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【ASEAN】健康補助食品市場:急成長から見えてくる背景

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1.ASEANにおける健康志向の高まりと健康補助食品市場の「急成長」

近年、ASEANにおける健康補助食品1市場は急速な成長を遂げています。2023年には、ASEANの中でインドネシアが健康補助食品市場規模でトップとなり、2番目にはタイとベトナムが続きます。

1 日々の食事だけでは不足しがちなビタミン、ミネラル、タンパク質などを補う食品のこと

東南アジアにおける健康補助食品の市場規模(2023年、国別)(単位:百万米ドル)

図1:東南アジアにおける健康補助食品の市場規模(2023年、国別)(単位:百万米ドル)
出典:Market size of health supplements in Southeast Asia in 2023, by country(Statistaより引用)

ただし、市場規模を人口で割った数では、タイが3.19USD(約496円)となっており、一人当たりの支出額がインドネシアの3.9倍に及びます。

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図2:健康補助食品市場規模に対する一人当たりの金額

このように健康補助食品市場が拡大している背景には、ASEAN各国の健康食への意識が高いからと思う方も多いと思いますが、実際はどうなのでしょうか。

この記事では、東南アジア主要3カ国(インドネシア、タイ、ベトナム)の「健康意識」「健康のための食意識」「食料品購入時重視点」を、インテージが保有する海外生活者データ「Global Viewer」(2024年実施)から読み解き、健康補助食品市場の成長の鍵を探ります。

2.3カ国の健康と食意識:タイは健康と食への関心が低い?

(1)「健康意識」に関して

インテージが保有する海外生活者データ「*Global Viewer」(2024年実施)によると、市場規模が1番大きなインドネシアは、他の2カ国より「身体の内側からの健康ケアを心がけている」「手軽に、必要な栄養素を取れることが大事」「バランスの良い食生活を目指す」などのスコアが高く、栄養や健康食を重視していることがうかがえます。
一方で、健康補助食品一人当たり支出額がトップのタイは、全ての項目において最もスコアが低いことが分かりました。インドネシアでは食事のバランスや栄養への意識が最も高く、タイはそれと比べると、やや低い傾向にあると言えます。

健康に関する考え方(5段階Top1)

 図3:健康に関する考え方(5段階Top1)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年) V6S2_MA1

*Global Viewerとは

インテージがストックする11カ国(アジア・US)の生活者の様々な実態・意識に関するアンケートデータを用いて、ご課題に応じたレポートをご提供するサービス。
カバーしている項目は、各種商品・サービスカテゴリーに関する行動実態・意識、価値観・情報接触など400項目に及ぶ。

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(2)健康のための食意識に関して

健康のための食意識を見てみると、「健康的な食事を心がけている」「人工的な香料や保存料を避けている」は3カ国とも他の項目よりもポイントが高いことが分かりました。しかし、ここでもインドネシアのポイントが最も高く、タイが最も低い結果となっています。
ただし、「食品は便利で手早く処理できることが重要」に関しては、タイは他2カ国より5ポイント以上も高い結果となっています。また、タイは「料理は好きではない」「健康的な食事をする余裕がない」と答える割合も他国より高く、自炊の意識が低いことが読み取れます。

健康のための食に関する考え方(MA)

図4:健康のための食に関する考え方(MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年)V0221

3.タイの健康意識が低い理由を考察

ここまでで、タイの健康意識が他国より低いことが明確に見えてきました。では、なぜこのような意識の違いがあるのか考察していきます。

この意識の違いの背景には、経済と生活様式の変化があると思われます。タイでは、一人当たりGDPが3カ国の中で最も高く2、所得向上と都市化により外食や屋台文化が発達し、自炊頻度が減少しています。こうしたライフスタイルの変化が「便利さ」や「味」を優先する食習慣を生み、健康食へのこだわりを相対的に弱めています。
一方、インドネシアやベトナムは家庭で食事を作り家族で囲む文化が根強く3、家族のために作る料理で、自然素材や栄養を重視すると考えられます。

2 ASEAN countries GDP per capita 2020-2030| Statista
3アジアの自炊事情_自炊頻度から見える各国食生活スタイルの違い | Column | Global Market Surfer

また、各国の医療インフラも間接的に影響を与えているのではないかと考えられます。タイは2024年時点で一人当たり医療費支出が 423.62USD(約66,000円)4 と、インドネシアの168.09USD(約26,000円) とベトナムの218.96USD(約34,000円)より高い金額です。このことは、医療インフラが整備されていることを示しています。たとえ病気になっても医療で対応できるという安心感から、一人ひとりが食に「健康」を求める必要性が低く、その代わりに「便利さ」や「味」を重視する傾向が強まっていると推測されます。

4 Thailand: current healthcare spending per capita 2014-2029| Statista

4.購買行動から見えてくる違い:利便性を重視するタイ

では、上記の考察が合っているのか、「食料品購入時重視点」のデータで検証していきます。

食品購入時の重視点を比較すると、インドネシアとベトナムでは「新鮮」「天然素材」「高品質」でポイントが高く、健康に関連性がある項目を重視している一方で、タイは「どこでも買える」のポイントが高く、他の2カ国より利便性を優先していることが分かります。
この結果から、タイは食材の“手軽さ”が購買の決め手となっているのかもしれません。また、インドネシアやベトナムは食料品の購買において健康を重視する動きが確認でき、タイはそれより「便利さ」を選んでいる構図が確認できます。

食料品の購入時に重視する点 (MA)

図5:食料品の購入時に重視する点 (MA)
出典:インテージGlobal Viewer(2024年) V0231

5.まとめ

健康補助食品一人当たり支出額がトップのタイですが、意外にも健康意識、特に食に関する健康意識がそこまで高くありません。その背景には、外食文化の発達と医療インフラの充実があると考えられます。それでも健康補助食品一人当たりの支出額がトップになった理由は、「健康補助食品は、食べる食事とは別もの」と捉えていると推測されます。

タイは日々の食事において、利便性、美味しさを求めており、それによって栄養不足にならないために健康補助食品で補っています。また、体に不調があったときは医療機関で診てもらいます。日本などの先進国も同じなのではないでしょうか。インドネシアとベトナムはそれに比べ、日々の食事でも健康に気を付けており、タイほど健康補助食品を使っていないことが想像できます。



  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    イリイナ アレクサンドラ

    ロシア出身。学生時代に東洋学を専攻し、日本文化に魅了され来日。2024年よりインテージにてFMCG領域のグローバルリサーチを担当。日本の魅力を世界に発信することをライフワークとしている。

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    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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