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【中国:地球の暮らし方】空間最大限利用のためのバルコニー活用術とは?

第二回(【中国】風呂場とトイレが意外と広くない中国家庭)では、中国都市部1人当たり住宅建築面積が狭いということについてご紹介した。この限られた空間をいかにして十分に活かすかという課題を解決するために、風呂場とトイレの空間を分けずにしたり、浴槽を設置しないことにしたりすることで、中国生活者はいろいろな方法を考えている。実は、バルコニーの使い方はそれら以外に注目すべきポイントだ。空間最大限利用のためのバルコニー活用術、中国生活者はいったいどんな技を考えているのだろうか。これから一緒に見てみよう。

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バルコニーは私有部分に開放的でもない?

中国生活者は室内空間利用のために、バルコニーを最大限に活用する前提がまずある。実は、中国の大半のバルコニーは日本と違って、窓に囲まれている室内空間でもあるのである。

マンションタイプの場合、日本では、バルコニーが共有部分であることは一般的な常識で、基本的には窓がない開放的な空間として造られている。共用部分であるがゆえに、居住面積としては計算されていなく、バルコニーの勝手な改造も禁止されている。バルコニーは物干しとエアコンの室外機の置き場として使われるのが普通で、それ以外には、避難はしごも設置されていて、非常な事態が発生するときに、バルコニーを通って下まで避難できるようなデザインになっている。そのため、バルコニーには容易に動かせないものを置いていけないとか、避難はしごをふさがるような荷物を置いてはいけないとかのようなルールも日本人に一般的に受け入れられている。

一方で、中国では状況が全然違う。中国では、バルコニーが共用部分ではなく、私有部分として、居住面積にも計算されている。そのため、どのように使うかは持ち主の自由である。また、バルコニーの様式はほとんどが日本のように開放的な空間ではなく、室内空間になっている。

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日本(左)と中国(右)マンションの典型的なバルコニー
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
(Consumer Life Panoramaの概要はこちら

実際、インテージのConsumer Life PanoramaにMy Homeが登録されている中国の家庭を見てみると、9世帯のうち、5世帯がバルコニー付きの世帯で、この5世帯全員室内のバルコニーとなっている。(2020年11月集計)

それでは、一体なぜ中国家庭が室内バルコニーにこだわるのだろうか?実は、その根底には、日中の間のバルコニーにかかわる法規上の違いがあるのだ。

日本では、バルコニー (外気に有効に開放されている部分) の高さが1.1m以上であり、かつ、バルコニーの高さが天井の高さの2分の1以上あるという条件を満たす必要がある。加えて、バルコニーの幅が2mまでの部分は床面積に算入しないというルールもある。

一方で、中国において、バルコニーの算入方法が記載されている「建築工程建築面積計算規範」(以下「規範」と略す)は2014年に一回見直しが入ったが、2014年以前の旧「規範」によると、バルコニーが室外にあろうが、室内にあろうが、多くの場合(建築主体の外にバルコニーがある場合)、実面積の1/2で建築面積に加算すると記載されている。

そのため、2014年以前に建築された住居は、バルコニーを室内空間にすることで、紙面上の面積よりもちょっと広めの室内空間を提供することができる。同時に、住宅の買い手からすると、バルコニーの半分の面積はただでもらえるようなお得感がある。中国都市部1人当たり住宅建築面積が決して広いとは言えないため、バルコニーを室内空間にすると、利用できる空間が増え、使い勝手が良いので、生活者にとってもメリットがある。

ちなみに、室内空間のバルコニーに関しては、2014年の新「規範」では1/2面積から全面積に修正されたものの、2014年までに旧「規範」通りに造られたマンションの建築数が多いため、バルコニーが室内にある住居が多く残っている。

開放的でないうえに改造も可能?

日本では、新築マンションは内装付きのまま引き渡し、買い手はそのまま入居可能であるのに対し、中国ではマンションは完成前に販売し、内装がないまま引き渡すのが一般的。そのため、入手したらすぐに住めるわけではなく、内装、ないし構造の改造も可能となる。実際には、バルコニーの位置によってほかの空間とつなげる形で改造する家庭も少なくないが、多くの場合、以下の2パターンが多くみられる。

もしバルコニーが寝室にある場合、ほとんどの家庭はバルコニーと寝室の間のドアと壁を外して、寝室と同じ空間で使う。また、バルコニーの片側に、一面のワードローブを作って、服の収納を増やす家庭も少数ではない。また、もし、バルコニーがリビング・ダイニングにある場合、この二つの空間を一体化させることで、くつろぎの空間が広げられる。それ以外に、バルコニーに植物を置いたり、洗濯機を置いたりすることで、多機能に使う事例もある。

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寝室と一体化し、洗濯機のあるバルコニー
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
(Consumer Life Panoramaの概要はこちら

ここまでの話を踏まえて、「エアコンの室外機は日本ではバルコニーに置くのだが、中国ではどこに置くのか」という疑問を持つ方もいるかもしれない。確かに、日本ではバルコニーが室外空間となるため、エアコンの室外機は基本そこに置くが、室内空間の中国では、なかなかできないだろう。実は、バルコニーが室外か室内かにかかわらず、基本的には、室外機はどこかに置くのではなく、外壁につけるのが一般的なのだ。ちょっと危険ではないかと思われるが、そこも省スペースの一工夫なのかもしれない。

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外壁につける室外機
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
(Consumer Life Panoramaの概要はこちら

【Consumer Life Panoramaとは】

日本や海外の消費者のリアルな生活実態をウェブベースでご覧いただけるインテージのデータベースです。一日の生活の流れや動線、住環境・デジタルライフを直感的に理解するのにご活用いただけます。 Consumer Life Panoramaデモサイトはこちら)[http://consumer-life-panorama.com/demo/] Consumer Life Panoramaの概要は(こちら


  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    ヤン イェン

    日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。実家ではバルコニーに洗濯機が設置されていて、洗濯と物干しが同じ空間で楽だと感じる。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)

    Global Market Surferのサイトづくりを担当。バルコニーで家庭菜園する友人宅を訪問し、コロナ禍での家庭菜園への憧れが膨らみ始める。

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