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【中国:地球の暮らし方】急速に発展するEV市場

今年の4月に、筆者は中国に一時帰国した。パンデミックになってから3年ぶりの帰国なので、この3年間の中国の変化に新鮮さを感じた。変化の中でも特に印象的なのは中国社会のEV化のスピードである。今回は、筆者が帰国期間の見聞とConsumer Life Panoramaに登録されている上海の生活者の移動情報をご紹介しながら、中国社会のEV化の背景、現状と消費者がEVを選ぶ理由について解説をしていきたい。

中国社会がEV化に舵を切る理由

中国では近年、電気自動車(EV)が代表となる新エネルギー自動車の普及が急速に推進されている。時間を10年前に巻き戻してみると、2013年の大きな話題のひとつとして、PM2.5の大気汚染という環境課題が深刻化している。PM2.5の主な発生源のひとつが自動車、船舶などの交通手段による廃棄ガスだと指摘されている。そこで、従来のガソリン車からより環境にやさしい新エネルギー自動車に切り替えることを政府が主導して推進し始めた。各種新エネルギー自動車のうち、中国政府が選んだのが、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)である。


さらに、中国側にはEVPHEVを推進するのが、もうひとつの狙いがあった。それは、日本や欧米系がリードする従来のガソリン車市場での戦いを避け、新エネルギー自動車という新しい領域で先行して企業と市場を育成することで、世界的リーダーの地位を獲得することだ。


筆者が今回帰国して、上海や上海の周辺都市を歩いて驚いたのが、路線バスの徹底的なEV化だ。ほとんどのバスが電気自動車になり、バスターミナルでは充電設備も整えている。

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街中を走っているEVバスとバスターミナルにある充電設備(出典:筆者撮影)

EV化の現状

中国公安部の自動車登録データによると、2022年末までに、中国の新エネルギー自動車の保有量が1310万台に達し、自動車全体の4%を占め、そのうち、EV1045万台で、新エネルギー自動車全体の約80%を占めている。さらに、2022年のEVの新規登録台数が500万台を超え、全自動車の新規登録台数の23%を占める。


これだけのスピードでEVが普及したのは、当局が新エネルギー自動車の購入のための補助金など優遇措置の設置、充電設備などのインフラの整備、路線バスや一部のタクシー用車をEVへの切り替えなど、様々な面で取り組んでいるからだ。


筆者は今回上海や上海周辺の地方都市の都心にあるショッピングモールをいくつか訪問した。テスラなど海外自動車ブランドはもちろんのこと、国産自動車ブランドもショッピングモールにショールームを設置して、競って存在感をアピールしている。さらに、上海の都心のとあるショッピングモールの地下一階に、新エネルギー自動車の街があり、多くのEVが集まっているぐらい、EVが大ヒットしている。

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ショッピングモールにあるEVディーラーと新エネルギー自動車の街(出典:筆者撮影)

消費者がEVを購入する理由

また、弊社データベース「Consumer Life Panorama」に登録されている中国の生活者の保有する自動車の33台の車のうち、12台がEVである。

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Consumer Life Panoramaとは

世界18カ国1,000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者の理解に役立つ。

本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。

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中国の消費者がEVを選ぶ理由について、筆者がConsumer Life Panoramaに登録されているEVオーナーへインタビューした結果と今回帰国してEVを保有する友人たちに尋ねた結果を整理すると、主に3つ挙げられる。
 
第1に、経済的要因。これが最も重要なポイントでもある。EVの購入は、以下の3つの面で節約になる。ひとつは、EV購入の際に補助金や税金免除などの優遇処置があること。ひとつは、特に上海の場合もともと10万元もかかるカープレート取得費用が、EVだと0円になること。もうひとつは、ガソリン代と比べて、電気代がより安いこと。
 
第2に、インフラの整備。EVは航続距離の限界があるので、普及させるにはまず都市のインフラ整備が必要だ。今回筆者が帰国して驚いたもう一つのことは、EVの充電の便利さ。自宅の駐車場の場合、ケーブルを引っ張って、小型な充電ステーションを簡単に設置できる。国産ブランドの場合、EVを購入するとサービスで無料で設置してくれたりもする。また、外出の時にも、ショッピングモールの地下駐車場に必ずEV充電ステーションが複数台設置されていて、クイックチャージの場合、30分前後で充電ができる。

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自宅駐車場(左)とショッピングモールの地下駐車場にある充電ステーション
(出典:筆者撮影)

3に、体験。従来のガソリン車は移動のための道具として使われているが、EVは電動だけでなく、スマートな移動デバイスとして作られているのだ。運転しながら、音声で車に指示を出す機能や、プロジェクターで車のフロントガラスにナビを投影する機能など従来のガソリン車にない機能が複数搭載されているのも特徴的なポイントである。



  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    ヤン イェン

    日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。中国でOnline配車サービスを使うと、ほとんどの車がEVだった。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)

    Global Market Surferのサイトづくりを担当。EVをはじめ、中国企業のトライアンドエラーからの学びの速さには学ぶことが多いと感じる。

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