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【海外各国の国民性】アメリカ: “見える健康”が映し出す、LA流ライフスタイル消費のリアル

アメリカを一つの国民性で語ることは難しい。州制度のもと、歴史や人種構成、宗教観、政治傾向まで大きく異なる地域が共存しているこの国は、むしろ「価値観の異なる国の集合体」と捉えたほうが実態に近い。それでも、合理性や自己責任、個人の選択を尊重する文化は、多くの地域に共通して見られる特徴だ。
そのなかで、カリフォルニア州ロサンゼルス(以下、LA)は特有の色を持つ都市である。筆者が暮らすこの街を一言で表すなら、“Visible Wellness(見える健康)”。健康であることそのもの以上に、「健康であるように見えること」に価値が置かれている。


1.スムージーは飲み物であり、ライフスタイルの表明でもある

LAのウェルネス消費を象徴する存在が、Erewhon(エレフォン)である。オーガニックや非遺伝子組み換え食品を中心に扱う高級スーパーで、名物のスムージーは1杯20ドル前後(約3,000円)と高価だ。それでも店内は常に人でにぎわっている。

出典: Erewhon公式Instagram

棚には、グルテンフリー、デイリーフリー(乳製品不使用の食品)、シュガーフリーといった表示が並ぶ。ここで重視されるのは「何が入っているか」だけではない。「何が入っていないか」が明確に示されている点だ。価格よりも、原材料の透明性や倫理観が評価軸となる。

LAでは、健康は個人的な努力にとどまらない。社会のなかで可視化されるライフスタイルの一部として扱われる。スムージーを手に持つ行為そのものが、「私はこういう価値観で生きている」というサインになるのである。

2.Clean Eatingは日常、そして“理念”まで問われる

ジュースクレンズやコールドプレス文化も、LAでは特別なものではない。街中にはコールドプレスジュースの専門店が並び、「デトックス」や「クレンズ」といった言葉が日常的に交わされている。

出典: Pressed Juicery 公式Instagram

さらに印象的なのが、サプリメント棚の充実度だ。プロテインや腸内環境を意識した商品、植物由来成分をうたうドリンクなどが細分化され、「身体を最適化する」という発想が広く浸透している。そこには合理性の延長線上にある、徹底した自己管理の文化が見て取れる。

筆者自身も、LAの食文化に戸惑った経験がある。ベジタリアンの友人とのバーベキューでは、肉と野菜でグリルを分ける配慮が求められた。単なる嗜好の違いではなく、価値観や倫理観に基づく選択だからだ。周囲もそれを当然の前提として受け入れている。

また、あるヴィーガンの友人は「たまたま動物性原料を使っていない加工食品は、理念に基づいた商品とは言えない」と語っていた。成分が基準を満たしているかどうかだけでなく、そのブランドの思想や背景までが判断基準になるという。LAでは「何を食べるか」以上に、「どのような姿勢で作られているか」が問われる。

誕生日会のレストラン選びでも、Non-GMO志向、ケトジェニック、ヴィーガンなど、異なる食規範を持つメンバーが同席するため、店選びに時間を要したことがある。LAでは「みんなが同じものを食べる」ことよりも、「それぞれが納得できる選択をする」ことが優先されるのである。

3.アスレジャーが“日常着”になる街

このVisible Wellnessの価値観は、食にとどまらない。街を歩くと、それは服装にもはっきりと表れている。
Athletic(運動)とLeisure(余暇)を組み合わせた言葉が「アスレジャー」だが、LAではその境界自体がほとんど存在しない。

レギンスにロングソックス、ボリュームのあるスニーカー。クロップド丈のトップスやスポーツブラの上に軽くパーカーを羽織る。そうした装いは、ジムだけでなく、カフェやスーパー、子どもの送り迎えといった日常のあらゆる場面で見られる。

出展:Alo公式Instagram

洋服店に入ると、その浸透度はさらに明確になる。通常のアパレルとアクティブウェアの売り場面積がほぼ半々、あるいはそれ以上という光景も珍しくない。レギンス、スポーツブラ、フーディー、トレーニングトップスが主役級に展開され、機能素材やストレッチ性、吸汗速乾性といった要素が強調されている。

街を歩けば、ルルレモン(Lululemon)やアーロ(Alo)といったブランドのロゴを頻繁に目にする。レギンス一着が100ドル前後(約15,000円)しても、それは単なる運動着ではなく、「自分の身体に投資する選択」として受け止められている。価格よりも、自分のライフスタイルと整合しているかどうかが判断基準になる。

食で身体を整え、その身体を自然体で見せる服を選ぶ。この循環があるからこそ、アスレジャーは一過性のトレンドではなく、生活様式として定着しているのである。

4.「他人の目」よりも「自分の快適さ」 

LAの服装観を語るうえで欠かせないのが、「他人からどう見られるか」よりも「自分が快適かどうか」を優先する姿勢である。

日本では、場に合わせた装いや体型とのバランスを無意識に意識する場面が多い。例えば、お腹を出すトップスは引き締まった体型の人だけが着るもの、という暗黙の了解がある。しかしLAでは、その前提はそれほど強くない。体型に関係なくクロップドトップスを選ぶ人は選ぶし、レギンスも同様だ。そこに特別な視線が向けられることは少ない。

背景にあるのは、良い意味での“ジャッジしない”文化である。自分の選択は自分のもの、他人の選択も他人のもの、という距離感が保たれている。

その結果、服装の基準も変わってくる。フォーマルさよりも実用性、見栄えよりも機能性。ヒールよりもスニーカー、締め付けの強い服よりもストレッチ素材。合理性がそのまま服装に反映される。ここにも、自己決定と自己責任を重視するアメリカ文化がにじむ。

Visible Wellnessとは、単に鍛えた身体を見せることではない。自分で選び、自分で整え、その状態を自然体で表現すること。その姿勢が、街の風景として可視化されているのである。

5.それでもIn-N-Outが支持される理由

LAの健康意識を語ると、ヴィーガンやスムージーといった要素ばかりが強調されがちだ。しかし実際の街には、もう一つ象徴的な風景がある。それがIn-N-Outの行列である。観光客だけでなく、地元の若者や家族連れも列を作る。メニューは極めてシンプルで、ハンバーガー、チーズバーガー、ポテト、シェイクのみ。過度なカスタマイズや健康志向の訴求はない。それでもなお、強い支持を集めている。

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In-N-Out
出典: IN-N-OUT公式サイト 

この現象は一見すると、Visible Wellnessの価値観と矛盾しているようにも見える。しかし実際には、そこにもLAらしい合理性がある。In-N-Outは「シンプルであること」を徹底している。原材料は比較的明確で、メニュー数を絞ることで品質管理を維持する。広告を大々的に展開せず、過剰な演出もしない。ある意味で“潔い”ブランドなのだ。

LAの消費者が評価しているのは、必ずしも「低カロリー」や「ヴィーガン」であることだけではない。重要なのは、その選択が自分の価値観と整合しているかどうかである。普段はスムージーを飲み、サプリメントを選び、レギンスで身体を動かす。しかし、ときにはバーガーを楽しむ。その選択もまた、自分で決めるものだ。

ここにあるのは、「健康でなければならない」という強制ではない。「自分で管理できている」という感覚である。

完璧さよりも、コントロール感。
LAでは、健康はストイックな禁欲ではなく、自己決定の延長線上にある。だからこそ、スムージーとIn-N-Outは矛盾することなく共存するのである。

6.“見える健康”がつくる消費のかたち

LAでは、健康は内面的な努力というよりも、他者と共有されるライフスタイルとして表れる。ファーマーズマーケットでの買い物、テラス席でのサラダランチ、スムージーを片手に歩く姿。そしてレギンスにスニーカーという機能的な装い。それらは全て、「私はこうありたい」という価値観の自己表現でもある。

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Erewhon店内

食で身体を整え、その身体を自然体で見せる服を選ぶ。そこには、価格よりもライフスタイルとの整合性を重視する合理性がある。一方で、ときにはバーガーを選ぶことも含めて、自分でコントロールしているという感覚が重要視される。LAにおける健康とは、完璧さではなく、自己決定の積み重ねなのである。

同じアメリカでも、ニューヨークではスピードや効率が優先される場面が多い。それに対してLAでは、時間をかけて自分の身体や価値観と向き合う姿勢が評価されやすい。どちらも合理性や自己責任を重視する文化を持つ都市だが、その“合理性の向かう先”は異なる。

LA市場を理解するとは、単にヘルシー食品やアクティブウェアを投入することではない。重要なのは、「それを選ぶことで、どんな自分でいられるのか」というストーリーを設計することである。Visible Wellnessとは商品カテゴリーではなく、消費を通じて自己を表現する構造そのものを指している。

アメリカは多様な価値観が共存する集合体であり、LAはその一つの強い文脈にすぎない。しかしこの都市では、健康という概念が食と衣を通じて“見えるかたち”へと変換される。そこに、LAという市場の本質がある。



  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    ロサンゼルス在住10年以上。日本ではアナウンサーとして活動した後に渡米。現在は一児の母としてLAで暮らしながら、日本食への情熱を軸に、その魅力を現地に発信する活動を行っています。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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