<駐在員コラム>【ベトナム:地球の暮らし方】意外にも寒さが厳しい北部、バスルームにも南北の違いが
ベトナム都市部のバスルームは最近まで、手狭な家庭内にある唯一の水回りとして、シャワー、トイレ、洗濯、食器洗いの全てをまかなうケースが多かったため、日本のバスルームとはレイアウトが大きく異なっている。また、ベトナムは「常夏」の国だと思われがちだが、実は通年平均気温が20℃を超えるのは南部のみで、北部や中部では20℃を下回る時期がある。特に北部では最低気温が10℃を下回る「冬」があり、湿度が高いため体感温度はさらに低い。こういった気候の違いにより、地方ごとにバスルームの設備にも違いがみられる。今回は、ベトナム都市部のバスルームの特徴と最近の変化やトレンド、南北の違いについて紹介する。
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ベトナムのバスルームの特徴と最近の変化
ベトナムではシャワー室と洗面台、トイレが一つの空間に配置され、浴槽がないのが一般的である。浴槽を設置しているのはホテルや外国人向けのレジデンス、広いスペースのあるヴィラタイプの住宅などごく一部に限られる。
ベトナムのバスルームは従来、台所の近くに設置されており、シャワーやトイレだけでなく、大きなタライを置いて、食器洗いや洗濯も行っていた。そのため、現在でもつけ置き洗濯などをバスルームの床で行う家庭は多い。
<従来型のバスルームのレイアウト>
以前のベトナム式便器は和式のようなしゃがむタイプのものだったが、現在はほとんどの家庭で洋式に変わっている。従来型のバスルームは、便器を一番奥に、シャワーをその手前に配置し、便器とシャワーの間に仕切がない。湿度が高くて汗をかきやすく、1日中家族が入れ替わり立ち代りシャワーしたり、トイレ掃除の際に便器の上から水をかけたりするため、床全体が濡れていることが多い。
バスルームの一例。一番奥にトイレ、手前にシャワーがある。洗濯用の大きなタライと、洗濯や掃除などに使いやすいようあらかじめ水をためた大きなバケツも見える
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
<新しいバスルームのレイアウト>
現在、都市部では台所にシンクがあることが当たり前になり、洗濯機が普及してタライを使って洗濯をすることがなくなってきた。つまり、バスルームの役割は「シャワー」「トイレ」「洗面」に限定されるようになった。さらに、清潔さに対する意識が向上してくると、「シャワー」と「トイレ」の間に仕切りが設けられ、床全体が水浸しになることもなくなってきている。
湿度が高くかびやすいせいか、仕切りにシャワーカーテンが用いられることはほとんどなく、その多くはガラスが用いられている。
バスルームの一例。シャワースペースがガラスで仕切られている。
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
新しいレイアウトでは、シャワーブースを一番奥に配置して、トイレや洗面台スペースの床が濡れないようになっている。
なお、水周りのリノベーションはかなり大掛かりになるため、富裕層の住宅だからバスルームも新しいレイアウトであるとは限らず、従来型のバスルームを使い続けている家庭も多い。したがってバスルームのレイアウトは、所得水準の高低よりも、住宅が古いか築浅か、古くても売却等のタイミングでリノベーションをしたかどうかで変わってくる。
ベトナムの便器の特徴
ベトナムの便器本体は日本で使われている洋式タイプとほぼ同じである。日本では温水洗浄便座がついている家も多いが、ベトナムの便器の殆どには「手動水シャワー」が装着されている。そのため、トイレにトイレットペーパーを置く習慣がない家庭も多く、置いてあったとしてもトイレットペーパーフォルダーがないことが多く、無造作に棚の上に置いたり、ビニール袋に入れてフックに引っ掛けたりしている。
便器の一例。手動水シャワー(黄色い○)が設置されている。トイレットペーパー(黄緑の○)は棚の上に置かれている。
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
お尻を洗浄する習慣があること、特に北部や中部では寒い季節があることから、温水洗浄便座のポテンシャルは高いと思われる。従来型バスルームは床が水浸しになることから、バスルーム内にコンセントが設置されておらず、家電を使う発想が殆どなかった。しかし、バスルームのレイアウトが新しくなっていく過程で、温水洗浄便座の需要も増えていくものと予想される。
バスルーム内の設備に南北の違い
南部のホーチミンが通年熱帯性の気候であるのに対し、ハノイは四季があって冬はかなり冷え込む。その気候の違いがバスルーム内の設備に現れている。
浴室内の給湯器/湯沸器の設置率を見ると、ホーチミンの設置率が39.9%なのに対し、ハノイは84.0%と殆どの家庭に設置されている(ベトナム統計総局2019年人口住宅国勢調査結果)。また、冬はバスルーム内がかなり冷え込むことから、特に新生児のいる家庭ではライト式の浴室暖房機を取り付けるのがトレンドになっている。
<浴室暖房機>
ハノイのバスルームの一例。黄色い○で囲んだものがライト式浴室暖房機。この家庭には1歳の子供がいる。
出典:インテージ生活者データベース Consumer Life Panorama
ライト式浴室暖房機は、出力により50万~130万VND(約2,400~6,200円)程度で購入できる。日本の浴室乾燥機のような装置を設置しているケースはほぼ見られないが、特に北部は通年湿度が高く、洗濯物の乾きが良くないため、浴室乾燥機の市場ポテンシャルは高いと思われる。
<給湯器/湯沸器>
瞬間湯沸器(左)と給湯器(右)の一例。
出典:生活者データベースConsumer Life Panorama
新しい高級マンションはあらかじめ給湯器が見えない場所に設置されていたり、集中ボイラーで給湯したりしているが、多くの住宅では需要に応じてバスルーム内に瞬間湯沸器または給湯器を設置している。都市ガスが発達していないことから、電気式が普及している。
瞬間湯沸器は電気代が高くつくため、北部のように冬場の水温が下がってしまう地域では給湯器を用いることが多い。一方南部では、水道水の温度が高いので瞬間湯沸かし器でも電気代がさほど高くならないこと、スペースをあまり取らないことから、湯沸器を選択する家庭も多い。
なお、ホテルのように大量の給湯を使用する場合、太陽熱を利用した給湯システムを設置しているケースもあるが、設置費用が高くつく上、温水が必要になる気温の低い日には天気が悪く熱い湯が出ないこともあり、一般家庭で利用している例はあまりない。
今後のトレンド~一家に複数のバスルームがスタンダードに
元々ベトナムでは、一つの家に一つのバスルームが設置されているのが普通だったが、都市部では狭い土地に4~5階建ての住宅を建てることが当たり前になり、利便性から各階にバスルームが設置されるようになってきた。また、富裕層向けのコンドミニアムでは、マスターベッドルーム内にもバスルームを設置するのがスタンダードになっている。
さらに、現在ベトナムのコンドミニアム市場でトレンドになっているのが「デュアルキー・コンドミニアム」と呼ばれる物件である。これは、メインの玄関扉を入った後、それぞれ別の鍵を使用する内玄関扉が2つあり、2世帯で住む、あるいは一方を賃貸することが可能な物件だ。この場合は必ず2つ以上のバスルームを設置することになる。複数のバスルームを保有する住宅が当たり前になっていくことなどから、ベトナムにおけるバスルーム設備への需要は今後も増加の一途をたどることが予想される。
そして、「仕切りのあるバスルーム」はある意味、ベトナムのバスルーム市場を大きく変える重要な要素だ。シャワーブースができたことで横からも噴射するマッサージ機能のついたシャワーパネルといった設備への関心が高まる可能性もある。床が濡れていないことで、温水洗浄便座を設置するだけにとどまらず、ドライヤーを使う、化粧をするといった、これまでにないバスルームの使い方をしていくことも考えられる。さらには、これまで水気を気にしてステンレス製の棚を設置していたのが、デザイン性や機能性に優れたインテリアを設置するようになることが期待できる。ベトナム人のバスルームの滞在時間が今後どんどん長くなっていくかもしれない。
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執筆者プロフィール
根岸 正実
INTAGE VN Managing Director。 INTAGE Japanで海外調査担当後、INTAGE INDIAの支援に従事。その後INTAGE VNへ赴任して2015年11月から現職。講演や学会論文多数。MBA取得。レポートの詳細はWebサービスのslideShareで「VIEVIEW」と検索。 ベトナム駐在員のその他コラムはこちら
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編集者プロフィール
チュウ フォンタット
- 2021/10/13
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