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【ベトナム:地球の暮らし方】味覚に関する固定観念を変える試食活動

固定観念は形成したらなかなか変えられないもの。特に日本商品が海外へ進出するときに、もし日本商品に対してマイナスな固定観念が持たれたら、なかなか手に取られない問題がある。今回は、202210月~12月中旬までにベトナムのハノイで開催中のテストマーケティング店舗「Ajimi」の第2企画の試食結果の事例を基に固定観念を変えるための試食活動の効果についてご紹介したい。

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Ajimiと展示商品

Ajimiはインテージが企画する日本商品テストマーケティングの期間限定テストマーケティング店舗である。4月から6月のホーチミン市Aeon Mall Binh Tanの企画の後、10月からはハノイFujimart Hoang Cauで第二弾が開始した。消費者はここで日本企業の商品の試飲・試食の体験ができる。

同時に、企業側は消費者の意識・行動データを取得することが可能である。Ajimiの店舗では来店する顧客に試食前後でアンケートをとる。試食前には基本属性、試食意向と選択理由を確認し、試食後は味覚評価と購入意向を確認する。その後、価格を提示してまた購入意向を確認した後、商品に対する全体評価を自由回答で取得する。

Ajimiハノイ店舗では、インテージ選定の商品が30品近く展示されて、その中で、同じ日本ブランドのせんべいを塩味としょうゆ味の2種類展示した。今回は、Ajimiハノイ店舗で展示していたせんべいの味違い2種類の試食前後の変化により、海外進出時の試食活動の価値についてご説明したい。

試食前後の購入意向変化

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せんべい2商品の試食人数
出所:Ajimiハノイ店舗調査より筆者整理

ここの試食人数は、試食前に消費者たちが商品前の棚で商品POPの紹介とパッケージを見て選んだ結果を表している。Ajimiでは、展示してから31日間経ったごろの延べ試食人数を比較してみると、塩味よりもしょうゆ味のほうに人気があるとの結果だった。この結果について、ベトナム現地の消費者に聞いたところ、主に2つの理由があるそうだ。

第一に、ベトナムで販売されているせんべい(国産品と日本、中国、台湾からの輸入品含めて)は塩味がメインなので、しょうゆ味は消費者にとってより新鮮感がある。そのため、塩味よりもしょうゆ味を選択しがちだ。

第二に、ベトナムでは国産の塩味せんべいといったら、サラダせんべいがメインで、うす塩や少し砂糖も入れた味が多い。一方で、日本から輸入する塩味のせんべいはどれもそれらより塩を多めにしたものなので、ちょっとしょっぱいとの印象があった。結局、このような固定観念からも、塩味よりしょうゆ味がより人気になったと推察する。
また、試食前商品が選択される理由について聞いたところ、どれもパッケージ、味の紹介が上位に選ばれる結果となっている。

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試食前に商品が選択される理由
出所:Ajimiハノイ店舗調査より筆者整理

ところが、試食前後の購入意向の変化をみたら、結果はまた大きく変わった。試食前の平均点数はどれも5点満点のうち、4店以上だった。試食後、塩味は依然として4点以上を維持しているが、しょうゆ味の平均点数は3.03まで下がった。

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試食前後の商品購入意向の変化
出所:Ajimiハノイ店舗調査より筆者整理

さらに、その理由について、味覚評価を確認した結果、ポジティブ評価(「High」「Very high」の合計値)が86%の塩味と比べて、しょうゆ味のポジティブ評価はわずかの38%だった。その結果は平均点数にも反映されている。塩味は満点5点のうち、平均点数が4.02に対し、しょうゆ味はわずかの3.26点だった。

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試食後の味覚評価
出所:Ajimiハノイ店舗調査より筆者整理

顧客評価から得られる示唆

上記からは味覚評価が試食後の購入意向を変える一つの要因であることが分かった。その2つのフレーバーへの評価については、アンケートの最後にポジティブ評価とネガティブ評価に関する自由回答も記述してもらったので、その結果を見てみよう。

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みそ入りたまねぎクリームスープCに対するポジティブ評価(左)とネガティブ評価(右)
出所:Ajimiハノイ店舗調査より筆者整理(テキストマイニングはベトナム語の原文を日本語に機械翻訳した文章を対象に)

まず、塩味について、ポジティブ評価のうち、食感を表すクリスピー(サクサクした食感)が最も多く評価されている。それ以外に、パッケージの良さ、せんべいの香り、ちょうどよい塩味がおいしいなども言及されている。ネガティブ評価のうち、特にネガティブ評価がないことを表す表現の出現頻度が最も多く、それ以外に、「ちょっと塩辛い」や、「塩味を少し薄くする/減らす」などのコメントもある。とはいえ、全体的にみると、味に対してポジティブ評価が多いイメージだった。


ところが、しょうゆ味を見てみると、塩味とかなり異なる。ポジティブ評価は塩味と同じくクリスピーやパッケージ、香りなどの言葉の出現頻度が高い。一方で、ネガティブ評価では「塩辛い」が最も多く言及されている。それ以外に、「苦い」や苦みと関連する「焦げる」といった不満につながる声も、塩味より多い傾向が見られる。この商品は、「超特選濃口醤油と深みのたまり醤油をじわっと焦がした香ばしさ」が売りで、日本では人気がある。


実は、ベトナム人がふだんしょうゆは使うものの、しょうゆの味は中国のしょうゆと少し似ていて、しょっぱい味よりも、よりうま味を強調するものだ。また、しょうゆに似たようなもので、ヌオックマム(魚醤)もあって、煮物によく使われている。ただ、国産せんべいや伝統の米せんと言ったら、基本は塩味や薄味が多く、しょうゆ味はめったにない。そのため、日本の濃口しょうゆで焦がしたせんべいを試食する人が多くいたと考えられる。一方で、ベトナムでは、しょうゆ味を口にしたら、ベトナム人にはまったく慣れていない味で、自分たちの知っているしょうゆ味とも違うことから、ネガティブ評価につながったのかもしれない。

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ベトナム家庭でよく使われるヌオックマムとしょうゆ(VN_116, VN_28
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama)[http://consumer-life-panorama.com/demo/]
Consumer Life Panoramaの概要は(こちら

このように、せんべいの塩味としょうゆ味への固定観念は消費者の商品選択と試食後の評価に大きな影響を与えるのだ。そこで、Ajimiのような場を用意することで、試食を通じて、味とイメージとのギャップを解消することで、日本の味覚をより理解してもらえるような効果はあるだろう。また、海外進出の予定がある日本ブランドにとっても、事前に消費者の反応を客観的にもらえることで、今後のマーケティング施策への示唆にもなるかもしれない。

【Ajimi Fujimart企画について】

2022年10月1日から、ハノイの都心部に位置するフジマート2号店で、Ajimi企画第二弾を実施することとなりました。店舗に実際に訪れる現地の人々に、貴社ブランドの試食やブランドストーリーを実体験いただくショールーム型ブランド診断スペースというコンセプトで、ブランド体験の結果をデータでご提供することができます。実施概要は下記となります。

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Ajimiハノイ企画の実施概要

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Ajimi企画期間限定出店スペースのイメージ

【Consumer Life Panoramaとは】

Consumer Life Panoramaは、日本や海外の消費者のリアルな生活実態をご覧いただけるインテージのWEBデータベースです。各国生活者の住環境を360度画像で閲覧したり、一日の生活の流れや動線、デジタルライフをご覧頂くことができます。
本記事の写真の一部も、このデータベースに登録されている生活者の写真を引用しています。カスタマイズした調査によらず、手元で海外生活者の住環境を観察したいという場合においてご活用いただけるサービスです。
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  • Intage Inc

    執筆者プロフィール
    ヤン イェン

    日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。中華料理を作る時に中国ブランドのしょうゆを使うことにこだわりがある。

  • Intage Inc

    編集者プロフィール
    辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)

    Global Market Surferのサイトづくりを担当。日本食には日本のしょうゆ、韓国食には韓国のしょうゆを使いこなす。

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