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Last updatedcalendar_month2026/05/22【海外各国の国民性】インドネシア:「みんなで分ける」が前提。“シェア文化”がつくる人との距離感

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1.はじめに

インドネシアの国民性を語るうえで欠かせないのが、「調和」を重んじる価値観である。インドネシアは、多民族・多宗教国家だ。地域ごとに文化や言語、宗教観も異なり、多様な価値観を持つ人々が共存している。
そのような社会の中で、人々は周囲との関係を円満に保ちながら暮らしてきた。だからこそ、インドネシア人は「穏やか」「親切」「人当たりが良い」と言われることが多い。
この価値観を象徴する言葉が「Gotong Royong(ゴトン・ロヨン)」である。
助け合い・支え合いを意味する言葉で、家族や友人、近所の人、所属するコミュニティとの関係を大切にする、インドネシアらしい暮らし方を表している。
この“みんなで支え合う”感覚は、日常生活のあらゆる場面に浸透している。なかでも特に分かりやすく表れているのが「食」の場面だ。
インドネシアでは「自分が何を食べたいか」だけではなく、「みんなで食べやすいか」「分けやすいか」「周囲が好きな味か」といった視点が、食の選択に大きく影響する。
実際に生活していると、「一人のためだけに買う」というよりも「誰かと分ける前提」で商品やサービスが設計されていると感じる場面が非常に多い。
この価値観は家庭の食卓、外食、職場での差し入れ文化、さらには住まいの空間設計にまで表れている。
インドネシア市場や消費行動を理解するうえで、人との関係性を前提にした暮らし方という視点は、欠かせないものである。

2.みんなで食べるが前提。シェア文化がつくる食消費

インドネシアの食卓は「個人」ではなく「みんな」を前提に成り立っている。家庭では大皿に料理を並べ、それぞれが自分の皿に取り分けて食べるスタイルが一般的だ。白いご飯も大皿に盛られ、各自が好きな量をよそう。

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出典:執筆者撮影

食事は“一人分を完結させるもの”というより「みんなで共有するもの」という感覚が強い。
その背景には、Gotong Royong(助け合い・支え合い)の価値観がある。誰かと一緒に食べること、分け合うことが、日常生活の中に自然に組み込まれているのである。
また、インドネシアでは2世代・3世代で同居していたり、親戚の子どもが下宿していたりするケースも多い。そのため、「何人で食べるか」を前提に料理を作る家庭が少なくない。結果として、一度に大量の料理を作ることが当たり前になっている。
この生活スタイルは、購買行動にも強く表れている。
市場やスーパーでは食材をまとめ買いすることが多く、自宅には大型冷蔵庫だけでなく、中型冷蔵庫を複数台所有する家庭も珍しくない。食材用と調理済み食品用で分けたり、業務用冷凍庫を家庭に置いていたりするケースも見られる。

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出典:https://www.topsellbelanja.com/harga-freezer-box/?srsltid=AfmBOooUfmQlJasXtxS-AH6bMf1FacwNzF8wbW8hb4iKMxnrJ1UMRIPr

また、食事のタイミングにも特徴がある。
平日は家族それぞれの生活リズムが異なるため、食卓に置かれた料理を好きな時間に食べることが多い。一方で週末になると、家族や親戚が集まり、にぎやかに食卓を囲む時間が重視される。
つまり、「常に誰かと食べる可能性」が日常生活の中に存在しているのである。こうした価値観は、家庭内の設備や食器にも表れている。
インドネシアの家庭では、日本ではあまり見かけない5〜10合炊きの大型炊飯器、大鍋、大皿、大量のスプーンやフォークが当たり前のように揃えられている。

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写真左:日本から持参した象印の高機能炊飯器(2〜3合炊き)
写真右:ジャカルタで購入した、ローカル向けSHARP製の10合炊き炊飯器

日本製の炊飯器は多機能で高性能だが、「容量が小さく何度も炊かなければならない」「機能が多すぎて難しい」と言われることもある。インドネシアの一般家庭では上記の写真(右)同様に、炊飯と保温のみのシンプルな10合炊きが主流。3〜5人家族でも大型炊飯器を使うことが多く、二世帯同居の家庭では10合炊きを2台持つケースも珍しくない。
インドネシア料理は、一皿にご飯とおかずを盛り付けて食べるスタイルが基本であり、日本のように細かく食器を使い分ける文化は強くない。その代わり、同じ種類の皿を20〜30枚単位で所有している家庭も珍しくない。

3.一人か、みんなか。外食に表れる“関係性前提”の消費

インドネシアの外食は、「一人で済ませるか」「みんなで食べるか」によって店選びや食べ方が大きく変わる。
一人で食事を済ませる場合は、WartegやKantinと呼ばれる業態がよく利用される。いずれもワンプレート形式で、短時間・低価格で食事を完結させるスタイルだ。

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出典:https://www.liputan6.com/bisnis/read/5316578/warteg-bakal-mendunia-bisa-buka-cabang-di-jerman-hingga-new-york

Wartegは庶民的な食堂で、並んだおかずを指さして選び、一皿に盛り付けてもらうスタイルだ。価格は約20,000〜35,000ルピア(約180~315円)程度で、カウンター席で手早く食べるか、持ち帰る人も多い。

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出典:https://food.detik.com/info-kuliner/d-3436106/mengintip-suasana-dan-menu-kantin-karyawan-di-mall-mall-jakarta

Kantinは社員食堂や学生食堂のような存在で、複数の店舗が集まるフードコート形式が多い。Wartegよりも座席数が多く、価格帯は30,000〜50,000ルピア(約270~450円)程度となる。

一方で、家族や友人・同僚と食事をする場合は、大皿料理をシェアできるレストランが選ばれる。ここでも重要なのは、「自分が食べたいもの」よりも「みんなが食べやすいかどうか」という視点である。
インドネシアは多民族・多宗教国家であり、宗教ごとの食規律や好みの違いが存在する。そのため、異なる背景を持つ人々が集まる場では、誰もが安心して食べられるインドネシア料理が選ばれるケースが圧倒的に多い。
この“みんな前提”の食文化は、空間設計にも表れている。
インドネシア料理店では「ガゼボ」と呼ばれるオープンエア型の個室を備えた店舗が多く見られる。木や竹の床に茣蓙(ござ)を敷き、靴を脱いで座るスタイルで、大人数でもくつろいで食事ができる空間として人気が高い。

また、シェア前提の外食文化を象徴する存在がパダン料理である。スマトラ島発祥の料理だが、現在ではインドネシア全土に広く普及している。
パダン料理店では、席に座ると注文をしなくても20〜25種類の料理がテーブルに並べられる。その中から好きなものを選んでシェアし、最後に食べた分だけ支払う仕組みだ。

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出典:https://news.kokikit.com/pilihan-lauk-nasi-padang-yang-lezat-mana-favoritmu/

この形式では、メニューを選ぶ時間や調理を待つ時間がほとんど発生しない。さらに大人数でもすぐに食事を始めることができるため、会社の集まりや家族の食事など、さまざまな場面で利用されている。
つまり、ここでも「みんなで食べること」と同時に「スムーズに食事を始められること」が重視されている。
近年はジャカルタのモールを中心に、カウンター席や一人向けの飲食店も増えてきているが、複数人でシェアしながら食べる文化は依然として根強い。

さらに、この関係性重視の外食文化は、宗教行事とも深く結びついている。
ラマダン(断食月)は外食産業の売上が落ちると思われがちだが、実際には1年で最も売上が高い時期となる。
インドネシアでは「BukBer(Buka Puasa Bersama)」と呼ばれる習慣があり、日没後の断食明けに家族や友人とともに食事をすることが一般的だ。

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出典:https://www.suaraglobal.id/lifestyle/2012404260/rekomendasi-tempat-bukber-surabaya-paling-murah-yuk-ajak-teman-dan-keluarga-anda

この期間中はレストランやホテル・カフェなどが専用パッケージを打ち出し、多くの人々が集まる。断食によって食事回数が減るどころか、「みんなで食べる機会」が増えることで外食需要が高まるという特徴的な消費行動が見られる。
BukBerは約1か月間続くため、飲食業界にとっては年間最大の商戦期ともいえる。

4.“自分のためだけに買わない” 日常に根づく「分ける」消費

インドネシアでは「食を分けること」は特別な行為ではなく、日常の前提として存在している。この文化は家庭や外食にとどまらず、職場や学校、コミュニティなど、日常生活のさまざまな場面に浸透している。
例えば、何か食べたいと思ったときに、自分の分だけを購入するケースはあまり多くない。最低でも周囲の数人、チーム内、場合によっては会社やクラス全体とシェアすることを前提に、多めに購入する人が多い。
「自分も食べるが、周りにも分ける」この感覚が、ごく自然に生活の中へ組み込まれているのである。
特に、誕生日や入社・退職日・売上達成日などの節目には、食べ物を持ち寄ってシェアする習慣が根付いている。学校でも、学期末などのタイミングで誰かが食べ物を持参し、みんなで分け合う光景が珍しくない。

こうした“分ける前提”の消費行動は、企業の商品設計にも色濃く反映されている。
デリバリーサービスのGrab(GrabFood)やGojek(GoFood)では、大量注文向けのお得なセットメニューが用意されており、複数人でのシェア需要に対応している。
また、外食ブランドでも同様の傾向が見られる。
Pizza Hutでは、大人数で分けやすい1メートルサイズのピザを販売しており、切り分けしやすいよう四角形にカットされている。

さらに、ドーナツブランドのLunas Doughnutsでは、通常の12個入りではなく、最初から30個入りのシェア用ボックスを展開している。会社・学校・誕生日会など、大人数で集まる場面で利用されることが多い。

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出典:https://www.fimela.com/food/read/5648088/lunas-doughnuts-sensasi-doughnuts-bomboloni-fluffy-yang-tengah-hits-di-jakarta

Burger Kingでも、ハンバーガー9個入りのセットや、ご飯・フライドチキン・バーガーを組み合わせた大量注文向けメニューが用意されている。

これらに共通しているのは、「個食」ではなく「共有」を前提に商品が設計されている点である。
食は個人的な行為のようだが、インドネシアにおいては家族・同僚・友人との関係性を築き、深め、維持するための“社会的な行為”として機能している。
そのため「おいしいか」「価格が適切か」といった基準だけではなく、「多くの人が好むか」「分けやすいか」「配りやすいか」といった点が重要な選択基準となる。
つまりインドネシアでは、「何を買うか」以上に「誰とどう分けるか」が消費行動を左右しているのである。
この“分ける”という行為そのものが、Gotong Royongに象徴される助け合いの文化を、日常生活の中で実践する手段になっているのだ。

5.“家族だけの空間”ではない。人を迎えることを前提にした住まい

インドネシアでは、住まいは単なる「個人や家族のための空間」ではない。
家族・親戚や近所の人との関係を大切にする文化が根付いているため、「人が集まる場所」として設計されている点が大きな特徴である。
そのため、住宅の大きさに関係なくインドネシアの家で特に重視されるのが、Ruang Tamu(客間)やRuang Keluarga(居間)といった“人を迎える空間”だ。
昔ながらの住宅では玄関前に椅子とテーブルが置かれ、その奥に客間、さらに奥にリビング兼ダイニングが続く構造が一般的である。
来客時には、まず玄関前や客間でお茶を飲みながら雑談し、その後リビングへ移動して家族と一緒に食事をする流れが自然に生まれる。
一方で、近所の人が夜にふらっと立ち寄った場合などは、家の中には入らず、玄関前の椅子とテーブルで軽く会話をするだけというケースも多い。
南国特有の気候もあり、玄関前はタイル張りのオープンテラスのような造りになっている住宅が多く、木製のベンチや椅子、小さなテーブルが置いてあり、コミュニケーションの場にもなっている。

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出典:https://www.airbnb.jp/rooms/1239530008157261484?source_impression_id=p3_1776483819_P34hMtr1lAqUS3fj&modal=PHOTO_TOUR_SCROLLABLE&modalItem=1988538114

この“人を迎える前提”の発想は、キッチンの設計にも表れている。
インドネシアの住宅では、「Dapur Kotor(汚れたキッチン)」と「Dapur Bersih(きれいなキッチン)」という2種類のキッチンを持つ家が少なくない。
Dapur Kotorは来客からは見えない家の裏側に設けられた実際の調理スペースで、揚げ物や大量調理などを行う場所だ。オープンエア型の簡素な造りが多く、鍋や調理器具、食材用の冷蔵庫などもここに置かれている。

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出典:https://demix.co.id/desain-dapur-mungil-terbuka/

一方、Dapur Bersihはリビングやダイニング近くに設けられた“見せるキッチン”である。ここでは調理そのものはあまり行わず、料理の温め直しや配膳、飲み物の準備などを行う。食器やドリンク類、調理済みの料理が置かれており、来客から見える空間だからこそ、常にきれいに保たれている。

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出典:https://www.emporioarchitect.com/tag/desaindapur/desain-rumah-modern-2-lantai-3160822-5616128160822090736-9

つまりインドネシアの住まいは、「家族だけが快適に暮らすための空間」というよりも、「人との関係を心地よく維持するための空間」として設計されているのである。

6.家族の集まりと民族・宗教行事

年間を通じて最も来客が増えるのは、各民族・宗教の行事シーズンである。
イスラム教徒の場合、ラマダン(断食月)の週末には、家族や親戚が集まり「Buka Puasa(断食明けの食事)」を共にする。また、レバラン(断食明け大祭)や犠牲祭では、正装をして家族・親戚同士で食事を囲みながら祝うことが一般的だ。

キリスト教徒であればイースターやクリスマス、中華系コミュニティでは旧正月など、それぞれの宗教・民族行事に合わせて、多くの人が家に集まる。

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出典:https://www.freemalaysiatoday.com/category/leisure/2026/02/16/why-reunion-dinners-matter-on-the-eve-of-cny

こうした文化は、結婚式にも色濃く表れている。
都市部ではホテルや婚礼会場を利用するケースが増えているものの、地方では今でも新婦の実家で結婚式を行う習慣が残っている。
午前中は家族や親しい関係者のみで宗教儀式を行い、午後からは披露宴が始まる。披露宴は立食形式のビュッフェスタイルが一般的で、招待状を受け取った人だけではなく、その家族や友人、近所の人まで参加することも珍しくない。
インドネシアでは、「多くの人に祝ってもらうほど幸せな結婚になる」と考えられており、非常にオープンな空気感がある。

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出典:https://www.dw.com/id/pertama-kali-melihat-acara-pernikahan-di-indonesia/a-58053862

一方で、都市部ではライフスタイルの変化も起きている。
地方からジャカルタへ働きに来た若者たちは、小さなアパートメントやKOSTと呼ばれる住居で暮らしているケースが多い。
KOSTとは、オランダ語の“In de kost”を語源とする下宿スタイルの住まいで、もともとは大きな家の一室を借り、キッチンやリビング、シャワーなどを共有するシェアハウス型の住居だった。
同じKOSTに住む人同士で情報交換をしたり、一緒に食事や勉強をしたりするなど、都市で孤独にならないための“助け合いの空間”として機能してきた背景がある。
しかし近年では、SNSやスマートフォンの普及により、オンライン上で家族や友人とつながれるようになったことで、「人との距離感」に対する価値観も少しずつ変化している。
現在は、小型アパートメント型のKOSTも増えている。部屋ごとにシャワー・トイレが付属し、Wi-Fiやランドリーサービス付きといった、“半分プライベート・半分共有”のスタイルが人気を集めている。
なかでもCOVEのような現代型KOSTは、シェアハウスというよりも小規模なサービスアパートメントに近い存在として広がっている。

それでも、多くの若者は「将来は家を買い、家族や友人を招ける暮らしをしたい」と考えている。つまり、ライフスタイルが変化しても「人が集まる家を持ちたい」という価値観そのものは、今なおインドネシア社会に深く根付いているのである。

7.まとめ

インドネシアで暮らし始めた頃、筆者が最も驚いたのは、日常の中に当たり前のように存在する「シェア文化」だった。
日本でも、旅行や帰省の後にお土産を配る習慣はある。しかし、インドネシアではそれがもっと日常的で、自然なものとして行われている。
社員100人規模の会社になると、ほぼ毎日のように誰かが食べ物を配っていた。入社・退職や年度末といった特別な日だけではなく、誰かが買ってきたクッキーや袋菓子、ドーナツなどが日常的に職場内を回ってくる。
ある日、女性社員がクッキーを勧めてくれたことがあった。箱の中にはほとんど残っておらず、思わず「どうして全部自分で食べないの?」と尋ねたところ、彼女は自然にこう答えた。

「おいしいと思うものは、人にシェアしたいから」

その言葉に、筆者はインドネシア人の“人と喜びを分け合う感覚”を強く感じた。
インドネシアでは、レストランではなく自宅に招待される・招待する機会も非常に多い。
豪華な家もあれば、質素な家、決して裕福ではない家もある。しかし、どの家庭でも、できる限りのおもてなしをしようとする姿勢が共通している。そして、「泊まっていって」と自然に声をかけられることも少なくない。
最初は、その距離感の近さに戸惑うことも多かった。しかし、暮らしていくうちに「いつでも頼ってよい」「困った時は助け合う」という安心感が、この社会には根付いていることに気づかされるようになった。インドネシア人の夫の家族や親戚が自宅に集まることも、抵抗なく受け入れられるようになった。
インドネシアは、多民族・多宗教国家であり、世代や地域によって価値観も大きく異なる。それでも、「人とつながっていたい」「関係性を大切にしたい」という感覚は、多くの人々に共通している。
そのためか、60代以上の日本人がインドネシアを訪れると、「どこか懐かしい」と感じることが少なくない。
そこには、かつての日本にもあったような、人と人、人と社会との“ウェットな関係性”が今なお生活の中に色濃く残っているからなのかもしれない。



  • TNCライフスタイル・リサーチャー

    執筆者プロフィール
    TNCライフスタイル・リサーチャー

    福岡県出身、インドネシア・ジャカルタ在住20年。2005年から20年間ジャカルタの日系企業でキャリアコンサルタントとして勤務。現在は子供二人を育てながら、ゆるっとフリーランスで海外移住・海外就職のコンサル、グルメ・トレンド情報発信などをしています。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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