【アジア各国のZ世代】韓国編:Z世代の飲料に関する考え方とトレンドとの関係
- 公開日:2025/08/12
- 更新日:2025/08/12
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カフェ大国と呼ばれるまでになった韓国。ソウルの中心部やオフィス街に限らず、生活圏のあらゆる場所にカフェが点在し、今や韓国人の暮らしに欠かせない存在となっている。このような環境が、特に若者たちにどのような影響を与えているのか。Z世代の飲料に対する意識や、飲料トレンドとの関係性について考察していく。
韓国では、2015年頃から「MEGA COFFEE」をはじめとする、低価格で飲料を提供する「コスパ系」コーヒーフランチャイズが台頭し、2020年代に入って急成長を遂げた。ベンティサイズ(約590ml)のアメリカーノが1杯1,500〜2,000ウォン(約160~210円)で販売されており、これはコンビニで売られている500mlのペットボトル飲料(平均2,000〜2,500ウォン/約210~260円)よりも安い価格である。そのため、挽きたてのコーヒーを手軽に飲めることが支持され、アメリカーノを“お茶代わり”に飲む文化が急速に広まった。
韓国のアメリカーノは、エスプレッソを水で割って飲むスタイルで、スッキリとした味わいが特徴。ゴクゴクと飲める手軽さから、1日に数杯飲む人も少なくない。また、コスパ系カフェでは平均して30〜40種類ものメニューを取り揃えており、コーヒー以外にも豊富な選択肢が用意されている点も、Z世代のニーズにマッチしている。
2025年現在、韓国国内のカフェの店舗数は10万店を超えており、これはコンビニエンスストアの約2倍にあたる数である。よほどの地方に行かない限り、探さなくてもすぐにカフェが見つかるほど身近な存在となっている。そのため、韓国のZ世代の間では、ペットボトル飲料よりもカフェで飲み物を購入する方が一般的だ。街中に自動販売機が少ないことも、この傾向を後押ししていると考えられる。
プラスチックカップは一見こぼれやすく、持ち歩きに不向きのように思われるが、韓国では片手にアメリカーノの入ったカップを持って歩く若者の姿がよく見られる。ストロー付きのプラスチックカップは、単なる飲料容器ではなくファッションの一部として捉えられており、そのままバスや地下鉄に乗り込む光景も日常的だ。
インテージが保有する生活者データベース「Global Viewer」の「飲料に関する考え方・価値観」「外で飲み物を買わなくて済むように、自宅から持っていくようにしている」を見ると、「非常にあてはまる」と回答した割合はわずか6.5%で、調査対象10カ国中、ダントツの最下位だった。一方で「あてはまらない」と答えた人は29.5%で最も多く、この結果からも、韓国のZ世代にとっては飲み物を「外で買う」ことが日常的な習慣になっていることがうかがえる。
Intage Global Viewer Banner:D10S2. 飲料に関する考え方・価値観 (SA) : 外で飲み物を買わなくて済むように、自宅から持っていくようにしている
この背景には、既に述べた通り、カフェ文化が生活に深く根付いていることがある。わざわざ自宅から飲み物を持参しなくても、安価で美味しいドリンクを手軽に購入できる環境が整っているのだ。
また、韓国のカフェフランチャイズでは、ほぼ全ての店舗で注文時にキオスク(タッチパネル式の注文・決済端末)を導入しており、非対面に慣れているZ世代にとっては、店員とやり取りする必要もなく、ストレスフリーで利用できることも支持される理由の一つだろう。さらに、自宅で用意する飲み物は種類が限られるが、カフェでは多様なメニューに加え、トレンドを反映した新しい飲み物をいち早く試すこともできる。このような柔軟性と利便性の高さが、Z世代の外飲み習慣を支えていると考えられる。
韓国では、さまざまなコスパ系コーヒーフランチャイズが乱立しているが、その中でも「MEGA COFFEE」「COMPOSE COFFEE」「the Venty」は、特にZ世代から高い支持を集めている。中でも、ここ数年の「MEGA COFFEE」の成長は著しく、2024年には売上4,660億ウォン(約500億円)を記録。前年比26.5%増という大幅な伸びを見せ、営業利益も前年から55%増加の1,076億ウォン(約110億円)に達し、スターバックスに次ぐ業界2位の座を獲得した(※1)。
※1
NEWSIS 2025/5/5 https://www.newsis.com/view/NISX20250502_0003162668
「MEGA COFFEE」は、定番のカフェメニューに加え、季節ごとの限定メニューやトレンドを反映した新商品を次々と展開し、消費者を飽きさせない工夫を続けている。近年では、飲料を「デザート感覚」で楽しめるメニューも増えており、2025年夏の季節限定商品には以下のようなラインナップが登場している。
●スイカスムージーに多彩なフルーツをトッピングした「はちみつスイカ花菜スムージー(4,600ウォン/約480円)」
●糖分を控えた梅アイスティーに、梅の実のような丸いアイスクリームをのせた「低糖POP POP梅アイスティー(4,000ウォン/約420円)」
●マンゴー、ココナッツチップ、ホイップクリーム、ミックスシリアルを組み合わせた「マンビンパフェ(4,400ウォン/約460円)」
これらのメニューは、旬のフルーツや「低糖」といったZ世代の健康志向を意識した内容となっている。また、広告モデルにはZ世代の女性に人気のアイドルグループ NCT WISHを起用し、ブランドの魅力を一層高めている。
飲み物に関するエコが進まない理由
韓国では近年「価値ある消費」というキーワードが流行し、Z世代を中心に環境に配慮した商品や食品を選ぶ「エシカル消費」が広がっている。コスメ分野ではヴィーガン製品が主流となり、代替肉などの植物性食品も続々と登場。地球に優しいパッケージの採用も当たり前になってきた。
Z世代にとって、こうしたサステナブルな商品を選ぶことはオシャレであり、環境意識の高さを周囲にアピールする手段にもなっている。しかし、その一方で飲み物に関するエコ意識に関しては、他国と比べて後れを取っている面がある。
Intage Global Viewer Banner:D10S2. 飲料に関する考え方・価値観 (SA) : 外出する時は必ずマイボトルやタンブラー等を持っていく
「外出する時は必ずマイボトルやタンブラー等を持っていく」という項目に対し、「非常にあてはまる」と回答した韓国のZ世代は8.1%で、調査対象10カ国中で最下位。一方で、「あてはまらない」と回答した割合は27.2%でトップとなっており、韓国のZ世代がいかにマイボトルを持ち歩かないかが顕著に表れている。
では、国内のエシカル消費を牽引しているはずのZ世代が、なぜマイボトルの使用には積極的ではないのか。
その背景には、韓国社会に根付く「パルリ・パルリ(빨리빨리=早く、早く)文化」があると考えられる。Z世代にもその価値観は受け継がれており、「面倒なことは避けたい」「手間のかかることはしたくない」という意識が強い。わざわざ家に持ち帰って洗う必要のあるマイボトルを使うよりも、使い捨てのプラスチックカップやペットボトル飲料を選ぶほうが、効率的で楽だと感じるのだろう。
もう一つの理由として挙げられるのが、若者世代のファッショントレンドだ。
ここ数年、韓国のZ世代女性の間では「ミニバッグ」が大きな流行となっている。芸能人やファッション系インフルエンサーもSNSで頻繁に取り上げており、Instagramには「ミニバッグ」に関連する投稿が75万件以上もある。
特にZ世代に絶大な人気を誇るIVEのチャン・ウォニョンは、日頃からハイブランドのミニバッグを愛用しており、その姿がSNSやネットメディアで紹介される度に話題を集めている。
キャッシュレス先進国として知られる韓国では、2020年の時点でキャッシュレス比率がすでに93.6%に達しており(※2)、Z世代の間では長財布や二つ折り財布といった大きめの財布を持ち歩く人は、ほとんどいない。スマートフォンとカードサイズの小さな財布、そしてリップやファンデーションなど最小限のコスメが入るミニバッグがあれば、日常の外出に必要なものは十分という考えが一般的になっている。
※2
電子新聞 2023/5/15 https://www.etnews.com/20230515000262
最近では、キーリング型のコスメまで登場し、ミニバッグに入らなかったリップやアイシャドウを、キーリングとして携帯することができる。見た目も可愛らしく、映えることもZ世代に人気の要因だ。
ヴィーガンビューティーブランド「AMUSE」は、ポップでカラフル、透明感のあるデザインで知られ、環境や肌に優しい点はもちろん、見た目の可愛さでも支持されている。「ティントバームキーリング(15,000ウォン/約1,600円)」「パウダーリップ&チーク(19,000ウォン/約2,000円)」など、キーリング型のコスメをいち早く取り入れたブランドの一つであり、「指輪リップバーム(13,000ウォン/約1,400円)」といったユニークなアイテムも展開している。
このように、バッグの小型化や携帯品の最小化は、Z世代にとって単なる利便性ではなく「スタイル」の一部とされている。その結果、かさばるマイボトルはファッション的にも携帯しづらく、トートバッグなどを追加で持つこと自体が「コーディネートのバランスを崩す」として敬遠されがちである。
終わりに
カフェの利用頻度が高い一方で、マイボトルの使用率が低いという現状は、プラスチックカップの消費量が増加していることを意味する。政府もこの問題を重く見ており、プラスチックごみに関する対策をいくつか打ち出してはいるが、実際のところ十分に機能しているとは言いがたい。
多くのZ世代にとって「価値ある消費」はあくまでトレンドの一部として捉えられており、環境に良いことだと理解していても、それが自分のライフスタイルやファッションに合わなければ行動にまでは移さないという傾向が強い。現時点では、エシカルな選択よりも「自分らしさ」や「便利さ」が優先されがちなのだ。
飲料に関するエコ意識が韓国の若者の間で根付くには、もう少し時間がかかるだろう。
Global Viewerとは
インテージがストックする11カ国(アジア・US)の生活者の様々な実態・意識に関するアンケートデータを用いて、ご課題に応じたレポートをご提供するサービス。
カバーしている項目は、各種商品・サービスカテゴリー(※)に関する行動実態・意識、価値観・情報接触など400項目に及ぶ。
※カテゴリー例:
食品・飲料、パーソナルケア・化粧品、ハウスホールドケア、育児・介護、モビリティ、家電、スマートホーム、住宅、エンタメコンテンツ(ゲーム・音楽等)、金融、保険、旅行(訪日)、オンラインサービス 等
本記事でご紹介したような国別比較分析のほか、1か国における属性別分析(性年代・収入等)なども可能。
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執筆者プロフィール
TNCライフスタイル・リサーチャー
韓国在住14年目。韓国人の夫とともに海に囲まれた仁川・永宗島で暮らしている。趣味はカフェ巡りと日本旅行。
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編集者プロフィール
チュウ フォンタット
日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。