
1.はじめに
昨今、地球温暖化が問題になっているように、世界の平均気温は年々上昇しています。日本もここ数年は猛暑が続いており、エアコンは手放せないアイテムになっています。快適な生活を送るためというより、もはや生きるために欠かせない家電になりつつあります。
エアコンの世界市場規模を確認すると増加傾向であるため、世界的にもエアコンの普及率は上がっていくと想定されます。一方で、「暑い国=エアコンの普及率が高い」という訳ではないようです。
インテージが保有する海外生活者データ「Global Viewer(2025年実施)」によると、東南アジア(マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム)のエアコンの普及率は約6割の結果となりました。

図:エアコン保有率(ベース:各国全土18-64歳男女)
出典:インテージGlobal Viewer(2025年)
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これは日本の84%と比較すると、東南アジアのエアコン普及率は低いことが分かります。東南アジアは日本よりも気温と湿度が高く、厳しい暑さの気候です。それにもかかわらず、エアコン普及率が日本よりも低い結果には、どのような理由があるのでしょうか。
おそらく、その背景には暑さを乗り越えるための暮らし方や工夫があるのではないでしょうか。本記事ではベトナムにフォーカスを当て、この疑問を紐解いていきます。
2.ベトナムの住居形態とエアコン保有の関連性
では分析に入る前に、東南アジア5カ国の中からベトナムを選定した理由を説明します。それは一つの仮説として、「エアコンを設置していない家庭では、間取りや天井高、日除けなどの住居構造の工夫が存在するのではないか」という点です。
ベトナムは住居形態の種類が豊富で、タウンハウス(隣同士が隣接している戸建)やショップハウス(1階が店舗、2階が住居スペースで、大きな通りに面していることが多い)などの戸建てのほか、最近は都市部で高層の集合住宅(コンドミニアム)も建設されています。そのため、住居形態の違いが室内環境やエアコン設置の有無にも影響している可能性があると考えられます。そこでベトナムの住環境の違いによるエアコンの設置有無を、インテージが保有する海外生活者ビジュアルデータベース「Consumer Life Panorama」で確認しました。
(1)ケース①:タウンハウス
ベトナム都市部でメジャーな住居タイプの一つであるタウンハウスの住宅を確認してみると、エアコンをリビングに設置せず、寝室のみ設置しているパターンが見受けられました。
家の構造を見てみると、玄関のドアを入るとすぐに、リビングになっています。エントランスは屋根で覆われていますが、側面は柵になっているようです。また、エントランスの屋根のおかげで直接日光が入りにくいことも見てとれます。それにより、リビングに直射日光が入ることなく風を通しやすい構造になっているようです。さらに、直射日光を避けながら風通しの良い空間にすることで、リビングで過ごす間はエアコンがなくても比較的快適に過ごせる工夫がなされています。ここから見てとれるように、日本の玄関や廊下を介して部屋がある住居構造とは大きな違いがあるでしょう。


写真:ホーチミンのタウンハウスのリビング。
玄関には格子がありドアを開けるとすぐにリビングになっています。
そのためリビングに風が入りやすい構造になっています。
出典:インテージConsumer Life Panorama
Consumer Life Panoramaとは
世界18カ国1,000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者の理解に役立つ。
本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。

なお、リビングにエアコンを設置していなくても、寝室にはエアコンを設置するケースが多く見られます。恐らく、昼は窓を開けて風通し良くしていても、夜には防犯の観点から窓もドアも全て締め切るため、家の中に風が通らなくなり、エアコンがないと部屋が暑くなってしまうためと考えられます。
(2)ケース②:コンドミニアム
一方で、コンドミニアムはリビングにもエアコンが設置されている家が多いようです。部屋の内部は、玄関を入ると廊下を介してリビングにつながっています。

写真:ホーチミンのコンドミニアムのリビング。窓がない(少ない)ため、
外の空気が入りにくい状況です。
出典:インテージConsumer Life Panorama
構造は日本のマンションと非常に似ています。集合住宅の特徴の一つでもありますが、コンドミニアムは構造上、壁に囲まれ閉ざされた住居空間になるため、風通しが悪くエアコンを設置していないと快適な環境で過ごせなくなると考えられます。そのためにエアコンを設置しているケースが多いのでしょう。
3.おわりに
本記事ではベトナムにおける2パターンの住居形態について、部屋の構造の違いゆえのエアコン設置状況の違いを確認しました。特にケース①で紹介したタウンハウスは、ベトナム特有の構造になっており、暑い環境に適応するために辿り着いた形であると思われます。しかし、近年は年々平均気温が上がっており、住宅構造の工夫だけでは暑さをしのげない事態になりつつあります。エアコンは、これからも生活をするうえで欠かせない家電であり続けるでしょう。
また、今回の分析を通して見えてきたのは、人々が住宅構造の工夫やエアコンを通して求めているのは「涼しい空気」ではなく「快適な環境」という点です。エアコンは涼しい空気を送るだけの「モノ」にとどまらず、快適な環境づくりができる可能性は無限大にあると感じます。その快適性は国の文化・気候によって異なりますが、エアコンで実現する快適な環境を追求するためにも、まずは現地の理解を進めることが何よりも重要になるでしょう。



