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【海外各国の国民性】マレーシア:進取の気質と、楽しみつつ伝統を受け継ぐバランス感覚

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写真1:中国正月時期のショッピングモールの飾りつけ

マレーシア人はいろいろな顔立ちをした人々だ。民族のルーツはさまざまで、宗教や習慣も異なる。調査によると、マレーシアには140の言語があるという。言語の数だけ視点や価値観があると考えると、その多様性は大変なものだ。

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写真2:左から3大民族の華人(中国系)、マレー人、インド系

その多様な人々を一言でまとめて表すのは簡単ではないが、新しいものを受け入れる進取の気質は、共通して感じられる点の一つだと思う。
2001年設立のエアアジアは、今や20カ国に就航する低価格航空会社(LCC)の顔となった。創業者のトニー・フェルナンデス氏は、イギリスで教育を受けたインド系マレーシア人で、30代で起業している。現在はシンガポールに本社を置くグラブ(Grab)も、もとはマレーシア発のタクシー配車サービスだ。マレーシア華人のアンソニー・タン氏は、アメリカのハーバード経営大学院在学中に、前身となる「My Teksi」を友人とともに立ち上げた。事業は現在、東南アジア8カ国に展開している。

マレーシアには若い起業家を生み出す風土があり、よいと思えば新しいサービスを支持する消費者がいる。教育を受ける場や事業を展開するフィールドを、国内に限らない点もマレーシアらしい。

その一方で、民族の伝統行事や宗教行事を大切にしている印象も強い。そうした行事は「尊重すべきもの」という共通の価値観が、社会の中に根付いているように感じる。

日本では、伝統行事の継承は、ともすると生真面目で堅苦しく、「義務」や「責任感」という文脈で語られることが多い。マレーシアでももちろんそうした側面はあるが、そこはマレーシア人気質だ。せっかくなら愉快に、にぎやかに「楽しむ」ことを忘れない。


1.一年に4回訪れる「お正月」

熱帯に位置するマレーシアには、日本のような四季はない。雨季と乾季の入れ替わりで季節を感じるくらいだが、多彩な季節行事が人々に暦を意識させる。
マレーシアには「一年に4回の正月がある」といわれる。西暦(グレゴリオ暦)以外にもさまざまな暦が生きているため、「1月1日」は異なる時期に何度も訪れる。2026年は、主なものだけでも次のとおりだ。

西暦1月1日 ― 全国で祝日。大みそかにカウントダウン行事が行われるところもある。
2月17日 ― 農暦新年(旧正月)。全国で祝日となり、華人系の企業や商店は3日〜1週間ほど休業する。
4月14日(予定) ― タミール暦新年「Puthandu」。晴れ着を着て寺院に詣でる人が多い。
6月17日(予定) ― ヒジュラ暦新年「Awal Muharram」。大きな行事はないが、イスラム教徒が花火を打ち上げたり、爆竹を鳴らして祝う。

伝統的な暦の多くは太陰太陽暦で、祭日は西暦(太陽暦)上では毎年日付が変わる。1月1日が過ぎても、また別の暦で正月がやってくるわけだ。

2.伝統の暦で行われる民族行事

マレーシアの人口の6割近くを占めるマレー人はイスラム教徒で、「ヒジュラ暦」を用いている。約2割に相当する華人(中国系)の間では「農暦」、日本でいう「旧暦」に当たる暦が現役だ。人口の6%と少数派のインド系は、出身地域や信仰によってさまざまで、「ヒンドゥー暦」や「タミール暦」などを使っている。ボルネオ島に多く住む先住民「オラン・アスリ」(人口の12%)には、イバンやカダサンなど民族グループごとの暦がある。

マレーシアの正月行事でもっともにぎやかなのは、Chinese New Year(CNY)と呼ばれる中国正月だ。華人にとっては最大の行事で、農暦1月1日から2週間余り続く。企業や店舗の玄関には、縁起のよい赤地に金色の対聯(ついれん)やみかんが飾られ、打ち上げ花火や爆竹で盛大に祝われる。ライオン・ダンス(獅子舞)を見かけるのもこの頃だ。

マレー半島では、毎年11月ごろから始まる雨季が、なぜか中国正月の前に終わる。晴れわたった青空の下、季節の変わり目を感じるのが、マレーシアの旧正月である。

3.国教はイスラム教でもクリスマスは祝日

「えっ、明日はクリスマスで仕事はお休みよ」と友人に言われ、驚いたことがある。出かける予定を相談している最中のことで、その年の12月25日は平日だったため、わたしは友人が仕事に行く日だと思い込んでいた。クリスマスが全国で祝日とは知らなかったからだ。

友人はイスラム教徒だが、「クリスマスは日本では休みではないのよ」と伝えると、非常に驚かれた。そう、日本の祝日には宗教に関するものがない。一方、マレーシアでは国教であるイスラム教の行事だけでなく、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教の行事も祝日に定められている。

4.全国的な祝日、州ごとの祝日

マレーシアの祝日には、全国共通のものと、13州がそれぞれに定めた州ごとの祝日がある。主要な宗教上の祭日は全国的な祝日に定められている。
2026年の日付を挙げると、次のとおりだ。

イスラム教の祝日:断食明け大祭(3月20日・21日予定)、犠牲祭(5月27日予定)
仏教の祝日:仏誕節(5月31日)
ヒンドゥー教の祝日: ディーパヴァリ(11月8日)
キリスト教の祝日:クリスマス(12月25日)

「犠牲祭」は、イスラム教徒の多いクランタン州やトレンガヌ州などでは、翌日も祝日としている州がある。「西マレーシア」とよばれるマレー半島部と、ボルネオ島とでは土地柄が大きく異なり、住民の構成比も違うため、州ごとに祝日が定められている。

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写真3:釈迦の誕生を祝う仏誕節は、マレーシアでは5月の最初の満月の日

5.季節行事を楽しむ

興味深いのは、もともと宗教に関連する行事であっても、楽しんで催しに参加する雰囲気があることだ。マレーシアの大型商業施設にはたいてい屋内広場があり、季節に合わせて大規模な飾りつけが行われる。装飾は力作ぞろいで、目まぐるしく変わり、そこに多くの人が集まる。

「ヒンドゥー正月」ともよばれる光の祭り「ディーパヴァリ」の時期には、色鮮やかなコーラムが描かれる。気に入ったコーラムの前でスナップ写真を撮るのは、インド系に限らない。

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写真4:コーラムは着色した米粒や小麦粉などで、縁起のよい模様や絵を描いたもの

巨大なクリスマス・ツリーの下でポーズを取り、自撮りをしているトゥドゥン(頭髪を覆うスカーフ)をかぶった若いイスラム女性も、よく見かける光景だ。

イスラム教徒にとって最大の行事である「ハリラヤ」(断食明け大祭)は、家族で集まって過ごす習慣がある。大型連休となり、「バリッ・カンポン」(田舎に帰る)のはイスラム教徒に限らないため、「楽しんできてね」と言い合うのは珍しくない。日本人のわたしにまで、「いつ帰国するの?」と訊かれるほどだ。

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写真5:一大帰省シーズンのハリラヤの装飾は「ふるさと」のイメージ

6.人生の節目を記念する冠婚葬祭

マレーシアの人々は、冠婚葬祭も大切にする。共通するものとしては、新しい家族を迎える結婚式、人生の終わりに送り出す葬式があるだろう。誕生日も、大人になってから盛大に祝う。

あるとき中国料理店で食事をしていた際、急に照明が暗くなった。停電かなと思ったら「お誕生日おめでとう!」という声とともに、店員がテーブルの周りに集まって「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」を歌い出した。華人の家族と一緒に食事をしていた、白髪のおばあさんの誕生日祝いだったらしい。「トゥ・ユー」の部分を「太太(タイタイ/中国語で『奥様』の意)」に変えているのが微笑ましい。

干支はもともと中国から日本に伝えられたものだが、華人も干支が一巡する「還暦」(60歳を迎えるお祝い)を特に重視する。親戚一同で集まり、不老長寿の象徴である桃をかたどった饅頭や、縁起のよい赤い封筒「紅包」にご祝儀を用意し、長寿と健康を祈る習慣がある。

7.国家の記念行事

マレーシアがイギリスから独立したのは1957年8月31日だ。9月16日には「マレーシア・デイ」という記念日もある。こちらは、1963年にマラヤ連邦とイギリス領シンガポール、サラワク、サバが合体して「マレーシア連邦」が結成された日で、2年後にシンガポールが離脱し、現在のマレーシアになった経緯がある。

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写真6:ムルデカ(独立)という文字をマレーシア国旗の色合いで表現

独立記念日からマレーシア・デイにかけての8月・9月は、街じゅうがマレーシア国旗で埋め尽くされる。首都クアラルンプールでは、中心部の独立広場などで、軍隊や警察によるパレードや戦闘機の航空ショーなど、さまざまな催しが行われる。

マレーシアは、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の中央に位置し、隣国との距離も近い。タイ、シンガポール、ブルネイ、インドネシアとは陸路で行き来が可能で、タイを除く3カ国とはマレー語や英語で意思の疎通もできる。

移民の子孫が定着した2大グループである華人とインド系については、今も中国やインドに親族がいる場合も珍しくない。往来がある中で、なお中国人やインド人ではなく、中国系・インド系の「マレーシア人」という意識をもつには、国民国家の枠組みが必要だ。政府が「一つのマレーシア(サトゥ・マレーシア)」を合言葉にしているのは、さまざまなルーツをもつ民族を統合する必要があるからに他ならない。

さまざまな位相で観察すると、マレーシアで行事が多いのは、お祭り騒ぎが好きだからというよりも、国民として、民族として、宗教として、あるいは親族として、所属する者同士の関係性を確かめる意味合いがあるからだと思う。

8.行事に合わせて買う衣服

季節の行事や記念日は、よそ行きの服を着る機会でもある。行事を大切にするマレーシアでは、さまざまな催しごとに大きな消費機会があると言ってよい。

街なかで目につくものの一つが、中国正月期間に華人が着る赤い服だ。スーパーマーケットやデパートの衣類売り場は、一斉におめでたい赤が基調になり、チャイナドレスはもちろん、下着や靴下まで赤色のものが並ぶ。その年の十二支の動物(2026年なら「午:ウマ」)を配した赤いTシャツをおそろいで着た家族を見かけるのも、正月らしい風景である。

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写真7:華人にとって赤は縁起がよいだけでなく、魔除けの意味合いもある色

9.行事を盛り上げる「食」

食べ物も、季節の行事や記念日を特別に演出する要素の一つだ。

イスラム教徒は、断食月(ヒジュラ暦9月)の日中、飲食物をとらない。この一か月は夜中に起き出して調理を始め、日の出前に朝食をとり、昼食はなし。日没を知らせる放送を待って、ようやく渇きを癒すのだ。

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写真8:断食月のイスラム教徒にとって、日没後の食事は大きな楽しみ

その反動なのか、日没後の食事「イフタール」は豪勢である。家族や友人と食事を共にすることがよいとされており、ホテルやレストランではビュッフェ形式の夕食が用意される。

断食月には、善行を施す目的で、しばしば振る舞いが行われる。ある年、見知らぬ人にイフタールのもてなしを受けた。イベント・ホールの前を通りかかったところ、「せっかくなので、どうぞ」と店主に声をかけられたのだ。ホテルの宴会場ほどの広さの店内は、大勢の家族連れでにぎわっていた。ビュッフェ形式で、中央にはカレーや煮込み料理などのご馳走が並ぶ。子どもたちにはアイスクリームとジュースが人気だ。

「旅行者なのに、ご馳走していただいて恐縮です」と言うと、「いいんですよ。分かち合うのがラマダンの精神ですから」と店主。近くのテーブルには小さな子どもたちが数十人並んで、行儀よく食事をしていた。店主は毎年、市内の孤児院の子どもたちを招待しているという。行事で食事を共にすることも、特別な体験の一つだ。

10.過ごし方にみる最近の変化

伝統の行事や習慣にも、いくらか変化が見られる。

最近は、中国正月の年賀カードをあまり見かけなくなった。30年前は、鮮やかな赤に金字のカードや紅包がどこにでも売られていたものだ。「今どきの人は、ほとんどSMSですよ」と、文房具店の店主はこぼす。年始のあいさつは、より簡単なデジタルへと移行したようだ。

休暇の過ごし方も、少しずつ変わっている。伝統的には家族で過ごす行事の期間は大型連休でもあり、マレーシアでも旅行を楽しむ人が増えている。特に中国正月や断食明け大祭の期間は家族旅行が盛んで、国内のホテルはどこも一杯だ。華人については、中国正月の休暇を利用して日本などの近隣アジアに出かける人も多く、航空券も高騰する時期となる。

日本と同様、マレーシアでも少しずつ、小さな家族の単位で、個人の時間を大切にする風潮が高まっているのかもしれない。

11.他国の行事・習慣にも関心あり

2024年、日本にはおよそ50万人のマレーシア人が訪れた。短期滞在ではビザが免除されている日本は、マレーシア人に人気の旅行先だ。せっかくならマレーシアでは見られないもの、できないことを楽しみたいと考えるようで、「京都でサクラはいつ咲くの?」「札幌で雪が降るのはいつ?」などと訊かれることも多い。

当地の日本食レストランの顧客は、主に華人だ。戒律の定めがあるイスラム教徒や、菜食が多いインド系に比べて制約が少ないこともあり、いろいろな食べ物に挑戦したい人が多い。わたしが日本人と分かると、「一番おいしいスシは何?」「モチはどうやって食べるの?」などと質問攻めにあうこともある。

マレーシア人は、他国の行事や習慣にも関心を持つようだ。たとえば食べ物なら、どういう時期によく食べるのか、それにはどんな背景があるのかと付け加えると、さらに掘り下げた質問が続く。もともと日本に好感をもつ人が多いだけに、マレーシアと似ているところ、違うところを説明しつつ紹介することで、もっと興味を持ってもらえそうな手ごたえを感じる。



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    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    マレーシア在住十余年。出版社で社会人生活をスタート、長期旅行を経て東南アジアに縁ができ、国際協力NGOに約十年勤務。人の暮らしと歴史に興味があり、旅をしながら、東南アジアの現在を発信中。

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    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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    「出典: インテージ 調査レポート「(レポートタイトル)」(●年●月●日発行)」
    「出典:Global Market Surfer ●年●月●日公開
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