【中国:地球の暮らし方】部屋から分かる高所得層の家電ブランドを探る
- 公開日:2021/11/15
- 更新日:2025/09/09
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昔、中国ブランドと言ったら、安っぽくて、デザインもダサく、品質もあまりよくないというイメージだったかもしれないが、今では大きく印象が変わってきている。特に近年中国国内では「国潮」が流行る中、中国のメーカーも昔のこのような印象を払拭しようと、中国国内マーケットでのイメージアップのみならずグローバルでもイメージアップをしようと働きかけている。特定の商品カテゴリーにおいては、グローバルブランドと太刀打ちできる中国ブランドも現れている。このようなトレンドの中で、高所得層はどのように家電を選んでいるか。Consumer Life Panoramaに登録されている上海の3人の生活者が持っている家電をご紹介しながら、一緒に探求していこう。
今回ご紹介するのは、上海の中でも比較的収入が高く、保有している自動車が電気自動車(EV)といった先進的な世帯の3人にあたる。
対象者の車。左から:Xpeng(CN_28), Xpeng(CN_30), Tesla(CN_54)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama)
対象者の家の内装イメージ。左から:CN_28, CN_30, CN_54
(出典:生活者データベース(Consumer Life Panorama))
Consumer Life Panoramaとは
世界18カ国1,000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者の理解に役立つ。
本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。
海外ブランドの強みと日本ブランドの得意分野
中国人の家電に対する海外ブランドへの信頼はまだ厚いが、中国ブランドの存在感も高くなってきている。 まず、大型家電のブランドをみてみよう。例えば、冷蔵庫の場合、この3世帯のうち、2世帯がドイツブランドや日本ブランドを持っている。また、洗濯機に関しても同じ傾向が見られる。生活者CN_28の家では冷蔵庫も洗濯機もそろってボッシュを使用し、生活者CN_30の家では、パナソニックの洗濯機を使用している。一方で、生活者CN_54の家では2台の洗濯機を持っているが、主に使用しているのがLGの洗濯機となる。それはやはり、海外のブランド、特にドイツブランドと日本ブランドに対して、耐久性がよく、品質もいいというのが共通して抱いているイメージであることが一因として考えられる。
冷蔵庫(上)と洗濯機(下)ブランドの国籍一覧
(出典:生活者データベース(Consumer Life Panorama))
大型家電以外にも日本ブランドの得意分野がある。美容家電がその代表的なカテゴリーのひとつだ。今回の3世帯のうち、2世帯(CN_30とCN_54)がパナソニックのヘアドライヤーを使用している。(残りの1世帯はダイソンのヘアドライヤーを使っている。)特にCN_54では日本ブランドのヘアドライヤー以外に、ヤーマンの美顔器も持っている。
CN_30のヘアドライヤー(左)、CN_54のヘアドライヤー(中)と美顔器(右)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama)
特定分野で強みを構築している中国ブランド
一方で中国ブランドは特定の分野で自分の強みを構築しているようだ。今回ご紹介する上海の3世帯が持っている家電ブランドをカテゴリー別に整理すると、主に3つの傾向がみられる。
家電ブランドの国籍一覧(筆者がCLPの情報より整理)
(出典:生活者データベース(Consumer Life Panorama))
第一に、中国ブランドは中国生活者のライフスタイル変化をいち早くとらえてそれに合わせた製品を出している。中国料理といったら、油をたくさん入れて、火を使って炒めたり、揚げたりすることが多い。特に炒めるときには、火の上で鍋振りをかなりの頻度でしないといけない。そのため、今まで中国のキッチンにはガスコンロが主流であった。しかし、近年西洋的な調理方法もだんだん浸透し、調理方法も多様化になっている。例えば、中華炒めなど以外に、オーブンを使って焼いたりすることも増えている。また、ガスコンロの代わりにIHコンロもその効率性、安全性と手入れのしやすさから、中国でも一部の消費者の中で人気を呼んでいる。
中国ブランドのオーブン(CN_54)とIHコンロ(CN_28)
(出典:生活者データベース(Consumer Life Panorama))
CN_28のキッチンにあるIHコンロがまさにTaigroo(鈦古電器)という2015年成立した中国ブランド。Taigrooはこの傾向をいち早くとらえて、シンプルなデザインを特徴として、ハイエンド向けのIHコンロと関連の調理器具に特化して製品を作っている。
第二に、中国ブランドは中国生活者ならではの生活習慣に満たす製品を出している。
CN_54のコーヒーマシン(左)と子供の服用の小型洗濯機(右)
(出典:生活者データベース(Consumer Life Panorama))
海外では朝にコーヒーを一杯飲むのと同じように、中国では豆乳を朝食の時に飲むことが一般的。CN_54のダイニングには、一台のコーヒーマシンが置かれている。これはJoyongという中国メーカーが出しているOnecupというブランドのコーヒーマシン。ほかのブランドと違って、このコーヒーマシンはコーヒーを作る以外に、豆乳も作ることができる。共働きの忙しい朝、たった30秒で大人向けにはコーヒーを、子供向けには豆乳を用意できるということもあって、中国では人気となっている。
第三に、中国ブランドは進んだAI、IoTの技術をいち早く取り入れて安い価格で製品化している。中国はよくIT先進国といわれている。中国の家電メーカーもこういった先進技術をどんどん取り入れ、家電を進化させている。しかも、国内生産なので、値段も抑えている。その結果、海外の同じ機能を持つ製品と比較して、値段が安く、コストパフォーマンスがいいとよく評価される。例えば、スマートスピーカーは大手のBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)三社以外に、XiaomiやHuaweiなども出している。特にXiaomiはそれ以外にもスマート家電を複数持っているので、生態圏まで形成している。また、掃除ロボットも同じで、海外ブランドと同じ値段のものはよりスマホとの連動がよく、機能も多いので、人気がある。
スマートスピーカー(左:CN_28, 中:CN_30)とロボット掃除機(右:CN_54)
(出典:生活者データベース(Consumer Life Panorama))
まとめ
「国潮」という中国語は中国の要素を取り入れたファッショントレンドのことを意味する。ここでいう中国の要素は中国の伝統文化、中国風デザインのことだけでなく、中国のテクノロジーと技術力もそのひとつ。ここ数年、中国経済が進み、人々が豊かになってくると同時に、愛国心も高まっていることが背景。
それと同時に、中国のメーカーもローエンドのものの製造から付加価値の高いものを挑戦し、Xiaomi、Huaweiなどのようなハイテク企業が成長してきた。その結果、中国産はコストパフォーマンスがよく、品質も外国ブランドに劣らないという意識が広がってきた。海外ブランドと比べて、中国ローカルのブランドの強みは中国生活者の理解とそのライフスタイル変化への対応のスピードにある。
一方で、前述のように、日本ブランドは品質が評価されている以外に、独自の優位性も依然として存在している。いかにしてその独自の強みを発揮しながら、中国生活者のニーズを正しく理解して、いちはやく対応するかはこれから日本ブランドにとっての課題かもしれない。
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執筆者プロフィール
ヤン イェン
日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。日本でも中国のTV番組を見たいので、わざわざ中国からXiaomi smart TV boxを持ってきた。
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編集者プロフィール
辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)
Global Market Surferのサイトづくりを担当。朝は牛乳派だが、今回のコラムをきっかけにホームメイド豆乳に興味を持った。