【中国:地球の暮らし方】パンデミックによる伝統医療への再認識をチャンスに
中国は長い歴史を持っている。「上下五千年」の長い歴史の中から先人が残した知恵も数多く伝わってきた。その中で、中国だけでなく日本、韓国にも影響を及ぼすひとつとして、中医といわれる漢方医療がある。ただ、近代から、特に西洋医学の伝来に伴い、中国では漢方に対する意見が両極端に分かれている。こんな背景の中で、コロナが起きた。それが逆に漢方への再認識のきっかけになった。今回は、Consumer Life Panoramaに登録されている生活者における漢方の使用実態や使い方、また筆者が一生活者としての経験から、中国生活者が漢方に対する認識の変遷についてご紹介する。
第1回:【中国:地球の暮らし方】中国人はおしゃべり好きなのに、独立型キッチンを好むのはなぜ?
第2回:【中国:地球の暮らし方】風呂場とトイレが意外と広くない中国家庭
第3回:【中国:地球の暮らし方】中国家庭のリビング使用実態は玄関と冷蔵庫からわかる!
第4回:【中国:地球の暮らし方】空間最大限利用のためのバルコニー活用術とは?
第5回:【中国:地球の暮らし方】配線の自由度が高い中国住宅
第6回:【中国:地球の暮らし方】自宅に置かれている小物から見る中国人のライフスタイル
第7回:【中国:地球の暮らし方】中国住宅の住環境と掃除事情
第8回:【中国:地球の暮らし方】空間と地域で違うエアコン選択
第9回:【中国:地球の暮らし方】プライバシーと収納の考え方
第10回:【中国:地球の暮らし方】洗濯機を浴室やランドリーエリアに設置する理由は?
第11回:【中国:地球の暮らし方】古くから伝わる暑さ対策の知恵
第12回:【中国:地球の暮らし方】年収が同じでも、エリアの差が激しい生活環境
第13回:【中国:地球の暮らし方】部屋から分かる高所得層の家電ブランドを探る
第14回:【中国:地球の暮らし方】「国潮」に影響された化粧品ブランドの選好
第15回:【中国:地球の暮らし方】ミレニアル世代の子育て事情
第16回:【中国:地球の暮らし方】中国人の衛生意識
第17回:【中国:地球の暮らし方】「顔値経済」に影響される男性の化粧品使用
第18回:【中国:地球の暮らし方】パンデミックによる伝統医療への再認識をチャンスに
第19回:【中国:地球の暮らし方】じめじめした日に悩みを抱える中国南部の住宅
第20回:【中国・ベトナム:地球の暮らし方】おいしい酸味の秘訣とは
第21回:【中国:地球の暮らし方】子供の成長を考慮した部屋作り
第22回:【中国:地球の暮らし方】 競争社会における早期教育の需要
第23回:【中国:地球の暮らし方】地域とキッチン
第24回:【中国:地球の暮らし方】中国消費者のデンタルケア事情
第25回:【中国:地球の暮らし方】急速に発展するEV市場
第26回:【中国:地球の暮らし方】室内空気質へのこだわり
第27回:【中国:地球の暮らし方】中国人は水よりお湯を好む理由
第28回:【中国:地球の暮らし方】給湯器の普及と使用実態
第29回:【中国:地球の暮らし方】 寝室から見るライフスタイルの変化
分かれる漢方医療への認識
中国生活者が漢方に対する認識を紹介する前に、まずConsumer Life Panoramaの一家庭の冷蔵庫を見てみよう。
冷蔵庫に収納されている漢方サプリメント(CN_24)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama)
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こちらの世帯の冷蔵庫のドアポケットに謎の箱に入れたものがある。この世帯の奥様にヒアリングしたら、これは、漢方薬の薬だった。彼女が夫と父のために買ったのだった。話の最後、「体にいいから、わざわざ買ってあげたのに、全然飲んでくれないのよ」と彼女は不満気に愚痴をこぼした。
漢方を飲まない理由はいくつかある。「処理が面倒くさい」「時間がかかる」など以外に、漢方への不信感といった理由もある。まず、漢方を飲んでもすぐに効くのではないので、効果がないのではと疑問を持つ人がいる。また、漢方の論理的根拠は基本過去の経験に頼るので、西洋医学みたいに成分をはっきりさせて、科学的根拠が証明されているものではないという指摘する人も多い。この結果、この家庭のように、漢方医学を擁護する人と漢方に不信感を持つ人で、中国でははっきり分かれている。
ところが、近年、ある出来事で、もともと漢方に対して不信感を持つ人でも、認識を改め始めた。それが、COVID-19によるパンデミックの勃発だった。当時の武漢は突然のパンデミックで、緊急事態となり、町がロックダウンされた。SARSの再来ではないかという心配の中で、当局は患者を重症と、軽症/無症状/濃厚接触者で区分けして、それぞれ病院と臨時施設に隔離した。特に臨時施設では、軽症等の患者に対して、まだ西洋医学の治療薬が開発されていない中で、漢方理論に基づいて中医薬の投与を早い段階から行われた。その効果が証明されて、国家中医薬管理局は漢方薬である清肺排毒湯を臨床で使用することを推奨した。さらに、新型コロナウイルス治療ガイドラインにも、西洋療法以外に、中医のアプローチも加えられた。その後、清肺排毒湯以外に、連花清瘟も症状の緩和に効果があると証明された。
コロナのため常備薬として筆者が持っている連花清瘟顆粒(筆者より)
日系企業にもチャンスかも
漢方による症状緩和の効果が次々と報道された影響で、今後、中国のでは漢方に対する認識もだんだんポジティブになっていくだろう。そもそも食養、食療、薬膳等漢方起源の生活習慣が中国人生活者の中で深く根付いている。今後、未病の改善や日常的な健康維持のためにも、漢方や漢方製品がどんどん活躍するだろう。
実は、漢方由来の日用品等はすでに数多く存在している。例えば、漢方成分が含む歯磨き粉や、かゆみ止めに漢方由来の製品など長年にわたったロングセラー商品が複数ある。コロナを経験した中国消費者は以前よりも、健康を重視することになるだろう。特に漢方のコロナ治療での活躍を目の当たりにした後、漢方ベースの商品には以前よりも目を向けるだろう。
漢方メーカ雲南白薬が生産した歯磨き粉(左:CN_38, 右:CN_100)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama)
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夏のかゆみ止めに欠かせない一本:六神花露水(CN_30)
(出典:生活者データベースConsumer Life Panorama)
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日本でも、市販されている漢方薬の種類がかなり多い。漢方薬を使った食品も数多く開発されている。一部は中国消費者の中でも人気がある。例えば、コロナ前中国消費者の爆買いの対象の中に「龍角散」といった漢方を使ったのど飴があるという事例も挙げられる。中国でのこの風向きの変化に応じて、今まで蓄積した漢方活用の経験を活かすと、新たなビジネスチャンスになるかもしれない。
【Consumer Life Panoramaとは】
Consumer Life Panoramaは、日本や海外の消費者のリアルな生活実態をご覧いただけるインテージのWEBデータベースです。各国生活者の住環境を360度画像で閲覧したり、一日の生活の流れや動線、デジタルライフをご覧頂くことができます。
本記事の写真の一部も、このデータベースに登録されている生活者の写真を引用しています。カスタマイズした調査によらず、手元で海外生活者の住環境を観察したいという場合においてご活用いただけるサービスです。
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執筆者プロフィール
ヤン イェン
日本在住の中国人リサーチャー、中国をメインに海外消費者生活実態を発信。コロナ予防のため、自宅に漢方薬も備蓄している。
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編集者プロフィール
辰田 悠輔(たつだ ゆうすけ)
Global Market Surferのサイトづくりを担当。娘の風邪と自分の花粉症のために小青竜湯を家に常備している。
- 2022/03/18
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