
1.はじめに
インドの化粧品小売り大手Nykaaのビューティートレンドレポート*によると、インドのビューティー・パーソナルケア(BPC)市場は、2023年時点で約210億米ドル(約3兆円)規模に達しており、2028年には約340億米ドル(約5兆4,000億円)へ拡大すると予測されている。中でもスキンケアは、Z世代を中心に高頻度かつ日常的に使用される中核カテゴリーとして、同市場の成長を力強く牽引している。本記事では、2026年1月にバンガロールで開催されたアニメイベントの来場者に対して実施した定性的なヒアリングインタビューの結果を元に、インドZ世代女子たちのスキンケア・コスメ・ファッション事情を深掘りする。
*出典:https://www.nykaa.com/media/wysiwyg/2024/pdf/Nykaa_Beauty_Summit_Report_2024-v5.pdf
2.スキンケアは生活の一部
インドZ世代女子にとって、スキンケアはもはや特別な美容行為ではなく、日常生活に組み込まれたセルフケアの一部として定着しつつある。その目的は「美しくなる」こと以上に、「肌トラブルを防ぐ」「健康な状態を保つ」といった実用的な理由が中心である。ヒアリングインタビューの対象者全員が毎日スキンケアを行っていると回答しており、スキンケアは継続的な習慣として根付いていることがうかがえる。ヒアリングインタビューからも、この傾向を裏付ける具体的な生活実態が数多く聞かれた。
(1)スキンケアを始めるきっかけ
インドZ世代女子がスキンケアを始めるきっかけは、「美への憧れ」よりも「切実な困りごと」にある。ヒアリングインタビューからは、ニキビの悪化、乾燥による肌の違和感、環境変化による肌荒れなど、明確なトラブルに直面したことを契機にスキンケアを始めたケースが多く見られた。特に大学進学前後の20歳前後が、スキンケアへの本格的なエントリーエイジとなっている。
(2)現在の肌悩み
ヒアリングインタビューの中で、現在の肌悩みとして最も多く挙がったのがニキビであった。Z世代女子にとってスキンケアは、理想の肌を追い求める行為というより、肌状態を安定させるための継続的なセルフマネジメントと捉えられており、「トラブルをゼロにする」よりも「悪化させない」ことが現実的な目標として設定されている。
(3)頻度: 「毎日」が基本、ただし無理はしない
スキンケアの頻度については、「ほぼ毎日」が基本となっている。ただし、それは厳密なルーティンを守るという意味ではなく、外出の有無に応じて柔軟に調整されている点が特徴的である。完璧さよりも継続性を重視する姿勢が一貫しており、無理なく続けられることがスキンケア習慣の前提となっている。
(4)タイミング: 1日2回
スキンケアは、生活の中の決まったタイミングに組み込まれている。インド人は朝にシャワーを浴びる人が多いため、スキンケアのタイミングは「朝のシャワー後」と「夜寝る前」の2回が基本である。
(5)使用アイテム: 洗顔料、保湿アイテム、日焼け止めの3点セットが基本
洗顔料、保湿アイテム(例:クリーム、ジェルなど)、日焼け止めがスキンケアの基本構成となっている。ヒアリングインタビューの対象者全員がこれらのアイテムを日常的に使用していた。一方で、美容液やフェイスパックといったスペシャルケアは肌の状態や必要性に応じて取り入れられていた。多段階ケアを前提としないこの姿勢は、肌への負担を避けたいという意識と密接に結びついている。
(6)現在のトレンド
ビタミンCセラムや韓国スキンケアなどのトレンドは、情報として広く認知されている。しかし、トレンドをそのまま取り入れるケースは多くなく、「知ってはいるが使わない」という距離感が見られる。流行よりも自分の肌との相性が優先されており、トレンドは判断材料の一つにすぎないという冷静な姿勢が印象的である。
(7)ブランドスイッチ
インドZ世代女子のブランドスイッチは、流行や話題性によるものではなく、肌への実感を基準とした慎重な判断に基づいている。スキンケアを始めた初期にはトライ&エラー的に複数ブランドを試すものの、肌トラブルや刺激を経験すると、以降はブランドの変更を避け、「問題なく使い続けられる状態」を重視する傾向が強まる。ブランドを変える理由は、効果を感じられない場合や不安を覚えた場合にほぼ限定されており、SNSやインフルエンサーはあくまで情報の入口にとどまる。最終的な意思決定に影響を与えるのは、皮膚科医や家族、友人といった身近で信頼できる他者である。
(8)スキンケアへの毎月の支出
インドZ世代女子のスキンケア支出は、低額から比較的高額まで幅がある。ヒアリングインタビューの対象者のうち、日常的なケアにとどめる層は1,000ルピー前後/月(約1,700円)に支出を抑える一方、ニキビや敏感肌など明確な悩みを抱える層では、効果や安心感を重視して支出を増やす傾向が見られた。スキンケアは嗜好品ではなく肌状態を安定させるための必要経費として捉えられている。
3.メイクは場面に応じたスイッチ
インドZ世代女子にとってメイクは、日常生活の主役ではなく、必要なときに自分を整えるためのサブツールとして位置づけられている。リップを中心としたポイントメイクが主流であり、スキンケア同様、「無理なく続けられること」「肌への負担が少ないこと」が重視されている点が特徴的である。
(1)メイクの頻度とシーン
大学や職場などの日常生活では、メイクはごく軽めにとどめられることが多い。具体的には、日焼け止めにアイライナー、リップといった最小限のアイテムのみを使用し、「きちんと見せる」ための補助的な役割としてメイクが用いられている。一方で、イベントや特別な外出時には、ファンデーションやコンシーラー、マスカラなどを加え、普段よりもしっかりとメイクを行うという使い分けが一般的である。
(2)使用アイテム
ヒアリングインタビューで最も頻繁に登場したアイテムは口紅であった。複数の回答者が「口紅だけは必ず塗る」「口紅はマスト」と語っており、実際にバックの中にも必ず携帯されているアイテムであった。またアイライナーやマスカラも所有率が高く目元を強調するメイクが重視される傾向が見られた。一方で、ファンデーションについては「持っていない」「特別な日だけ使う」という声もあり、ベースメイクへの依存度は高くない。
(3)メイク観:盛るより整える
メイクに対するスタンスとして共通していたのは、「盛るため」や「誰かに見せるため」という意識よりも、「身だしなみを整える」「自分が安心できる状態を作る」という目的である。毎日フルメイクをすることは負担が大きく、肌にも良くないと考える声もあり、メイクとスキンケアのバランスを意識する姿勢がうかがえた。
4.バッグの中身
今回ヒアリングインタビューの対象者にバッグの中身を見せてもらった。日本のような化粧ポーチといった概念はなく、バッグに直接口紅やリップ、くしなど身だしなみを整えるための最低限のアイテムを入れているのが印象的であった。

5.ファッションは重要な自己表現ツール
インドZ世代女子のファッションは、伝統やブランドよりも「今の自分に合うかどうか」を基準に構築されている。その中心にあるのは、西洋ファッション(Western clothes)をベースとした日常着であり、そこに個々の感覚でアイテムを組み合わせていくミックス&マッチの発想である。
(1)西洋ファッションが日常のベースに
今回のヒアリングインタビューの対象者の多くは、日常的に西洋ファッションを着用していた。デニム、スカート、ワンピース、ジャケット、トップスといったアイテムが日常着として自然に選ばれており、西洋ファッションは「特別なスタイル」ではなく、生活に溶け込んだ標準的な選択肢となっている。重要なのは、これが特定のカルチャーへの傾倒というより、「動きやすさ」「着心地」「日常に合う」という実用性に裏打ちされている点である。西洋ファッションは、インドZ世代女子にとって最も生活リズムにフィットする服装として選ばれている。
(2)ミックス&マッチ: ブランドより似合うかどうか
ヒアリングインタビューの対象者に共通していたのは、特定のファッションブランドへの強いこだわりがほとんど見られないという点である。Zudioなどのローカルブランド、ストリートマーケット、オンライン購入品、家族や姉妹から借りた服、古着など、入手経路は多様だが、それらは自由に組み合わされている。「ブランドで揃える」という発想よりも、「デザインが気に入ったか」「自分に似合うか」「自信を持てるか」が判断軸になっており、結果としてコーディネートはミックス感の強いものになる。これは、ファッションを自己表現のための固定様式としてではなく、その日の自分を整えるためのツールとして捉えていることの表れでもある。また、姉妹と服を共有する、アクセサリーで印象を変えるといった発言からは、所有よりも活用を重視する価値観もうかがえる。
(3)購入場所:オンライン派とオフライン派の共存
ファッションの購入場所についてはチャネルを使い分けるというよりも、オフライン派とオンライン派がはっきりと分かれる点も特徴的であった。オフライン派は、「試着してサイズ感や素材を確認したい」「実際に着て似合うか確かめたい」といった理由から店舗を選ぶ。一方で、オンライン派は「トレンドアイテムが見つけやすい」「自宅で完結する利便性」を重視している。興味深いのは、オンラインかオフラインかの選択が、価格やブランドではなく、性格や買い物体験へのスタンスに基づいている点である。人とのやり取りを避けたい、効率よく選びたいといった理由からオンラインを選ぶ人もいれば、五感で確かめる安心感を求めて店舗に足を運ぶ人もいる。両者の間に優劣はなく、個人に合った購買スタイルが尊重されている。


6.おわりに
本記事を通して明らかになったのは、インドZ世代女子は流行やブランドに衝動的に反応する消費者ではなく、自身の生活や肌状態、価値観と照らし合わせながら選択を積み重ねる極めて合理的な生活者である。スキンケアは美を追求するためではなく、日常を安定させるためのセルフケアとして管理され、メイクは場面に応じて自分を整えるための手段として最小限に使い分けられている。ファッションや持ち物においても、ブランドや価格より「自分に似合うか」が一貫した判断軸となっている点が印象的である。こうした姿勢は、消費そのものを目的とせず、生活の質を最適化するために必要なものだけを選び取る消費行動へとつながっている。インドZ世代女子にとっての美容と装いは、憧れを演出するための消費ではなく、日常に安定と自信をもたらすための実践的な選択なのである。
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