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Last updatedcalendar_month2026/08/14世界20億人のムスリム消費をどう捉える? 共通する価値観と4カ国の違い

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1.世界人口の約4分の1を占める、巨大で成長する消費者層

世界のムスリム(イスラム教を信仰する人々)人口は、2020年時点で約20億人に達し、世界人口の25.6%を占めています。2010年から2020年の10年間で約3億4,700万人増加し、主要宗教の中で最も速く成長した宗教となりました。
市場規模の面でも、ムスリム消費は無視できない存在です。『State of the Global Islamic Economy Report 2024/25』によると、ハラール食品、医薬品、化粧品、モデストファッション、旅行、メディア・娯楽などにおけるムスリムの消費支出は、2023年に2.43兆ドル(約384兆円)に達しました。2028年には3.36兆ドル(約530兆円)へ拡大すると予測されています。

ただし、ムスリム市場を「豚肉やアルコールを避ける人たちの市場」とだけ捉えるのは十分ではありません。イスラムの教えは、食だけではなく、化粧品、ファッション、旅行、金融、住居、結婚、家族との過ごし方など、生活の幅広い場面に関係しています。
一方で、約20億人のムスリムを一枚岩の市場として見ることもできません。同じイスラム教徒であっても、宗教規範の受け止め方や実践の程度は個人によって異なります。また、国の制度、民族構成、所得、都市化、家族観、世代によっても、生活と消費の形は大きく変わります。

つまり、ムスリム市場は「巨大だから見るべき市場」であるだけではなく、「宗教と生活がどのように消費につながるかを理解すべき市場」です。
本記事では、サウジアラビア、インドネシア、マレーシア、UAE(アラブ首長国連邦)の4カ国を比較しながら共通する価値観や違いを紐解きます。

ムスリムと言われるインドネシアでも他の宗教を信仰する人たちもいます。またマレーシアは他民族国家です。
宗教人口に関しては、以下のデータで詳しく紹介しています。

関連データ:宗教人口構成比_17カ国

2.ハラールだけではない、消費の背景にある5つの共通軸

ムスリムの消費行動を理解するには、戒律を単に羅列するのではなく、生活者の価値観として捉えることが重要です。
ここでは、単に「ムスリム=ハラール対応が必要な消費者」と見るのではなく、信仰が日常生活の価値観や行動にどう表れ、それが消費にどのようにつながるかを、マーケティングに結びつく5つの共通軸(「イスラムの信仰・規範」×「日常生活・消費行動に表れる価値観」)で整理します。

(1) Faith(信仰):信仰が生活時間と商品選択の土台になる

ムスリムにとって信仰は、モスクや宗教行事の中だけにあるものではありません。礼拝、身体の清め、服装、食事、家族や周囲の人との関わりなど、日常生活のさまざまな場面で具体的な行動として表れます。

たとえば、1日5回の礼拝は、一日の生活リズムを形づくります。礼拝前には手や顔、腕、足などを水で清める「ウドゥ」を行うため、家庭のバスルームや水回りは身体を洗う場所であると同時に、礼拝の準備を行う場所でもあります。また、家庭内には礼拝用マットを広げられる清潔な場所が求められます。
服装にも信仰は表れます。成人女性の中にはヒジャブ(髪や首、肩を覆うために着用する布・ベール)を着用する人が多く、これは慎みという価値観を日常の装いに反映する行為です。ただし、ヒジャブの着用は美容やファッションへの関心を否定するものではありません。宗教的な配慮を前提に、色、素材、デザイン、着心地を通じて自分らしさを表現することもできます。
食事では、ハラール(宗教の教えて許されているもの)であることを確認し、信仰に沿った食べ物を選びます。豚肉やアルコールを避けるだけではなく、調味料、添加物、調理器具、製造・保管工程なども判断材料になります。ただし、どこまで厳密に確認するかには個人差があるため、企業には認証だけでなく、原材料や工程を分かりやすく説明する姿勢が求められます。
ラマダン(断食月)には、夜明けから日没まで飲食を控え、日没後に家族や友人と断食明けの食事を取ります。食事を控えることだけが目的ではなく、自制、感謝、他者への思いやりを実践する期間でもあります。そのため、ラマダン中は生活時間が変わり、食品の購入、調理、外食、買い物などの活動が日没後に集中しやすくなります。

このように、イスラムの信仰は礼拝という個人的な行為だけでなく、時間、清潔、服装、食事、住居、家族、来客、分かち合いにまでつながっています。マーケティングのヒントの一つに、宗教を守るための制約だけを見るのではなく、信仰によりどのような生活行動が生まれ、どのような商品・サービスが必要とされるのかを理解する視点が求められます。

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写真1:インドネシアSEC(社会経済クラス) A 乳幼児用のベビーバスも置かれている。
出典:インテージConsumer Life Panorama

Consumer Life Panoramaとは

世界18カ国1,000名以上の生活者のビジュアルデータを蓄積した、ウェブサイト型データベース。住環境を閲覧できる3Dモデルや、各生活者の保有アイテムを撮影した2Dデータが多く搭載されており、文字や数字だけでは把握しづらい海外生活者の理解に役立つ。

本コラムで引用したようなビジュアルデータを用いて、
・海外生活者の属性別の違いを比較する
・カテゴリーの使用実態をリアルに把握する
・ターゲット生活者のライフスタイル全体を理解する
等、「現地に行かない」ホームビジット調査として活用が可能。

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(2) Halal and Trust(ハラールと信頼):「許されているか」だけではなく、「安心して選べるか」

ハラールとは、イスラムの教えにおいて「許されたもの」を意味します。反対に、禁じられたものは「ハラム」と呼ばれます。

食品では、豚肉やアルコールを避けることがよく知られていますが、実際の消費場面ではそれだけでは判断できないことも多くあります。

加工食品や化粧品には多くの成分が使われています。原材料そのものだけでなく、製造、調理、保管、流通の工程まで確認が必要になる場合もあります。日々の売り場やレストランで「この商品を買うか」「この料理を食べるか」を判断する際には、専門機関による認証だけでなく、生活者自身の解釈や信頼も重要になります。

同じ商品を前にしても、ハラール認証を安心の基準にする人、原材料や製造工程まで確認する人、ブランドや販売者への信頼で判断する人、価格・品質・入手しやすさとのバランスを取る人がいます。食品では厳格に確認しても、化粧品や日用品では異なる基準を用いることもあります。

ハラール認証は、こうした判断を助ける重要な目印です。専門機関が原材料や工程を確認することで、消費者が毎回すべてを調べる負担を軽減します。しかし、認証だけで全ての判断が決まるわけではありません。商品カテゴリーや生活者の価値観によって、原材料、品質、価格、ブランド、販売者の説明も選択に影響します。

だからこそ、企業に求められるのは認証の取得だけではなく、原材料や製造工程を分かりやすく示し、消費者からの質問に答え、ムスリムの価値観を継続的に配慮することが重要です。

ハラールはチェックマーク以上に、商品や企業を「安心して信頼できるか」という判断基準となっています。

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(3) Family and Community(家族と地域社会):個人ではなく、関係性の中で生まれる消費

ムスリムの暮らしを見ると、家族や親族が集まって食事をしたり、客人を自宅に招いたり、食べ物を周囲に分けたりする場面が多く見られます。一見すると、これは大家族を中心とした地域固有の生活習慣に見えるかもしれません。しかし、その背景には、親族とのつながりを保ち、隣人を大切にし、客人をもてなし、困っている人を支えるというイスラムの価値観があります。
重要なのは、イスラムが特定の同居形式を一律に求めているわけではないという点です。重視されるのは、家族全員が同じ家に住むことよりも、離れて暮らしていても関係を維持し、必要なときに互いを支えることです。その実践は、親族への訪問、食事、帰省、贈答、育児、介護、経済的支援など、さまざまな形で日常生活に表れます。

インドネシアでは、助け合いを意味する「Gotong Royong(ゴトン・ロヨン)」の精神が、宗教的価値観と地域文化に重なっています。家庭では大皿料理を囲み、職場や学校でも食べ物を周囲と分ける場面があります。商品を選ぶ際も、自分が食べたいかだけではなく、多くの人が食べやすいか、分けやすいか、配りやすいかが重要になります。
住居にも共同性が表れます。親族や近所の人を迎える客間や居間、玄関前の交流スペース、大量調理に対応できるキッチンなど、人が集まることを前提とした空間が重視されます。

サウジアラビアでは、金曜日に家族や親戚が集まり、大皿料理を囲む習慣があります。客人には十分な量の料理を用意し、食事の前後にはサウジコーヒーや紅茶を出して歓談します。もてなしは単なる接客ではなく、相手への敬意と寛大さを示し、家族や共同体との関係を深める行為です。

一方、食べ物を無駄にすることは好ましくないとされます。多めに用意した料理が余った場合は、家族や周囲の人、家政婦、動物などに分け与えることがあります。客人を十分にもてなすことと、無駄を避けることは、余剰を周囲へ循環させることで両立しています。
ムスリムの共同生活を理解する際には、世帯人数や同居率だけを見るのでは不十分です。誰が同じ家に住んでいるかに加えて、誰が頻繁に訪れるのか、誰と食事を分けるのか、誰を支えるのか、宗教行事に誰が集まるのかを見る必要があります。
イスラムにおける共同性とは、同じ場所に住むことだけではなく、家族、親族、隣人、客人との関係を、食事、訪問、支援、分かち合いを通じて維持することです。

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出典:記事の執筆者が撮影(インドネシア)

(4) Ramadan and Celebration(ラマダンとお祝い):宗教行事が年間の消費カレンダーを形成する

ラマダンは、イスラム教徒が夜明けから日没まで飲食を控える断食月です。しかし、ラマダンを単に「日中に食べない期間」と捉えるだけでは、生活者の行動を十分に理解できません。
ラマダンは、自らの欲求を抑え、日常的に得ているものへの感謝を深め、困っている人の立場を意識する期間です。同時に、食事、礼拝、仕事、睡眠、買い物の時間が組み替えられ、家族や友人、地域とのつながりが強く意識される時期でもあります。

日の出前には断食に備えて食事を取り、日中は飲食を控えます。日没後には、イフタール(断食明けの食事)を家族や友人と共にします。インドネシアでは、複数人で断食明けの食事を取る「BukBer」が広く行われ、レストラン、ホテル、カフェが専用の食事プランを用意します。

イフタールは、空腹を満たすだけの食事ではありません。一日を無事に過ごしたことへの感謝を共有し、家族や友人との関係を確かめ、食べ物を分かち合う時間です。そのため、商品には味や価格だけでなく、大人数への対応、分けやすさ、提供のしやすさ、食卓の華やかさが求められます。
ラマダンが終わると、断食明けの祝祭であるイードを迎えます。インドネシアでは「レバラン」、マレーシアでは「ハリラヤ」と呼ばれ、家族や親族が集まり、正装して食事を共にします。祝祭に向けて、衣服、靴、贈答品、食品を準備し、来客を迎えるために住宅を掃除したり、家具や家電を買い替えたりすることもあります。

インドネシアでは、レバラン前に支給されるTHR(Tunjangan Hari Raya:宗教祭日賞与)が、消費を後押しします。THRは衣服や食品だけではなく、家具、家電、自動車、帰省費用、親族への贈り物などにも使われます。中でも、大規模な帰省「ムディク」によって、家族全員が乗れる車、交通、宿泊、車両整備などの需要が高まります。
したがって、ラマダンからイードにかけての消費を、断食の反動や一時的な購買意欲の高まりだけで説明することはできません。この時期の消費は、家族に会い、食事を分かち合い、客人を迎え、困っている人を支え、共同体の中で自らの役割を果たすための行為でもあります。
このように、ラマダンとイードは宗教行事が消費を生むだけではなく、信仰を家族や共同体との関係の中で実践するために、食事、衣服、住居、移動、贈答などの需要が生まれる期間です。

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※上記画像は、AI生成したブカ・プアサ(イフタール)のイメージ画像です。

家族やグループが「お揃いで着る伝統衣装・服装」サリムビットや、ラマダンに車が売れる理由など、以下の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:「THRボーナス」が変える購買行動:インドネシア特有の消費活性化メカニズム
関連記事:ラマダンがインドネシア最大の自動車購入シーズンを呼ぶ理由
関連記事:【海外各国の国民性】インドネシア:「みんなで分ける」が前提。“シェア文化”がつくる人との距離感

(5) Modesty and Self-expression(謙虚さと自己表現):慎みと美容・ファッションへの関心は両立する

「おしゃれをしたい」「自分らしく見せたい」という気持ちは、宗教や国にかかわらず、多くの人に共通します。イスラム教では服装や振る舞いにおいて慎みが重視され、ムスリム女性の中には髪や首、肩を覆うヒジャブを着用する人もいます。
しかし、慎みとおしゃれを対立するものとして捉える必要はありません。イスラム教の価値観を大切にしながら、色・柄・素材・シルエット・重ね着・メイクなどを工夫し、自分らしさを表現することはできます。
ヒジャブにも、落ち着いた無地から鮮やかな柄、日常使いの実用的な素材から祝祭向けの華やかな素材まで、さまざまな選択肢があります。仕事では清潔感や信頼感を重視したスタイルを選び、家族や友人との外出では明るい色や柄を取り入れるなど、場面による使い分けも行われます。

マレーシアでは、ヒジャブはマレー語でトゥドゥンとも呼ばれ、洋服や伝統衣装「バジュ・クルン」と組み合わせて着用されます。中東で見られる装いと比べて、カラフルでファッション性の高いスタイルも目立ちます。ここから見てとれるのは、宗教的な慎み、マレーシアの伝統文化、現代的なファッションが一つの装いの中に共存していることです。
また、ヒジャブを着用することは、美容や見た目への関心が低いことを意味しません。顔や肌のケアに加え、ヒジャブ着用時の頭皮や髪のケア、暑い気候でも崩れにくいメイクなど、生活環境に即したニーズもあります。
自己表現は、肌をどれだけ見せるか、だけで決まるものではありません。ヒジャブと洋服の配色、素材の質感、柄、巻き方、バッグや靴との組み合わせによって、装いの印象は大きく変わります。一定の枠組みがあるからこそ、細かなコーディネートに工夫が生まれ、そこに一人ひとりの「個」が表れます。
特にイードなどの祝祭では、宗教的な慎みを守りながら、普段より華やかな衣服やヒジャブを選びます。インドネシアでは、家族でおそろいの服を着る文化(サリムビット)もあり、装いは個人の好みだけでなく、家族の一体感や祝祭を迎える喜びも表現します。
このように、ムスリム女性の装いは、宗教上の制限に従うだけのものではありません。慎みという価値観を大切にしながら、色・柄・素材・美容・コーディネートを工夫し、自分らしさと家族・社会との調和を両立させる自己表現です。

各国の美容価値観(複数選択)「美容に関する情報を集めるのが好きだ」項目を抜粋 (ベース:各国女性18~29歳)

図1:各国の美容価値観(複数選択)「美容に関する情報を集めるのが好きだ」項目を抜粋
(ベース:各国女性18~29歳)
出典:インテージGlobal Viewer (2025年)

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(左)全身白のバジュ・クルン(マレー系ムスリム女性の伝統的な服装)に
赤の入ったヒジャブを差し色にしている
(右)全身をベージュでまとめ、靴とヒジャブをブラウンで揃えてアクセントをつけている
出典:インテージConsumer Life Panorama

美容情報の収集方法や、ムスリム女性のファッションに関しては、以下の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:東南アジア5カ国・美容情報の収集行動 SNS・店舗・口コミの影響力を比較
関連記事:マレーシア女性のファッション:ムスリムならではのコーディネートとは?

3.共通する信仰、異なる消費 ~4カ国で見るムスリム生活者の違い~

ここまで見てきたように、ムスリムの暮らしには信仰、ハラール、家族・共同体、ラマダン、慎みといった共通軸があります。しかし、それらが具体的にどのような消費行動として表れるかは、国によって異なります。

ここでは、サウジアラビア、インドネシア、マレーシア、UAE4カ国の特徴を比較します。

(1)サウジアラビア
キーワード:「家族」「もてなし」「宗教規範と社会変化」

サウジアラビアは、イスラム教の最聖地メッカと、預言者のモスクがあるメディナを擁する国です。メッカへの巡礼であるハッジはイスラムの五行の一つとされ、サウジアラビアは世界中のムスリムを巡礼者として受け入れる宗教的中心地でもあります。
この位置づけから、サウジアラビアではイスラムの価値観が、個人の信仰だけではなく、社会制度、結婚、家族生活、服装、食事、住居などに強く反映されてきました。
結婚では家族と宗教的儀礼が重視され、家庭では男女別の来客空間を設ける場合もあります。金曜日には家族や親族が集まり、大皿料理を囲み、客人には十分な食事を提供します。

一方で、「イスラムの教えを厳格に守る国」という従来のイメージだけでは、現在のサウジアラビアを十分に説明できません。2016年に始まったVision 2030のもとで、女性の就業・移動・文化・観光・スポーツ・娯楽など、生活者の選択肢が広がっています。2018年には女性の自動車運転が認められ、移動や就業の選択肢が広がりました。 
注目すべきは、こうした変化を「宗教から離れる動き」と捉えないことです。サウジアラビアでは、宗教的正統性、家族、慎み、もてなしといった価値観を保ちながら、女性の社会参加、デジタルサービス、観光、娯楽などの新しい市場が生まれています。
サウジアラビアの消費市場を理解するには、「厳格なイスラム社会」と「開放された現代社会」という二択ではなく、宗教的伝統を土台にしながら、生活者の行動範囲と選択肢がどこで広がっているかを見る必要があります。

特徴
•    家族や親族との結びつきが強い
•    大皿料理、大家族向けのまとめ買い、来客へのもてなしを重視
•    住居には来客用の豪華な空間や男女別の導線が見られる
•    結婚に伴い、金、衣装、美容、家具、住宅関連の支出が発生
•    女性の運転解禁や就業拡大などにより生活と役割が変化
•    伝統的規範が残る一方、女性の社会進出やデジタル化が市場を変えている

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都市にお住まいの南部のナジュラーンという地方の部族のご家族の食卓。
郷土料理(ラクシュ)と注文で届いたバーベキュー料理(カプサ以外の大皿料理例)。
(都市部には多くの地方出身者が住んでいる。
サウジアラビア人は自分の出自をとても大切にしている。)

サウジアラビアの結婚事情や必要な準備、家庭料理に関しては、以下の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:【各国結婚と資産事情】サウジアラビア編:結婚するときの準備
関連記事:【各国料理と家事事情】サウジアラビア編:料理をするときの行動
関連記事:【UAE・サウジアラビア】バーチャルツアーで解説!~新たな市場機会~

(2)インドネシア
キーワード:「シェア」「ハラールの多様性」「ラマダン商戦」

インドネシアは、世界最大規模のムスリム人口(約24,000万人)を抱える国です。一方で、多数の民族・言語・宗教・地域文化が共存する多様な国家でもあります。そのため、イスラムが食事、服装、礼拝、結婚、住居などに幅広く影響する一方、その実践方法や消費への反映は一様ではありません。

たとえば、ハラールを判断する際にも、認証マークを重視する人、原材料や製造工程まで確認する人、慣れたブランドや販売者を信頼する人、価格・品質・利便性とのバランスを取る人がいます。したがって、インドネシア市場を「ムスリム向け」「ハラール対応」という一つの括りだけで捉えることはできません。

さらに、インドネシアらしい消費行動を形づくるもう一つの要素が、助け合い・支え合いを意味するGotong Royongです。イスラムが重視する家族、慈善、分かち合いの価値観に、地域社会で助け合う文化が重なり、食事や買い物は個人だけで完結しません。家庭では大皿料理を囲み、職場や学校でも食べ物を分ける場面があります。

商品を選ぶ際には、自分が食べたいかだけでなく、周囲の人も食べやすいか、分けやすいか、安心して渡せるかが重視されます。大容量商品、シェアセット、個包装、持ち運びやすい食品などは、この価値観と親和性があります。

消費が最も大きく動くのが、ラマダンからレバランにかけての時期です。日没後には家族や友人と断食明けの食事を共にし、レバラン前にはTHR(宗教祭日賞与)が支給されます。衣服、食品、家具、家電、贈答品、帰省費用、自動車など、幅広いカテゴリーで需要が高まります。

一方、所得階層による違いも重要です。高所得層では複数台の自動車、高機能家電、健康関連商品への支出が見られるのに対し、中・低所得層ではバイク、小容量商品、耐久性や価格を重視した商品が選ばれます。宗教的な対応が共通して必要であっても、価格、容量、販売チャネル、支払方法は階層ごとに変える必要があります。

インドネシアの消費市場は、イスラムという一つの軸で統一された市場ではありません。信仰、地域文化、家族・共同体、所得、世代、デジタル化が重なり合う、巨大で多層的なムスリム市場です。

特徴
・家族、親戚、友人、同僚との「分かち合い」を重視
・大皿、大容量、まとめ買い、シェアセットとの親和性が高い
・ハラール意識には個人差があり、認証だけでなく価格、品質、ブランド信頼も考慮
・ラマダンからレバランにかけてTHRが支給され、消費が活発化
・帰省「ムディク」が、衣服、食品、自動車、旅行需要を拡大
・若年層はSNS、EC、デリバリーなどデジタルな購買チャネルを活用
・所得階層によって、住宅、家電、自動車、調理環境に大きな違い

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※上記画像は、AI生成したサリムビットのイメージ画像です。

(3)マレーシア
キーワード:「多民族」「調和」「伝統と新しさの両立」

マレーシアはイスラム教を国教としながら、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教などが共存する多民族・多宗教国家です。2020年の統計では、イスラム教が63.5%、仏教が18.7%、キリスト教が9.1%、ヒンドゥー教が6.1%を占めています。
マレーシアの特徴は、異なる民族・宗教の人々が互いの祝祭を社会全体の行事として認識している点にあります。イスラム教の断食明け大祭や犠牲祭だけでなく、旧正月、仏誕節、ディーパヴァリ、クリスマスなども社会の季節の節目となり、商業施設や職場、学校、地域で祝祭の雰囲気が共有されます。
たとえば、イスラム教徒がクリスマス装飾の前で写真を撮ったり、異なる宗教の友人や同僚に祝福の言葉をかけたりする光景も見られます。信仰上の儀礼に全員が参加するわけではありませんが、他者の祝祭を尊重し、その社会的な盛り上がりを共有する文化があります。
そのため、マレーシアの消費カレンダーは、イスラム教の祝祭だけで構成されるわけではありません。複数の民族・宗教の祝祭が重なりながら、衣服・食品・贈答品・外食・旅行・商業施設のイベントなどの消費機会を、年間を通して生み出します。
また、マレーシアのムスリム女性の装いにも、伝統と新しさの両立が見られます。ヒジャブはマレー語でトゥドゥンとも呼ばれ、伝統衣装バジュ・クルンや現代的な洋服と組み合わせて着用されます。宗教的な慎みを大切にしながら、色や柄、素材、コーディネートで自分らしさを表現するスタイルが広がっています。
マレーシア市場は、イスラム教の祝祭だけで動くのではありません。複数の宗教・民族の祝祭が国民共通の季節の節目となり、一年を通じて衣服、食品、贈答、外食、旅行、商業施設の需要を生み出す「マルチ・フェスティバル市場」です。

特徴
•    宗教・民族行事を社会全体で尊重する
•    新しいサービスを受け入れる進取性と伝統尊重が共存
•    宗教行事は衣服、食事、旅行、贈答の消費機会
•    ヒジャブは宗教的な装いであると同時に、ファッションアイテム
•    「マレーシア人全体」と「マレー系ムスリム」を区別する必要がある
•    結婚ではイスラム法に基づく儀礼や持参金がある一方、住宅・自動車の選択は所得事情にも左右される

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一大帰省シーズンのハリラヤの装飾は「ふるさと」のイメージ

(4)UAE(アラブ首長国連邦)
キーワード:「国際性」「高所得」「先進性と文化配慮」

UAEは、イスラム教を国教とし、アブダビやドバイなど7つの首長国から成る連邦国家です。世界有数の産油国ですが、石油・ガス資源は主にアブダビに集中しており、各首長国の経済構造は同じではありません。
なかでもドバイは、早くから貿易、港湾、航空、物流、金融、観光などを発展させ、世界各地の企業、人材、旅行者を呼び込んできました。UAE全体としても、石油収入を基盤にしながら経済の多角化を進めています。
こうした経済発展の中で、UAEには多国籍な人々が暮らすようになりました。イスラム教が国教である一方、ビジネスや日常生活では英語も広く使用され、世界各地の技術、ブランド、ビジネス慣行、ライフスタイルが流入しています。
ただし、UAE市場を理解する際には、ドバイの国際都市型生活者、UAE国民のローカル世帯、多様な外国人居住者を区別する必要があります。中高所得のローカル市民世帯では、広いヴィラ、大家族、メイドの雇用、複数台の自動車やエアコン、来客用のゲストルームなどが見られます。先端技術や高品質な商品も、個人のためだけではなく、家族の快適性や、親族・友人をもてなすための設備として選ばれます。
UAE市場では、スマートホーム、環境配慮型住宅、高品質な家電、先進的なサービスへの関心が高い一方で、ハラール、ラマダン、礼拝、家族、もてなしなど、イスラム文化は社会の基盤として維持されています。
UAE市場の特徴は、単純な西洋化ではありません。イスラムの価値観と国際的な先進性が共存している点にあります。

特徴
•    多国籍・多文化の生活者が共存
•    ローカル国民には住宅、教育、医療などの支援がある
•    中高所得家庭では広い住宅、複数台の自動車、メイドの雇用が見られる
•    主婦・女性が家事を直接行うとは限らないが、購買や家事管理の意思決定に関わる
•    新技術、スマートホーム、環境配慮型住宅に関心
•    比較的自由化された環境でも、イスラム文化や来客への配慮は重要

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UAEの基礎情報や住環境に関しては、以下の記事で詳しく紹介しています。

関連記事:【UAE・サウジアラビア】バーチャルツアーで解説!~新たな市場機会~
関連データ:人種・民族構成比_アラブ首長国連邦

4.4カ国の比較一覧

これまで紹介した4カ国の特徴を比較一覧にしました。

ハラール:4カ国比較一覧

5.まとめ:「宗教」だけでなく、「関係性」と「地域差」を見る

これまでご紹介したムスリムの消費行動を理解するためには、次の7つのキーワードが重要となってきます。

 (1)Faith:信仰
生活時間、食事、服装、住居、サービス利用の前提になります。ただし、実践の程度には個人差があります。

(2)Halal:ハラール
単なる禁止・許可の区分ではなく、安心、安全、品質、信頼につながる判断軸です。

(3)Family:家族
購買の目的、意思決定、使用人数、贈答、住宅、自動車などを左右します。

(4)Community:共同体
「個人のため」だけでなく、「分ける」「もてなす」「関係を維持する」ための消費が生まれます。

(5)Ramadan and Celebration:宗教行事と祝祭
年間の需要、ボーナス、営業時間、食事時間、帰省、旅行を動かす消費カレンダーになります。

(6)Trust:信頼
認証、原材料表示、ブランド、販売者、口コミ、インフルエンサーを通じて形成されます。

(7)Diversity:多様性
同じムスリムでも、国、民族、宗派、世代、所得、都市・地方、個人の宗教性によって選択は異なります。


はじめにお伝えしたように、世界のムスリム人口は約20億人に達し、その消費は食品だけでなく、化粧品、ファッション、旅行、モビリティ、金融、住環境など幅広い市場を動かしています。 
ただし、ムスリム向けマーケティングを「ハラール認証の有無」だけで設計することはできません。商品が宗教的に受け入れられることは入口であり、その先には、家族で分けやすいか、祝祭を豊かにできるか、安心して選べるか、自分らしさを表現できるかという生活者としての判断があります。
さらに、インドネシアのシェア文化、マレーシアの多民族性、サウジアラビアの家族・もてなし文化、UAEの国際性が示すように、同じイスラム圏でも消費の現れ方は異なります。
ムスリム市場を見る際に必要なのは、イスラムの教えという「共通軸」と、国・地域・個人による「違い」を同時に見ることです。
それが、20億人の生活者をステレオタイプではなく、具体的な顧客として理解する第一歩となります。



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    編集者プロフィール
    チュウ フォンタット

    日本在住14年目マレーシア人リサーチャー。ASEAN各国の調査を多く担当しています。

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