【アジア各国のZ世代】インドネシア編:Z世代に支持されるフュージョンコーヒー&マイボトル
- 公開日:2025/08/08
- 更新日:2025/08/08
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天然素材を使ったフュージョンコーヒー
インドネシアのZ世代にとって、コーヒーは単なる飲み物ではなく、ライフスタイルでありファッションの一部となっている。もともと冷たいコーヒーを飲む文化はなかったが、Z世代はコーヒーに限らず温かい飲み物よりも冷たい飲み物を好む傾向があり、冷たくて甘いコーヒー系ドリンクの店が急増。バリエーションも年々豊富になっている。
ここで「コーヒードリンク」と表現するのは、一般的にコーヒーと聞いてイメージするアイスコーヒーやアイスラテとは異なるからだ。Z世代はコーヒーをベースに、スパイスや甘味料、果物などを掛け合わせた独自の「フュージョン系」ドリンクを次々に生み出し、ブームを牽引している。
インテージが保有する生活者データベース「Global Viewer」の調査結果でも示されている通り、Z世代は「天然素材」「ハラール である」といった点を飲料選びの基準として重視している。
※コーヒーに関しては「天然素材」の数値は高くないが、コーヒーは天然素材という意識からかもしれない。
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【ベース:各カテゴリー過去1か月飲用者】 :
コーヒー(豆、インスタント、RTD〈すぐ飲めるもの〉すべて含む)
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【ベース:各カテゴリー過去1か月飲用者】 :
ハーブティー・スパイスティー(茶葉、ティバッグ、RTD〈すぐ飲めるもの〉含む)
一方で「砂糖が多く含まれた飲み物を控えている」という結果もあるが、上白糖を念頭に置いた回答だろう。実際には、Gula Aren(インドネシアの伝統的な甘味料)やきび砂糖、とうもろこし由来の甘味料など「体に良い」とされる天然甘味料は積極的に受け入れられている。
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砂糖が多く含まれた飲み物を控えている
基本的にフュージョンコーヒーは冷たい飲み物で、代表的なメニューは、Kopi Keju(チーズコーヒー)、Kopi Matcha(抹茶コーヒー)、Rose Coffee(ローズコーヒー)Kopi Jeruk(オレンジコーヒー)などがある。
チーズコーヒーは、甘味のあるコーヒーラテの上にホイップ状のチーズがトッピングされており、甘さと苦味、チーズの塩味が意外にも調和して美味しい。オレンジコーヒーはインスタントでも販売されており、自宅で楽しむ人も多い。
フュージョンコーヒーは、実はインドネシア各地で昔から存在していた。しかし、これを全国的に展開したのが、1991年に設立されたインドネシア発のコーヒーチェーン「Excelso」である。Z世代のフュージョンコーヒーブーム以前から、アボカドコーヒーなど独自メニューを提供してきた。同店は2025年2月に、国産オーガニック豆ときび砂糖を使った「ナチュラルシリーズ」を開始し、幅広い世代に対応したメニュー展開を行っている。
Z世代にとっていま最も身近なフュージョンコーヒーブランドは、2018年創業の「Fore Coffee」だ。
IDR 20,000〜30,000(約180~270円)の中低価格帯で、モールやオフィス街、駅構内などに店舗を展開。店名の“Fore”は“Forest(森)”から来ており、白と緑を基調にしたシンプルでモダンな内装、ドリンクに特化した小型店舗が多い。テイクアウト主体で、ホット・アイス両方ともリサイクル可能かつ質の高い素材のカップを使用している。
Fore Coffeeではマイボトル持参でIDR 3,000〜5,000(約27~45円)の割引が受けられ、環境配慮型カフェとしての評価も高い。当初はベーシックなメニューが中心で注目されなかったが、看板商品「Butterscotch Sea salt Latte」の登場をきっかけにZ世代の心を掴み、人気が急上昇した。
2024年にはシンガポールなど東南アジアへの進出も始まり、2025年4月にはIDX(インドネシア証券取引所)に上場、2025年6月現在は43都市に216店舗を展開している。
そのほかの人気メニューには、ヤシ黒砂糖を使った「Iced Gula Aren Latte」、香り付けと色付けにPandanの葉(東洋のバニラと呼ばれ、香りが良い)を使った「Iced Pandan Latte」、振る回数で甘さや味を調整する「Shake Shake Latte」などがある。
チーズクッキーやオレオのクランブルが乗ったメニューも定番。期間限定商品も活発に登場しており、「Banana Butter Latte」や「Triple Peach Americano」など、ユニークな組み合わせが多い。
もはや「これはコーヒーなのか?」と感じるほどの自由な発想がZ世代に受けており、コーヒーはもはやフレーバーの一種、あるいはスイーツの一部として楽しむ時代になっている。Z世代を境に、インドネシアにおけるコーヒーの概念そのものが変わり始めている。
Z世代の価値観を反映したマイボトル
インドネシアのZ世代にとって、マイボトルは単なる飲料容器ではなく、環境意識やライフスタイル、自分らしさを表現するファッションアイテムの一つだ。調査結果からも、特にジャカルタではマイボトルの持参がすでに生活習慣として定着していることが分かる。
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外出する時は必ずマイボトルやタンブラー等を持っていく
フィリピン、マレーシア、ベトナムに関しても、「非常にあてはまる」が20%を超え、インドネシア以外の東南アジア諸国でも比較的高い数値が出ていることが分かる。
その背景として、水道水が飲用に適していないことが挙げられる。また1年を通じて高温多湿の気候が続くため、水分補給が欠かせないことも関係しており、こまめに水を飲む必要がある中で、毎回ペットボトルの水を購入するのは経済的負担が大きいことなどが考えられる。
さらに、インドネシアでは自動販売機やコンビニエンスストアのインフラが日本ほど発達しておらず、外出先で気軽に飲み物を購入しにくいという事情もある。このため、外出時に水分を確保できる手段として、マイボトルは実用的である。
実際、学校やオフィスに加え、役所、病院、美容系サロンなど多くの公共施設や待合室にはウォーターディスペンサーが常設されており、水を自由に飲める環境が整っている。紙コップも用意されているが、多くの人が自分のボトルに水を補充している。さらに、映画館やアミューズメント施設などではペットボトル飲料の持ち込みは禁止されている一方、マイボトルは認められている場合が多く、利便性の面でも定着が進んでいる。
Z世代にとって、マイボトルは子どもの頃から当たり前の存在であり、既に習慣として根づいている。ただし、Z世代にとってのマイボトルは単なる実用品にとどまらない。環境への意識の高さを示す手段であり、ファッションや自己表現の一部としての側面も強い。色や形にこだわり、自分らしさや個性、さらにはステータスを表すアクセサリーとしても重視されている。
Z世代のオフィスワーカーの間では、男女問わずマイボトルを持参することが一般的になっている。
また、勤務後にフィットネス、ヨガ、ピラティスなどに通う人も多く、会社を出る前にマイボトルに水を補充してから向かうのが日常的な光景となっている。
こうした背景もあり、ショッピングモールでは高価格帯のステンレスタンブラー専門店が次々とオープンし、自分に合ったデザインを求めて探し回るZ世代が目立つ。なかでも人気が高いのが「Hydro Flask」と「Stanley」である。
Hydro Flask
Stanley
スターバックスのタンブラーが約4,000〜5,000円であるのに対し、Hydro FlaskやStanleyの価格はIDR 630,000~900,000(約6,000〜8,500円)と、より高級な価格帯であるにもかかわらず支持を集めている。
これらのブランドはかつてジャカルタ市内の高級ショッピングモールに限定されていたが、近年ではスラバヤやバリ島など地方都市でも展開が進んでいる。
日本と少し異なる点として、インドネシアではマイボトルはもともと水専用という認識が一般的だった。しかし最近では、冷たい飲み物を好むZ世代を中心に、コーヒーやその他のドリンクを冷たく保つためにステンレスボトルを使用する人も増えてきており、用途の広がりが見られる。
ローカルコーヒーショップもマイボトル持参で割引開始
インドネシアのスターバックスでは、毎月「タンブラーデー(マイボトル割引日)」を実施しているが、その存在を知っている人は長らく少なかった。しかし、近年はチャットアプリやSNSなどを通じたプロモーションの効果により、利用者が徐々に増加している。タンブラーデーには、専用のマイボトルを持参することでドリンクが30〜50%割引となり、「普段、スタバは高くて買えない」と感じていた層にも大きなインパクトを与えている。
これまで、マイボトル持参による割引を行っていたのはスターバックスくらいだったが、最近では中価格帯のローカル系コーヒーショップでも同様の取り組みが広がり、Fore Coffee以外でも下記の店舗で実施している。
●Point Coffee
ボトルの種類を問わず毎日IDR 2,500(約22円)の割引を実施。
●Kopi Kenangan
専用ボトル持参で、月曜〜木曜は20%オフ。
●Toko Kopi Tuku
購入量に応じたユニークな割引方式を導入。200ml以上の購入で、ボトルの種類を問わず1mlあたりIDR 100(約1円)引き。中には1.5リットルほどの大容量ボトルを持参し、複数人でシェアする光景も見られる。
これらのカフェは、ジャカルタの中流層向けショッピングモールやオフィスビル内に多く出店しており、価格帯はスターバックスより安価(約200〜300円)でありながら屋台や移動販売よりは、やや高めという絶妙なバランスを保っている。こうした価格帯と環境への配慮を両立した取り組みが、Z世代の共感を呼んでいる。
もともと水の節約や水分補給のために使われていたマイボトルだが、Z世代によってより多様な飲料への活用が進み、ステンレス製やブランド性の高いモデルの需要が拡大している。大容量・機能性重視から、今後はライフスタイルや鞄のサイズなどに合わせた使い分けが広がるだろう。Z世代のマイボトル文化は今後も注目に値する。
Global Viewerとは
インテージがストックする11カ国(アジア・US)の生活者の様々な実態・意識に関するアンケートデータを用いて、ご課題に応じたレポートをご提供するサービス。
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執筆者プロフィール
TNCライフスタイル・リサーチャー
インドネシア在住20年。インドネシア人の夫と2人の子どもと暮らしながら、ジャカルタのグルメ、美容、生活情報を発信中。コーヒー好きでジャカルタの新しいカフェを発掘中。
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編集者プロフィール
チュウ フォンタット
日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。