン性に関連するポイントを重視する傾向が強く見られます。
一方で、40代を中心とした上の年代層では、「製造地」「天然素材」「ブランドイメージ」「国の安全認証」など、品質や安全性、信頼性といった要素をより重視する傾向がみられます。
これらの結果から、若年層は「機能価値」や「デザイン性」に基づいて商品を選択するのに対し、中高年層は「情緒価値」や「信頼性」を重視する傾向があると考えられます。

購入時重視点【ベース:緑茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)

図7:購入時重視点【ベース:緑茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)
※Totalの上位10項目(降順)を抜粋して掲載

購入時重視点【ベース:紅茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)

図8:購入時重視点【ベース:紅茶過去1か月飲用者(20代と50代抜粋)】(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)
※Totalの上位10項目(降順)を抜粋して掲載

5.歴史・文化からの考察

では、なぜ緑茶では「価格」「天然素材」「製造地」がより重視され、紅茶では「味・風味の良さ」が重視されるのでしょうか。その背景を歴史・文化の観点から探ってみます。

中国には、王族や文人に愛飲されてきた長い歴史を持つ緑茶の名品が多く存在します。代表的なものとして、浙江省の龍井(ロンジン)、江蘇省の碧螺春(ビーローチュン)、安徽省の黄山毛峰(ホワンシャンマオフェン)などが挙げられます。これらの緑茶品種は歴史的価値に加え、産地固有の気候・土壌といった環境条件が茶葉の品質に直結するため、同じ品種でも他地域で同じ品質を再現することが難しいのです。その希少性ゆえに価格も相対的に高く、結果として「天然」「製造地」といった要素が重視されやすいと考えられます。

一方、紅茶の発祥は中国・福建省とされているものの、当時の中国では緑茶や烏龍茶が主流で、紅茶は主にヨーロッパ向けの輸出品として発展しました。そして、紅茶を世界各地に広めたのはイギリスです。近年では、紅茶を原材料とするミルクティーの人気上昇に伴い、中国の消費者にも紅茶が身近な存在となりつつあります。こうした歴史的・文化的文脈から、紅茶に対しては「外来の味を楽しむ」という意識が働きやすく、「味・風味の良さ」が特に重視される一因になっていると考えられます 。

6.まとめ

この記事では、中国の茶飲料市場における緑茶と紅茶の浸透度、飲用目的、購入時の重視点の違いを整理しました。分析の結果、緑茶は日常的かつ機能的な飲用が中心であり、「価格」「天然素材」「製造地」といった要素が重視されることが明らかになりました。一方、紅茶は「味・風味」といった嗜好価値がより重要視される傾向がみられました。
緑茶においては、安心感や産地価値を訴求することが効果的であり、紅茶では味わいや香りの強化が鍵となるでしょう。急成長を続ける中国の茶飲料市場においてブランドを成長させるためには、「誰に、どの価値を、どんなシーンで提供するのか」を明確にすることが、今後ますます重要になると考えられます。  



  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    閻 吉祥

    2023年より現職にて、日用食品・飲料・雑貨メーカー様向けマーケティング活動の支援・サポートに従事。

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    編集者プロフィール
    高浜 理沙

    日系のFMCGメーカー(化粧品、ベビー用品、食品・飲料等)のアジア・欧米でのマーケティング・リサーチ支援に従事したのち、2019年より現職にて、日系企業の海外マーケティング・リサーチのためのソリューション開発や、セミナー等の対外発信を行う。
    子どもが生まれてからは、家族と自身の心身の健康をいかに保つかが最大の関心事で、様々なグッズ・サービスを試している。

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    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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