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Last updatedcalendar_month2026/05/18なぜ東南アジアでEVの広がり方は違うのか?―5カ国の価値観が示す市場の分岐点

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1.はじめに

近年、東南アジアにおける電気自動車(以降、EV)市場は高い成長率を示しており、有望な市場として注目を集めています。一方で、国別に見ると、その進展にはばらつきがあり、EVへの選好が相対的に高い市場も存在すれば、いまだにEVへの選好が相対的に低い市場も存在しています。
本記事では、東南アジア諸国(マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム)のEV市場の状況をインテージが保有する海外生活者データ「Global Viewer(2025年実施)」から考察していきます。

2.EVの購入意向は国別に大きく異なる

インテージが保有する海外生活者データ「Global Viewer(2025年実施)」から、国別の今後のエンジンタイプの購入意向を比較したところ、EVの購入意向は地域間で大きな差異が存在していることが分かりました。

各国の各エンジンタイプの購入意向(項目は一部抜粋)

図1:各国の各エンジンタイプ購入意向  (項目は一部抜粋)
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)

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中国をEV先進市場として捉えると、東南アジア諸国のEV市場を大きく3つのフェーズに整理することができます。

まず、ベトナムは「EV成長加速期」に位置づけられます。
自国メーカーであるVinfastの存在も後押しとなり、EVの購入意向は依然としてガソリン車を下回るものの、中国を含む他国と比較すると高い水準にあることが見て取れます。ASEANの中では、最もEVシフトが進みつつある市場といえるでしょう。

次に、タイとインドネシアは「EV移行期」に位置づけられます。
EVへの購入意向は高いわけではないものの、ハイブリッド車と同程度の水準に達しており、中国に迫る形でEVへの移行が進んでいることが見て取れます。

最後に、マレーシアとフィリピンは「EV導入初期」に位置づけられます。
両国では依然として内燃機関車(ガソリン車・ディーゼル車)やハイブリッド車への支持が強く、
EVへの購入意向は限定的であることが分かります。

3.車に対する価値観

東南アジア諸国はEV産業のハブを目指し、各国政府がEV産業育成や普及促進などの策を出している中で、なぜ民間では購入意向の差に濃淡が出るのでしょうか。その背景には、各国の消費者が持つ「車に対する価値観」の違いがあるようです。

各国の車に対する価値観(項目は一部抜粋)

図2:各国のが車に対する価値観(項目は一部抜粋)
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)

東南アジア諸国に車に対して、共通に持っている価値観として、「車を選ぶ際はじっくり検討する」「長距離走行できることを重視する」、「様々な用途に使える車」が挙げられます。

まず、「車を選ぶ際はじっくり検討する」が重視される背景には、車が家計における高額耐久財であり、購入後も長期間使用されることと関係しています。特に東南アジアでは、欧米や一部先進国と比べて買い替えサイクルが長い傾向があり、「失敗したくない」という意識が強くあります。そのため、価格だけでなく、耐久性、燃費、修理のしやすさ、中古価値などを総合的に比較検討する傾向が強いとみられます。
また、「長距離走行できること」「様々な用途に使える車」が重視される背景には、交通インフラや生活スタイルの特徴があります。東南アジアでは都市間移動や帰省文化が一般的であり、日常的に長距離移動が発生する国が多くあります。それに加え、公共交通機関が十分に整備されていない地域も多く、車には「どこへでも安心して移動できること」が求められているとみられます。そのため、東南アジアではSUVやMPVのような多目的車が人気を持っています。

4.車に求める役割や重視点  

一方で、車に求める役割や重視点には国ごとの差があり、それがEV受容度の違いにつながっているとみられます。

各国の自動車購入時重視点

図3:各国の自動車購入時重視点
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)

「EV導入初期」に位置づけられるマレーシア・フィリピン、「EV移行期」に位置づけられるインドネシア・タイを例に、各国の特徴を見てみましょう。

マレーシア:信頼性・耐久性を重視する慎重市場
マレーシアでは、「車を所有することは重要」、「一台を長く乗り続けたい」、「あくまでも移動手段・道具として車を選ぶ」といった価値観が強く、車を実用的な資産として捉える傾向が強くあります。

さらに、車選びでの重視点としては、「耐久性」「燃費の良さ」「車両価格」が上位となっています。つまり、「新しさ」や「先進性」よりも、「長く安心して使えるか」、「維持コストに優れるか」、「価格に見合う価値があるか」などが重要視される市場だとます。
そのため、バッテリー寿命や中古価値、充電インフラ、航続距離などに不透明感が残る新技術のEVに対しては慎重になりやすく、未知数の多いEVよりも、実績のあるガソリン車・ハイブリッド車を選好しやすいという特徴につながっていると考えられます。
また、マレーシアでは自国メーカーである Perodua と Proton が存在しています。両社は国内市場で高いシェアを持ち、価格競争力や維持のしやすさを強みに、マレーシアにおけるエンジンタイプの選好にも大きな影響を与えていると考えられます。

フィリピン:多用途性を重視する実用市場
フィリピンでは、「様々な用途に使える車が必要」という意識が強く、車を家族利用や生活インフラとして捉える傾向がみられます。

さらに、車選びでの重視点としては、「耐久性」「悪条件下でのパフォーマンス」「車内の広さ」「多人数でゆったりと座れること」が高く、車に対して多人数・多用途・悪路対を求める傾向が強くみられます。
フィリピンでは、地方部の道路インフラ事情、洪水などの環境に、さらに家族・親族で移動する文化的背景から、「どんな環境でも安心して使えること」が重要視されていると考えられます。
そのため、充電インフラ不足や悪路・浸水環境への不安が残るEVは、現時点では生活実装のイメージを持たれにくいとみられます。

インドネシア:実用性と先進性が共存する移行市場
インドネシアでは、「様々な用途に使える車」が重視される一方、「有名ブランドを選ぶ」傾向も強く、実用性とブランド志向が共存しています。

さらに、車選びでの重視点としては「耐久性」「燃費」「車両価格」「走行時の安定性」が挙げられます。車のコストを重視しつつ、ファミリー用途と快適性のニーズも強く、全体として、「コストパフォーマンスがいい車」が求められている市場といえます。
こうしたニーズはランニングコストに優れるEVとの相性が良いとみられる一方で、インドネシアでは、1台の車を家族で共有し、通勤、送迎、買い物、帰省など幅広い用途で利用するケースが多いため、「長距離走行」のニーズも依然として強い状況です。そのため、EVにはコストだけでなく、実用面での安心感も求められていると考えられます。しかし、EVの航続距離にはまだ不安が残るため、インドネシアは、EVへの関心は高いものの、「実用性を満たせば選ばれる」段階にある市場だと考えられます。

タイ:先進性・ブランド性を重視するEV親和市場
タイでは、「有名ブランドを選ぶ」傾向が強く、実用性に加えてブランド性や先進イメージも重視されています。
また、「車内の静かさ」「エンジンタイプ」への関心が他国より高く、快適性や運転体験を重視する特徴がみられます。これは、静粛性や加速性能に優れるEVとの親和性が高いといえます。
さらに、タイは自動車産業が発展してきた背景から、新技術への受容性も比較的高い状況です。中国系EVメーカーを中心に多様な車種が投入されていることもあり、EVが「環境対応車」だけでなく、「魅力的な新しい選択肢」として受け入れられやすい市場となっています。

なお、インドネシアとタイでは、「有名ブランドを選ぶ」という傾向が比較的強くみられます。実際にインドネシアとタイでは、Toyota と Honda のシェアが高く、多くの消費者にとって両社が「有名ブランド」として認識されていると考えられます。
一方で、両社は東南アジア市場において、現時点ではハイブリッド車を中心とした展開が主流であり、EVラインアップは限定的です。そのため、「信頼できるブランドのEVを選びたい」と考える消費者にとっては、選択肢がまだ十分ではない可能性があります。
こうした点を踏まえると、インドネシアやタイでEVへの関心は高まりつつあるものの、消費者が信頼を寄せる主要ブランドによる本格的なEV展開が限定的であることが、EV普及が一定水準にとどまっている一因になっている可能性があります。

5.まとめ

東南アジアでは、各国政府がEV普及を後押ししているものの、消費者が車に求める価値は国ごとに異なることが分かりました。
マレーシアやフィリピンでは「耐久性・実用性・安心感」が重視される一方で、タイでは「ブランド性・快適性・先進性」がEV受容を後押ししています。インドネシアは、その中間に位置する移行市場といえます。
つまり、東南アジアにおけるEV普及は、単に政策やインフラだけではなく、「各国の車に対する価値観に、EVがどれだけ適合できるか」が重要な鍵になってくるといえるでしょう。



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    執筆者プロフィール
    閻 吉祥

    2023年より現職にて、日用食品・飲料・雑貨メーカー様向けマーケティング活動の支援・サポートに従事。

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    編集者プロフィール
    高橋 謙一郎

    株式会社インテージ グローバル事業本部 グローバル事業推進部 事業企画グループ

    モビリティ業界のグローバルリサーチに数多く従事したのち、2023年より海外事業推進、グローバルリサーチサービスの整備、新ソリューション開発に取り組んでいる。